195 / 292
第百九十五話
しおりを挟む寒さ暑さも彼岸まで。寒さは身が凍るほど、暑さは身が焼けるほど。気候変動は環境の悪化のせいか。
「ビオレタ! ガードが薄いぞ、もっと厚い氷を張れ!」
今回は…… 今回も? 僕は蚊帳の外に追いやられている。僕は後ろに下がり戦闘指揮を取っていた。僕の魔剣ゼブラの刀身には、超振動は流れておらず、火の神を斬れば刀が溶ける。光の剣を出しても熱負けするし、闇の大鎌はむろん出せない。
プリシラさんとアラナとオリエッタは火の神に通じる超振動を駆使して楽しく殺り合っている。ルフィナは致命傷を負わせるくらいの大技がいくつもあるのに「千年の呪木」ばかり出してるのは、二つ名が気に入ってるからだろうか。
クリスティンさんは頑張ってる。決して他人には認められない力を最大に使って火の神の心臓を止めようと頑張っているんだ。その証拠に汗が額から滴り落ち、火の神の暑さで胸元を大きく開けた膨らみの谷間に汗が…… 拭いた方がいいかな。
ソフィアさんも下がり僕の側に。時折、飛んでくるマグマや炎を、光の玉を器用に広げて盾代わりにしているが、今は紅茶を入れてリラックスしてるのは何故?
火の神に対して僕達は圧倒している様に見える。四人の暴れ様は、玩具を取られた子供のようだった。ラテン系の雪女、ビオレタ・ロギンスも氷を武器に戦っていた。
ティータイム……
火の神は人型のトロールを思わせる風大で、身体は岩が張り付いている様にゴツゴツし、時おり身体内部のマグマを見せていた。
二杯目…… クッキーを一つ……
火の神の足にビオレタの氷の魔法を掛け、そこを超振動で叩くコンビネーション攻撃は有効で火の神の回復力は斬撃に追い付かないほどになっていった。
ブレイクタイム…… ちょっとトイレ休憩……
僕の的確な指示により火の神は、もうすぐ倒せるだろう。僕は冷えたり暖まったり飲み過ぎたりで、下腹部が大忙しになって来たようだ。このまま行けば勝てそうだし僕の役目は指揮だけで終わりそうだ。
「皆さん、ちょっとトイレに行って来ます。ここにソフィアさんが紅茶とクッキーを用意してあるので疲れた方から休んで下さいね」
「てめぇ、ちょ、ちょっと待て……」
おっと、クッキーにはソフィアさん自作のジャムがある事を言い忘れた。これが色んな味があっていいんだよね。ソフィアさんもメテオストライク飛ばす割には時間があるもんだ。
僕は使われていなそうな横穴に入って腰を下ろした。残念ながら温かい便座もウォシュレットも無い訳で、トイレットペーパーは葉っぱだ。この世界は葉っぱだ。それが普通だ、文句は聞かん。
横穴は火の神がいた所より冷んやりしてワインを保管するのにピッタリだった。この世界の文明レベルは今の日本に比べて格段に落ちている。僕も全部が分かる訳では無いが、何かこの世界に貢献出来る事があるのでは。細かい仕組みまでは分からなくても、アイデアの一つとして教えれば頭のいい人がそれに続いてくれるかも知れない。
……ふぅ~。 難しい事を考えると「ピー」が出易くなっていい。この後に「ピー」した穴を埋めないといけないのだが、硬い岩盤の上で「ピー」をしたから、残念ながら葉っぱを乗せて放置した。洞窟の中で不用意に葉っぱがあったら、その下には「ピー」があると思った方がいい。
僕は身も心もスッキリしてベルトを閉める。まだ戦いが続いている音がする。このまま、ここでゆっくりしていたい気もするが一人でいても寂しいし、「ピー」の香りが……
やっぱり指揮を取ろう。白百合団には僕の様な優秀な男が必要だ。僕がどれだけ優秀で仕事の出来る男なのかは、トイレ代わりに使った洞窟の奥から聞こえる、微かな引きずる音を聞けるからだ。
……なんだろう。ズズズっ? ズルズルっ? 何か大きな物を引きずる音がする。鼻炎か!? ドワーフの援軍ならこの道は通らない。こんな時には便利技、「広域心眼~」 青い猫型ロボットを真似るだけの余裕はある。
折れ曲がった洞窟の中を僕の意識が進む。暗くても見える広域心眼は米軍に売り付けてやりたくなる。儲けて借金返済、生活に負担の無いローンを組もう。
見えた! バカな事を考えていても仕事をする僕はやっぱり優秀な指揮官だ。見えたのは蛇男! 洞窟を埋め尽くす太く長い胴体に、裸の鍛え上げられた上半身が、僕のお腹と随分と違う。
このまま火の神の所に行かせる訳にはいかない。ここは僕が食い止めないと。武器はある、チートもある、相手は蛇男? だ、男なら話し合いは省略しよう今は忙しい。
鼻炎が大きくなって近付いて来るのが分かる。ティッシュの用意は無い。葉っぱならそこに落ちてるぞ、使用済みだけど。曲がりくねった洞窟のカーブを抜けて、そいつは現れた。
「光よ!」
先制攻撃、目眩ましの光の剣。暗闇を生きる者に強い光は有効だ! まるでフラッシュライト並みの閃光が僕と蛇男を襲う。
「フリーズ! プット・ユア・ハンズ・アップ」
決め台詞はアメリカでしか通用しないのか、光が剣の形になって閃光が収まった時、蛇男は鼻炎を全開に突き進んで来た。せっかく話し合いをしようと思ったのに残念だ。
この質量は止められない。襲い掛かる蛇男の右手の爪を軽いフットワークで避けるが突撃は止まらない。だけどね、スピードを合わせれば、この大きさを気にする必要はないんだよ。
神速! モード・ツルッ?
