異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百九十八話

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 現ハルモニア国王を排斥しアンネリーゼ嬢を新しい国王に変える。アンネリーゼ嬢を嫁に取れば、そいつが国王になるのかな。国王になるのも悪くない……
 
 
 
 「何を言ってるんですか!    国王陛下を排斥するなど!」
 
 いきり立って言っているのはアンネリーゼ嬢だけだ。一緒に来た白百合団はもちろんの事、ユーマバシャールさえ静かに見守っていた。
 
 「今のハルモニア国王では国を維持できません。現に王都では戦う事もなく逃げ出し、ドワーフの自治領を攻め込んだあげく、ロースファーに刃を向けているではありませんか。しかもロースファーを抜けアシュタールとさえ戦って逃げるつもりですよ。国王は既に国王としての役目を負っていない」
 
 椅子に座り込み、うなだれるアンネリーゼ嬢。イジメている訳じゃないよ。現状を把握して欲しいだけ。ここにいるアンネリーゼ嬢も含めてハルモニア国王の乱心ぶりは分かっている。アホに従うほど苦痛はないがアンネリーゼ嬢にとっては身内だ。
 
 「アンネリーゼ様、もう一度、話をなさるのはどうでしょう。それでも聞き入れてもらえなかったら……    その時は……」
 
 妥協案だ。アンネリーゼ嬢にもハルモニア国王にもチャンスはやる。後は誰がどう掴むかで状況が変わる。アンネリーゼ嬢が肯定しなかったら僕はアシュタール帝国に戻ろう。遠征軍に参加した方がましだ。
 
 アンネリーゼ嬢が考えたのは一瞬だったか一時間だったか、彼女が髪をかき上げ僕を見た瞳には強い意志が感じられ、全身が痺れた。惚れそうです、僕は国王になります……
 
 「行きましょう、ミカエル。連れて行って下さい」
 
 
 
 「出発!    速駆け!    遅れた者は置いていく!」
 
 久しぶりに声をかけた僕の旅団は七十名ほどになり、敗戦逃避行の中でもクリスティンさんは良くまとめて連れて来てくれた。
 
 アンネリーゼ嬢配下の騎士団でもユーマバシャール直系ばかりで百五十名、総勢二百強で一万五千を討ち滅ぼす……    無理、無茶、無謀、出来る訳がないから。
 
 兵力差で六十倍以上。正面切って戦えば間違いなく負ける。正面切って戦はなければ勝つことは出来る。なにせ国王に直訴出来る公爵がこちらに居るんだ。神速の射程距離まで近付くには十分だ。
 
 問題は時間か。僕達と国王の間には約二日分の時間が開いてる。デンベルグルスハイムで温泉に浸かってノンビリしてくれたら追い付けるが、素通りしたらロースファーまではすぐだ。
 
 ロースファーも国境に軍を終結させてるみたいだし、ハルモニア軍の動向が分かればデンベルグ方面に軍を移動するだろう。遅くなれば戦闘は避けられない。
 
 もしハルモニアとロースファーが殺り合っていたらどうする。「ちょっとタイム!」で止まってくれたら楽なんだけど、一人一人の間に割って入って止めるなんて出来ん。
 
 一番いいのはロースファーと事を構えず、国王のアンネリーゼ嬢への交代。ともて平和的で建設的な未来思考だ。穏やかに行ってくれる事を望むよ。
 
 次にいいとしたら、ロースファーと事を構えず、国王のクリンシュベルバッハへの帰還……    これは無いな、今の国王にこれからの難局を越える力量があるとは思えない。
 
 アンネリーゼ嬢は国王になる気はあるのだろうか。反則的な能力があるのだから素質は十分にある。国王としての能力は未知数だが、それは僕の様に有能な部下が盛り立てていけばいい。    ……そしていつかは僕が国王になるのも悪くない。
 
