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第二百九話
しおりを挟む忘れようこの二日間の事は。走馬灯で思い出すくらいで構わない。
「見通しがいいな。これ以上は見付かる」
「残念ですけど、身を隠せる様な大きな森まで待つ事が出来ませんからね」
僕とプリシラさんは最終的な目標を決める為、街道が見える位置まで進んだ。今は体調も完璧で、完璧過ぎるほど調子がいい。このままプリシラさんに覆い被さってもいいくらいだ。
「何で背中に乗ってんだ?」
あれ? いつの間にか被さっていた。僕の下半身はプリシラさんのお尻にピッタリと付いて、今にも爆発しそうだよ。
「戻りましょう。目標を決めましたから」
僕達は隠れる様に旅団に戻った。そして、プリシラさんの後ろに付いた訳だが、どうしてもお尻が気になる、目が行く、歩きにくい。
旅団に戻った僕達は皆の前で、これからの事に付いて話すのだが、やっぱり女の子に囲まれてるのはいいね。白百合団二十八は前に、旅団はそれを囲むように後ろに付いてくれたお陰で僕の回りはお花畑だ。鎧を来てるけど、中にはローズさんみたいな筋肉質の人もいるけど。
「最終目標だ。魔王軍の横っ面をひっぱたく。敵の主力の隊列で巨人とサンドドラゴンがいる。その間を突き抜け最低でも一頭づつ仕留める。サンドドラゴンは旅団とソフィアさんのプラチナレーザーで、巨人は白百合団とルフィナの魔法だ。先陣、白百合団。行くぞ!」
走り出せば見付かるのは必定。当然、サンドドラゴンからの魔岩が飛んで来るだろうは予測の範囲内。防御魔法の傘の下で僕達は奇襲を掛ける。
「前進!」
久しぶりのトップだ。いつもはプリシラさんかオリエッタに取られているが、今日は僕が主役をもらわないと。可愛いギャラリーもいるしね。
「全速疾走!」
白百合団と旅団は一本の槍となって突き進む。回りは既に開けた草原。魔王軍が見付けてからどこまで体制を立てるのか……
「魔岩、来るぞ!」
反応が思ったより速いサンドドラゴンの周りが光だし、巨石が打ち出されて来た。
「ソフィア!」
クリスティンさんの操車する馬車の上から魔法を唱え、虹色の光が僕達の上を覆い尽くした。僕達を狙った魔岩は防御魔法の傘をグニャリと曲げたが、それだけだ。誰にも当たってねぇぞ、サンドドラゴン。
一頭、また一頭と全てのサンドドラゴン五頭分の魔岩が雨の様に降り注いで来たが、ソフィアさんは受け止めた。だが、上からのは止められても横から転がって来るのまでは魔法の範囲外だった。
「後ろの方で喰われたぞ!」
隊列が長いぶん、どうしても防御の薄い所も出てくる。魔法使いがもう少しいたらと悔やまれるが手持ちの戦力で最大の結果を出すしかない。サラリーマンみたいだね。
「……構いませんよ」
白百合団より後方で馬車を操っているクリスティンさんの声が何故か心に響いた。構って下さい、今は貴女の部下ですから。
「オーガが隊列を組んだ!」
サンドドラゴンを目標と捉えた魔王軍は、足元で行動しているオーガ達を僕達への盾代わりに横隊を組始めた。
「クリスティン、任せた! 白百合団、回頭! 着いて来い!」
ここからサンドドラゴンの後ろから着いてくる巨人を狙う為に方向転換し、ソフィアさんの防御魔法から離れてしまうが、後は運任せだ。
サンドドラゴンの魔岩は自分達の方に突き進むクリスティン部隊を狙い続け、僕達の方には飛んで来ない。これをチャンスに一気に巨人まで迫る。
「出番だ、呪木王!」
「五月蝿いのである!」
そうは言っても、天才ネクロマンサーの仕事は速い。呪文を唱えると巨人の足元から、極太の蛇か鰻かミミズの様にウネウネとした巨木が生えて巨人を絡めて倒れ混ませた。
「プリシラ、右だ! 僕は左を殺る!」
もうもうと巻き上がる土煙の中、ゴーグルが欲しいと思いつつ、僕は倒れた巨人の首に走り寄った。後ろから着いてくる女の子逹は大丈夫だろうか。これから見せ場だからね。
「光よ! 伸びろ!」
張り切りすぎた僕の魔力で伸びる光の剣先は、巨人の首を切り落とすほどの大きさになって光った。躊躇わずに斬首。いつまでも伸ばしたままだと魔力の消費が大きい。
「キャーっ!」
沸き上がる声援…… いや、悲鳴か。あれだけ大きな首が転がったら絶叫も上げるか。見慣れておいてね、それと転がった頭に押し潰されない様に。
プリシラさんが外す訳も無いから、これで二体の巨人を始末出来てる。隊列の後方を見れば数体の巨人もまだ居る。もう一体、狙うか。欲を出さないで後退するか……
