キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第五十話

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 古代兵器、ミスティアの巨人。ロマンに溢れ魔力も溢れ下半身しか無かった巨人は形を変えて歩きだした。王都に向かって。その指命を果たすべく……
 
 僕がそれを知ったのはミスティアの本を借りて次の日だった。城船は整備が終わり次第、領地に戻るべく整備士達が汗水垂らして働いている中で、僕は本に没頭していた。
 
 どっちにしても今は巨人は倒せない。倒せるチャンスがあるとしたら、それは王都の直前になるだろう。倒せるかどうかも賭けに似た所があるけれど。
 
 僕は……  僕だからこそ巨人を倒せると思っている。何か運命みたいなものを感じる様にもなっていた。必然だったのか?  どのみち、このままではダメだ。運命を飛び越えるだけの力がいる。
 
 必要な所を読んだ本を部屋に置き、僕は誰も入って来ないレールガンが置いてある部屋に作業用ウィザードを運びこんだ。こいつで飛び越える。
 
 巨人が王都に行くまで時間はある。その間に受ける被害は大きいだろう。助けたい気持ちはあるが、今は無理なんだ。
 
 「なにやってんだ?  こんな所に引き込もって」
 
 ジョシュアが後ろから声を掛けて来た。僕は無視をしてウィザードの改良をしていた。人と話すのは何日ぶりだろう。「お弁当を温めますか?」「はい、お願いします」は会話に入るのだろうか。
 
 「ウィザードを持ち出して、城船の脚の整備もほったらかして、班長ともなると好き勝手にやれていい身分だな!」
 
 副班長の君とは違うのだよ。班長になると色んな事を考え、色んな責任を負うんだよ。好き勝手に下から突き上げられ、上からは抑え込まれ中間管理職は辛いね。
 
 「てめぇの仕事の分はサラちゃんとローラちゃんが引き受けてるんだぞ。班長なら自分の仕事くらいこなせよ」
 
 サラとローラにも会ってはいない。僕がいなくても二人なら充分に働けるだろう。ローラの容態は気になるが、連絡が無いのは元気な証拠だ
 
 「いい加減、こっちを向け!」
 
 ジョシュアは乱暴に僕の肩を掴んで振り向かせた。変顔でも振り向いてやろうかとも思ったけれど、僕にそこまでの余裕は無かった。
 
 「よお……  ジョシュ……」
 
 「ひどい顔をしてるぞ……」
 
 「寝てない、食ってない、彼女もいない……」
 
 「ほら、食え。マチルダの手料理だ」
 
 「いいのか?」
 
 「その為に作ってもらったんだ。遠慮するな」
 
 「いい人だ。惚れち……」
 
 「惚れちまったら、合コンの世話は無しな!」
 
 「ジョシュア君ていい彼女を持って幸せ者!  よっ!  日本一!」
 
 「ニホンてなんだよ。それよりも、作業用ウィザード持ち出して何をやってんだ?  この背中のは……  魔導炉が二つ?  何をしようってんだ?」
 
 「ヒ・ミ・ツ」
 
 こんな人寂しい所にやって来てくれたジョシュアに、感謝の気持ちを込めて出来るだけ可愛く言ってみた。
 
 「待て!  死ぬ、首!  決まってるから!」
 
 スリーパーホールドが綺麗に決まり、死にかけてみた。可愛い冗談の分からない野郎だ。少しくらいふざけた方がいい時もあるんだよ。
 
 「で、こんな所にウィザード持ち込んで何してる?」
 
 「マチルダさんの手作り弁当を食べさせてくれたら話す……」

 「惚れるなよ。  ……ほら、食え!」
 
 スリーパーから解放されて、久しぶりの食料にありつきお腹が満たされるまで食べた。ジョシュアもそれを知ってか、食べ終わるまで黙っていた。
 
 「さあ、話せ!  すぐ、話せ!  さっさと、話せ!」
 
 食後のコーヒーを飲み終わるまでは待てなかった様だが仕方がない。僕はあの巨人がミスティアの巨人である事、あれを作った本が有り、倒す為の方法を思い付いた事を冗談混じりで話した。
 
 「それで魔導炉が二つか……  届くのか?  ウィザードの魔石からは魔力が抜かれるんだぜ」
 
 「その為の魔導炉だよ。最初に魔力を入れておけば盗られる事もない、と思う」
 
 「お前のやる事に推測が多くないか?」
 
 「仕方がないよ。あの本を全て分かった訳じゃないし、分かった時には出遅れだよ」
 
 「……無茶するぜ。そんなヤツだとは思ってもみなかったけどな」
 
 「たまには、な……」
 
 「それで!  全部話したって事は俺にも手伝ってもらいたいんだろ。  ……まさか聞いた証人は消せとか言わないだろうな?  やめてくれ!  俺には彼女がいるんだ!  嫌だ、死にたくない!  まだ死にたくないんだ!」
 
