キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第四十八話

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 「ナターシャ!  手伝っ……  て……」
 
 城船七隻が巨人と対決して撃滅。僕達の城船も巨人の魔石を受け壊滅状態の中で、ナターシャは格納庫の隅の方で椅子に座り静かにセーターを織っていた。
 
 それは漆黒。黒いローブより黒く、そこだけ黒が引き立つ、まるで光を吸収する暗黒物質かブラックホール。地上でブラックホールを出現させちゃダメだからね。
 
 それにこの揺れる城船の中で、いつ魔石が飛んでくるか分からない中で、平然と趣味に没頭している貴女は何者ですか。
 
 ナターシャは織っていたセーターを僕に向けた。手伝うってのは、ナターシャの手編みを手伝うのじゃなくて、僕の方の仕事を手伝って欲しいの。
 
 「ナターシャ、特砲の封印を解いて」
 
 ナターシャは無言で織っていたセーターをたたみ、出入口に進んだ。その前に、こっちで火を吹いてるから消してね。良く、この中で織物なんて出来たな。
 
 僕達は特砲まで走った。今日は走りっぱなしで、万歩計を付けたら健康歩行距離は稼いだだろう。走ったからダイエットにもなるしね。
 
 僕達は特砲まで走った。全力で走っているのにナターシャは苦もなく着いて来てる。魔導師ってのは体力もあるんだ。編みながら走るのは止めようか。
 
 特砲があるドアの封印は解いてもらってる。ドアをくぐり後は制御盤と砲身、砲弾と装填装置を解いてもらえば特殊兵装砲は撃てる。
 
 長い、長い詠唱の後でやっと制御盤。そして長い、長い詠唱の後で砲身。そして……  早く解いてくれ!  解かれた封印から解析をして特砲が作動出来る事を確認して……  早く!
 
 
 
 「親方!  整備員は総出で長脚の整備に当たってます!」
 
 「総出……  なら、なんでお前がここにいる!  ジョシュア!」
 
 「なんでって、走って来たんですよ!  あっちからの連絡はどこかの回線が切れたのか取れませんよ!」
 
 「直せ!」
 
 「どれくらい城船がデカいと思ってるんですか!?  どこが切れたかも分からないんですよ!」
 
 「探せ!」
 
 「無理ッスよぉぉ」
 
 「それもそうだな。喜べ、お前が連絡係りだ。不断の胆力を期待する」
 
 「辞退は?」
 
 「死んだら許す」
 
 「オニ!  アクマ!  ……ウソです」
 
 ラウラ親方の指示に逆らう事は死刑に値する。むしろ不通に死刑になった方が楽になれていいのだろう。
 
 「冗談はおいといて。俺は船首の方から来ましたが、船首の方の短脚は全滅したと思って下さい。巨人に乗られた時でしょうが、船体が地面に着いて短脚も刺さってます。長脚だけだと、地面から上がれる力は無いですよ」
 
 「そうか……  後部の長脚は生きてるんだな」
 
 「整備中ですが、見た目は綺麗です。問題は無いと思います」
 
 「後部の長脚、左右で十脚を急がせろ。短脚と合わせて、それで船体を持ち上げる!」
 
 「待ってください!  持ち上がったとしても、船首のダメージが大き過ぎます。途中で千切れるかも……」
 
 「……構わねぇ。船尾をダリダルアに向けなけゃ特砲は撃てねぇんだ!」
 
 「そんな……  船長の許可はあるんですか!?」
 
 「船長は待避してる。今は、あたいがこの城船の責任者だ!」
 
 「怒られますよ……」
 
 「構いやしねぇよ。巨人をこのまま行かせる訳にはいかねえだろ」
 
 「はぁ……  ジョシュア・ランバート、整備に戻ります!」
 
 「行け!」
 
 
 
 城船が上がり始めた。ラウラ親方達が上手くやってくれてるみたいだ。装填装置に問題も無く、後は砲弾の解析をすれば終わりだ。僕は巨大な砲弾に手を当てた。
 
 「……動かないで」
 
 ナターシャに動くなと言われると、金縛りにあったかの様に動けなくなる。動くなってこんな時に?  もしかして、サソリとか毒ヘビとかいるのか?
 
 ナターシャの手が僕の両肩にかかる。二匹のサソリ?  長いヘビ?  動くなと言われても何が乗っているのか気になる年頃。僕はゆっくりと右の肩を見てみた。
 
 黒い何がいる!  黒いセーターを僕の肩に宛がって肩幅を調べている!  なんてこった!  このクソ忙しい時に編み物を計るなんて!  僕はゆったり系の大き目でお願いしたい。
 
 「ナターシャ……  もういい?」
 
 「……ありがと」
 
 ほんの三十秒くらいだが、ラブラブな恋人の様な時間さえ惜しい!  城船が旋回を始めてる。船首の方では聞いた事もない音と振動がしていた。
 
 「砲弾、問題無し!  いつでも撃てるぞ」
 
 特殊兵装砲は大袈裟な名前が付いてはいるが、ただの大きな迫撃砲だ。砲身の中部から弾頭を落とし蓋が閉まる。砲弾が着床した所で擊針が雷菅を弾いて爆発。その力で砲弾が飛んで行く。
 
 城船には煙突のダミーの形で迫撃砲とは思わないだろうが、砲弾が普通の物じゃない。砲弾に仕込んだ燃料気化爆弾。核兵器に次ぐ威力を誇る自慢の逸品だ。是非、巨人には身を持って味わって欲しい。

 「制御から測量してくる」
 
 僕は砲弾のある所から制御盤のある所まで駆け落り、巨人が何処にいるのか探した。
 
 巨人はダリダルアの街を離れていた。街からは煙が上がり、どれだけの被害が出たか計り知れようが無い。せめて仇は取ってやるからな!
 
