キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第四十五話

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 揺れる城船の中を走る。壁にぶつかり段差につまずき。誰だ!  こんな所に本を山積みにしているヤツは!?  ……後で僕にも貸してね。
 
 砲と魔岩の撃ち合い。どっちが勝ってるかなんて今の僕には分からない。分かっている事は六班も手伝いに走ってくれた。
 
 「お前、グーパンだぞ、グーパン!  ちょっと他の班への応援を進言したら往復の乱れ打ちだったぞ!  首が飛ぶかと思ったぜ」
 
 ミリアムさんに限ってそんな事は……  あるのかな?  でも良かったな、ミリアムさんで。僕は酔っ払ったラウラ親方に押し倒されて、いい雰囲気かと思ってからの連打だったからな。
 
 「イチャついて良かったな。楽しそうで」
 
 「サンドバッグを殴るのがイチャつくのか?」
 
 「女の子と肌の触れ合いだろ」
 
 「頬と拳の触れ合いだよ」
 
 「楽しめよ」
 
 「断る!」
 
 アホな話をしながらでも考えて走ってる。ラウラ親方はレールガンが撃てなくなったと言っていた。撃てなくなる理由はいくつも思い出せるが、魔岩の衝撃でネジが外れただけだろう。きっとそうだ。そうであって欲しい。
 
 僕の期待はレールガンが設置してある部屋のドアを開けて崩れた。いや、開けてすぐ閉めた。あれは……  部屋に入ったらヤバいレベルだ。
 
 もう一度、ゆっくりドアを開けて覗き込む。レールガンの部屋が所々で雷系のスパークが起こっていた。中心にあるのは蓄電変換器、ここが原因なのか。
 
 「この服、防火、防電、防水だよな?」
 
 一応、安全性には申し分ないだろうが、防水は知らない。防電もどのくらい抑えてくれるのか?  もし触れたら痛いで済むのかな?  それとも骸骨が見えるレベルか?
 
 「魔力中和器があの部屋にあるから六班で持って来て。三台あるから全部」
 
 まずは安全に作業を出来る様にしないと。無謀に飛び込んで黒コゲは嫌だからね。中和さえしちゃえば変換器に近付ける。
 
 六班の動きは早い。的確な指示に迅速な行動。整備班の鏡だね。で、何故にジョシュア君は行かないのかな?
 
 「俺……  雷系は苦手なんだよ。見えないのって苦手じゃん」
 
 お前は割れた鏡だ。他の班員を見習え!  僕はスパークしてない砲身の方を見て来るから。そう思って動き出す前に声がかかった。
 
 「無いぞ!」
 
 無い訳が無いだろ。そこは中和器や備品置き場なんだから。誰かが運んで使ったのかな?  持ち出し記録を見て探してくれ。
 
 「部屋が無い!」
 
 開けたドアを遠くから見ても、見える筈の無い日の光が部屋に届いていた。ここって二階層目ですよ。  魔岩が貫通してここまで届いていたのか!?
 
 「中和器なら最下層で使ったぜ。中央脚部に置いたままだったかな?」
 
 使ったら戻しておけ!  次の人が困るだろ。でも中和器が無ければ変換器に近付けない。
 
 「取って来てくれ。出来るだけ急いで!」
 
 「古くてデカいから全員で取りに行く事になるぞ。こっちの手伝いが出来なくなる」
 
 「大丈夫!  その間に他のを解析しておくから」
 
 使える男なんだか、使えない男なんだか分からないジョシュアに、今は使える男の方を信じよう。サラとローラには解析を手伝ってもらって、中和器が来た時には総出で蓄電器の解析だ。
 
 「任せたぞ。早く持って帰って来てくれよ」
 
 「今日は残業が無いから定時だ。帰ったら二人で……」
 
 「待ってるわ、あなた……」
 
 早よ行け、ボケ!  思わずノッてしまった僕もアホだが、これで周りもリラックスが出来ただろう。サラとローラは笑ってないけど……
 
 「六班が戻るまで砲身の解析。蓄電器には近寄るなよ。やるぞ!」
 
 今度は真面目に走る。なんでこんなに巨大な砲身にしたのか、作ったヤツを呪いたくなる大きさ。文句を言っても聞いてはくれない。とりあえず砲身の先端からだ。
 
 いまだに巨人からの魔岩が、城船に当たる衝撃を踏ん張り走る。僕の後をサラが追いローラは蓄電器にふらりと向かって行った。
 
 「班長。これって雷系の魔法なんですよね……」
 
 「そうだ!  早く来い!  砲身の解析が先だ!」
 
 この忙しいのに同じ属性で興味を持ったのか?  後で手取り足取り腰取り教えてやるから砲身の解析を手伝ってくれ。
 
 先を急ごうとする僕の歩みを着いて来ないローラが止める。おい、おい、おい、おい!  近寄るな!  雷系の魔法がオーバーロードかオーバーフローしているんだ。近付けば電気の刺激で肩凝りが治るどころか、感電して死ぬぞ!
 
 何か意を決して蓄電変換器に走るローラに、僕は止めようと走り出した。絶望的に間に合わない。それでも走る、奇跡かローラが転んで止まるのを信じて。
 
 「ローラ!」
 
 ローラを狙ったかの様に幾本もの光の矢が突き刺さる。死んだ……  そう思った。骸骨が透けて見えなかったけれど、身体を震わせ佇むローラが……
 
 「大丈夫そうです……」
 
 それは良かった……  て、なんで!?  ローラには雷系の属性はあるのだけど、適正が低くて魔導師にはなれなかったろ。今、受けている雷系の魔力はマッハで飛ぶ弾頭を動かすくらいの魔力なんだ!
 
 「そ、それは……  良かった……」
 
 「ローラ……」
 
 良くは見えない。髪の毛が天然パーマもビックリするくらい逆立ち、身体中に当たる稲妻が所々で服を焦げつかせている。
 
 「中和します。その間に……」
 
 その間に直せって言う事か!?  僕には雷系の属性なんて無いんだぞ。稲妻はローラに向かって集中しているが、雷って高い方に落ちるんじゃないのか?
 
 「サラは待ってろ!  風と雷の相性は悪くない。もしかしたら引き込むかもしれないから……」
 
 「班長はどうするんですか!?」
 
 どうするって……  班員が頑張っているのに班長が逃げましたなんて出来ないだろ。例えそこが落雷の嵐の中でも……
 
 良し行くぞ!  さあ行くぞ!  気合いを入れて行くぞ!  行きたくない!  怖い!  どうしよう……  僕は一息入れて、ローラより屈み、目を閉じて嵐の中に突っ込んだ。
 
 ……思ったより平気だ。僕に稲妻が当たったりなんてしていない。むしろ僕が嵐の中に入ったからか、ローラが浴びる稲妻の数が格段に増えた。
 
 「ローラ……  大丈夫か?」
 
 「な、なんとか……  早く直してくれると助かります……」
 
 解析!  話している余裕は無いみたいだ。僕も全力で解析だ!  魔力が集まって感電だ!  思っていた以上に痛い。バチッと音がしたと共に意識まで持って行かれそうになる。
 
 「大丈夫ですか!?」
 
 サラの愛する人を呼び寄せる声に意識を引っ張り返す。班長としては愛されているだろうから間違いは言ってない。愛されている僕としては「痛いから帰る」なんて言える訳も無い。
 
 「大丈夫だ!  下がってろ!」
 
 とにかく解析。どこかに問題があるから雷系の魔力が吹き出ているんだ。そこさえ見付ければ、スーパー錬金術師の僕が直す。今度はそろりと解析。ゆっくり雷系の魔力に逆らわない様に、こっそりと解析をした。
 
 問題は奥にあるユニット。こんなに小さくても雷系の魔力がオーバーフローしている。溢れ出た魔力なら、ここを直せばレールガンは撃てる!
 
 壊れたユニットを復元させるには手前のユニットが邪魔だ。消失させてしまったら他の所で問題が出るかもしれないし、このまま復元させるには雷系の魔力も邪魔してる。出来るだけ手を入れて壊れたユニットを直接触って直すしかない。
 
 ……怖いんですけど。電気がバチバチ言ってるし……  自分で作っておきながら言うのもなんだけど、もう少し直す事も考えて作れ!
 
 どうしようと思案していると、ローラの方から助け船が。その船は高速船。たぶん魚雷を積んでいるような危険な船だった。
 
 「班長も中和します」
 
 伸ばしてくる手を振り払おうと思うより肩を捕まれ、僕は百万ボルトで感電死するかと思った。触られた時に少しバチッと音がしたが、思ったより平気。たいした事ないじゃん。
 
 「今のうちに……」
 
 ローラの目が震えて瞳を閉じそうだ。思ったより平気じゃないじゃん。僕は急いで壊れたユニットに触れ復元で直した。
 
 直ればさっきまでの嵐は何処へやら。落雷は過ぎ去り晴れ渡る快晴の空。台風一過とはこの事を言うのだろう。ほっとしたのか、ローラが僕にもたれ掛かった。
 
 「ローラ?」
 
 おい、おい、おい!  息してるか!?  瞳を閉じたまま、ピクリとも動かないローラを床に寝かせて、服を脱がして心臓マッサージの前に、首筋に手を当て鼓動があるのを確認した。
 
 ……無事だ。息はしている様だが、念のためにマウス・ツウ・マウスの人工呼吸をした方がいいのだろうか。それとも服を脱がせての心臓マッサージか?
 
 意識を失っただけなのか?  雷系も魔法で出来た事も僕は門外漢だ。それなら治療所に運ぶのが一番の選択だろう。
 
 「サラ!  ローラを……」
 
 「班長。充電されてます……」
 
 それはそうだ。今、直したばかりなのだから……  僕達がまだ居るのに充電するのか!?  他の所を見てないのに撃ったら爆発するって!
 
 「逃げるぞ!  近くの……  あそこだ!  あの部屋に逃げ込め!」
 
 外に逃げるより近くの防爆の部屋。何かあった時の為に作っておいた、扉の厚さが十センチはある金庫みたいな備品置き場。あそこなら爆発しても耐えられる筈だ。
 
 僕はこんな時にこそ発揮する火事場のバカ力を振り絞り、ローラを抱えて走った。サラも遅れて続いた。三人が入るには充分だ。このまま戦闘が終わるまで隠れていたい。
 
 レールガンの充電が終わる音。すぐさま撃たれるレールガンの甲高い音に僕達は防爆の部屋まで半分しか進んでいなかった。
 
 ローラを抱えて転んだ。そう思った。前に倒れるかと思った僕は、変な浮遊感で逆に抱えられる様になって走る早さより速く防爆の部屋に投げ込まれた。
 
 「サラか!」
 
 部屋の中から防爆の扉を閉める様に腕を振るっているサラが見え、閉まりきる寸前に爆炎の中に消えるサラを見た。  

 
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