「ノォ~!!」
踏んだ! 踏んだ! 猫踏んじゃった? 違う! 地雷を踏んだ…… 自分で仕掛けた地雷を踏んで足を滑らせた。
「くそっ!」
「ピー」だけに、「くそっ!」 下らん! 分かっているけど言いたくなる衝動を押さえされない。とにかく、この靴底を何とかしないと皆の元に帰れない。「ピー男」とか「ピー団長」とか呼ばれるのだけは絶対に嫌だ!
僕は一生懸命、靴底を地面に擦り付け何とか取ろうと頑張った。蛇男は何か色々とやって来たみたいだけど、相手をしているほど暇じゃねぇんだよ。神速と心眼で蛇男が何をしようと、僕の靴底に付いた「ピー」を落とす邪魔をさせない。
「邪魔すんな!」
ストーカーの様に五月蝿かったので、そんなヤツにはガツンと言って光の剣を振るった。こっちの忙しさを察してくれたのか蛇男はそれから一言も喋る事も無く静かにしてくれた。
「もぅ…… 隙間に入ったのが取れないよ」
靴底を地面に擦り付けたからか、隙間に入った「ピー」がなかなか取れなかった。幸いにもどこからか流れて来た赤い水を使って、綺麗に落とす事が出来た。
「てめぇは、どこに行ってやがった!」
ブレイクタイムに入っていた皆はとても疲れたのだろう、甘いジャムを大量にクッキーに乗せ、紅茶にお酒を入れて、がぶ飲みしていた。
「終わったんですか?」
「楽勝だバカヤロー」
「ビオレタさんは?」
「火の神がいた台座で何かやってるぜ」
火の神、名前も知らず世代交代だからって戦って殺してしまったドワーフ達の神。僕はその大きな巨体の横を歩いて台座に向かった。
ドワーフ達だったら、もっと穏便な形で交代を出来たのだろうか。代わりの火の神を用意したからって、僕達がドワーフの神を殺してしまった事に代わりは無い。ドワーフは受け入れてくれるのか? 雪女が火の神になるなんて事を……
神の台座に座る女。ラテンの雪女、ビオレタ・ロギンス。今は目のやり場に困る裸でいるのは何故だろう。もしかして見られたい系とか!?
「ビオレタさん、世代交代はどうなりましたか?」
「……終わった。これからは火の神、ビオレタ・ロギンスだよ……」
ドワーフを守る為に単身、火の神を押さえ込んでいたビオレタからは、嬉しそうな声は聞けなかった。悲しみよりも何か深い思いが感じられる言葉。
「ビオレタさんは氷の魔物なのにどうして火の神になろうと思ったんですか? もちろん魔力的に十分な物を持ってるのは知ってますが……」
氷から火へ。陰から陽へ。全く違う生き方をするなんて簡単な理由じゃ出来ない事だ。プリシラさんがクリスティンさんの様に生きるのと同じくらい…… あんまり変わらないかな?
「氷の魔物と呼ばれているスノーレディの生き方を知っているかい? 親もなく兄弟も無い、一人で生まれるんだよ、雪山で一人……」
聞いてはいけない事を聞いたのか、もう少し軽い考えだったらお茶でも飲みながら聞いたのに、そして大切な話をするなら服を着てくれ。脱いでる必要はあるのか?
「スノーレディは一人なのさ。生まれてからずっとね。わたしはそれが嫌になったんだよ…… もっと人の側にいたい、温もりが欲しい……」
人としての暖かさ。雪女では絶対無理な領域。触る物を全て凍らせ、存在自体も心を凍らせる。そんな雪女が温もりを欲しがるのも無理は無いか。独りは寂しいからね。
「触ってみろ、ミカエル。今のわたしには温もりがある」
立ち上がったビオレタは僕の方に歩んで来た。ラテン系の褐色の肌に締まった腰が、思いの外スタイルを良く見せる。で、裸。どこを触れと言うのですか。
触ってくれと言わんばかりに突き出た形のいい胸。流石にそこでは無いだろう。手を繋ぐか? それは一緒に戦った者としてよそよそしい。
正解は…… 僕はビオレタの頬に手を当てた。微かな温もりを感じて、僕が手を戻そうとするとビオレタの方から手に触れてきた。
「今のわたしはさ、暖かいだろ。ちょっと前までは考えられない事だよ。わたしは…… 暖かいだろ……」
僕はビオレタを抱き締める。暖かいですよ、ビオレタさん。特に服から出た、僕のお腹が暖かい。触っただけで芯まで凍る雪女はもういない。
これからはドワーフ達の火の神になる炎を駆使してマグマを操る。シャイデンザッハもこれから、ドワーフ達の街として復活するだろう。
僕達とドワーフ達の協定条件の一つはクリアした。後はハルモニア軍の拠点を変えればいいだけだ。少しの間、ドワーフには我慢してもらって各国の援軍を待ち、連合軍で王都クリンシュベルバッハを奪還する。
魔王軍を押し返す為にもドワーフに頼みたい武器もある。今日が起点となるだろう、魔王を倒してハッピーエンドだ!
「ほほぅ、人が休んでれば、てめぇは働くのか……」
悪魔の声が僕の後ろから静かな殺気を立てて囁く。この状況でどんな言い訳があるのだろう。ハッピーでは無いがエンドみたいだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる