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第百九十六話
しおりを挟む雪女から火の神へ。人としての温もりを求めたビオレタ・ロギンスは幸せだった。温もりをミカエル・シンからもらえた事を……
「そろそろ帰りましょう、ガフッ。 ……新しい火の神をドワーフの皆さんに紹介しないと、グフッ」
今回の火の神の件、僕は何もしていない事になっている。本当なら蛇男を倒した事を言ってもいいのだが、「ピー」を踏んだ事さえバレそうなので口を閉ざした。
ビオレタが温もりを求めたのは独りが寂しかったからか、僕の様な色男が目の前にいたからなのか、抱き締められても抵抗さえしなかった。
少しぐらい抵抗しても良かったのに、受け入れてしまったのをプリシラさんに見付かってからが大変だった。
そう言っても蛇男しか倒していない僕には神速モード・スリーと心眼は健在で白百合団を相手に一歩も引かない互角の戦いとなった。
逆転したのはオリエッタの一言だった。「コミュニケーションです~」この一言でビオレタ・ロギンスもコミュニケーションに参加。魔力量ではソフィアさんやルフィナを凌駕する火の神はコミュニケーションの意味が分かって無かった様だった。
「ビオレタさんも服を着て下さい、ゴフッ。他の皆も服を着て、ゲフッ」
肺まで燃えたのか、どうも咳が止まらない。咳止めなんかじゃ治らないだろうね。前の火の神と戦っていた以上に掛かったコミュニケーションの時間。何しに来たんだか分かんねぇ。
「お前の服はどうする? ビオレタが燃やしたからねぇぞ」
氷付けより裸族の方がいいけど、全裸でドワーフに報告に行くのもマズい。僕は暖かくなって着なくなったベンチコートを借りた。中さえ見られなければ大丈夫だ。
ビオレタは生まれて初めてのコミュニケーションに戸惑っていたが、「吹雪の様に激しく、炭火の様に暖かい」との感想を頂いた。一応、激しいのは白百合団だったからと一言付け加えさせてもらった。
「わたしの服も無い…… 激しさの余り消し飛んだか……」
いえ、最初から着てませんでしたよ。その辺りを探せば見つかります。何でも僕のせいにしないで欲しい。激しさだったら僕の上で松明になったビオレタさんの方が激しかったです。
戦闘と言うコミュニケーションの後に待ち受ける輪番。最初はまだ良かった…… 普通に始まるくらいで心臓を止められ、蔦で縛られ、レーザーで撃たれるくらいで始まったから。
問題が起こるのはいつも最後…… 初めての裸のコミュニケーションに戸惑っていたのも最初だけ。いつの間にか僕の上で串刺しになったビオレタさんはとても激しく燃え上がった。
白百合団が引くくらい燃え上がり…… 本当に燃え上がったんだよ。皆は僕をおいて逃げ出すし、倒れ込んで来たビオレタをそのまま受け止め二人で激しく愛の炎を上げた。
プリシラさんの蹴りで引き離された燃え上がる二人は、一人はそのまま燃え上がり、一人は消し炭寸前まで追い込まれた。
「やり過ぎだ、バカタレ!」
プリシラさんがいなかったら間違いなく死んでたかな? ソフィアさんがいる限り詐欺師は健在だ。今回も生き延びたが両目が見えなくなっていた。ソフィアさん曰く、すぐに見える様になると言われたが僕には心眼がある。見えるまでは心眼で何とかしよう。
「クリスティンさん、目が見えません。手を引いてもらっていいですか」
いいんだよ! 今は見えない事にしたって。これで合法的に手を繋げる。プリシラさんを選ばなかったのは、絶対にオモチャにされるから。ソフィアさんは全力で治そうとするから。
「あたいが手を引いてやろう」
断る! お前に手を引かれたら縦穴とかに落とされそうなんだよ。手じゃなくて乳なら揉んでやる!
「わたしが手を引こう。わたしのせいでもあるからな」
だが断る! お前のせいで見えなくなった責任はあるが、なんの拍子で燃やされるか分からん!
「僕が手を引くッス」
「我が手を引くである」
「オリちゃんが引きます~」
おお! 大人気じゃないか、どうした? なんで女子に大人気なのに、浮かれた気持ちになれないんだ。目が見えないからか? 燃やされた後だからか?
「大丈夫ですよ、クリスティンさんに引いてもらいますから」
僕はクリスティンさんに手を引かれビオレタとドワーフ達の所に向かった。途中のガレ場や凹凸に足を取られ倒れそうになってくっついたり、手を離して滑り込ませたり、目が見えないって大変だ。楽だったのはドワーフの説得だった。説得と言うより力を見せたからか。
僕達はシャイデンザッハ国王に世代交代が既に遅かった為、ビオレタが火の神を倒して自らが火の神になった事を告げた。
シャイデンザッハ国王は不安に思って聞いてたようだが、ビオレタがベンチコートごと身体を燃やし「我は火の神」と堂々と宣言したのには、目の前で見たとはいえ松明人間にはビビった。
シャイデンザッハ国王は片膝を付き、火の神を迎え入れたが、その火が消えれば全裸のビオレタが。ドワーフどもは歓喜に震え、国歌か仕事の時に使うのか分からない歌を重低音を響かせて歌った。
パラパラと小石が降る中、僕は満足だった。ここまではウィン・ウィンの関係が保たれている。問題はこの後のハルモニア軍がシャイデンザッハを出ていくか、自治権を認めた上で滞在させて頂くかだが、今のハルモニア王に何処までの器量があるか疑問だ。
僕達は騒ぎだしてるドワーフから離れ壁際に進んだ。おっと、ドワーフがぶつかって来て不可抗力、仕方がなくクリスティンさんに抱き付く様な形になってしまい、音速で飛んでくるアッパーを神速で避けた。
「てめぇ、見えてるだろ!」
ミエテマセン、グウゼン、デス。音速くらい神速の敵じゃない。ましてや機先の心眼で未来を見える僕の敵などいやしない。
「ナーガだ!」
どんちゃん騒ぎしているドワーフの隅から上がった声にただならる殺気を感じ、僕は機先の心眼から広域心眼に切り替えた。
蛇男だ…… いつの間にこっちにも来たんだ? でも心配する必要も無い。ここには武装したドワーフが空気を腐らせるほどの汗をかいて居るんだ。心眼にで見れば洞窟の中を奥から十匹ほど、問題なし。
僕はナーガと叫んだ後から静まり返ったドワーフを見ると、全員が汗を足らし身動き一つ取ってない。アホか!? 戦え! 武器を取れ! 食われるぞ。
「何をしている!? 戦え!」
いいんだよね、戦って?。僕はさっき一匹始末したけど、いいんだよね? 何でみんなで無視するの? イジメですか? 一人で大きな声を出して反応無ければ恥ずかしいじゃん。
「ドワーフはナーガに睨まれると動けなくなっちゃうんです~」
先に言え! モード・スリー! 蛇男の口が大きく開いて最初に「ナーガ!」と叫んだドワーフを丸のみしようとしていた。
間に合わない。ベンチコートが歩幅の邪魔をする。僕は強引に前を引き千切って神速を出す。ナーガは顎の間接を自由に出来るのか口が何倍にも広がった。
蹴り! 間に合わないと思った僕は食われそうになっているドワーフに蹴りを入れて吹き飛ばした。プリシラさんがビオレタを蹴り飛ばしたのを思い出して良かった、悪かった。
良かった。ドワーフを蹴ってしまったが、食われる事なく逃げだせた。
悪かった。ドワーフを蹴ってしまって、ドワーフと場所が入れ替わった。食われるのは僕。
「ひぃぃ!」
神速のモード・よん! 出たね、モード・フォー。避けるだけで精一杯。身体は避けたが服を食われ振り回され投げ飛ばされる。硬い洞窟の地面が皮膚を裂く。
「こ、この野郎…… いや~ん」