 特砲を巨人に向けても城船の角度がもう少し向かなければ当てられない。それに動いていてはダメだ。制止した状態で始めて撃てる特砲を動いている時に撃てば何処に飛んで行くかわからない。僕は待った。特砲の照準に巨人が入ってから城船が制止するまで。
 
 巨人と城船が一直線に並び、巨人が進路を変えなければ射撃範囲内に収まるのを見て僕は耳を塞ぐ為に両手を耳に当てる。
 
 城船が止まった。よし、行け!  撃て! 撃て!  ……勿体ぶらずに撃てよ親方!  一向に撃つ気配が無く、親方に連絡を取っても繋がらず。  ……こっちで撃ってもいいのかな?
 
 今、撃てば街への被害は無い。チャンスなのに撃たない。もしかして作戦指揮所の射撃管制が動いてないのか?  指揮所の被害は大きい。本当に撃てないのなら、こっちで撃つ!  改めて巨人を照準に入れ、僕は特殊兵装砲の発射ボタンを押した。
 
 燃料気化爆弾の弾頭が迫撃砲の筒の中を落ち……  落ちない?  いや、上の方で変な音がしている。動いているのに動いていない。解析なら装填装置もやったのに……
 
 「撃て!  ミカエル!  撃て!」
 
 考えている時に後ろから大声を出すなジョシュア!  ビックリして身体を振るわせちゃったよ。漏らすかと思った……
 
 「撃ったよ!  ボタンは押した!  上の方でトラブルだ。見て来るから発射のボタンは任す!」
 
 「えっ!?  俺が撃ってもいいの?」
 
 僕は返事もしないで装填装置まで駆け上がった。制御装置に異常は無い。測量も問題は無い。装填装置も解析した時は異常は無かった。何が問題だ?  もう一度、解析する時間はあるのか?
 
 僕は装填装置の所に行くとナターシャは編み物の続きをしていた。見た所でナターシャには分からないだろうが、戦闘中に編み物は止めた方がいい。
 
 「……変な音がする」
 
 それを見に来たんだ。解析では問題が無いのに異音がするなんて、どういう事だ?  装填装置には問題は無いと思ったのに……  僕はナターシャの指差す、異音の方へ向かった。
 
 ……何かある。ギアを止める様に棒の様な物が絡まっている。こいつが原因で装填装置が動かないのか!?  こんなちっぽけな物でも大事な所で邪魔をされたら撃てなくなってしまう。
 
 僕はその棒に何度も蹴りを入れて外すと装填装置が動き出した。こんな所に棒が落ちてるなんて……  それは鋼鉄製のスパナ。いったい誰のスパナだ!?  
 
 整備員の所有するスパナには名前が刻んであって、何かあった時の責任の所在を明らかにする。僕達の武器である道具を大切に扱わないなんて、錬金術師の風上にも置けん!
 
 ……あの野郎!  こんな誰も入らない所で何をしてやがった!?  テロか!?  テロリンか!?  それとも彼女とラブラブしていたのか!?  前者なら黙っていてやるが、後者なら許せん!  
 
 だが、これで問題は無い。特殊砲弾は動き出し、砲身の中を滑り落ちて行く。これで擊鉄が弾かれ爆発の勢いで飛んで行く。砲口から爆炎と共に……
 
 くたばれ!  巨人!  城船のみんなやダリダルアの街の仇を撃つ!  木っ端微塵にならなくてもいいぞ。後で魔石を回収出来るくらい粉々になれ!
 
 ……あれれ?  おかしいぞ?  何で砲口の内側が見えているんだ。砲弾が落ちたら蓋が閉まるのに。閉まらないと、爆炎が装填装置を舐める。ここにいる、僕達も……
 
 「……合わせる」
 「伏せろ!」
 
 ナターシャに覆い被さると同時に擊鉄を弾く爆発音が。飛び出す特殊弾頭を追うように砲口内が炎に包まれ、装填装置の部屋に吹き出された。
 
 死んだ……  いくらナターシャに覆い被さっても、部屋を吹き巻く炎は防ぎきれない。背中の熱さが……  熱さが……  ほどよい? 
 
 そんなバカなと背中越しに目を向けると蔦が勢い良く燃えては新しい蔦が生えて、僕達二人を守った。ナターシャの能力なんだろうけど凄すぎる。
 
 炎は過ぎ去り、部屋の中は焼かれ焦げた蔦と植物の焼ける匂いが充満した。僕もナターシャも無事だ。燃料気化砲弾も巨人に向けて飛んで行った。後は巨人がどうなったかを見たい!
 
 僕の自慢の逸品だ。絶対に倒している筈だ。これだけやって無事だったら……  そうだったら寝込んでベッドで丸まっていたい。
 
 「……このまま」
 
 押し倒した訳じゃない。守る為に覆い被さったんだ。かと、言って「このまま」って言ってる女の子を振りほどいて弾着の確認に行くのも不粋だろう。
 
 僕の自慢の逸品は異世界に夕陽を二つ作りだし、インスタ映えしたそうだ。
 
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