キャッスルシップの錬金術師

コウ

文字の大きさ
15 / 56

第十五話

しおりを挟む

 カードゲームのポーカーは「ハッタリ」が必要なゲームだ。弱いカードでも掛け金次第で相手に勝てる事もある。要は自分の感情を見せない、ポーカーフェイスが必要なんだ。
 
 ラウラ親方はあたかも見ていた様に魔石の事を話し始め、ジョシュアも自分から話してしまう愚行で、勝手な行動が同罪と殴られた。僕はジョシュアが居た事は言ってないし、ミリアムさんも知らない筈だ。
 
 ラウラ親方には握力六百と凄む顔があれば、ハッタリもポーカーフェイスもジョシュアには通用しないみたいだ。二人で愛の鞭を頂いた訳だが、問題のタートルの魔石に付いては「後回しだ!」とウィザードのある整備室に追いやられた。
 
 僕もジョシュアもレッド・チームの最終点検の為に別れ、僕は七班の待っているウィザードの側にはフィリス・ステイプルも待ち構えていた。
 
 「おはよう、フィリス。頭の痛い朝だねぇ」
 
 「本当に頭が痛いぜ。魔石の塊の側には魔物が居るんだからな」
 
 「数はどれくらいか聞いてる?」
 
 「トロールが三匹にワイバーンが五匹は確認しているみたいだ。夜のうちに増えてるだろうけどな」
 
 「魔石が欲しくて来たんだろうね。武装はどうする?」
 
 「バスターソードでいいだろ」
 
 「数が多いならメイスと盾があった方がいいんじゃない?  丈夫だし」
 
 「こっちの数も多いから大丈夫だろ。三十六機が出るなんて滅多にないぜ」
 
 確かにイエロー・チームを除く全機が出撃するなんて珍しい。安全の為か?  それとも船長は何か知っているとか?  考えても仕方がない。数が多ければ多いほど、生きて帰れる確率は高まるんだから。
 
 「そうだね。  ──サラ、ローラ、武装はバスターソードで。各部のチェックと赤の魔石をてんこ盛りで」
 
 「「はい」」
 
 「いつもは半分くらいしか入れないのに豪勢だな」
 
 「気を付けて。魔石の塊なんて意味不明な物に近付くんだから」
 
 「任せな。無属性の魔石があったら一つ貰って来てやるぜ」
 
 意気揚々と操縦席に座るフィリス。一つと言わず持てるだけ持って来てくれても構わないんだけどね……  いや、タートルの魔石はヤバい物だった。公爵の見付けた魔石の塊はもっとヤバいのかも。
 
 魔物を集め、ジャイアント・タートルを巨大化させ、凶暴化、合体変形もさせるかもしれない。そんな所に三十六機のウィザードで足りるのか?
 
 「フィリス、気を付けてね。必要以上に気を付けて」
 
 「大丈夫だよ。心配性は白髪が増えるぞ。ほら、降りろよ。出撃するぞ」
 
 フィリスなら大丈夫か。階級は三級火系魔導師でも実力は一級に近いって言われているし。日頃の行いが悪いだけで二級になれないって話しだからな。僕はウィザード降りて見送った。
 
 
 
 「レッド、ブルー・チーム、出撃」
 
 カタパルトに乗って「行きま~す」なんて出撃じゃない。後方下部ハッチからぞろぞろと歩いて城船を降りて隊列を組んで進む。
 
 浮遊して高速移動もするかもしれないが、木が生い茂って危ないから、徒歩での移動だろう。少なくとも作業用ウィザードで木をくぐって飛ぶなんて芸当は僕には無理だ。
 
 「通信はどうなってるの?」
 
 「中継は出ないみたいだぜ。距離があって届かないけど、城船を手薄にする訳にもいかないしな。たかが魔物の十匹やそこら問題ないだろ」
 
 助けに行った所で足手まといになるのは分かっているから、せめて通信くらいと思ったんだけどね。三十六機も出撃したらトロールやワイバーンが二、三十居ても問題ない。
 
 「ここで、ぼうっとしてても始まらないぜ。俺達の仕事はウィザードが戻ってきてからだ。時間もあるしポーカーでもどうだ?  巻き上げてやるからよ」
 
 「ジョシュの方が負け込んでいるだろ。他に誰を呼ぶ?」
 
 「あぁ、それなら……  おっ、三班までの班長が親方に呼ばれてるみたいだな。何か一仕事があるのかよ。早くメンバー揃えて逃げようぜ」
 
 見ればラウラ親方の側には各班長が集まって指示を受けていた。受けている班長の顔は神妙でとてもジョシュアの様にヘラヘラしてない。
 
 「メンバー揃えておいて。少し話を聞いて来るから」
 
 「仕事熱心でご苦労、ご苦労。先に行ってやってるぜ」
 
 この後の待機時間を裂いてまでやる事なんて、タートルの魔石の事が思い浮かぶ。本当なら待機と言ってもウィザードが不意に帰還する事もある。
 
 損傷して隊列を離れ戻ってきた機体を直す為の待機で遊んでいていい訳がない。ポーカーは……  僕は少し離れた所に居たミリアムさんに事の次第を聞く事にした。
 
 「ビーン副頭、三班まで集めて何かするんですか?」
 
 「ミカエル!  二人の時はミリアムと呼んで……」
 
 少し恥ずかしがりながら言うミリアムさんは、何時もと違うギャップにとてもの可愛らしさで抱き締めたくなるが、人はまだ多いし僕達ってそんな関係でしたっけ?
 
