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第二百六十七話
しおりを挟むイリスには先行してエスレーベンの村に行ってもらい、白百合団には王都クリンシュベルバッハに向かってもらった。
僕は馬を二頭走らせルネリウスファイーンに向かい、一頭の馬には鍛冶屋で作ってもらった秘密兵器を乗せている。この秘密兵器はアルマ・ロンベルグの為に作った特注品だ。きっと喜んでくれるだろう。
アルマ・ロンベルグには二つのお願いを持っている。一つは魔王の居場所だ。魔王は今でもラウエンシュタインに居るのだろうか。それともネーブル橋を渡ってノルトランドに帰国したかな? どこに居るのか、それを確認しなければならない。
もう一つは魔王のプライバシーに付いて。素顔と能力、それと結婚や子供がいるかだ。僕は前世で魔王と会ってはいるが、仮面で素顔を隠し能力を見る前に斬り合った。
どんな仮面だったか…… 仮面を着けていた記憶はあるが「どんな?」と言われても思い出せない。どうせ覚えていても記憶が改ざんされてしまうだろう。
能力も…… あれは失敗だったな。慣れない神速での相討ち。もう少し時間があれば…… もう少し神速を使う回数に余裕があれば……
後は魔王が結婚して子供が居るかだが、子供が居ると困る。魔王を討ったとしても、世継を立てて人間への復習で戦争が長引くのは困る。でも、一時的とはいえ戦争は治まるだろう。
後はアルマがどれくらい協力的かだが、これは拷問もやむを得ない。ルフィナが記憶を読む事は出来るが、魔族にどれくらい効果があるかは不明だ。
何よりルフィナには記憶を読ませるつもりは一欠片も無い。あいつの事だから読まなくてもいい記憶まで読んでしまうのは確実だから。僕とアルマのクリンシュベルバッハでの記憶は墓場まで持って行く!
協力しなければ拷問だ。オリエッタに拷問器具を借りて来たかったが、僕のマジックポーチには三角木馬は入らないからね。チョウヤキキは使えば死んじゃうから。
ルネリウスの街でアルマを誘拐し、クリンシュベルバッハまでの道すがら拷問して情報を聞き出す。白百合団を先にクリンシュベルバッハに行かせたのも、時間をつくるその為だ。
一番の問題があるとすれば、ルネリウスの街からの脱出。アルマを襲う所までは自信がある。僕には機先の心眼と広域心眼があるから、魔物に見付からずアルマの寝室に潜り込めるだろう。
その後は騒がれない様に猿ぐつわを噛ませ、暴れない様に縛り上げ、そして服を引き千切って想いのぶち込んだりはせず、担ぎ上げて逃げる。
暴れなければ簡単に運べると思っているが、抵抗をされたら…… 合意の元なら無理矢理も悪くない。
いや、敵陣の真ん中で騒がれたら問題だ。サンダードラゴンに追い掛け回されたら、肩凝りが治るだけでは済まない。聞くだけ聞いて殺せたら問題が無いけれど、僕には出来そうも無い。
アルマは魔族だ。分かりあえる事もあるだろうが、所詮は魔族の女だ。それに無抵抗だったらなおさら剣を突き立てる事など僕のメンタルが許さない。それに突き立てるなら相棒の方がいい。
脱出方法はアルマ・ロンベルグしだいで柔軟に対応して行こう。だが、最悪の場合は殺す。出来れば殺したくないが、僕との秘密を知っている女を生かしておく事も無い。
でもなぁ~。美人を斬る剣は持ってないしぃ。シンちゃんメンタル弱いしぃ。あのベッドでの一時を忘れてないしぃ。 ……困ったね。
僕は同じ事を何度も繰り返しながら、ルネリウスファイーンの街まで少しの所で馬を降りた。
着いたのは夕方も前。時間も忘れるほど考えながら走ったので、日の明るいうちに着いてしまった。今からルネリウスの街に行ったら大歓迎されるだろうから僕は馬から離れ、街の城壁近くでバーベキューを始める事にした。
残念ながら火を使う事は出来ない。香ばしく肉が焼ける香りが漂えば、招からざる者がご馳走になりに来るかもしれない。僕は干し肉を何度も噛みながら旨味を楽しみ、水で流し込んだ。
広域心願を使うなら城壁に登らないといけない。そうしないと街の中までは詳しく見る事が出来ない。ただ城壁の上までなら広域心眼で見れるので、見張りや巡回の手薄な所は無いかと仕事をしていた。
街の城壁に、広域心眼で届くギリギリまで近寄りながら一周すると、北側がやや手薄な感じがしたので、僕は城壁から見られる事がない距離まで下がって夜を待った。
アルマ・ロンベルグはイリスの話だと領主の館にはいないらしい。少し離れた商家の家に居ると聞いているが、きっとそこで怪しい実験でもしているのだろう。
アルマがセリーナ嬢に焼きごてを押し付けた魔族かは聞いていないが、アルマならやらないと思う。僕はされていないし、そんなに狂暴な女では無いと思う。
もし、その腐った魔族をアルマから聞き出せたなら、そいつは問答無用で斬り倒そう。今は無理でもいつか必ず首を取る。
その時にはセリーナ嬢の手足も治っているだろう。心の詰まりの一つも取れるといい。僕に出来る事は少ない。
夜が更けるまで、僕は色々な事を考えた。そうしないと、今にでも乗り込んでしまいそうだったから。戦を終わらせる為のキーマンがそこに居る。手が届く位置まで僕はいるんだ。だけど、あせるな自分。
確実に寝静まるのを待て。魔物だって夜は眠る。夜型の魔物もいるだろうけど、オーガやゴブリンは夜には眠るんだ。焦るな自分。もし、乗り込んでアルマが武装していたらどうする? そんなのは会いたくもない。
パジャマかネグリジェ。出来ればシースルーだと申し分ない。そこに乗り込んで縛り上げ、胸の膨らみを強調するよう縛り上げ、何か話そうものなら巨大な相棒を突っ込む……
そろそろ考えるのは止めよう。どうしても斜め上の方向に向かってしまいそうだ。僕は息を潜め、深く静かに時を待った。
「よし! 行くか!」
僕は炭火の様な炎を心に燃やし立ち上がった。すでに業火の様に立ち上がっている相棒…… 何故だ!?
