異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百七十九話

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  「来たぞ!    防御体勢!」
 
 
 仕事熱心なハーピィの空爆で戦いが始まった。壁外の僕達は魔法防御の傘の下。大丈夫だと分かっていても真上でドカンと爆発を見るのは緊張する。
 
 他の部隊にも爆撃をやっている様だが魔法防御でやり過ごせるだろう。これが城壁を破壊する様な巨大な爆弾が落とされたら、どこまで持つか分からない。
 
 「もう終わりか。たいした事がねぇな」
 
 味方の被害は軽微だと思うが、また爆装して来るに違いない。それまで敵が進軍して来る。今度はサンドドラゴンやらトロールの投石も一緒のはずだ。
 
 「こっちは出さなくていいのか?」
 
 プリシラさんの指摘はルフィナのアンデッドサンドドラゴンとオリエッタのレールガンの事を言ってるのだろうけど、二人が陣取る場所をもらえなかった。
 
 「壁の上にはバリスタもありますし、魔法使いもいます。ルフィナとオリエッタには、こちらで戦ってもらう方がいいかと」
 
 ドロンの偵察で敵の進行が分かった。燃やした街を抜け攻め行ってくる。遠くの方から勇ましい叫びとドラの音が僕達を飲み込もうとしていた。
 
 「この時間が一番退屈だぜ」
 
 だろうな!    だろうね!    聞いたよ前にも。僕はこの時間が一番ドキドキするよ。雄叫びだって聞きたく無いし、隊列を組んだ軍団が迫ってくるのは恐怖を覚えるよ。
 
 「アラナ、東西の敵も動き始めたかな?」
 
 ドロンと言えばアラナに任せっきりだが、一番操縦が上手い。僕も出来なくは無いがアラナは同時に二台も飛ばして東西の城門を索敵した。
 
 「動いて無いッス」
 
 予想外の答えが返ってきた。全軍で包囲攻撃をするものだと思っていたのに……    これは新しい戦術なのだろうか。それとも殺る気がないのか。
 
 「来ました~」
 
 オリエッタの緊張感の無さはリラックス故なのだろうか。ドキドキしている自分が逆に恥ずかしくなる。そのオリエッタには装甲服を着させていない。
 
 あれは大きくて的に成りやすいし、これからの長時間の戦闘を考えて温存しておきたい。オリエッタは装甲服を着ていない時は、黒いゴスロリのメイドみたいだ。
 
 戦闘に全く役に立たないから鎧を着ける様に何度も言っても「可愛くないです~」の返事ばかりで今回も諦めた。本当に、当たったら死ぬからね。
 
 「多いな……」
 
 多いね。ここまで多いとは逃げたくなるよ。北門前方に布陣する魔王軍は廃墟の街を埋め付くし、後ろの方には背の高いサンドドラゴンや巨人も見える。
 
 「ここまでとは……    数えるのも嫌になりますね。本当なら隣の第二軍と構えた敵の側面を突く役割だったんですけど、僕達の正面にいるのを何とかしないといけませんね」
 
 「策はあんのか?」
 
 ここまで多いと作戦も役に立たなくなってくる。救いは東西の魔王軍が動いていない事、そして僕達、白百合団が全力で戦える状態でいる事。
 
 「いつも通りですよ。邪魔する者は全て殲滅。僕達は白百合団ですから」
 
 「いい作戦だ!    お前を団長にして良かったぜ。死ぬなよ腐れ」
 
 「ミカエル・シン、白百合団団長です。プリシラさんも死んだら化けて出て下さい」
 
 「我は死ぬつもりは無いのである。団長の血を啜って啜って死ぬまで啜り尽くすのである」
 
 多分、二回目くらいで干からびますね。
 
 「僕は農場をやりたいッス。ウッシをいっぱい飼うッス」
 
 牛は止めてね、あれは危ない。
 
 「わたしは何処かに落ち着いて治療所を作りたいですね」
 
 ソフィアさんらしい。迷惑な患者にレーザー撃つのは無しで。
 
 「オリちゃんは団長の記憶が欲しい~」
 
 他にどんな記憶が残っているのかな。僕も知りたいよ。
 
 「……」
 
 喋れ。
 
 「旅団!    敵が投石を開始したら突っ込むぞ。ここに残ってたら的になる。抜刀!    突撃準備!」
 
 柄にもない事をみんな言ってる。一人は言ってない。普段ならこんな事なんて言わないのに……
 
 
 