 ……う~ん、ヤバいな。アンネリーゼ嬢の側にいると能力に絡め取られそうだ。自分の目的をしっかり持たないとダメだ。もっと違う事を考えないと。    ……プリシラさんの乳、クリスティンさんのウエスト、ソフィアさんの尻、アラナの明るさ、オリエッタの可愛さ、ルフィナの狂暴さ。
 
 僕達は夜通し走ってデンベルグルスハイムに着いたが、ハルモニア国王の姿は無かった。
 
 
 
 「これからどうしますか?」
 
 デンベルグで宿を取った僕達はアンネリーゼ嬢の部屋に集まり最後の話し合いをした。アンネリーゼ嬢は四頭だての馬車に乗って来たが、それなりに疲れているだろう、馬に乗って来た僕達はもっと疲れていた。
 
 一割ほどユーマバシャールの配下は脱落したが、僕の旅団はさすがクリスティンさん直系だけはある。脱落した者は皆無で頼りになる僕の旅団だ。僕の旅団だ!
 
 「国王陛下は既にロースファーとの国境に達しています。ロースファー側は国境に近い街に集結中です。おそらく越境した所で軍を動かすのでしょう。大義名分も立ちますからね」
 
 イリスを先行させて良かった。こうまでして情報の把握が出来るのなら、もっと活用しておけば良かったよ。もちろん戦争が終わったら解放するけどね。もし残りたいイリスがいればウェルカムだ。
 
 「夜明け前にはここを発ちます。少しでも休んで下さい。これが国王への最後の直訴だと思って下さい」
 
 僕達は部屋を出てすぐに後ろから呼び止められた。そこには薄いレース地のワンピースのネグリジェのアンネリーゼ嬢では無く、武骨な鎧姿のユーマバシャールだった。
 
 僕は白百合団のみんなを先に行かせ休むように伝えた。ここでユーマバシャールを斬ってもいいのだが、斬れば理由を聞かれる。「後ろからアキレス腱を斬られた恨み」なんてカッコ悪くて言えやしないよ。殺るなら正々堂々と闇討ちだ。
 
 「何か用か……」
 
 刀に手をかけてくれたら斬れるのに、ユーマバシャールは無愛想な僕の問いに静かに答える。
 
 「シン男爵はアンネリーゼ様をどうなさるおつもりだ?」
 
 あぁん?    そうじゃねぇだろ!    お前からは「ごめんなさい」の言葉はまだ聞いてねぇぞ。せっかく言いづらいかと思って二人きりにしてやったんだろうが!    僕の機嫌の悪そうな顔を見てユーマバシャールは続けた。
 
 「あの国王陛下とは話し合いは無用だ。もはや話し合いなど出来る事もない。ましてや謁見さえも無理かもしれない……    わたしはアンネリーゼ様こそ次代の国王陛下に相応しいと思っている」
 
 そんな事は分かってる。話し合いの事は分からないけど、アンネリーゼ嬢が国王となりこの国を統べるには十分な素質があるし、その隣に並ぶ素質が僕にはある。
 
 「それで……」
 
 僕はぶっきらぼうに答えた。頭の中はアンネリーゼ嬢の純白なウェディングドレスと豪華な結婚式、巨大なケーキと幸せのハトが舞っていた。
 
 「話し合いなど無用だ。国王は王冠と王錫を身に付けているだろうから、それを奪ってくれ。わたしは王印を探してアンネリーゼ様に届ける」
 
 おっと、クーデターの話だったのか。てっきり僕達の結婚式の話かと思っていたよ。やっぱりアンネリーゼ嬢の側にいると引き寄せられそうになる。 
 
 「それで形ばかりの王様にはなれるが、この国の宰相と有力貴族はどうする?」
 
 「ヒンメル宰相は任せてくれ。必要なら始末する。有力貴族は二つ、デンベルグルスハイムの辺境伯、エトヴィン・エーウィク・クノール伯爵と北東の山脈に近く、まだ攻められていないギート・アルトゥル・エルンスト伯爵の二人だ。この二人はシン旅団長に任せたい」
 