 「ミ、ミリアムさん……   何かあったんですか?」
 
 「あれね。これから三班合同でタートルの魔石からサンプルを取って残りは粉砕処理します」
 
 「粉砕!?  そんなに不味い物だったんですか!?」
 
 「不味いと言うより不明な所が多いからですね。サンプルは魔導都市に魔石の塊と一緒に送ります」
 
  「そうなんですか……」
 
 あの魔石の大きさなら一財産は稼げるし、城船の運航に使えれば楽になると思ったのに残念だ。きっと話は船長までいっているから、船長が決めた事だろう。
 
 「あっ……  それと……」
 
 「失礼します。待機してます」
 
 僕は早々に逃げ出す事を選んだ。 「それと」の後の言葉が何となく分かったから。でも、歩きながら考える。これで良かったのかと。
 
 僕はフリーで、たまにの合コンも飲んで終わりで後が続かない。ミリアムさんもたぶんフリーなんだろう。それならこのまま流れに身を任せてしまっても良いのではないか?
 
 城船の男女比は二対八ぐらいの割合で女性が圧倒的に多い。中には隠れて付き合っている人もいるが、基本的に恋愛は禁止になっている。ましてや上司に手を出すなんて……
 
 構わないかな?  いや、待て!  ちょっと、待て!  今まで別れた人達、特に男の方は女性クルーから酷い目にあっている。
 
 男が悪い時もあるだろうが、別れた後の女性クルーからの仕打ちは筆舌に尽くしがたい。靴に画ビョウを入れられるのなんて普通にあるくらいだし、魔物の群れに置き去りなんて話も聞いた事がある。
 
 女同士の結束は、男では考えられない事をアッサリとやってしまうのが凄い。ストーカーくらいなら我慢出来るが、上司特権で重労働をさせられるのは嫌だ。
 
 いや、それも別れたらの話で上手くいって結婚するかもしれない。そうなると城船で一緒に暮らすのか?  それもどうだろう?  僕は城船を時期が来たら降りたいと思ってる。
 
 ミリアムさんが良かったら、一緒に城船を降りる選択も有りかな。でも、それなりのキャリアを放り出して着いて来てくれるだろうか。
 
 少し話が飛躍し過ぎたかな。まず、付き合ったらどうなるだろう。ラウラ親方は恋愛禁止から怒り出すだろう。それに宿屋で一緒に暮らしている他の四人は?
 
 炎のフィリスは僕を燃やすのではないか?
 水のソフィアは僕を水死させるのか?
 土のリリヤちゃんは僕を石に変えるのか?
 不明なナターシャは蔦で絞首刑にするのか?
 
 このくらいで済むなら二人で手を取って逃げ切れるだろうか?  ……いや、待て、待て!  前にあった「タマゴ事件」の時に魔力を渡した魔導師達の事もある。
 
 あの時から僕に対する風当たりが、違う意味で強くなってるんだ。誘われるくらいは社交辞令だと思っていたけれど、たまに連れ込まれる時もある。
 
 そんな時は口八丁手八丁で切り抜けて来たけれど、特定の誰かと付き合ったら日には、全魔導師を敵に回すのか。  ……死ねるね、間違いない。
 
 とにかく僕が城船を降りるその時まで、特定の人と付き合うのは無しだ。でも当たりだけは付けておこう。いつか二人で城船を降りて新しい生活を一出来る人を。
 
 僕がそんな事を考えながらポーカーをして、ボロ負けをしていると、予定よりかなり早く救いの神が帰って来た。
 
 「整備!  お前ら魔石はちゃんと積んだんだろうな!」
 
 フィリスの声に、城船を降りた時に選ぶ人は君以外を選ぼうと思いつつ、怒られる理由が無い怒りのウィザードの前に僕は立った。
 
 「当たり前だろ!  魔石を積み込まない整備が何処にいる!  フィリスだって見てただろ!」
 
 「見たのは魔石を積んだバックパックを付けた所だ!  魔力の入った魔石を積んだんだろうな!」
 
 当たり前だ!  魔力の無い魔石を積んでどうする!?  どうする?  見て確認まではしてないや。サラとローラに任せたけど確認したよね。と、意味を込めて二人を見ると「うん、うん」と、うなずいている。
 
 「魔力の抜けた魔石は別に保管しているんだ。載せるわけが無いだろ!」
 
 その声に反比例するように、ぞくぞくと帰還するウィザード。これはフィリスのウィザードだけじゃない。他のウィザードも魔力が切れたのか?  そんな事がある訳が無い。
 
 「さっさと魔石を積め!  魔物は腐るほどいるんだ!」
 
 そんな馬鹿なと言いたいが、バックパックを開けば赤いはずの魔石がほとんど透明に近い魔力の無くなった魔石に変わっていた。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

処理中です...