 「突撃!」
 
 降りそそぐ巨石を頭上に見て僕達は走った。中には器用に僕達の進行方向を予測して投石して来るのもいたが、防御魔法で乗り切った。
 
 「ルフィナ、殺れ!」
 
 「命令するなら血を寄越すのである。■■■■、滅びの大風」
 
 頼もしい片付け屋。ルフィナの吹く大風で敵の第一陣の中央は消えてなくなり、部屋がスッキリした。まだ隅の方にゴミが貯まっているけどね。
 
 「クリスティン、ソフィア、ルフィナで左翼の残りを、残りは右翼だ来い!」
 
 一番槍はルフィナに譲ったが二番はもらう。僕が走り出す前に競って前に出る白百合団。僕の分も残してね……    なんて消極的な考えはねぇぞ。
 
 神速!    「光よ!」
 
 眩い光と高熱を発し組上がる光の剣。寒い時なら暖を取れる魔剣ゼブラ。ライトアップは主人公の証拠。今日の主役は僕だ。主演男優賞を狙うぜ。
 
 白百合団を追い抜きオーガの第一陣を切り裂く。反撃も神速で交わし、返り血だって避ける僕はハリウッドデビューも間近だ。
 
 「てめぇは遠慮って物を知らねぇな」
 
 オーガ第一陣、右翼全滅。プリシラさん達が追い付く前に掃除は終わった。今日の僕は乗っている。身体が軽い、剣速も早い。どんなにデカい波も乗りこなせそうだ。
 
 「絶好調です。終わったらプリシラさんにも乗ってあげますよ」
 
 「……あぁ!?    今なんて言った!」
 
 スミマセン。調子に乗りました。聞き流して下さい。僕達が担当した右翼は壊滅、第一陣は左翼を残すだけだった。左翼を担当したクリスティンさん達、第一旅団は苦戦しているようだ。
 
 「思ってるより手間取ってますね。ソフィアさんとルフィナは何をしてるんですかね」
 
 「力の温存かぁ、殺る気がねぇだけじゃないかぁ」
 
 貴女の殺る気は何処かに旅行中ですか?    あの二人が本気ならオーガくらい瞬殺だろう。もしかしてクリスティン軍団が頑張ってるのかな?    いくらクリスティンさんの為に死ねるのだろうけど、実力が上がる訳じゃない。
 
 「助けに行きましょう。あまり時間をかけたくない」
 
 「第二軍団かぁ?」
 
 第二軍団もオーガの一団と殺り合ってる。本来ならここでオーガの側面を突くのが仕事だけど……    第二軍団の軍団長ってユーマバシャール君なんだよね。嫌われてるし、進んで助けに行きたくないよ。
 
 「はい、こっちを終わらせて第二軍団の加勢に向かいます」
 
 僕の神速と凶悪な白百合団でオーガを討ち取ったが、かなりの時間を取られた。クリスティンさんの命令なのか旅団がクリスティンさんに良いところを見せようとしたのか、乱戦に飛び込んで魔剣ゼブラを振るうには狭すぎた。
 
 乱戦になってもソフィアさんとルフィナは味方を巻き込む様な魔法を使わず、持久戦を考えての戦い方だったのかもしれない。
 
 「ルフィナ、成長したんだね。味方が死んでないよ、少なくとも魔法では」
 
 「当然である。味方を巻き込むなど団長はアホであるか?」
 
 今、ふと、殺意が沸いた……    が、流そう。
 
 「ソフィアさん怪我人を治して。リヒャルダ!    生きてるか!?」
 
 後ろの方で見えないのだろうか、三メートル級のゴーレムが代わりに手を振った。大丈夫そうだ。出来れば近くに置いておきたい親心だが、僕も子離れ、親離れをしていかないと。
 
 「整ったら第二軍団の加勢に回るぞ。縦隊、四列を組め!    突撃陣形、行く……」
 
 「おい!    第二陣が来やがったぞ。早いな」
 
 チャンスだ!    第二軍団は見捨てる理由が出来た。今度のはオーガとトロールの混成隊。警戒して魔法防御もしているだろうし強敵だ。
 
 「クリスティン、ソフィア、アラナ、オリエッタ、第二軍団へ迎え!   プリシラ、ルフィナはロッサを出せ、迎え撃つぞ!」
 
 「あたいらだけで殺るのもキツイねぇ。人使いの荒い団長だ」
 
 「クリスティン、指揮を取れ!   後で合流する。ルフィナ、ロッサは物理攻撃魔法を撃て。先手必勝だ、殺れ!」
 
 楽しんで下さいプリシラさん。今、最高の舞台をルフィナとロッサが作ってくれますから。最強の死霊使いと不死の女王は二千の剣を飛ばし舞台を血で染めた。
 
 「プリシラさん、久しぶりにダンスなんてどうですか?    もちろん僕のリードで」
 
 「久しぶりだ。いつ以来だろうな……    昔だったような、少し前だったような……    楽しかったか?    あたいは楽しんでいたか?」
 
 今日のプリシラさんはどうもおかしい?    こんな話をする人じゃないのに……    もしかしてこれが「フラグ」か!?    結婚とか婚約を口に出すと死んじゃうやつ。プリシラさんにフラグが立ったのか!?
 
 「危ないのである!?」
 
 トロールが遥か上空まで振り上げた棍棒は振り下ろされる事が無く、二つになった。光の剣を最大まで伸ばせばトロールだっていける。
 
 ゼブラのお陰で斬れたのとは違うかな。僕は少々、怒っているんだ。プリシラさんの事を考えているのに邪魔しやがって。てめぇらは、何様のつもりだ!?
 
 フラグだと!?    知らねぇよ。プリシラに立つようなフラグなら俺が叩き斬ってやるよ。邪魔するヤツは全て殲滅してやる。
 
 「プリシラさん、ダンスの時間です」
 
 「あぁ、だけどステップは女が先だ」
 
 脱兎の如く切り裂き舞台を赤くしたプリシラさんは、誰よりも美しい。僕も早く行かないと。彼女の隣は誰にも譲らない。
 
 
 クリンシュベルバッハ城の攻略の切り札が来るまで、残り十五分。
 
 
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