異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二百十八話

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 後二日、欲しい。魔王軍をルンベルグザッハに二日引き付けておきたい。
 
 
 「失礼します」
 
 リア様の執務室に入るとアスムスとドワーフの重鎮達が向かい合ってソファーに座り、リア様は目を閉じて話を聞いている様だった。
 
 ドワーフ達は主戦派と撤退派に別れてはいたが、八割ほどは主戦派が占めていた。主戦派は撤退派を「腰抜け」呼ばわりし撤退派は主戦派を「無謀」と罵っていた。
 
 リア様はどちらに加担する事も無く話を聞いている。聞いてますよね?    寝てませんよね?    机の下でスマホいじってませんよね?
 
 「シャイデンザッハ国王と砲弾は着いてないのですか?」
 
 遅れて入った僕の席など無く、身長的、上から目線で聞いてしまったが、ここに居る方々は百歳を越えるドワーフがほとんどだ。礼儀に厳しい世代だとやり難い。
 
 「シャイデンザッハ国王は本当に来るのか?   砲弾は来るのか?」
 
 ソファーに座り込んだ全員のドワーフから見上げられ注目の的に。僕の方から聞いてるのに、なぜ質問を質問で返すのか。それなら聞いてやる、なぜ三人掛けのソファー一つに五人も積めて座ってるのかと。         
 
 「分かりません。本来なら直接こちらに向かってるはずなのですが」
 
 僕達が別れたのは遥か前の話だ。シャイデンザッハ王が直接向かっているのか、洞窟を通ってくるのか、もはや憶測に過ぎない。
 
 「リア様はどう思われてるのか?    先ほどから何も話はせんが」
 
 注目の的がリア様に変更し、皆の視線が集まる。話を振られたリア様も虚ろな目線をあげた。八割は戦う事を二割は撤退を、民主主義的には戦闘継続だが、ここは封建主義の世界だ。リア様が逃げろと言えば逃げ出すし、戦えと言えば戦う。
 
 「わ、わたしは……」
 
 人の身でありながらドワーフの領主になり、大半が交戦を望んでる中で撤退は言い出せないだろう。口ごもっている事から、撤退か思案中と言ったところか。
 
 答えを待てないドワーフ達がリア様を無視して話し始めた。これでは領主として失格だ。強い意思を見せ、皆を引っ張るくらいじゃないとダメだよ。でも、そんな弱々しいリア様も素敵だ。
 
 撤退しましょうと、僕が言ったらリア様はドワーフの意見に反して支持してくれるかな。それとも多数のドワーフの意見に飲み込まれてしまうだろうか。
 
 「戦うとして、どうされますか?」
 
 話し合いより罵倒が多くなって建設的な意見が一つも無かった。「わしの髭の方が立派」だの「わしの方が酒を飲める」だの「お前の母ちゃん出べそ」だのと、お前らは昭和のガキか!?
 
 「戦なら任せい!    魔王軍なんぞ蹴散らしてくれる!」
 
 建設的な意見無し、次!
 
 「今は城門や城壁の修理に割いておる。直り次第、弓兵を前面に押し出して一歩も近づけん」
 
 当たり前。それで壊されてしまったのを忘れたか。次は持ち堪えられないよ、次!
 
 「根性じゃ、根性があれば何でも出来るぞ!」
 
 ……次はもういい。
 
 「撤退をするとして、どうされますか?」
 
 色んな意見があって当然だ。逃げ出すからと言って責められる物じゃない。弱いことは罪では無い。やれるのに、やらない事が罪なんだ。
 
 「包囲を一点突破は、難しいでしょう。逃げれても半数以下かと思ってます」
 
 「だから、東の洞窟を通って山脈に出てから北を目指せばいいんだよ」
 
 「それだと体力の無い者や食料を考えると……」
 
 一番確実なのは西の魔王軍の包囲を抜けて半数を犠牲にする方法しかないのか。北の洞窟はナーガがいるし南の洞窟は崩落、東の洞窟は山脈に繋がり、その後の逃げ場が見つからない。
 
 「リア様はどう考えていますか?」
 
 話の振り方が悪かったのか、今度は身体をビクッと震わせ僕の方を振り向く。    ……いったい何があった!?    このドワーフとの話のわずか十分足らずで二十は歳を取ってないか?
 
 僕が瞬きして見直せば、いつもの美しいリア様に。疲れているのは僕の方か。ナーガと戦い、毒に犯され掛かけたりしていたから。
 
 リア様も精神的に疲れているんだろう。激しい戦闘を体験し心身ともに消耗しているなら、僕が元気を注入してあげたい。
 
 「あ、あの私は……」
 
 やっぱり元気を注入した方が良さそうだ。ここで決められないと最悪の場合、各々が勝手に動き始かねない。それは不味い、勝手に動き始めたら白百合団の逃げる時間が取れない。
 
 「リア様、こういうのはどうでしょう。我々は交戦を主目的に撤退の準備をすると言うのは」
 
 今度は全員が僕を見上げる。中には「おお!」と感心した様に言うドワーフもいるが、折衷案とかは持ち合わせていないのだろうか。
 
 ドワーフは頑固だと聞いていたけど、折り合いを付けるとか、歩み寄るとか、長い物に巻かれるとか無いのだろうか?    
 
