キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第三十六話

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 「おめでとう、シルバー・クリスタル号の諸君。おめでとう、魔導師達。諸君の健闘を祝って、乾杯」
 
 ハミルトン公爵の祝辞で一気に飲み干すエール。思わず吐き出しそうに咳き込む僕。これはエールじゃない。もっとアルコール度数が高いウイスキーか何かだ。
 
 吐き出してしまっては勿体ないしカッコ悪い。咳き込みながらも、何とか飲み干しグラスを空ける。すかさず注ぎ込まれるブラウンゴールドの液体。
 
 すぐに飲めと言わんばかりに構える給仕。ワンコ蕎麦じゃないんだから、そんなに飲める訳がないだろうが!  他をあたってくれ、僕は一口で酔いが回りそうだよ。
 
 僕はグラスを手で覆い「もう、いらない」をアピールして給仕は去って行った。ラウラ親方を見れば酒瓶を給仕から奪っているのが見えた。僕は介抱しませんからね。
 
 「おめでとうミカエル君。ミカエル……君でいいかな。ハッハッハッハッ!」
 
 何が楽しいんだか、僕の肩凝りを治そうとしているのか、ハミルトン公爵は肩を叩いて笑っていた。この祝賀会を開いてくれたのは嬉しいが僕にも用事があるんだ。
 
 祝賀会にはシルバー・クリスタル号の船長やラウラ親方、一騎戦に参加していない魔導師も呼び、納税者の非難を浴びるほど豪華に振る舞われた。
 
 「恐縮です。ハミルトン公爵様」
 
 僕達の一騎戦の三番目の戦い。ナターシャは始めの合図から三十秒も経たずに終らせてしまった。初めは動かないナターシャのウィザードを整備不良かと思ったが、ウィザードの手首あたりから出た蔦が鞭の様に振るわれ、相手のウィザードを胴から真っぷたつにして勝負はついた。
 
 「ジェイクと呼んでくれて構わんよ。ハッハッハッハッ」
 
 三勝で僕達の勝ち。ヨーツンヘルムは挑んで来て一勝も出来ずに面子も潰れ、今頃はやけ酒でも飲んでいる事だろう。整備の連中は今頃、ウィザードを直している事だろう。
 
 「と、とんでもございません。  ……しかし、豪華なパーティーですね。これほどして頂いて感謝しかありません」
 
 一応、納税者の一人として軽くディスってみておかないと。僕の税金も入っているだろうから、少しは回収したい気持ちもある。
 
 「君達のお陰だよ。全勝で十五倍だった。僕の目に狂いはなかったね」
 
 「十五倍?」
 
 「賭けた額が大きかったから倍率は減ってしまったけどな。なかなか面白い一騎戦だった」
 
 僕達の知らない所で賭けが行われていたのか。教えてくれれば僕も賭けていたのに。儲け損なったよ。  ……も、もちろん、僕達に賭けていたけどね。
 
 「そ、それは良かったです……」
 
 「ハッハッハッハッ。もし、負けていたら「これ」だったよ」
 
 ハミルトン公爵は自分の首を切る様に指を走らせたが、その切られる首はハミルトン公爵か、それとも僕達のだったか……
 
 ユーモアと緊張感のある会話を楽しみ、ハミルトン公爵は偉い人に誘われて場を去って行った。もし、負けていたらどうなっていたのかと改めて思うと……  せめて、勝ったのだからこの食事を楽しむ事に決めた。
 
 食事は立食の形をとっているが、とても豪華で一つ一つ並べられた小さな料理が、いったい幾らだろうと貧乏性の僕は思う所だ。
 
 お酒も気になるが、横から吐く息だけで僕の方も酔いそうになる。ラウラ親方が酒瓶と使っているのか分からないグラスを持って隣にやって来た。
 
 「今回はご苦労だったな」
 
 「ラウラ親方も、ただ酒を飲めて良かったですね」
 
 「……言うようになったじゃねぇか」
 
 瓶から直接口に空け、喉を通るお酒が見える首筋はほんのりピンク色で二人きりなら襲われそうだ。出来るだけ人のいる所にいよう。
 
 「ナターシャの姿が見えませんけど、どこに行きました?」
 
 「あぁ、あいつは城船に戻ってる」
 
 こんな美味しい食べ物を前にして帰るなんてもったいない。一騎戦は圧勝だったから具合が悪い事もないし、後で少し包んで持って帰ろう。
 
 「そうなんですか。恥ずかしがり屋さんなんですかね?  公爵様が主宰のパーティーなのに出席しないのはマズくないですか?」
 
 「大丈夫だ。むしろ出席している方がヤバい……」
 
 あれれ?  おかしいぞ?  クエスチョンマークが踊り出す。出席しているのがダメだなんて会わせたくないとかか?
 
 ナターシャが出席出来ない理由なんて……  上手く会話が出来ないくらいかな?  僕とは良く話す方だと思うし、蔦を首に絡ませるくらい仲がいい。  ……そうか!?  蔦で締めるのが趣味だから出席させないんだな!