おネエになってしまった…… 言ってしまって悔やまれる。スカートみたいに長いベンチコートを喰いやがって、下には何も着てねぇんだよ。
「あいつ、何を一人で遊んでるんだ?」
「良く分からないですね。いきなり消えたと思ったら裸で転がってますから」
「きっと団長の趣味ッスよ。ビオレタ姉ぇさんみたいに脱ぎたいんッスよ」
「アホだな……」
「それより~。ナーガちゃんがいると困っちゃいます~」
「たまには賭けるか。一番ナーガを殺ったヤツの勝ち」
「商品はなんであるか?」
「聞くまでもねぇだろ」
「……死ね」
「抜け駆けすんな、クリスティン!」
やっと動いたか白百合団! 団長様のピンチなんだからさっさと働け! 服を持って来い! 僕の気持ちは当然通じる事も無く、みんなはナーガに掛かりきりだ。
僕はどうしようか!? ナーガ相手に白百合団が遅れを取る事はないから放っておいても大丈夫だ。やはり僕は僕の心配をしよう。
僕のベンチコートの破片は、まだナーガの胴元に落ちている。あれを拾えばまだドワーフに対して威厳を示せるはずだ。裸では威厳も何も無い。
神速! ナーガを相手に服を奪い返すくらい、この速さで楽勝だ。神速で十分、落ちてる服を拾うだけ。僕は右手にゼブラを左手は股間を隠して突っ込んだ。
「ゲフッ!」
「邪魔すんな!」
何故、蹴る!? 僕がナーガくらいに殺られる訳がないだろ! 僕はそこに落ちているベンチコートが欲しいだけなんだよ。むしろ邪魔してるのはプリシラさんの方だ。
僕は二人の間に割って入り、タイミングを見計らった。プリシラさんもナーガも僕の事が目に入らなくなるくらい忙しそうで、真ん中に入った僕の事は気にせず殺り合ってる。
間にはいった僕もなかなかベンチコートを取れない。ドワーフは固まったまま、こちらを見てるし両手は剣と股間から離せない。ドワーフに背中を見せて拾おうにも下手に屈めば、お尻の穴が見られてしまう。もう足元にあるのだけど拾えないもどかしさ。
距離を取ったプリシラさんを見てチャンスだと思った。斬撃が止む、一瞬の間に拾い上げ様とすると、ナーガの突撃が始まりベンチコートは下敷きとなった。
避けるのは簡単だった。避けてしまった為にベンチコートはナーガの胴体の下に…… 引っ張っても取れない。太く長い胴体の重さに切れそうになるくらいだった。
斬ってしまおうか。でも血で汚れるのは嫌だな。目の前のナーガはプリシラさんとの格闘で僕の事は気にさえ掛けてない。斬っちゃおうかな。
「闇よ! 我の魔力を持って柄と成せ」
これで一本の長い棒が出来た。やっぱり血で汚れるのは嫌だから、この重い胴体を持ち上がる事にした。いくら重くてもテコの原理を使えば地球だって持ち上げれると、昔の偉い人が言ってたっけ。僕は良さそうな石を支点にナーガの胴体の下にゼブラを差し込み持ち上げた。
「うぎゃぁぁ」
ごめん、刀身も作ってたの忘れてた。。刀身の方を差し込み持ち上げちゃったよ。簡単なくらいに胴体が半分に斬れ絶命していくナーガ。テコの原理って凄いんだね。
「てめぇ! ナニしてくれる!」
ナニって言われても服を取っただけだよ。タンスの奥に絡まって取れなくなった服を、取ったのと同じなのになんで怒られなければならないの?
やっぱりプリシラさんだね。怒った理由がすぐに分かったよ。刀身を差し込んだからナーガの血だらけになった、ベンチコートは着れなくなったよ。それを心配してくれるなんて、プリシラさんは優しいなぁ。
僕がこの勘違いに気付いたのはナーガが全て死んでからだった。
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