 結局、力仕事は僕に振るのか……    だが、やらなければアンネリーゼ嬢が女王にはなれない。戴冠式も満足に出来ない女王とは可哀想だが、せめて結婚式は派手にやろうね。
 
 薄暗い廊下で男が二人立ち話。こいつは嫌いだが悪巧みの話って好きだねぇ。一時間ほど、アンネリーゼ嬢の即位の為の話をし、終わりかけにユーマバシャールの「ヒィッ」と驚く声で終った。
 
 
 
 「イリス、何かあったのかな?」
 
 ユーマバシャールを目の前にして機先の心眼は常時発動していたし、広域心眼も交互に使っていたからイリスが僕の後ろに立ってもユーマ君と違って驚く事は無いのだよ。
 
 「ハルモニア軍が動きました」
 
 「えっ!?」
 
 今度は僕の方が驚く番だったか。可愛いイリスよ、キツイ報告をありがとう。ユーマバシャールの顔は覚えておいてね。いつか闇討ちを頼むかもしれないから。
 
 「ユーマバシャール、馬は旅団が優先にもらうぞ。王印とヒンメル宰相くらいなら、それほどいらないだろ。    ──イリスは白百合団と旅団を起こせ、出撃する」
 
 「わかった。二十騎もらえれば十分だ」
 
 「先行して出ろ。アンネリーゼ嬢を連れていくまでに何とかしておけよ。    ──イリスの一人は付いて行け。連絡を絶やすなよ」
 
 こいつ嫌いだけど仕事は出来る。ヒンメル宰相を押さえて、王印も何とかしてもらわないとアンネリーゼ嬢を即位させる事が出来ない。
 
 二人を先に行かせて僕はアンネリーゼ嬢の寝室に入った。ちゃんと部屋の前で声をかけ、ドアを三回ノックし、ドアを少し開けてからも声をかけたからね。
 
 ベッドの上では、なんとも「あらわな姿」のアンネリーゼ嬢が……    かけているシーツは何処へやら、それどころかワンピースのネグリジェがお腹の所まで捲れ上がってる。
 
 こ、これは「誘い」か!?    誘われているのか!?    招待されてるのなら遠慮なく出向いちゃうよ。アンネリーゼ嬢の秘めたる力、魅惑のカリスマ。その誘惑に乗りたい、アンネリーゼ嬢にこのまま乗りたい……
 
 僕は、僕は……    唇から血が出るほど噛み締め僕は……
 
 「アンネリーゼ様、起きて下さい。国王陛下が軍を動かしました。アンネリーゼ様……」
 
 くっそ!    噛み過ぎて本当に血が出てきた。痛いし、当分は酸っぱい物を食べたら激痛だ。早く起きろよ、寝起きが悪いぞ。肩を揺らすぐらいは許容範囲だよな。
 
 「アンネリーゼ様、起きて下さい。国王が軍を動かしました。急がねば間に合いません」
 
 国王が軍を動かすなら昼近くになると思っていた僕の読みの甘さ。一万五千の軍団を朝食も取らさずに働かすなんて、やっぱりこの世界の労働基準は厳しい。
 
 「ミ、ミカエル……    きゃあ!」
 
 乙女の寝室に無断で入った訳ではないよ。声もかけたしノックもした。今さらネグリジェで綺麗な足を隠されても、見てしまった記憶は絶対に忘れない。
 
 「申し訳ありません。着替えて下さい。出陣です」
 
 ベッドの上に座るアンネリーゼ嬢もまた可愛い。出来ればこんな起こし方より、モーニング・キスの方が良かったが時間が無い。押し倒す時間はもっと無い。
 
 「ミカエル、着替えを手伝って下さい」

 
 
 喜んで!    ……手伝う暇も無く、遅れて来たアンネリーゼ嬢付きの太ったメイドに蹴り出された。 

 
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