キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第四十六話

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 「サラ!」
 
 扉を開けようと近付く僕に爆発の衝撃波が扉を曲げ、僕を部屋の中に押し戻した。曲がった扉の隙間から炎が部屋の中まで入り込み、ローラに覆い被さって守る事しか出来なかった。
 
 炎が入って来たのは一瞬だ。でも、防爆の扉を曲げるほどの威力がレールガンが置いてある部屋で起きているなんて、サラは……
 
 「サラ……」
 
 僕は扉を開けようと必死になってもピクリともしない。それはそうだ。扉が曲がっているのだから。僕はアホだ。曲がった扉なら直せばいい。復元!  
 
 ドアノブを回しても半分しか動かない。誰だ!?  トイレに閉じ込めたのは!?  鍵を掛けやがって!  全力の消失!  十センチの防爆ドアもさらに厚い壁さえも消し去ってレールガンの部屋に出た。
 
 見えたのは砲身が根本から折れ、蓄電変換器も制御盤も吹き飛んだ部屋の中で、火の竜巻が一本、天井まで焦がす勢いで存在感をアピールしていた。
 
 サラは!?  壁にまで吹き飛んだか!?  周りを見てもいやしない。あの火炎竜の向こうか?  熱さがここまで襲ってくる。サラはどこだ!?
 
 一瞬のうちに火炎が消え失せ、そこに何もなかったの様に立ち尽くすサラの姿が……  大丈夫なのか?  近寄ったら口から火を吹くとかないよね?
 
 「サラ……」
 
 口を開く。僕は逃げたい。が、部下の心配の方が先だ。吹かれたら、吹かれたでバーベキューだ。
 
 「サラ……  大丈夫か?」
 
 「髪の毛が焦げました」
 
 「大丈夫……  なの?」
 
 「風が守ってくれたみたいです。  ……ローラは?」
 
 慌てて反転、ローラの様子を見に行けば意識は無いけれど火やぶりにもなってないし、服も脱がせていない。僕は手を出してはいない。
 
 「大丈夫だ。大丈夫だけど意識が無い。治療所に運ぶぞ」
 
 ローラを背負い、サラには散らかって歩きにくい物を片しながら進んだ。ふと、レールガンを見れば、もう二度とは撃てなくなってしまった残骸が残っていた。
 
 作っただけに寂しい気もするが、巨人に一撃を加えられたのなら本望だろう。また新しく作ってやるからな。今度はオーバーフローしないで点検がしやすいのを。今度は……
 
 砲撃が止んでる?  終わったのか?  魔岩が城船に当たる音もしない。レールガンの一撃で木っ端微塵か!?  ザマアミロ!  近代兵器にファンタジーの巨人なんてこんなもんだ。ローラの無事を確認したら魔石を回収して売りさばいてやる!
 
 「班長!  急いで!」
 
 僕はケツを蹴り上げられながら治療所まで急いだ。
 
 
 
 「負傷者で……  す……」
 
 治療所のドアの向こうは負傷者が呻き声を出していた。血を流し痛みに堪え、床に横たわって動きもしない者もいた。
 
 「負傷者だ!  診てくれ!」
 
 「順番です!  初見だけしますから待って!」
 
 分かっているがレディファーストだろ。その辺の整備士より役に立つんだ!  先に診たってバチは当たらないだろ。特にそこの男より先に診てくれよ。
 
 「ジョシュ!  死んだか!?」
 
 「生きてるよバカヤロウ。レールガンは撃てたんだな……」
 
 「ああ、ローラのおかげだ。でも、そのせいか意識が無いんだ……」
 
 「怪我はしてない様だが……」
 
 「外傷は無いみたいだけど意識が戻らないんだ」
 
 「それなら第二に行け。あっちの方が魔法の傷は専門だ」
 
  「そうなのか!?  こっちじゃダメか!?」
 
 「ダメじゃないが、お前に魔法の事が分かるか?  彼女が言ってたから間違いない」
 
 そうだ!  ジョシュアの彼女は治療所で働いている魔導師だった。それなら専門の方に連れて行った方が確実だ。
 
 「分かった!  第二は中央だったな!?」
 
 「そうだ……  急げよ……」
 
 「お前は大丈夫なのか!?」
 
 「大丈夫だ。大丈夫……」
 
 ジョシュアの心配も返す言葉もここまでだった。気が付けば床に転がり、周りでは声を掛け目を開けば走り回る人が……  何がどうした、どうなった?
 
 何か強い衝撃を受けた様な気がする。分かるのはそれくらいだが、何か爆発でもしたのか?  とにかく目は見える、無事だ。手はどうだ?  両手に力を入れて状態を持ち上げる、無事だ。膝を付き立ち上がる、足も動く大丈夫だ。
 
 目を見開き前を見る。目の前にはハリウッドスターと思わしきハンサムボーイが……  割れた鏡に写った僕が。顔も大丈夫なのようだ。
 
 「サラ!  ローラ!」
 
 まだ周りには煙が上がっていた。そこには巨大な魔石が治療所まで貫き僕達を吹き飛ばし、存在感と魔力を吐き出し転がっていた。
 
 魔石だ……  大きい。これ一個でウィザードが何台買えるのだろう。魔石の……  魔石?  魔石が飛んで来たのか?  巨人が放っているのは魔岩じゃなくて魔石だったのか!?
 
 それならリリヤちゃんの防壁が破られるのも無理は無い。他の城船だって防壁はあるだろうし、簡単に殺られる筈が無いと思っていたが、魔石を飛ばしているなんて思わなかった。
 
 魔石を飛ばすなんてお金を飛ばすのと同じだ。それが許されるのは正月三が日の明治神宮ぐらいだろ。投げないとお賽銭箱まで遠いんだよ。
 
  「班長……」
 
   声の方を振り向くとサラが額に手を当て踞っていた。魔石の事よりサラが先だ。僕は急いでサラの元に駆け寄り額に当てていた手を優しく取った。
 
 大きな傷跡から血が出てた。他に外傷は無さそうだが、頭を強打したなら動かさない方がいい。クソ巨人の野郎。女の子の顔に傷を付けるとは許さん!  責任取って、僕が嫁にもらってやるからね。
 
 「サラは動くな。ローラを探してくる」
 
 周りには居ない。さっきまで背中に居たのに、何処まで飛ばされたんだ。まさか魔石の下敷きとかになってないだろうな!?  
 
 一人の手が魔石の下から出ている。整備員の服だが、ローラの手じゃない。誰か知らないが掘り起こしてやれる余裕は無いんだ。
 
 少し気分が悪い。僕も頭を打ったのかと思ったが、気分の悪さは落ちてきた魔石の魔力に触れているからみたいだ。
 
 ふらふらと魔石に吸い寄せられる様に近付いてしまった。この魔石から出る魔力はヤバい気がする。きっと巨大過ぎて吐き出す魔力が尋常じゃないんだろう。
 
 この状態ではダメだと思う。細かく砕いて魔力を調整しないと身体が魔力酔いを起こす。流れる魔力がオーロラの様に漂い、部屋に満たされて行く。特に濃い魔力の流れの先にローラが居た。
 
 触れたらアカン!  僕はローラを抱き上げまとわり付く魔力を振り払う様に僕の魔力を吐き出した。途端に切れる魔石の魔力。俺様の魔力の前に平伏すが良い。近寄るな気持ち悪い。
 
 ローラを抱き上げているか、今度は僕の方に漂って来た。迫る魔力に対抗して魔力を出す。切れはするが、煙を払う様にまた僕に迫って来た。
 
 ストーカーかてめぇは!  気持ち悪いんだよ!  ストーカーは可愛い娘限定なんだ!  気持ち悪い魔力が寄ってくんじゃねぇ!
 
 「ミカエル、助けてくれ!」
 
 男のストーカーもお断り……  ジョシュアか!?  生きていたのは何よりだが、女の子を背中から抱き寄せ見せ付けるつもりか?  僕もローラをおんぶしてるけど、抱っこにしようかな。
 
 「どうした!?  大丈夫か!?  ここからは逃げた方がいい!」
 
 「マチルダを見てくれ!」
 
 誰さん?  そんな事より逃げようぜ。僕はローラを背負うからジョシュアは、その娘を背負えばいいんだ。エッチな所を触るなよ。
 
 「誰だ!?  その人か……」
 
 腹から大量の出血。さっきテキパキと仕事をしていた治療所の人。ジョシュアは後ろから血を止めようと押さえていたのか。でも、見ろって言われても僕に治癒の魔法は使えない。
 
 「そうだ!  意識はあるんだ!  魔力があれば自分で治せる。ミカエルの魔力を分けてくれよ」
 
 そう言う事ならお安いご用だ。自分で治せるなら早い。僕は有り余る魔力を振り絞ってマチルダに流した。が、何か引っ張られる。魔力が引かれる?  
 
 マチルダに流す魔力とは別に魔石の方にも引き寄せられる僕の魔力。ドロボウ!  勝手に取るな!  お前にくれてやる魔力はねぇ!  僕はマチルダに直接触れて魔力を流した。
 
 気を取り戻した様に身体を震わせるマチルダ。このパターンはだいたい分かってる。僕を抱き締め様とするマチルダに無理やり引っ張り場所をジョシュアと交換した。
 
 強く抱き締め愛の包容。これが昼間の公園でしていたのなら、微笑ましい光景と思うか爆発しろとでも思うか、そんな二人は愛を確かめ合っているように見えた。
 
 きっとジョシュアも満足だろう。濃厚なキスと強く抱き締められ、折れたアバラ骨が心臓に突き刺さって死んだとしても、きっとジョシュアも満足だろう。南無……
 
 「ま、待て……  マチルダ!  傷を治すのが先だ……」
 
 彼はそこまで言って、生き絶えた。彼の墓標には「愛ゆえに死んだ男」と掘ってやろう。残されたマチルダさんは僕に任せろ。幸せにしてやるからな。
 
 「マ、マチルダさん!  ジョシュアが死んじゃうから離れて!」
 
 人間の力ってこんなにも出るんだ。僕は普通の人より仕事柄、力はある方だと思っていたけど、引き離すのに全力を出したよ。
 
 「ジョシュ、死んだか?」
 
 「……ま、まだ」
 
 残念。死ぬならポーカーの負けを払ってからにしろよな。僕はマチルダさんに魔力が戻った事、自分の傷を治す事を告げて少し離れた。ジョシュアの二の舞は嫌だ。
 
 とにかく、ここを離れよう。治療所は滅茶苦茶だし、不気味な魔石も転がっている。怪我人を運び出して、その前にローラを第二治療所に運ばないと。
 
 ローラを運ぼうとすると引き戻される。また魔力が引っ張られたのかと思ったが、今度は身体事引かれた。
 
 いや、引かれてるのは城船が傾いているからだ。前方、船首の方に向かって城船が傾いた。僕は転がり後回転一回捻りで巨大な魔石に頭を強打。流れに身を任せていたローラをキャッチ。サラに至っては僕の方に飛んできた。
 
 なんだ!?  城船の脚が崩れたのか!?  それにしては勢いがあった。崩れたと言うより、何かが城船に乗ったのか!?
 
 僕はサラの胸の膨らみを惜しいと思いながら引き離し、倒れてくる薬品が入った棚を蹴り飛ばした。何で僕に集中するんだ。
 
 「ジョシュ、マチルダさん、生きてるなら逃げ出すぞ。この城船はもうダメだ」
 
 「退艦命令なんて出て無いぜ」
 
 「城船の脚が……」
 
 持たないと、言うより早く城船が傾いた。今度も船首の方だが、やや斜め左の方に。城船の船体が地面に着くのが分かる衝撃は短脚が巨大な負荷に負けた証拠だ。
 
 「ごめん……」
 
 「わざとだろ、ジョシュ!」
 
 転がる僕達に、こいつはマチルダさんを守る為だろうが、顔面を踏みつけて行きやがった。さっきのサラの柔らかい感触が痛みになって消えていった。
 
 「マチルダさん、ローラを任せられますか!?」
 
 「今なら大丈夫な様な気がする様な……」
 
 「様な」「様な」と大丈夫なのか!?  だけど、今は最優先にしなければならない事が出来た。
 
 「ジョシュ。二人を任せるから退艦してろ!」
 
 「お前はどうするんだ!?」
 
 「僕は作戦指揮所に行ってくる。退艦命令を出せって」
 
 「必要なのか?」
 
 「聞け!」
 
 口を閉じ耳をすます。いや、そんな事をしなくても聞こえて来る、城船の上甲板を土足で踏みしきる巨人の足音が。
 
 「まだ巨人は生きてる。ウィザードも大砲も無い僕達に何が出来る?  今は生きて脱出するのが先だ。任せたぞ!」
 
 僕は不安なヤツに大事な部下を任せて作戦指揮所に走った。
 
 
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