 何となくだが、「いいね」をもらった感じなので僕は細かい所まで話を詰めた。白百合団は最優先で逃がしたいけれど、それが出来る状況でも無く、今のうちからケガ人を出来るだけ東の方へ移動させるで決まった。
 
 「明日で決まりですね」
 
 執務室にはリア様と二人。アスムスさんも防備へ回って、頑固者のドワーフを説得するのに疲れた僕はリア様に進められた、お茶をソファーに座ってご馳走になっていた。
 
 「明日です。リア様は撤退の準備をして下さい」
 
 これで話が決まり終わりだと思って引っくり返される事、二回。三回目をやろうとした時には、さすがに僕の殺気が膨らむのに気付いたのか、それからは話は進んだ。ドワーフの説得は言葉より殺意、覚えておこう。
 
 「私の事より、皆を守って下さい。夫より預かったこのルンベルグザッハを失うのは辛いですが、ドワーフを絶やす訳には参りません」
 
 僕の両手を取り切実な目で訴え掛けるリア様は可憐だ。ここは我慢だ、目線を下げるな、直ぐにバレる。リア様は僕の向かい側に座って身を乗り出して手を握るものだから、深い谷間が直ぐ下に……    我慢だ!
 
 「お任せ下さい、リア様。ドワーフもルンベルグザッハも守ってみせます」
 
 近い!    近いぞ、リア様。もう目線を下げても谷間なんて見れない。見えるのは艶っぽい唇のみ。そしてリア様の香りが鼻をくすぐる。
 
 それ以上、近付くのは危険だ。何故に近付くんだ。思っていたより強い手の力に僕の方が引き寄せられる。もう鼻が当たりそうだ。
 
 だが、僕は拒む!    僕は白百合団の団長で今はルンベルグザッハの指揮を取ってる者だ。情に流されては戦争になんて勝てない。僕はテーブルの上に乗り掛かっているリア様を抱き寄せた。    ……あれ?

 「はしたない女と思いますか?    夫に死なれドワーフの領主になって戦をしないといけなかったんです。強く生きなければと思っても……」
 
 リア様は僕の胸の中で涙を流した。ヤバい、ヤバいと警笛が大音量で鳴り響く。この状況でこの先に進んだら取り返しが付かなくなる。プリシラさんやルフィナに会わせる顔が無い。取り敢えず警報は切っておこう。五月蝿いから。
 
 何故か思い出す、昔の平和でいた日本での生活を。刺激なんて無かったが、のんびりとしていた生活を。そして思い出す、小学生だった昔の初恋の事を。不思議と心が暖まる懐かしい思い出。 
 
 「リア様……」
 
 五月蝿い警笛も恐怖のプリシラさんも今はいない。少しだけ、少しだけ昔のゆっくりしていた時間に戻りたい。僕はリア様を抱き締めキスをした。僕達は求めあった、恐怖を忘れる為、昔を懐かしむ為に。
 
 少し強引だがリアの胸元のドレスを両手で破った。こぼれ落ちる双子の山脈は、僕にだけ登頂を許された山だ。
 
 僕は登る。麓から山頂を目指して。足場が悪くて柔らかい地面だ。力を入れて登るだけで、漏れ出すリアの声。
 
 柔らかい双子の山頂には、旗を立てて言わんばかりの小さな乳頭が。どちらから征服しようが迷うが、どちらも征服してしまえ。僕は片方は舌で、片方は超振動の左手で双子の山脈を制覇する。
 
 「あぁひっ、はぁあんんっ…」
 
 感度のいい胸だ。それとも僕の神速と超振動のお陰か。山を征服したら次は洞窟の征服だ。偵察も加減もしないぜ。
 
 いや、もうそんな事も考えられなくなってる自分が分かる。いつの間にか唱えた凝縮の呪文は、いつの間に脱いだパンツを他所にそそり立ち、凶悪な様相を呈している。
 
 「あぁ、それで貫かれるの……」
 
 ああ、そうさ。前戯なんていらないだろ。バスターソードを押し付けた先端に伝わるヌルっとした感触が、相棒を受け入れたいと言っている。
 
 「あああぁ!  …はあっぁあっ!  …んんん」
 
 入れただけなのに……    半分までしか入れてないのに……    出してしまった……    リアの中に……
 
 「暖かい……    もっと……     もっとしておくれよぅ……」
 
 当たり前だ!    僕は何もしてないのと同じだぞ!    これで終わりだなんて考えられん!    もっと、もっと頑張れるはずなんだ!
 
