179 / 292
第百七十九話
しおりを挟む「来たぞ! 防御体勢!」
仕事熱心なハーピィの空爆で戦いが始まった。壁外の僕達は魔法防御の傘の下。大丈夫だと分かっていても真上でドカンと爆発を見るのは緊張する。
他の部隊にも爆撃をやっている様だが魔法防御でやり過ごせるだろう。これが城壁を破壊する様な巨大な爆弾が落とされたら、どこまで持つか分からない。
「もう終わりか。たいした事がねぇな」
味方の被害は軽微だと思うが、また爆装して来るに違いない。それまで敵が進軍して来る。今度はサンドドラゴンやらトロールの投石も一緒のはずだ。
「こっちは出さなくていいのか?」
プリシラさんの指摘はルフィナのアンデッドサンドドラゴンとオリエッタのレールガンの事を言ってるのだろうけど、二人が陣取る場所をもらえなかった。
「壁の上にはバリスタもありますし、魔法使いもいます。ルフィナとオリエッタには、こちらで戦ってもらう方がいいかと」
ドロンの偵察で敵の進行が分かった。燃やした街を抜け攻め行ってくる。遠くの方から勇ましい叫びとドラの音が僕達を飲み込もうとしていた。
「この時間が一番退屈だぜ」
だろうな! だろうね! 聞いたよ前にも。僕はこの時間が一番ドキドキするよ。雄叫びだって聞きたく無いし、隊列を組んだ軍団が迫ってくるのは恐怖を覚えるよ。
「アラナ、東西の敵も動き始めたかな?」
ドロンと言えばアラナに任せっきりだが、一番操縦が上手い。僕も出来なくは無いがアラナは同時に二台も飛ばして東西の城門を索敵した。
「動いて無いッス」
予想外の答えが返ってきた。全軍で包囲攻撃をするものだと思っていたのに…… これは新しい戦術なのだろうか。それとも殺る気がないのか。
「来ました~」
オリエッタの緊張感の無さはリラックス故なのだろうか。ドキドキしている自分が逆に恥ずかしくなる。そのオリエッタには装甲服を着させていない。
あれは大きくて的に成りやすいし、これからの長時間の戦闘を考えて温存しておきたい。オリエッタは装甲服を着ていない時は、黒いゴスロリのメイドみたいだ。
戦闘に全く役に立たないから鎧を着ける様に何度も言っても「可愛くないです~」の返事ばかりで今回も諦めた。本当に、当たったら死ぬからね。
「多いな……」
多いね。ここまで多いとは逃げたくなるよ。北門前方に布陣する魔王軍は廃墟の街を埋め付くし、後ろの方には背の高いサンドドラゴンや巨人も見える。
「ここまでとは…… 数えるのも嫌になりますね。本当なら隣の第二軍と構えた敵の側面を突く役割だったんですけど、僕達の正面にいるのを何とかしないといけませんね」
「策はあんのか?」
ここまで多いと作戦も役に立たなくなってくる。救いは東西の魔王軍が動いていない事、そして僕達、白百合団が全力で戦える状態でいる事。
「いつも通りですよ。邪魔する者は全て殲滅。僕達は白百合団ですから」
「いい作戦だ! お前を団長にして良かったぜ。死ぬなよ腐れ」
「ミカエル・シン、白百合団団長です。プリシラさんも死んだら化けて出て下さい」
「我は死ぬつもりは無いのである。団長の血を啜って啜って死ぬまで啜り尽くすのである」
多分、二回目くらいで干からびますね。
「僕は農場をやりたいッス。ウッシをいっぱい飼うッス」
牛は止めてね、あれは危ない。
「わたしは何処かに落ち着いて治療所を作りたいですね」
ソフィアさんらしい。迷惑な患者にレーザー撃つのは無しで。
「オリちゃんは団長の記憶が欲しい~」
他にどんな記憶が残っているのかな。僕も知りたいよ。
「……」
喋れ。
「旅団! 敵が投石を開始したら突っ込むぞ。ここに残ってたら的になる。抜刀! 突撃準備!」
柄にもない事をみんな言ってる。一人は言ってない。普段ならこんな事なんて言わないのに……
「突撃!」
降りそそぐ巨石を頭上に見て僕達は走った。中には器用に僕達の進行方向を予測して投石して来るのもいたが、防御魔法で乗り切った。
「ルフィナ、殺れ!」
「命令するなら血を寄越すのである。■■■■、滅びの大風」
頼もしい片付け屋。ルフィナの吹く大風で敵の第一陣の中央は消えてなくなり、部屋がスッキリした。まだ隅の方にゴミが貯まっているけどね。
「クリスティン、ソフィア、ルフィナで左翼の残りを、残りは右翼だ来い!」
一番槍はルフィナに譲ったが二番はもらう。僕が走り出す前に競って前に出る白百合団。僕の分も残してね…… なんて消極的な考えはねぇぞ。
神速! 「光よ!」
