異世界に来たって楽じゃない

コウ

文字の大きさ
222 / 292

第二百二十二話

しおりを挟む
 
 夜が更け皆が寝静まる時、白百合団が動き出す。僕は重傷を負ったので、野営地で待機する時間は約二秒。
 
 
 「治ったら行くぞ」
 
 もう少し優しい言葉を掛けて欲しいよ、僕は仕事をしてばかりだよ。どこか風の涼しい湖でランチバスケットを開けて、サンドイッチを食べたり釣りをしたり、泳ぐのもいいね。
 
 治ったので行きます。治ったけれどソフィアさんと一緒にベッドで待機するのはどうでしょう。指揮官自ら前線に出ると何かあった場合、部隊が崩壊しますよ。
 
 「ソフィアは待機。馬車はデカいの二台だ。分乗して行くぞ。こっちにはアラナとリアと腐れが乗れ。残りはクリスティン操車でそっちだ。サキュバスの数は二十を越える。馬車に積めるだけ積んでも往復が必用だ。大人しく捕まれば良し、暴れる様なら殺さない程度で寝かしておけ」
 
 僕、必用ないんじゃないかなぁ。なんだかやるきがなくなるぅ。このまま、かえってねていたいなぁ。ポンポンいたいしぃ。
 
 「腐れ、用意はいいな。男を寝取る様なヤツは許しておけねぇ」
 
 その「やる気」は個人的なものかよ。確かに寝取られたら嫌だな。白百合団に手を出すようなヤツがいたら……    そんな勇気のあるヤツがいたら、取り敢えず誉めてやるか。
 
 「行きましょう。連合軍の壊滅を防がなくては」
 
 僕以外は怒りを持って夜道を進んだ。御者席に三人で並び、リアの誘導で一人目のサキュバスを探す。僕としては夜這いっぽくて、ちょっと楽しみ。隣のリアが腕を組んで胸を当ててくるし……    グーは止めろ、グーは!
 
 
 
 一人目はいきなりの大物。アシュタール帝国遠征隊、総司令ユリシーズ・ファウラー侯爵。他の軍団長が街中で強制的に屋敷を徴収してるのに、この人は街の外にテントを貼って騎士達と一緒に寝起きをしている人格者だが、情婦を三人も連れてきているエロジジイ。
 
 三人もいるお陰で情婦専用のテントまで用意して楽しんでいる様だが、一人くらい別けてもらっても構わないだろ。幸い侯爵様のお相手はサキュバスで無かったので、忍び込んで優しく起こした。
 
 「こんばんは。死ぬか一緒に来るか選んでみよう」
 
 僕の優しいお誘いに、頷いてくれる可愛いサキュバス。あんなオヤジのどこがいいのか、仕事といえ辛いね。
 
 僕は念の為に猿ぐつわで口を塞ぎ、身体検査を入念に行ってから服を一枚羽織らせて後ろ手に縛った。もちろん、どちらも柔らかく、傷が付いたら勿体ない。
 
 「早かったな」
 
 速さだけが取り柄の男ですから。僕はサキュバスを優しく荷台に乗せ、プリシラさんは荒々しく馬車を走らせた。おっと、ゴメンよ、思わずダイブ。    ……あのジジイ、羨ましい。
 
 二人目、三人目とアラナのドロンの情報と僕の神速で誘拐は進み、一台目の馬車は直ぐに満員になった。それはクリスティンさん操車でアラナとオリエッタの護衛付きで帰らせ、僕達、三人は誘拐を続けた。
 
 「何だか、ボクだけ働いてません?」
 
 侵入から誘拐まで、僕の手伝いをしてくれる人は誰もいなかった。影に隠れ、時には天井に張り付き、事が終わるまでクローゼットから隠れ見……    この時は一人で良かったと思う。
 
 「リア、これで最後だな?」
 
 「これで最後だよぅ。帰ってしようよぅ」
 
 しません!    僕は少しも寝てないんだよ。サキュバスの事はルフィナに任せて僕は少し休みたい。暖かい布団に包まれて惰眠を貪りたいんだよ。

 捕まえたサキュバスは全て地下牢に押し込み、ルフィナに記憶を読ませる。その際、殺しちゃっても良しとする。特に事故にみせかけて、リアを殺しちゃっても良しとする。死人に口無しとも言う。

 
 朝になって疲れた身体を引きずって、僕はアシュタールに向かった。これからアシュタールの調整に向かい、何人かの人には自分の情婦がサキュバスだった事を知らせないと。

  「貴方とお付き合いしてる女性はサキュバスで、魔王軍に情報を流してると思われます」

 これを言うと七割ぐらいから胸ぐらを捕まれる。そして唾が出る勢いで罵倒されるのに慣れない。逆に掴んでやりたいが、男爵の身の上ではそれも叶わない。

 なので僕は出来るだけ静に相手に伝える。相手を説得させるのに熱くなってはダメだ。事の重要性を話し、そのサキュバスの情婦に会いたいのなら、会えるようにも話をつけた。

 と、思う……    最後の方になると、さすがに疲れて言葉にトゲが有ったかも知れないのはゴメンよ。悪気は無いが、同じ言葉に同じ反応で疲れてしまったよ。

 それに可哀想なのはサキュバスにも言える。少なくとも愛し合っていたのだろうが、一人として地下牢に面会に来る事は無かった。

 
 「ルフィナ、後はよろしく……」

 僕は寝るぞ。徹夜はこの歳になるとキツくなってくる。まともに、一人で、布団にくるまって眠るのは何日ぶりだろう。おやすみ……    二秒。

 ドアを騒々しく開けて入るのはプリシラさんの専売特許だが、薄目の先にいるのはローズさんだった。いくら起こされても寝ていよう。ローズさん達なら無理に起こす事もないし、刺される事もない。

 「この起こし方で、構わねぇんだよな」
 
 「プリシラさんが言ってたから間違いないと思いますよ」

 「そうか、死んでも知らねぇ……」

 「起きてます!    起きてますよ、ローズさん」

 ローズさんの手にはナイフが握りしめられ、僕に振り下ろさんとしていた。睡眠時間二秒。良く寝た。あぁ良く寝たよ。

 「何かご用ですか?」

 これで輪番をどうのこうの言って来たらマジ殴る。新規の白百合団に輪番を行使する権限なんてマジにねぇ。無いったら、無いの!

 「朝早くからハスハント商会の傭兵が来たぜ。どうするんだって言って来てやがる」

 忘れていた訳じゃ無いが、着くのは明日じゃなかったか?    急いでくれたのは、有難いけど僕の睡眠が……

 「ハスハントの代表は誰です?」

 「ギーユって言うエルフだな。あれはハーフかもな」

 あのマノンさんか!?    マノン・ギーユ、僕に黒刀を貸してダークエルフとの接点を作ってくれた、胸の谷間の綺麗なハーフエルフ。会うのは帝都を離れて以来だ。あの谷間はもっと深くなっているのだろうか。

 「その人なら知ってます。来てるんですか?」

 「おう、団長をご指名で来てるぜ」

 困った……    来てくれたのは嬉しいが、ハルモニアの援軍として来たんじゃないのか?    挨拶ならアンネリーゼ女王の所か、アシュタールの遠征軍の所に行くのが筋だと思うが……    そうか!    僕に会いに来たんだ!

 僕は「直ぐに行きます」と、伝え服を着替えた。「待たせとけよ」と、言って服を脱ぎ出すローズ御一行様。僕は神速で着替え部屋を出た。



 「お待たせいたしました」

 振り返る汗さえ眩しいマノン・ギーユ。会うのは久しぶりだ。色々とお世話になったりしたけれど、その美しさは変わらない。ハーフエルフだけに変わらないのかな。

 「お久しぶりです、シン男爵。ハスハント商会、会頭より傭兵二千、お預けいたします」

 お久しぶりに見る谷間に汗と言う川が流れ、とてもハルモニアで過ごす服装ではなかった。きっと仕事用のスーツに近い意味合いの服だろうけど、僕はこの地方にあったアロハを買ってあげたいと思った。

 「ありがとうございます。ですが、今は各国から参陣する騎士団が多くて混乱している状態なんです」

 僕はアシュタールの騎士団との調停役を買ってでたが、サキュバス退治に忙しくて、それどころじゃなかった。アシュタールの騎士団も一部で混乱している。自分が連れて来た情婦が敵のスパイだったなんて、知られたら問題だし面子に関わる。

 「それでしたら手伝いましょうか?    部隊の運用には心得がありますし」

 そうでした。マノンさんは行動部隊の偉い人だった。組織の運用にも長けているなら、この混乱を収められるかも知れないが……

 「申し訳ありません。ハスハントの方にこれ以上の事をしてもらうのは……」

 ハスハント商会とマノンさんに手伝ってもらうのは有難いが、一商会に全軍を把握されるのも危険だ。商会として儲けを考えて戦争を長引かせてられたら困る。

 「勘違いしないで下さいミカエルさん。ハスハントは関係ありません。わたしが個人としてお手伝いしたいのです」
 
 「……分かりました。ただし、臨時に白百合団に入団してもらいます。手伝いでは無く、仕事として受け持ってもらいたい」
 
 「望む所です。わたしがどれ程、有能かお見せしますよ」
 
 有能かどうかなら、おそらく有能な人なんだろう。ミスなら仕方がないで済ませる事もあるけど、情報漏洩などは死刑に値する。
 
 白百合団に臨時と言えども入団したんだ、マノンさんがそんな事をすると思えないが、サキュバスの件もあるから気を付けないと。
 
 もちろん入団したからと言って輪番の団則は適用されない。そんな事をしたら命に関わる。マノンさんはハスハントに休暇届を出して白百合団に仮入団した。

 
 
 これで少しは楽になるだろうか。聞き分けの無い騎士団やロースファーが言う事を聞いてくれないと反撃の日にちも決められない。 

 マノンさんの仮入団に関しては往復パンチだけで済んだ。
                 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...