異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百十一話

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 突貫。一本の槍。神速の槍となってサイクロプスに片足で突撃した僕には奥の手がある。
 
 
 
 「光よ!」
 
 タイミングを合わせ、突き刺さる瞬間に高熱を上げた魔剣ゼブラはサイクロプスに大穴を空け、僕を背中の向こう側へ貫通させていった。
 
 こ、これは使える!    光を出すタイミングが難しいが、この威力なら巨人だって貫通だ。サンドドラゴンはさすがに途中で止まりそうだけど。
 
 上、上、下、右上、左、ボタン同時押しくらいか。せっかくだから名前を付けたい。ヒーロー物は必殺技を出す時には必ず名前を上げる。
 
 ジャスティス・ライトニング・スピアにしようか、ゴールデン・シャイニング・ベヒモスにしようか。あぁ、考えれば考えるほど浮かんでくる。
 
 唸り声を上げて襲い掛かるサイクロプスに、ちょっと待ったは聞かないだろうから、名前を決める前にもう一匹始末しておこう。可愛い白百合団のみんな、僕の勇姿を見てはは。
 
 「ふぎゃ!」
 
 考えれば当たり前だな。人の大きさが目の前から迫ってくれば、足のケガで満足な神速も出せない僕などハエを落とすより簡単だ。二度目は通用しないこの技は終了。不意討ちぐらいじゃないと使えないね。
 
 僕の突撃をハエ叩きで迎撃したサイクロプスには拍手を送りたいが、僕だってそれを盾で防いだのは日頃の努力の賜物だろう。超振動を流すの忘れてたけど。
 
 地面に打ち倒された僕は、集まるサイクロプスの集団リンチか土竜叩きか。地面に背を着け受ける避ける助けを求める。
 
 チート、詐欺師発動!    心眼と神速で囲まれた中でも立ち上がりサイクロプスに斬り付ける。舐めんな!    神速のチート持ちを!    サイクロプスが血を吐き幾重もの太い枝に串刺しになって絶命していく。もちろん僕も串刺し。
 
 「ル、ルフィナ……    いつから、いやがった……」
    
 「あらかた片付けて来てみれば、この様とは情けないのである」
 
 串刺しになってる様は、あなた様がやったんですよ呪木王さん。僕まで刺す必要性が微塵にも感じられない。
 
 「この小枝を何とかしろ。死ぬだろうが……」
 
 「今、引き抜くのである。急所を外しているのは見れば分かるのである」
 
 当たり前だバカヤロー。袋叩き状態で心眼を使って戦ってたんだぞ。急所を外したのは僕の力のおかげだ。それ以外は避けきれ無かったけど。
 
 サイクロプスも僕も制圧され、温かい血溜まりの中からルフィナがケガをしたウェンディの治癒魔法をぼんやりと見ていた。
 
 「ウェンディはこのままだと死ぬのである。仮死状態にしているので早急にソフィアにでも診せるのである。他の者は大丈夫である」
 
 悪魔の血も効かなかったのか間に合わなかったのか……    偉そうに見下ろして無いで僕も治してくれないと間に合いません。
 
 「……さて、魔力も尽きたである。帰るのである」
 
 振り返って置いて行こうとするバカのローブを、必死になって僕は掴んだ。
 
 「ル、ルフィナさん、僕の治療がまだなんですけど……」
 
 「失念していたである。しかし我の魔力も尽きたである。どうしてくれよう……」
 
 どうしてくれようって、治せ!    身動きが取れないんだよ、誰かさんのせいで。痛いんだよ、誰かさんのせいで。
 
 ルフィナは僕に近付きパクっと首筋に牙を立てて噛みついた。やっぱり、そう来たか。来るんじゃないかと思っていたけど、首筋に掛かる冷たい吐息がヴァンパイアを想像させた。
 
