キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第三十八話

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 「元気してるか?」
 
 「元気だったら入院して無いだろ」
 
 「違いない。全くもって違いない」
 
 ベッドの横で偉そうに腕を組み立ちそびえるジョシュアは、お見舞いの品の一つも持って来なかった。
 
 「何で僕はまだ治療させてもらえないの?  何か彼女から聞いてない?」
 
 「聞いてるよ。ミカエルは重症だから静かに逝かせてやれって……」
 
 涙が流れていない目を抑え泣き声を出せるなんて、いつから役者になったんだ。きっと治療班の彼女もこいつの演技に騙されているに違いない。
 
 「重症だけど死なないから!  肋骨が折れてるくらいで治してくれたら働ける!」
 
 「大変だったな。ヨーツンヘルムの奴らも容赦が無いねぇ」
 
 ヨーツンヘルムの錬金術師にやられたのは打ち身くらいで、たいした事はない。肋骨が折れたのはラウラ親方の蹴りが飛んで来たからだ。
 
 あの時、もう少し膝が頑張ってくれていたら、ラウラ親方に寄り掛かる事も無かったし、寄り掛かって親方の胸を鷲掴みする事も無かったんだ。
 
 「ま、まぁね……  大変だったよ」
 
 結果、ヨーツンヘルムの錬金術師にやられた怪我より重症を負ってシルバー・クリスタル号に送られて来た。
 
 結果二、治療所に運ばれてベッドに寝かされ次の日の今まで放置。綺麗な看護婦さんも来なければ飯も来ない。
 
 結果三、肋骨を折られると息をするのも大変だ。咳をしようものなら痛くて涙が出そうになる。魔法で簡単に治せるはずなのに。
 
 「魔石の搬送はどうなった?」
 
 「あの騒ぎで一旦は解散で、これからまた行ってくるよ。今度はウィザードも行くってよ」
 
 「そうなんだ……  フィリスは連れて行かない方がいいぞ」
 
 「大丈夫だ。ソフィアさんが行くって話だからな。ソフィアさんの前で良い所を見せないと」
 
 「彼女がいるのに?」
 
 「彼女は彼女。ソフィアさんはソフィアさんだ」
 
 立派な理由に男として賛同したくなるが、二兎追う者はなんとやらだ。どちらか一人にしておけ。女なんて者は近くに一人いるか、遠くに沢山いるのがいいんだぜ。
 
 「その彼女にさ、僕を治してくれる様に言ってくれないか?  重症だけど治してくれれば……」
 
 「無理だ!」
 
 「速答だな。冷たい彼女なんだね!」
 
 「逝かせてやれって言ったのは彼女じゃない。ラウラ親方だ」
 
 「……そ、そうか。彼女を大切にな……」
 
 「すまんな。彼女を危険な目にあわせられない……」
 
 ラウラ親方は僕が乳を鷲掴みにした事をそんなに怒っているのだろうか。てっきり、僕に気があると思っていたのに。
 
 「じゃあ、死んでなければまた来るよ」
 
 「お見舞いにはメロンがいい」
 
 ジョシュアは僕の言葉を最後まで聞かずに部屋を出て行った。これからヨーツンヘルムから魔石の搬送をするなんて大変だろう。僕は痛みを堪えて寝れるだろうか。
 
 「いつから、そこに居るの?」
 
 ドアから窓の下にあるカーテンの閉まったベッドに目を移すと、黒い影が不気味に浮かび上がっていた。
 
 返事は無い。内気なのか、まだバレてないと思っているのか、見ているだけなら無害だし僕は胸が痛い。
 
 「お見舞いにメロンが来たら一緒に食べようね」
 
 僕を見張っているのか、見守っているのか分からないが、メロンの言葉に少しだけ影が揺れるのが見えた。やっぱり美味しい物には連れちゃうよね。
 
 それから出港まで痛みに苦しみ、ジョシュアはメロンを持って来る事は無かった。
 
 
 
 「魔導炉起動。出港準備」
 
 五十からなる城船の短脚に魔力が流れ、城船は所定の高さまで持ち上がる。この時、だいたい二、三脚には不具合が有って固定したまま動かないのは普通だ。
 
 ミリアムさんから激が飛び、班事に動かなかった脚部に向かった。幸いにも呼び出しをもらったのは三班まで、僕達は整備室に待機ですんだ。
 
 「出港!」
 
 城船が動き始めたら僕達は各分担に別れて作業を始める。今日の七班の担当は僕が作った零主砲レールガンの点検整備だ。
 
 この整備は他の班には回らない。僕が作ったのだから自分で直せとの上司からパワハラに似た指示をもらっている。
 
 レールガンの設計図は提出しているし、見さえすれば錬金術師なら整備点検は楽勝なものだが、機密扱いらしくレールガンが置いてある部屋に入るのには僕でさえも許可がいる。
 
 もう一回は撃ってしまったんだし、しかもハミルトン公爵に知られてしまったのだから機密も何もあったもんじゃない。……撃ったのは僕だけど。
 
 「サラ、ローラ、零主砲の設計図は頭に入ってるかな?」
 
 「「すみません。まだ、半分/三分の一、しか入ってません」」
 
 珍しく意見が別れた。サラでも半分なのか。ローラは三分の一。僕は……  七割くらいかな。いいんだ!  魔力の流れは覚えているから。
 
 「それじゃ、解析からいこうか。改めて説明すると、零主砲は三ブロックに別れているから。砲身、蓄電変換器、制御装置の三つと砲弾ね」
 
 「「砲弾に雷系の魔力が封じられているのは本当ですか?」」
 
 「そうだよ」
 
 「雷系の魔力で飛ぶのに変換器が必要なんですか?」
 
 「するどい!  封じられているのは雷系だけじゃないんだよ。無属性の魔力が大半でね。雷系の魔力は変換する為の切っ掛けなんだよね。本当は雷系だけで魔力を集めたかったんだけど、それを貯めるだけの魔力がなかったんだよ」
 
 「それで班長の無属性の魔力ですか……」
 
 「うん。この威力と飛距離を出すのに魔力をかなり使ったよ。残りの弾は一発しかないから、近いうちに二、三発作らないと」
 
 「……すごいですね」
 
 あら?  もしかして僕の錬金術師としての力を認めちゃった感じかな。それとも一つの道を極めていくと、これくらい出来る様になるって言う感じなのかな。
 
 二つの道を迷っているサラとローラは、どちらの道を選択するのだろう。魔導都市で役に立つ資料は手に入れたのかな?
 
 「弾頭は僕が見ておくから、サラとローラは制御装置を……」
 
 「「弾頭も見せてもらえませんか!?」」
 
 錬金術師としてのやる気の方があるのだろうか。その方が班長としては嬉しいが、錬金術師から魔導師への道も選んで欲しい。
 
 「いいよ。弾頭の解析をやってみて」
 
 何にでも意欲があるのはいい事だ。この弾頭を解析してステップアップに繋げて欲しい。世界に一個しかないレールガンの弾頭、二人が作れる様になってたら僕の仕事が減って良い。
 
 解析はゆうに一時間を越えた。途中で設計図を取りに行く事もあったけど、滅多に解析出来ない弾頭だ。二人の錬金術師としての力を遺憾無く発揮して欲しい。
 
 解析はゆうに二時間を越えた。途中で休みも入ったが、そんなに複雑だったかな?  元の作り方を知っている僕と知らないで解析するのでは、これくらい時間に差があるのだろうか。
 
 解析は……  もうすぐ昼休みだ。途中で教えたり手伝ったりはしたけれど、このレールガンを一日で終らせなければならないノルマがあるんだけど……
 
 「お昼にしようか。続きはご飯を食べてからでね」
 
 「「……すみません。終わらなくて……」」
 
 「仕方がないよ。これは脚部と違って数がある訳じゃないしね。見馴れないのだから仕方がない」

 設計図もあるし簡単に出来ると思うのは作った僕の驕りかな?  やっぱり午後からは手取り足取り教えちゃう。
 
 ……それだと一日では終わりそうもないレールガンの整備。そうか!  時間をかけてゆっくりと教えるのもいい。手取り足取り……
 
 「「班長は、お昼ご飯はどうされますか?」」
 
 「僕は宿屋の女将さんが作ったのがあるよ。二人は?」
 
 「ローラが作ってくれたのがあります」
 
 料理はローラが担当なのかな?  いつか誰かが二人の手料理を食べる時が来るのだろう。羨ましい限りだ。
 
 「は、班長の分もあるんです……」
 
 少し照れている様にローラは言った。いつかの誰かは僕になったみたいだ。是非ともローラの手料理を食べてみたい。
 
 「本当!?  それならローラが作ったのをもらおうかな」
 
 「いいんですか……」
 
 「これは夕食にするよ。食べるなら船首に行かない?  砲身の先に見晴らしのいい所があるんだよ」
 
 僕達三人は、レールガンを整備しないと行けない城船の特等席に陣取って、ローラが作ったお弁当を開けた。
 
 見た目も美しく、色とりどりな所が手の込んでいるのだろう。卵のサンドイッチの黄色、野菜の青さ、お肉も少々、香りも……
 
 香りは……  別に腐っている匂いじゃないけど、やけに鼻につく。香りもその地方によっては香辛料とかも入れる具合が違うのかもしれない。
 
 僕は卵のサンドイッチを大口を開けてガブリと一口、咀嚼をする暇も無く飲み込み水筒の水を半分ほど飲み干した。
 
 「どうですか?」
 
 「うん。とても、おいひいよ……」
 
 殺人級の辛さに口が唇が喉が胃袋が、悲鳴を上げて押し黙った。卵のサンドイッチでこれか!?  どうやれば、この辛さになるんだ!?  レシピをバラ撒いたら大量殺人事件に発展する!
 
 「いっぱいあります。沢山、食べて下さい」
 
 水筒の水が足りない事は残りのお弁当との割合で分かってる。どうすれば食べきれるんだ?  どうすれば死なずに済む?
 
 「ありがほう。いひゃひゃくね」
 
 風前の灯が、僕には見える……
 
 
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