 「アホ面するなよ。  ……そのうちナターシャから話しもあるだろ」
 
 変わった性癖は簡単に他人に言えないよね。もし言えるくらい仲が良くなったら、言ってくれるのかな?  「亀甲縛りさせて下さい」とか言われたらどうしよう。
 
 「そうですか……  それなら僕も早く切り上げたいんです……  その……  用事が……」
 
 片時も忘れてなんかいない。いつも心の中に灯る癒しの光、合コン。この為に頑張って来たんだ。本当なら一人で整備をやるなんて無茶な事も、全ては合コンでの話題作り。しかも、勝ったんだ。祝賀会なら、アフターも楽しめる方がいい。
 
 「整備なら他の連中に任せて構わねぇよ。仕事熱心だな、ミカエル君は」
 
 アホか!?  整備なんて明日でいいだろ。何で終わって直ぐに整備をしなければならない。今は平和な都市イグナフス。夜はまだまだ始まったばかり、合コンの時間は急げば間に合う。
 
 「いえ、整備では無いんですけど……」
 
 「じゃあ、なんだ?」
 
 合コンです。公爵の開いたパーティーより合コンです。と、言える度胸は一片も無い。せっかくのチャンスを祝賀会なんかで潰さなければいけないのか?  僕の未来を潰す気か?
 
 「な、なんでも無いです……」
 
 「それなら楽しめ。主役がいなけりゃ、始まらないだろ」
 
 もう始まってるし、ラウラ親方はお酒で酔い潰れそうじゃないか。後で担いで帰るなんて嫌だぞ。その時は尻を揉んでやるからな!
 
 「はい……  そうします……」
 
 笑いながら去っていくラウラ親方を見送りながら、僕は帰りのドアはどこかと探した。右を見て、左を見て、僕の進むべき所へと。
 
 「ソフィアさん。僕の活躍を見てくれましたか」
 
 ここでアピールしないで、どこでする?  せっかく話す機会を僕は逃したくない。少し危ない所もあるが、シルバー・クリスタル号一の美人、ソフィアさんを目の前にして合コンへの歩みも遅くなる。
 
 「凄かったですね。あれだけの整備を出来る錬金術師はなかなか居ませんよ」
 
 さすが準二級の魔導師。見ていてくれる人はいるもんだ。合コンなんか行かないで、このまま話してアフターも一緒したい。
 
 「ありがとうございます。これもフィリスやリリヤちゃんが頑張ってくれたからです」
 
 「ナターシャなんて一撃で終らせてしまいましたね。  ……する暇もありませんでした」
 
 ん?  なに?  小声で聞こえ難かったけど、何の暇だって?  暇と言えばソフィアさんは下船許可が降りた時には何をしていたんだろう?
 
 同じ宿屋に泊まってはいたが、会ってはいないし……  まさか男が出来たのか!?  男の部屋に入り浸って口では言えない夜の営みを朝から晩までしていたのか!?

 「よう!」
 
 挨拶は大切だ。親しき仲にも礼儀有りって言うくらいだ。例え「よう!」でも親しければいいだろう。だけどなフィリス……  親しき仲にも蹴りは有りなんて聞いた事もねぇ!
 
 「痛い……  ですよ、以外と……」
 
 「看病してやろうか?」
 
 「僕が治療役なら……」
 
 「おめぇは患者だろ。あたいが手取り足取り隅々まで診てやるぜ」
 
 「誤診で訴えます!」
 
 「訴えられないように天国に連れて行ってやるのにな」
 
 火やぶりの刑で天国に行けるかは疑問だ。こいつも喋らなければ可愛いのに勿体ない。それと凶暴さと魔力が無ければもっといい。
 
 「お疲れさまでした~」
 
 一瞬だ。一瞬だけどリリヤちゃんの声を聞いて身体がビクッとする。あの一騎戦で見せたフィリスよりも怖い存在に。
 
 「お、お疲れさま。勝てたね、全勝だったよ」
 
 「そうですね~。勝てるとは思わなかったですぅ~」
 
 リリヤちゃんの相手の魔導師は生きているみたいだし、一騎戦で怪我で済んだのなら問題は無いだろう。ヨーツンヘルムの連中もこれからは僕達にちょっかいを出す事が無い事を祈りたい。
 
 長い祝賀会で合コンの時間は過ぎ、残されたのは酔い潰れたラウラ親方と僕達くらいだった。
 
 僕はラウラ親方の弟子として、錬金術師の部下として、決してやましい気持ちの欠片も持たずに、ラウラ親方をおんぶして運んだ。
 
 少しくらい手が滑る事もあるだろう。鍛えてあると言っても女性を一人担ぐんだ、少しくらい手が滑ってお尻に手を回す事もあるだろう。そんな僕を手伝ってくれたのはリリヤちゃんの石化の力。
 
 ありがたい事に両腕を肩から石化して固定してくれた。これで滑り落ちる事は無い。手の感触も無い……
 
 せめてもの救いは背中は石化されなかった事。二つの巨大な膨らみが背中で潰れるのを感じられたのが、この一騎戦で一番良かった……  のか?
 
 
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