暇だったので…… 時間があったので思わずやってしまった脳内妄想。考えるのを止めようと思い立った時に想ってしまったアルマのシースルーのネグリジェ姿。
だって暇だったんだもん。妄想の中ではアルマは可愛かったんだもん。シースルーのネグリジェに食い込むロープがまた……
もちろんネグリジェだけじゃない! ナースと制服もしたし、OLさんもあった。一応、押さえる所は押さえた。暇だったし…… 僕は約十分ほど般若心経を唱え、相棒を押さえ込んだ。
「さて、今度こそ行くか!」
自分で自分を奮い立たせる。お前は勃たなくていいからな、これから忙しいんだ。僕は神速を使って静かに城壁に向かった。
途中、これからの予定を考えては般若心経を唱え、僕は静かに城壁にたどり着いた。心眼を使って城壁の上を探っても誰もいない。僕は「お邪魔します」と飛び上がって格好良く着地した。
我ながら惚れ惚れする飛距離。飛び過ぎず、飛ばな過ぎず、ピタリとカップまで三十センチ。バーディーチャンスだね。
城壁の上から見るルネリウスファイーンは所々に、かがり火が焚かれ魔物もそこに居た。広域心眼を街中に張り巡らせ、目的の場所を見付けた。
カップイン! 城壁から飛び降り壁際を走る。広域心眼を使えば魔物の位置なんて容易い。僕は誰にも見付からないで商家の裏手に回った。
裏手のドアは施錠されている事も無く、簡単に開いてしまった。本当なら窓にガムテープを貼ってドライバーで鍵の所を破り、小さな傷で鍵をあける予定だったのに…… たまにはドロボー気分を味わいたかった。
素早く入り込み、広域心眼。僕の広域心眼は閉鎖空間までは見れないからね。と、言っても館の中のドアも行儀良く閉まって、部屋の中までは見れなかった。
廊下に人影も魔族影も無く、しんと静まり返る館は廃墟にも似た感じがする。アルマの側ならアンデッドナイトは居るかと思ったのに、外にも中にも居なかった。
それなら好都合だ。僕は大手を振って廊下を歩いた。誰も居ないなら堂々としよう。広域心眼は外さないけどね。
広い屋敷に目的は一つ。僕なら陽当たりのいい部屋を選ぶ。ベッドルームは広くて、バス、トイレ付きの部屋ならもっといい。僕は二階の北側の部屋を選んだ。
女性の部屋に入るんだし「ノック」は必要かな? 寝込みを襲うんだし、違うノックを奥底に喰らわしてやりたい。僕はオリエッタナイフを後ろ腰から抜いて部屋に入った。
居ない…… 部屋の奥にドアが一つ、これが寝室か? ゆっくり音がしないようにドアをあけると、便器が……
反対側の壁にもドアが一つ、こっちが寝室か? 静に少しだけドアを開け、広域心眼を使うと薄明かりでも見えてくるキングサイズのベッドが……
顔は…… うつ伏せてしまって見えない。どうしよう……
呼吸はどうしているのだろうか? そんな心配より人違いだったらどうするか? ゴメンで済んだら傭兵はいらない。仰向けにさせて顔を確認しなければ……
もし、人違いで声を出されたらどうする? 明日の新聞に「変態勇者、夜這いで捕まる」なんて一面に載るのは嫌だ。
怖じ気づくな自分! ここまで来て手ぶらで帰るなんて事は許されない。チカンも許されない。顔を見て人違いだったら眠らせたまま違う所を探せばいいんだ!
僕はそっとベッド際に立ち、首にオリエッタナイフを当てながら仰向けにさせた。
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