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第二百五十四話
しおりを挟む子供のころは寝相が悪かった。大人になっても寝相が悪いと、城壁から落ちるから気を付けないと。
目覚めれば鳥の囀ずりが美しく響き、安物の酒で頭はガンガンする。うつ伏せで眠ってしまった僕は、このまま寝転んでしまったら街の中に落下する、アクロバティックな寝相だった。
「おはようございます、良き人」
鳥の鳴き声より美しいダークエルフの耳元への囁きに、「舌は入れないでね」と一言付け加えたかった。
「おはよう、イリス。吉報でも持って来てくれたかな?」
「魔王軍の配備状況が分かりました」
相変わらず仕事が早い。脱ぎ始めるのも早い。会う度に、そのイリスに体液の補充をしているけれど、そこまで必要なのだろうか。確か、半年くらいは大丈夫じゃなかったか?
「と、とりあえず、報告を先にね」
僕も勇者の端くれだ、仕事を優先。
僕も着エロの愛好家だ、脱がすなら僕にさせてね。
「はい…… エトバァールタバウルの街ですが、巨人四体とオーガ、トロール、ゴブリン等で約三千を確認しています。中央のルネリウスファイーンはサンドドラゴン一体。黒炎竜、ジャイアントボアは十体以上、オーガは約千百ほどです。それとアンテッドナイトも確認されています。アンハイムオーフェンに限ってはゴブリンを主力にオーガを含めて五百を切るかと思います」
短期間に良く調べたものだ。シャツのボタンは三つまで外して胸の谷間を強調するくらいがいいね。エトバァールタバウルは予想通りに戦力を注いでいるみたいだ。
「エトバァールの補給状況は?」
「ラウエンシュタインより流れています。充分に潤っているみたいです」
それだけの数を備えさせるなんて魔王軍は底なしなんだろうか。イリスの首筋も潤っているね。立たせているより座った方が見やすいかな。
「ルネリウスの方が戦力的には上かな?」
「はい。しかし、ルネリウスの黒炎竜やジャイアントボアはエトバァールに移動しようとしているみたいです」
やっぱりエトバァールを第一に考えている様だ。困ったな…… やっぱりイリスにはスカートを履いて欲しい。パンツルックだと愛好家として不満が残る。
「アンテッドナイトが居たんだって? 率いていたのは魔族の女かな?」
「申し訳ありません。指揮官までは未確認です」
ブラの色は黒を確認。オリエッタに作ってもらって良かった。褐色の肌に黒のブラはと、考えたけれど、これもまた良し。
「あのアンテッドナイトは厄介だ。僕でも苦労したからね。今なら楽勝だろうけど、白百合団以外なら返り討ちだよ」
アンテッドナイトの産みの親、アロマ・ロンベルグ。魔族のくせに僕を夫にしたがった女。その夫にしたい男にギロチン首輪を付けて見世物にした女。綺麗な肌だったが冷たく、中に入った相棒も冷えるのではないかと思ったくらいだ。まぁ、適度な摩擦で暖かくはなったが……
「指揮官も調べておいて。ルンベルグザッハの魔導砲で死んでくれてれば良かったのに。残念だよ」
証人は消さないと。実験と証されて行われた色々な口には出せない事を、僕は墓場まで持っていく。アロマには白百合団に喋られる前に墓場に行ってもらわないと。
「アンハイムの敵は他に比べてかなりの少数ですが……」
「罠でしょ。わざと攻めさせて大きいのを一発喰らわせるんじゃないかな」
「お察しの通りです。アンハイムにいる部隊だけでは抱えきれない程の物資が搬入されています」
「動くな!」
僕は後ろ腰に着けたオリエッタナイフに手をかけ、モード・シックスの一閃で切り着けた。
「な、何を……」
何って言われたら、胸を張ってこう答えよう。
「サソリみたいなのが居たんだ。もしかして気のせいかも…… (ロングパンツよりホットパンツの方が色っぽいでしょ。愛好家としては、もう少し露出が欲しい。上はシャツだからボタンを外せばいいけど、ロングパンツは露出が難しいよ。だから片方だけ切って、ホットパンツにしたんだよ)」
「あ、ありがとうございます」
我ながら感心する速業。片足だけを切り刻んで見える様にするなんて、このアンバランス、これもまた良し! パンツを切った方の膝を曲げてもらって、反対の足は伸ばしたまま…… 良し!