 「これで大丈夫である」
 
 少し気を失ってたか。戦場のど真ん中で気を失うなんて命に関わるが、戦場のど真ん中で血を吸うなんて、どうよ。
 
 「ケガ人を連れて行け。ウェンディは僕が運ぶ、ハルバートと馬の回収も忘れるなよ」
 
 僕の血だか、サイクロプスの血か分からないくらい真っ赤に染まった鎧や服はそのままで、集まっていた白百合団に命令を下す。
 
 離れてしまったプリシラさんと白百合団の分隊には合流地点を教えているし、例え忘れていても他のメンバーが聞いてるから大丈夫だろう。
 
 「合流地点に向かうよりルンベルグザッハに向かった方がいいである」
 
 「合流してからルンベルグザッハに向かった方がいいんじゃないかな。各個撃破は痛いよ」
 
 「プリシラなら心配ないのである。それより、そのウェンディを早く治療しないと仮死状態からアンデットになるのである」
 
 早く言え!    仮死にした意味ねぇじゃん。プリシラさんは……    何とかなるだろ。
 
 
 
 城壁の無い街、ルンベルグザッハ。シャイデンザッハと同じ様に街を通り越し、大きく口を開けた洞窟に城が建てられていた。
 
 街の中は静かなもので住人のほとんどが城に籠って籠城の準備をしてるのだろう。それだけに治療魔法を使える者は城に行けばいるはずだ。ドワーフの王、シャイデンザッハも魔導砲の砲弾を持って先に着いているだろう。
 
 「僕はアンネリーゼ・フリューゲン女王陛下配下のミカエル・シン旅団長だ。援軍として来た。ケガ人がいるので中に入れて欲しい」
 
 「誰だおめえさんは?」
 
 この件を三回繰り返した時、僕は剣に手を掛けようと思ったくらいだ。この世界、いや、僕限定かも知れないが人の話を聞け!

 
 「門など、叩き壊せば良かったである」
 
 「魔力の無駄遣いは控えて。これから魔王軍がくるんだし」
 
 「それならば心配は要らないのである。予備の団長の血ならここに沢山あるのである」
 
 ルフィナが自分のローブを捲ると据え付けられていた赤い小瓶が沢山あった。人の血を吸う必要無いんじゃね。
 
 「随分と予備をお持ちで。特にお胸の辺りが膨らむ様に小瓶が付いてるのは何故かな?」
 
 「……」
 
 「……」
 
 「ロッサ!    団長を殺すのである!」
 
 気にしていたのかよ。それは僕はプリシラさんの様な豊満な胸をお持ちの方が好みであるけど、女性は胸の大きさじゃないよ。
 
 「お久しぶりです、ミカエルさま。また殺仕合が出来るのですね」
 
 久しぶりでは無い。三時間くらい前にその挨拶を聞いたばかりだからね。それに殺仕合もしないよ、するならロッサを実験台に着エロの論文を書きたいな。
 
 「久しぶりロッサ。殺仕合より人助けをしよう。治癒魔法を使える人を探して来て。ウェンディを診てもらわないと、その後は二人で……」
 
 「そ、そんな事を!?    直ぐに探して参ります」
 
 突風の様に立ち去ったロッサに助言を忘れた。「ちゃんと肉を付けるんだよ」と、聞こえたかな?    まぁ、いいか。騒ぎのする方向を目指して行けばロッサと魔法使いが見つかるだろう。
 
 「何をロッサに言ったである!?」
 
 「さてね……」
 
 ルフィナには秘密だ。まさか論文の手伝いをしてもらう何て言える訳が無い。ロッサに関しては赤いドレスしか持っていなが、清楚なドレスからボロボロのドレスまで自由自在に操れる。しかも何度も試せるなんて、何て経済的なんだろう。
 
 僕達は悲鳴の後を追った。ロッサが不死の女王の骸骨バージョンで現れたら、誰だって驚くだろう。もっと効率良くとも考えだが、向こうから武装したドワーフが現れたので結果オーライだね。そして最初の件を四回目。
 
 「ケガ人がいるから治癒魔法を使える所に案内して欲しい。それと僕をここの領主様の所へ」
 
 語尾だけが変わったがウェンディとケガをした者は治癒魔法が出来る所へ案内されて行った。僕とルフィナと肉付きロッサは領主の所へ。何故だか槍を突き付けられながら。
 
 「シャイデンザッハ王は、到着されていますか?」
 
 希望の話題を振ってもドワーフ達の口は硬く閉ざされ、内向的な一面を見せた。よほどロッサが怖いのだろうか。不死の女王と魔法も無しに戦ったら死者が多数出ると考えているのかな。今は肉付きのいい、赤いドレスのグラマー美人なんだけどね。目は赤く光るけど。
 