 「リア……     泣き叫べ!」
 
 神速、モード・フォー!    全てを貫く神速のバスターソードが、リアの身体を宙に浮かせるほどに迸った。
 
 
 
 幸せな時間。懐かしい時間。僕はリア様と過ごし気が付けばベッドの中だった。もうすぐ朝が明ける。今日、死ぬかも知れないのに、こんな事をしてしまって良かったのだろうか。
 
 「リア、起きて……」
 
 肩を揺らすと、かなり冷たい感触が……    まさか死んだ!?    僕がシーツを剥ぐとそこには紫色の肌にメロンが二つ。そして白い液体に包まれた女が横たわっていた。魔族か!?
 
 僕の剣をと、探せば女の向こう側。素早く手を伸ばした身体を遮る様に首に手を伸ばす女。魔族の怪力で首を締められたら殺される!    僕は手を払う様に逆に女の首に手を掛けた。
 
 「離さないよぅ。ミカエルは私のものだよぅ」
 
 へっ?    誰が誰のものだって?    少なくとも魔族の物になった事は一度だけしか無い!    あれだって不可抗力、仕方がなくで、今回の様な不可避の行動とは違う様な気がしないでもない様な気もするのかな……
 
 「離せ!」
 
 女は僕が首に伸ばした手をスルリと交わして胸に頭を付け抱き締めて来た。このまま抱き締めて背骨を折るつもりか!    力勝負で勝てるのか。僕が引きずりながら魔剣ゼブラを手にしても、一向にしがみついて離れない。
 
 このまま背中から突き刺すか!?    それだと自分にも刺さるのは嫌だ。それなら首か!?    剣を横から向ければ手を伸ばして交わすかも知れない。
 
   「もっとしようよぅ。戦なんてどうでもいいよぅ」
 
 見上げた女と目が合うとグラリと世界が動く。戦なんてどうでも……    いい訳あるか!    このまま討ち死になんて僕の辞書には載ってない。警笛を鳴らせ!    ヤバい、ヤバいぞ!    警笛はドコ行った?  
 
 僕は脳内警笛を押しまくる。こいつは僕の苦手な感情に揺さぶりを掛けるタイプだ。このタイプは早目に始末するのに限る。
 
 僕は剣を振り上げた。顔面からケツまで突き通し殺してやる。昨日は上にも下にも突き刺して気持ち良かったなぁ。僕は振り下ろす剣より先に、女の唇に僕の唇を振り下ろした。
 
 だ、か、ら、それはヤバいんだよ。自分で分かっていても止められない衝動。警笛は押し過ぎて壊れたのか?    鳴らない警笛、止まらない感情。
 
 「光よ!」
 
 自爆覚悟の近接で光の剣の発動。もちろん僕の右足だけを狙って肌には傷一つ付けない様に。勿体ないからね。痛みで正気に戻る。足の毛が脱毛したかの様に無くなり端の方ではパーマが掛かってしまった。
 
 「てめぇ、何者だ!?」
 
 女の首筋に剣を沿わせる。勿論、光の剣は消しておく。傷が付いたら大変だから。それでも切れ味は十分だ。少し引けば首を落とせる。
 
 「リアだよぅ。貴方だけを愛するリアだよぅ」
 
 僕の知ってるリア様は紫色の肌なんかしてねぇんだよ。バストは九十二、ウエスト五十九、ヒップはスカートの為に不明、目算だけどね。
 
 今のお前はバスト八十七、ウエスト六十、ヒップ八十六。十分スタイルはいいが、僕の知ってるリア様と少し違うんだよ。心眼を舐めるなよ。
 
 どうする?   取り敢えず殺しておくか、魔族だし。だけど見た目はリア様と同じだ。今まで魔族がルンベルグザッハの領主をやっていたのかよ。だから洞窟の崩落や第二砲台が破壊されたのか。こいつがスパイか……
 
 聞きたい事がいっぱい出来たぞ。だから今は殺さないでおこう。聞きたい事がいっぱい出来たぞ。だから身体に聞いてやろう。
 
 僕の剣先が首筋から心臓に向けて移動する。絶対に斬らず、かと言って剣先は肌に着け離さず。この微妙な距離感が難しい。僕がメロンとメロンの間に剣先を向けた時に現れた。
 
 女の足元から生える蔦。身体を這うように滑り首を締め上げ高く持ち上げる蔦はルフィナの拘束の蔦だとすぐに分かった。
 
 裸触手だ!    定番だ!
 
 「ぐへっ!」
 
 僕の足に絡み付いた拘束の蔦は引っくり返す時に顔面を床に強打させ、逆さ宙吊りに僕を持ち上げ、落とす。そして持ち上げ、叩き落とす。何で僕もなんですかねルフィナさん!
 
 「やはり、こやつであったのである。サキュバスである」
 
 
 
 勝利宣言とも取れる言葉は女を拘束し、僕を血だらけ逆さ宙吊りにした。これも定番……
 
 
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