「もう一体行くぞ! 足を狙って切り刻め!」
馬速を維持しつつ、光を抑えて次を狙う。きっと僕に着いてきた隊列の後方は良く見えなかっただろうから、声援をあげるチャンスをやろう。
足元にまで迫れた巨人の足を通りすぎながら白百合団のハルバートが鎌鼬の様に皮膚を削ぎ肉を断つ。両足をアキレス腱まで斬られた巨人が痛みのあまり倒れ込んだ。
美味しい所はもらった! 僕は魔剣ゼブラを巨人の首に突き刺し叫ぶ。「みんな、愛してるよ!」
「光よ!」
突き刺さったゼブラが高熱を発し肉を焼き溶かす。腰だめ発動禁止を守って良かった。怖いくらいの大穴が巨人の首に穿たれた。
三体の巨人を、人が倒すなんて歴史に白百合団の名前が刻まれてもおかしくない。しかも女性ばかりの傭兵団だ。きっと美化されて美女だらけの傭兵団になって刻まれるのだろう。ローズさんもいるのに。
「撤退!」
僕はすぐさま馬に乗り走らせる。美女を率いて走る僕ってカッコいぃ。中には、そうとも言えない人がいるが細かい事は気にしない。早く逃げないと、巨人に踏まれたら痛そうだ。
予定通り、クリスティンさん率いる旅団はサンドドラゴンを一頭仕留め、プリシラさんは僕達の心配もしないで先に駆け出していた。
「団長、追っ手です」
新鮮。「おい!」とか「こら!」とか言われず、敬語を使っての報告は嬉しいね。白百合団を増やして良かった。確か名前は…… 確か貧乳のエルザさんだったか。
「殿に付く! エルザは前に出て率いろ! ルフィナ! 手土産を忘れるな」
「五月蝿いのである! ロッサ! 殺して来るのである」
ロッサは必ず挨拶をする。追われているのだから無理に側まで来なくてもいいのに、挨拶をしてから追っ手に向かって行った。
「大戦果です団長」
良い。誉められて悪い気は全くしない。例え貧乳のエルザに言われたとはいえ、可愛い女の子に誉められれば鼻も高くなる。鼻だけ高くなる。
「クリスティンさん、旅団をよろしく。白百合団は迂回して、もう一度仕掛けるぞ」
魔王軍の進行ルートからは見えないぐらい走った僕達は一時の休憩後に別れた。クリスティンさん、ソフィアさん、アラナとオリエッタの旅団は魔王軍の補給部隊を討ってもらい、僕と暴れん坊の二人と白百合団で今度は前線のオーガを狙う。
旅団からは死者が出た。サンドドラゴンの魔岩の下敷きになった者が五名、オーガの隊列との戦闘で七名。大戦果と言われたが十二人も死者が出ていた。
ソフィアさんはプラチナレーザーを撃つ為に治癒の魔法を制限して、助ける事が出来なかった悔しさと寂しさが入り交じった顔を見せたが、クリスティンさんの表情はピクリともしていなかった。見捨てたって事は無いよね。
「白百合団、行くぞ!」
見て、僕の勇姿を。我ながら今の自分になら抱かれてもいい、カッコいい。見てるかなエルザちゃん…… 目の前を通るプラチナ色の光が我を帰す。その一発で助けられた人がいるとちゃいますか?
「次は何処を狙うんだ?」
ローズさんもプリシラさんタイプだな、話を聞かない…… 作戦は前もって話したはずなのに、白薔薇団の団長を止めてから、こっちに全部振ってるのかな。
「走りながら…… 僕達は魔王軍の前衛のオーガを狙います。ルンベルグザッハ寄りになりますが身を隠せる森もあるそうです」
「馬を降りるのか?」
「いえ、馬に付けてある超振動の防具があるので突進力でも痛手を負わせるはずです。それにハルバートが加われば大丈夫です」
「こいつで巨人が斬れるとはな。馬の方にも期待してるぜ」
「下手くそなローズでも斬れるんだ。期待なんか要らねぇよ」
「なんだとプリシラ! 巨人の首を取ったのは、あたいだ!」
「譲ってやったんだよ。反対側で斬ってたのも知らねぇか!」
「はっ! 良く言うぜ。てめぇより、深く斬ってたんだぜ!」
「何を言ってやがる! あたいの方が……」
まぁ、この後は自分がどれくらい斬ったとか、自分の方が凄かったとかの話になるんだろ。「あたい」、「あたい」とキャラが被ってるんだよ。狂暴な人は二人も要らないよ。
「団長はどう思う!」
「ミカエルはどう思うんだ!」
最後には僕に振る…… どっちの味方をしても困る質問は止めてくれよ。第一、僕は見てないんだから決められっこない。
「急ぐぞ! 遅れてる!」
僕は逃げ出す様に馬を走らせた。
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