 何度も話し掛けても返る言葉は無く、さすがに話題が無くなった。僕もコミュニケーション能力を上げないと上に立つ者として落第なのかもしれない。やっとの事で城の中まで入っても、剣山の様に槍を向けられ続ける事にルフィナがキレた。
 
 「貴様らいつまで槍を向けているのである。我らはルンベルグザッハの窮地を救いに来たのである!」
 
 「……」
 
 あまり強い言葉で言ってはダメだね。注意をする時は相手が納得するように語り掛けないと。頭ごなしでは反感を買うだけだよ。ここは僕が一肌脱いでみようかな。
 
 「ロッサ!    皆殺しである!」
 
 最近の若者はキレ安いって言うけど、ルフィナのキレる方向性は過激で小さな子供は真似しないでね。って、思ってる側から……
 
 「■■■■、滅びの大か……」
 
 全力で頭をはたき、抹殺の魔法を止めた。おバカさんですか?    ロッサさんは?    ドワーフの皆さんは敵ではないですよ~。
 
 「静まらんか!    槍を収めろ」
 
 前の方からドワーフにしては体格が一際大きい、鎧姿の毛むくじゃらが歩いて来た。身長は僕より頭一つ分くらい小さいが毛の多さは「その髭、モップですか?」と聞きたくなるほどだ。
 
 「体毛魔人である」
 
 そう言う事は思っても言ってはダメ。僕もルフィナと同じレベルか。口に出さないだけ、まだマシかな。体毛魔人は三人の部下を引き連れ僕達の前に。
 
 「俺はアリストフ・アスム・アスムス。ルンベルグザッハの戦士だ。案内する、着いて来い」
 
 随分と「ア」と「ス」の多いドワーフだ。早口言葉で三回言ってみな、きっと間違うから。
 
 「ミカエルさま、名前の言いにくい方ですね」
 
 ロッサは僕の耳元でそっと囁いた。ロッサとも同じレベルか。今度から何か話す時は、頭の中で一度考え直してから発言しようと心に硬く刻んだ。
 
 僕達は領主の部屋に案内された。城の中を歩いたが調度品などは無く、城と言うより要塞な感じに思えた。部屋の中さえも華美な物さえなく、領主の部屋にしては寂しいくらいだった。
 
 「えっ!?」
 
 「私がルンベルグザッハ領主、リア・ハンネ・ルンベルグザッハです」
 
 ドワーフの自治領に来たらトップもドワーフと考えていたのは僕の浅はかな考えだったか。どう見ても人間の女性、クォーターのオリエッタより身長はあるし出てる所は出て、引っ込んでいるところは……    ナイスなウエストだ。
 
 「ぼ、僕はアンネリーゼ・フリューゲン女王陛下配下のミカエル・シン、アシュタール帝国男爵です」
 
 やっば、緊張するくらいの美しさ。クリスティンさんともソフィアさんとも違う、足して掛けたくらいだ。こんな田舎にも居るもんだね。
 
 「アシュタール帝国がなぜ?」
 
 アシュタールの男爵と名乗るといつも不信がられる。やっぱり貴族が他国へ行くのは変なのだろうか。僕としては貴族より一傭兵と思っているけど、話をするには傭兵より貴族でいる方が進めるってもんだ。    ……僕の話は誰も聞かないんだっけ。
 
 「アシュタールの貴族ではありますが、傭兵白百合団の団長をしております。この度の戦には傭兵として加わっております」
 
 「そうなんですか。ご助力、ありがとうございます。それでは女王陛下が援軍を出してくれたと言うことですね」
 
 見とれる。僕はたまに看取られる。このルンベルグザッハ様はアンネリーゼ女王陛下が使う「魅惑のカリスマ」を使っているんじゃないかと勘違いさせるぐらいに美しい人だ。
 
 思わず警戒体勢。心眼と広域心眼を繰り返し、いつでも最大戦速で戦える様に気を取り直す。僕は自慢じゃないが精神攻撃に弱い。物理的な剣の戦いなら強さを自慢出来るが、僕は美人に弱……    精神攻撃に弱い。
 
 
 
 「これからの事を……    アシュタール帝国も動いています」
 
 僕は大きな机の向こう側に座っているルンベルグザッハ様へ一歩近付いて話した。うおっ、すっげぇ谷間。
 
   
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