 大袈裟なくらいに縮こまり、涙を流して嘆願するジョシュアに止めの蹴りを入れたくなるのをグッと我慢した。
 
 「一人芝居は面白いか?」
 
 「これでも役者を目指した事もあるんだ」
 
 「初耳だよ」
 
 「お前がこれからしようとする事も初耳だ。本当にやるのか?  死ぬ確率の方が高くてしょうがねぇ」
 
 「彼女も作らず死ぬ気は無いよ。僕になら出来ると思ったからやるだけだよ」
 
 「何か手伝える事はあるか?」
 
 「ある!  ご飯が食べたい、お風呂に入りたい、ベッドで寝たい」
 
 「飯以外は我慢しろ。他には?」
 
 「三日後、キャリアに魔石を満載して用意して欲しい」
 
 「あぁ!?  魔石は無理だぜ。巨人に全部取られたからな。空になった魔石に魔力を注いで使ってるくらいなんだ。回せる魔石は無いぜ」
 
 「そこを何とか、ジョシュアちゃん。手伝うって言ったでしょ」
 
 「飯ぐらいかと思っていたぜ……  今は……  厳しいな……」
 
 「三日後だから。今から少しずつ集めておいてよ。キャリアもね」
 
 「お前なぁ……  それと、分かっていると思うが、今はまだ戦闘配備中だぞ。三日後は分からないが、出て行ったら「敵前逃亡」になるからな」
 
 「巨人に向かって行くのに逃亡なの?  むしろ敵中突破じゃない」
 
 「それが通用すると思うか?  反逆罪で死刑だな。死刑台には花を添えてやるよ」
 
 「うん。その時は一緒だね。共犯者君」
 
 「主犯はお前だからな!  面倒な事になっちまったなぁ。  ……まぁ、あまり期待はするなよ」
 
 ジョシュアはそれを言って仕事に戻って行った。お陰でウィザードの運搬の悩みは解決しそうだ。通常の魔導炉だけでは巨人に追い付く事は無理だろう。目的地は王都の手前。ここからでは距離が有り過ぎる。
 
 王都に着く前に何とかしないと。その為にも背中に積んだ魔導炉が上手くいくかが決め手だ。僕は勝つ為に、勝って無事に帰る為に、勝って無事に帰って彼女を作る為に整備に戻った。
 
 
 
 「……て、事を話してましたよ、ミカエルのやつ」
 
 「ご苦労だったな。悪いな、スパイみたいな事をさせちまって……」
 
 「気にしないでください親方。あいつは、たまに無理をしますからね」
 
 「三日後に行くのか……」
 
 「はい、キャリアと魔石を頼まれました。どうしましょう?」
 
 「無断での使用は厳罰に当たります。ましてや巨人を追うなんて「敵前逃亡」とみなされます」
 
 「ミリアムお前……」
 
 「出撃など許可出来る訳がありません。ミカエルは錬金術師ですよ。戦うのは魔導師の仕事です!」
 
 「話を聞いてたろ。ミカエルじゃなきゃ誰も出来ない事だ」
 
 「それならやらなくて構いません。ラウラこそ、何でミカエルを行かせようと思ってるの!?」
 
 「ヤツなら出来るからだ」
 
 「出来っこない!  話を聞いてなかったの!?  無謀なんてものじゃないわ!」
 
 「ジョシュア、ミカエルは他に何か言ってなかったか?」
 
 「出来るからやると……  あと、彼女を作るまでは死なないと言ってました」
 
 「終わったら彼女どころか、嫁をくれてやるよ。
 ……で、お前はどうするんだ?  魔石とキャリアを用意するのか?」
 
 「友達ですから……」
 
 「用意すれば敵前逃亡ほうじょ罪ですからね!」
 
 「……犯罪は良くないですよね」
 
 「用意しなけりゃ人でなしだな」
 
 「友の為には命も賭ける。そう有りたいですね」
 
 「反逆罪!」
 
 「ろくでなし」
 
 「……どっちッスか!?」
 
 「考えな。自分で決めれるなんて幸せだろ」
 
 
 
 ジョシュアの食料配給のお陰で僕は命を長らえた。風呂には入って無いが時間が惜しい。少しでもウィザードの改良に時間を使いたいのに、マチルダさんに何をどう伝えたのか熱々のスープとか熱々の「おでん」みたいのとか持って来てくれた。僕は猫舌だ……
 
 改良を始めて二日目の夕方には一応の満足な形まで仕上がった。明日の朝には出撃だ。錬金術師の僕が出撃と言うのも変な話だ。本当なら魔導師が戦うのに。
 
 覚悟はある。戦争を止める為には巨人を倒さなければならない。
 覚悟はある。やる事は無茶を通り越して無謀だろう。でも、僕にしか出来ない。
 覚悟はある。無事に帰れるかな?  失敗したら逃げ出そう。
 覚悟はある。失敗して帰ったら敵前逃亡罪になるのかな?  きっと怒られるんだろうな。
 覚悟は……  彼女が欲しかったなぁ。夢もあったんだ。一級錬金術師の資格を取って「街の錬金術師屋さん」になりたい。
 
 可愛い女の子と結婚して、子供は三人。城壁内の戸建てに住んで、普通に生きて誰にも迷惑をかけず、ひっそりと家族に看取られ死んでいく。最後に「我が人生に一片の悔い無し」と片手を天に向けて言ってみたい。
 
 部屋に戻ろう。今日は風呂にゆっくり入ってベッドで寝よう。明日からの事を考えると……
 
 僕は道具を片して立ち上がった。そして倒れた。過労から来る目眩……  いや、強烈な蹴りで転げ倒れた。
 
 「何か面白い事をするんだってな!」
 
 三人の悪魔が不適な笑みを浮かべていた。
 
 
 
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