「で、アンハイムは罠だとして…… 何が来ると思う? レッドドラゴンとかは嫌だなぁ」
しまった、失敗だったか!? 僕の右側にいたから手前の左足のパンツを切ったけど、出来ればその太股の内側を見たかった。
「さすがにレッドドラゴンは無いかと…… ラウエンシュタインに部隊を配置させて、その援軍が来るかも知れません」
「ラウエンシュタインの様子は?」
くぅ~! この角度、また良し! 健康的な足から望む、その先の様子に心揺さぶる。
「ラウエンシュタインは…… 申し訳ありません、北に行くほどハーピィの偵察が飛んでまして……」
「とりあえず、ラウエンシュタインはいいや。三都市への補給と魔物の移動に注意を払っておいて」
その生足の奥底に眠るラウエンシュタインは僕が自ら調べちゃうよ。 ……触手義手よ、落ち着け! まだ話は終わってない。
「それと、ドゥイシュノムのアシュタールとロースファーにも情報送っておいてね。ハルモニアには、これから行って報告しておくよ」
「分かりました……」
話は終わったかな? これ以上は無いよね? もういいよね?
焦るな、我が義手よ。もう一つ、試したい事があるんだ。 ……あれ? いつの間に「意識」を持ちやがった?
僕は立ち上がる。イリスもつられて立ち上がる。片足だけが短く、角度によってはショーツまで見えてしまうくらい短く切ったモード・シックス。
神速、モード・シックス!
僕がオリエッタナイフに手をかけたのさえ、見えなかったであろう神速は、残ったロングパンツを切り刻んで、本当のホットパンツに変えた。
「きゃっ!」
少し、少しだけ太股の内側にムニッと触れてしまったけど、肌に傷一つ付ける事も無く両足ホットパンツに僕は涙を流しそうになった。
僕は何て事をしてしまったのだろう。愛好家の仲間に顔向け出来ない。僕はイリスにホットパンツを履かせてしまった。
その前にやる事があったろうが! 片足ロング、片足ショート、このワイルドさ先に活かさないでどうする!
最初に残った方の膝に切り口を付けてからのダメージ加工。短くした方の縁もダメージ加工にして足の美しさを強調する。ホットパンツにするのはそれからだろうが!
くだらない戦争の事なんか考えてしまって、項を焦ったか。一生の不覚…… もう、戻らないあの夏の日……
「大丈夫ですか、良き人」
大丈夫では無いです。この失態をどうすれば回復出来るのだろうか。覆水、盆に帰らず。無くなった片足のパンツは細切れ。
「す、すぐにドゥイシュノムハルトに連絡を取ります。他のイリスに連絡するもりも、わたしが直接行った方が早いです」
どうすればいいんだ。無くなってしまった物は仕方がないが、どうしても名残惜しい。見たかったワイルドなイリス……
「そ、それともルネリウスの指揮官でしょうか? 人数を投入して探し当てます」
イリスよ…… そんなに戦争がしたいのかい? 戦争よりも、もっと大切な事があるだろ。人が人として生きるのに値するもの…… それこそ着エロ!
「あの、なにを……」
僕の涙が見えたのだろうか。僕の想いは届いているのだろうか。これ程、着エロの邪魔をさせられるなんて…… 戦争なんてロクなもんじゃない。
「イ、イリス…… 少しだけ時間をくれないか……」
僕はイリスを抱き寄せた。むしろ一人で立っていられなかった。美しい髪からは優しい香りが僕を包み、崩れ去った心を癒してくれる。
慌てる事は無いんだ。イリスはここにいる。ロングパンツは無いけれど、まだ僕には残された物がある。それを大事にしよう。
「イリス。そのパンツに入れているシャツを外に出してみて」
不思議そうな顔をしながらも、笑顔で応えてくれるイリスはスッとシャツを出してくれた。期待を裏切らないイリス。まるでシャツの下には何も着ていないかの様にホットパンツが見えなくなった。
良し! 朝、ベッドから起き出す彼女は着る物はないかと彼氏のシャツを借りた。そのシャツは女性が着るには大きいが、すっぽりと下着まで隠してくれる。 ……ようなシチュエーション!
動けば時折見えるホットパンツは下着姿では無いことを物語るが、それもまた良し! 生足万歳だね。我、着エロの真髄を見たり!
「イリスぅ~」
僕は居ても立ってもいられず、イリスを押し倒した。広域心眼を全開に城壁の上には誰も居ないし、街からもこの角度なら見られる事はない。
「よ、良き人……」
僕は居ても勃ってもいる。このまま流れに身を任せよう。イリスは可愛いし、誰も周りには居ない。報告は後回しでもいいだろう。僕にはやらねばならない事がある。
戦争なんて、くだらないね。
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