眩い光と高熱を発し組上がる光の剣。寒い時なら暖を取れる魔剣ゼブラ。ライトアップは主人公の証拠。今日の主役は僕だ。主演男優賞を狙うぜ。
白百合団を追い抜きオーガの第一陣を切り裂く。反撃も神速で交わし、返り血だって避ける僕はハリウッドデビューも間近だ。
「てめぇは遠慮って物を知らねぇな」
オーガ第一陣、右翼全滅。プリシラさん達が追い付く前に掃除は終わった。今日の僕は乗っている。身体が軽い、剣速も早い。どんなにデカい波も乗りこなせそうだ。
「絶好調です。終わったらプリシラさんにも乗ってあげますよ」
「……あぁ!? 今なんて言った!」
スミマセン。調子に乗りました。聞き流して下さい。僕達が担当した右翼は壊滅、第一陣は左翼を残すだけだった。左翼を担当したクリスティンさん達、第一旅団は苦戦しているようだ。
「思ってるより手間取ってますね。ソフィアさんとルフィナは何をしてるんですかね」
「力の温存かぁ、殺る気がねぇだけじゃないかぁ」
貴女の殺る気は何処かに旅行中ですか? あの二人が本気ならオーガくらい瞬殺だろう。もしかしてクリスティン軍団が頑張ってるのかな? いくらクリスティンさんの為に死ねるのだろうけど、実力が上がる訳じゃない。
「助けに行きましょう。あまり時間をかけたくない」
「第二軍団かぁ?」
第二軍団もオーガの一団と殺り合ってる。本来ならここでオーガの側面を突くのが仕事だけど…… 第二軍団の軍団長ってユーマバシャール君なんだよね。嫌われてるし、進んで助けに行きたくないよ。
「はい、こっちを終わらせて第二軍団の加勢に向かいます」
僕の神速と凶悪な白百合団でオーガを討ち取ったが、かなりの時間を取られた。クリスティンさんの命令なのか旅団がクリスティンさんに良いところを見せようとしたのか、乱戦に飛び込んで魔剣ゼブラを振るうには狭すぎた。
乱戦になってもソフィアさんとルフィナは味方を巻き込む様な魔法を使わず、持久戦を考えての戦い方だったのかもしれない。
「ルフィナ、成長したんだね。味方が死んでないよ、少なくとも魔法では」
「当然である。味方を巻き込むなど団長はアホであるか?」
今、ふと、殺意が沸いた…… が、流そう。
「ソフィアさん怪我人を治して。リヒャルダ! 生きてるか!?」
後ろの方で見えないのだろうか、三メートル級のゴーレムが代わりに手を振った。大丈夫そうだ。出来れば近くに置いておきたい親心だが、僕も子離れ、親離れをしていかないと。
「整ったら第二軍団の加勢に回るぞ。縦隊、四列を組め! 突撃陣形、行く……」
「おい! 第二陣が来やがったぞ。早いな」
チャンスだ! 第二軍団は見捨てる理由が出来た。今度のはオーガとトロールの混成隊。警戒して魔法防御もしているだろうし強敵だ。
「クリスティン、ソフィア、アラナ、オリエッタ、第二軍団へ迎え! プリシラ、ルフィナはロッサを出せ、迎え撃つぞ!」
「あたいらだけで殺るのもキツイねぇ。人使いの荒い団長だ」
「クリスティン、指揮を取れ! 後で合流する。ルフィナ、ロッサは物理攻撃魔法を撃て。先手必勝だ、殺れ!」
楽しんで下さいプリシラさん。今、最高の舞台をルフィナとロッサが作ってくれますから。最強の死霊使いと不死の女王は二千の剣を飛ばし舞台を血で染めた。
「プリシラさん、久しぶりにダンスなんてどうですか? もちろん僕のリードで」
「久しぶりだ。いつ以来だろうな…… 昔だったような、少し前だったような…… 楽しかったか? あたいは楽しんでいたか?」
今日のプリシラさんはどうもおかしい? こんな話をする人じゃないのに…… もしかしてこれが「フラグ」か!? 結婚とか婚約を口に出すと死んじゃうやつ。プリシラさんにフラグが立ったのか!?
「危ないのである!?」
トロールが遥か上空まで振り上げた棍棒は振り下ろされる事が無く、二つになった。光の剣を最大まで伸ばせばトロールだっていける。
ゼブラのお陰で斬れたのとは違うかな。僕は少々、怒っているんだ。プリシラさんの事を考えているのに邪魔しやがって。てめぇらは、何様のつもりだ!?
フラグだと!? 知らねぇよ。プリシラに立つようなフラグなら俺が叩き斬ってやるよ。邪魔するヤツは全て殲滅してやる。
「プリシラさん、ダンスの時間です」
「あぁ、だけどステップは女が先だ」
脱兎の如く切り裂き舞台を赤くしたプリシラさんは、誰よりも美しい。僕も早く行かないと。彼女の隣は誰にも譲らない。
クリンシュベルバッハ城の攻略の切り札が来るまで、残り十五分。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる