キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第四十七話

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 城船の中を走る。行ったり来たりで今日は忙しい。まるで定食屋の厨房の様に忙しい。年中無休、安心、安全な品質をお届け。違うのは安全じゃない事だ。
 
 巨人はまだ生きてる。レールガンを受けても生きてるなんて信じられない。マッハの弾頭が当たっても兵器な物って異世界に物理学は無いらしい。
 
 僕は城船でも側面に近い廊下を走ってる。巨人の足音からして中央を通って魔石の保管庫を狙ってるみたいだ。僕が目指す作戦指揮所も中央にある。ラウラ親方は逃げてればいいが。
 
 通り過ぎる整備員や保安員、砲術員や道化師、みんなが退艦しようとしている様に見えた。巨人を相手に白兵戦なんて無謀だ。逃げれるなら逃げた方がいい。僕は崩れた廊下や壁を乗り越え復元や消失させ、やっとの事で作戦指揮所にたどり着いた。
 
 「リリヤちゃん!  親方!  どこだ!?」
 
 作戦指揮所のドアは防爆ドア並みに厚いのに曲がって開かず消失させて何とか入ったが、ここにも日の光が入っていた。
 
 魔石は無かった。巨人が持ち帰ったのか拳で穴を開けたのか、作戦指揮所の片側は大きな穴が空いていた。
 
 「わたしは大丈夫ですぅ~」
 
 腕を押さえながらも気力の抜けた言い回し。大丈夫なのか分からないが本人が大丈夫と言っているなら大丈夫にしておこう。
 
 「親方!  どこだ!?」
 
 呻く各班員も心配だが、声を出してるなら後で治療所に運んでやる。親方が見付かるまで頑張ってくれ。
 
 壁の方で聞き覚えのある「あえぎ声」いや、呻き声。僕は作戦指揮所のコンソールを乗り越え、上・上・右・左、◯・×同時押しの必殺技で全てを払いのけて親方の元へ。
 
 「ラウラ!」
 
 「うるせぇ!」
 
 なんで殴るの?  心配して来たのに。必殺技も出したのに。心臓マッサージをしようとして脱がしたから?
 
 「大丈夫ですかラウラ」
 
 「親方だ!  てめぇは大丈夫なのか……」
 
 「僕は五体満足、質実剛健、いつもの通りの色男です」
 
 「バカだろお前……」
 
 「親方は大丈夫ですか?」
 
 「ああ……  いや、この有り様だ」
 
 腕が曲がってはいけない方に曲がっていた。こんな事を出来るのは雑技団にだっていないだろう。必要なのは治癒魔導師だ!
 
 「運びます。  ……その前に退艦命令を出して下さい。出せるのは船長か親方くらいですから」
 
 「退艦命令なら出したぞ……」
 
 痛みに堪えている親方も素敵だ。出来る事なら抱き締めたいが、今は抱き上げて治療所に行くのが先だ。
 
 「前の方には届いてません。後部に居た船員は逃げたんですか?」
 
 「たぶんな……  先に前がやられたらから通話が途切れたか……  てめぇの作りじゃねぇだろうな!?」
 
 「僕の担当じゃないですから!  ……巨人……  保管庫をあさってませんか?」
 
 「……そうだな。あの野郎、人が苦労して運んでいるものを!」
 
 「このまま後部から出ますかね?  それなら前方にいる整備員はダメコンに廻しますか?」
 
 「……あ……  ああ、あ……」
 
 「大丈夫ですか!?」
 
 「大丈夫だ!  通信長!  生きてるなら前方にいる整備員をダメコンにまわせ!」
 
 「あっ……  でも通信が……」
 
 「走れ!」
 
 走れメロス。船首に向かって。親方は僕が治療所に連れて行くから心配するな。僕達もここからは離れよう。火を吹いてるコンソールが怖い。
 
 「行きますよ親方……」
 
 「あぁ……  ま、待て!  まだだ!  全員の退艦を確認してからだ……」
 
 「そんな事、出来ないですよ。後は任せて僕達も船を降りましょ」
 
 「ダメだ!  それは出来ねぇ!」
 
 頑固オヤジか!?  偉いんだから、この後の事も考えてくれよ。怪我もしてるから治癒魔導師に診せないといけないし、誰かがまとめないと収拾がつかないぞ。
 
 「それなら、どうするんですか!?」
 
 「ちょっと待て!  ……動いてるな」
 
 全てを踏み倒す巨人の足音が再び始まった。あいつが通った後は大きな足跡が残っているに違いない。せめて横から飛び降りてくれればいいものを、丁寧に船尾まで通って降りて行く音がしていた。
 
 「降りたか……」
 
 「降りた様ですね。僕達も……」
 
 「砲術長!  第三砲台は動くか!?」
 
 まだ殺る気か!?  もう終わりにして怪我を治そうぜ。せっかく生き残ったのに巨人に攻撃するなんて、戻って来たらどうすんの?
 
 「ダメです。コントロール出来ません。連絡も……」
 
 「……ダメか。特砲の魔石もやられただろうし、打つ手なしか……」
 
 特砲……  特殊兵装砲。封印を解いて調整したレールガンを越える範囲攻撃兵器。  ……あっ、封印を解く途中で……
 
 「親方……  もしかしてなんですが、特砲は使えるかも……」
 
 「無理だな。巨人に魔石を持っていかれてる。今から空の魔石に魔力を入れるか?  そんなんじゃねぇだろ……」
 
 そんな簡単に魔力を注げられるなら、僕はレールガンの発射台にくくりつけられて蓄電変換器代わりになっていただろう。一発撃つ度に百万ボルト……  何回耐えられるかな。
 
 「いや……  あの……  封印を解くのが途中でして……  その……  もしかしたら撃てるかもしれない感じ……  みたいな……」
 
 「封印は解いてねぇのか!?」
 
 「整備はしたんですけどね。  ……大事な所の封印は諸事情により……  まだなんです……」
 
 胸ぐらを捕まれ引き寄せられる。僕は殴られる痛みを和らげる為に目を閉じ歯をくいしばって……  柔らかい感触が唇に。
 
 何事!?  ラウラ親方の顔が何時もより大きい。いや、大きいんじゃなくて近いんだ。  ……キ、キスされちゃってるの……  感謝のキスか拷問か。吸われる唇にから魔力どころか内蔵までまで取られそうになる。
 
 「良くやった!  無能なお前の大金星だ!  すぐに特砲を撃つぞ!」
 
 腰が砕けそうだ。力が入らないのはラウラ親方の魅力か腕力か。特砲を撃つにも手順が有り過ぎて撃てるかどうかも分からない。
 
 「お、親方、待って。特砲はすぐには撃てませんよ」
 
 「それなら準備をしろ!  ぶち込んでやる!」
 
 「親方、まずは封印を解かないと。それにはナターシャが必要ですけど、ナターシャはウィザードで待避してるでしょ。探して呼んで来ないと」
 
 「ナターシャなら格納庫に居るはずだ。あいつは行ってない……」
 
 「なんでですか?」
 
 「格納庫に居る!  探して特砲の封印を解け。それで一発……」
 
 「まだあるんです!  巨人の足音からダリダルアの街に向かってますよね……」
 
 「……そう聞こえるな」
 
 二人で耳をすませて外の音を聞いた。やっぱりダリダルアの街に向かっている。僕達の魔石だけじゃ飽き足らず街の魔石も狙っている様だ。
 
 「このまま撃っても特砲は巨人の方を向かないです。特砲は左右に十度しか向かないんで、城船の船尾を巨人に向けないと当たらないです」
 
 「向ければいいのか!?」
 
 「それだけじゃないです。特砲は近距離には撃てないんである程度、距離が無いと……」
 
 「どのくらい有ればいい?」
 
 「最低でも街から離れたくらいじゃないと……」
 
 「そんなにか」
 
 「はい。すみません……」
 
 僕達が助けてくれると思っているダリダルアの街の人達。本当の事を言えば撃てない事はない。特砲は曲射で飛ぶから巨人が街に入った頃には撃てる。
 
 おそらく爆発半径は数百メートルに及び、その衝撃波は街を瓦礫に変えるだろう。親方に撃てると言ったら撃ちかねないので秘密にした。
 
 「やりますか?」
 
 「やる!  このまま引き下がったら女が廃る」
 
 「それなら城船を動かして下さい。僕はナターシャを探して特砲に行きます」
 
 「そうだな。そこのスピーカーで船外に出たやつと船内にいるやつに戻る様に言ってくれ」
 
 退艦命令が出ている城船の後部の整備員は城船の外に居る事だろう。その人達をもう一度城船に戻して動かしてもらう。僕はマイクを取った。
 
 「あっ……  えっと……  本日はお日柄も良く……  僕は三級錬金術師の……」
 
 こう言うのは困る。全艦放送なんて慣れてないから恥ずかしくて、なんて言えばいいのか分からない。  ……お日柄もって、今日は最悪な一日だ。
 
 「お前は恥ずかしがり屋の少年か!?  ビシッと言え!  ビシッと!」
 
 ビシッとか……  ビシッと言ってやろうじゃないか!
 
 「三級錬金術師のミカエル・シンだ!  城船から降りた整備員!  まだ動ける整備員は後部第四デッキに集合しろ!  巨人に一発おみまいしてやる!」
 
 「……何をするかも言え」
 
 「あっ、  ……脚部を点検して城船の船尾を巨人に向けて下さい」
 
 「ここから動けないんだから、そのくらい言えよな!」
 
 「ビシッと言えって言ったのは親方でしょ。ちゃんとビシッと言ってやりましたよ」
 
 「あのな……」
 
 「ミカエルさん、マイクのスイッチが入ってますぅ~」
 
 最後の方は聞こえちゃったかな?  せっかくキメたのに恥ずかしい。だから放送とか嫌なんだよ。今度からメールにして欲しい。
 
 「ミカエル・シン、特砲稼働の為、退出します!」
 
 「行ってこい。ここから暖かい目で見守ってやる」
 
 僕は親方の事をリリヤちゃんに任せて特砲の元へ走って、途中で曲がった。先にナターシャを探して特砲の封印を解いてもらわないと。
 
 
  
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