キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第五十一話

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 「何か面白い事をするんだってな!」
 
 「……暖かいご飯を食べて、ふかふかのベッドに入って寝る事かな?  それとも蹴られた痛みに耐える事か!?」
 
 「違いますよ。フィリスは乱暴なんだから……  巨人を相手に戦うって」
 
 ジョシュアの野郎、敵前逃亡になるとか言ってたくせに喋りやがったな!  口止めはしていた筈なのに、これじゃキャリアも魔石も無理か。口の軽いヤツめ!
 
 「少し石化したらグダグダと話しましたぁ~」
 
 えっ!?  石化?  ジョシュア、無事か!?
 
 「それでも話が進まなかったので水に浸けたらスラスラ話しましたよ」
 
 えっ!?  水死?  ジョシュア、あいつは泳げたのかな?
 
 「決め手はあたいだな。燃やしたらペラペラ喋ったぜ」
 
 えっ!?  焼死?  彼女の事は心配するな。僕が後の事は面倒をみるから。
 
 「ジョ、ジョシュアは生きてますか……」
 
   「治療所に放り込んだから大丈夫だろ。今頃、彼女と仲良くしてるよ。さあ、話せ!  肝心な所を聞いてねぇ!」
 
 フィリスの上げた手の平からメラメラと燃え上がる炎に一時の温もりと恐怖を感じた。怪我をしてしまうのは不味い。
 
 ジョシュアよ……  お前も同じ恐怖を味わったんだな。しかも三人分……  口が軽いなんて思ってゴメンね。
 
 「肝心な所って……  話はどこまで知ってるの?」
 
 「ミカエルがやろうとしている事は全部聞きましたよ。聞けなかったのは詳しい作戦についてよ」
 
 そうか。そこまでは黙っててくれたんだな。死ぬくらいなら話しても構わなかったのに……  君の犠牲は忘れない。僕は犠牲になりたくないから話すね。
 
 「えっと、ですね……  この作業用ウィザードの背中に二機の魔導炉を積んでます。巨人が近付いた所で魔導炉に点火、巨人の背中の凹凸に乗り込もうかも……」
 
 「それでどうするんですかぁ~」
 
 「巨人に乗り込んで首元に僕の魔力の全てを叩き込みます」
 
 「そうなるとどうなる?」
 
 「推測になるんですけど、巨人は魔力の飽和状態になって活動を停止、もしくは崩壊するかと……」
 
 「なんでそうなる?」
 
 ジョシュアから話を聞いてないのかよ!  一番大事な所を話したんだぞ。ジョシュアも大事な所は話さなかったのか?  無理しなくても良かったのに。
 
 僕はジョシュアから聞いたであろう事をもう一度詳しく話した。だって土葬も火葬も水葬も嫌なんだもん。死ぬ時はベッドで穏やかに眠るよう死にたい。
 
 「最初から話しますね。僕はこの「ミスティアの巨人」の本を読んで巨人がどういうものか知りました……」
 
 巨人は魔石を運ぶ道具だった事。それをミスティアが兵器に変えた事。そして巨人を倒す唯一の方法にたどり着いた事を。
 
 「巨人は魔石を集めて魔力を蓄えます。それを王都で爆発する形で魔力を放出します。なので、巨人の魔力を人為的に与えれば、爆発が早まるか、崩壊するかと思ってるんです」
 
 「それで巨人に乗り込む為にウィザードの改造をしてるのか」
 
 「当たりです。通常の魔導炉の他に二機も積んでますからね。巨人に飛び乗るには充分だと思ってますよ」
 
 「なるほどな……  だが、問題もあるぜ。巨人は魔石を放出してくるぜ。どうやって避けるんだ?」
 
 「足元に来るまで静かに待つつもりですよ」
 
 「無理だな。魔導師を相手に魔石を投げ付けてきたんだ。理屈は分からねぇが、そこまで大人しく巨人が待ってくれるとは思えねぇ」
 
 そうだった!  魔石にだけ反応すると思い込んでいたけど、追撃した魔導師がやられたんだっけ。魔力に反応するとしたらヤバいかな。
 
 「根性で避けます。魔石くらい……」
 
 「根性よりかお前の腕前はどうなんだ?  はっきりした所を言ってみろ」
 
 「普通の作業なら「上」ですかね。高速移動とかは作業用とかはした事がないので……」
 
 「「下」だな。むしろその辺りの木にぶち当たるんじゃないか」
 
 「そ、そうかも……」
 
 正直、自信は無い。無いから隙を付く作戦で巨人に乗り込もうと思っていたのに、やられた魔導師の事も考えると、どうなるかは……
 
 「よし!  この作業用ウィザードは複座だな。あたいがお前を巨人まで運んでやるぜ」
 
 「えっ!?」
 
 女の子とタンデム!?  バイクの後ろに乗る様に腰に手を回したり抱き付いたり、「今日は帰りたくないの」とか言うタンデムか!?  かなり魅力。
 
 「乗れますけど……  乗るんですか!?  イチャイチャするスペースは無いですよ!」
 
 「誰がするか、バカタレ!  お前を巨人まで届ければいいんだろ。面白そうじゃないか!」
 
 「でも……」
 
 「でも、それだけではダメですね。巨人は魔石を放るんですよ。フィリスは避けるつもり?」
 
 「そんなもんは根性で……」
 
 「ミカエルと同じ事を言うバカタレちゃんですか?  飛び立てる所まで私が二人を守りますよ」
 
 「えっ!?  ソフィアさん、それは……」
 
 危険だ。魔石の嵐の中でスピードで避けるなら分かるが、受け止めるなんて事が水系のソフィアさんに出来るのか?  
 
 「私も守りますぅ~。守りは専門ですからぁ~」
 
 魔法の防御ではリリヤちゃんが一番だろうが、その力の入らない物言いで大丈夫なのか?  逆に守りたくなっちゃう。
 
 「三人の申し出は大変有りがたいのですが僕は……」
 
 「巨人を追いかけるなら長丁場になるな」
 「お風呂なら私に任せてくださいね」
 「お弁当はどうしますかぁ~」
 
 話を聞け!  これは僕の仕事なんだ!  これは僕にしか出来ない仕事なんだよ。三人を危険な目にあわせる事なんて出来ないよ。
 
 「三人とも……」
 
 「着替えはどれくらいいるんだ?」
 「お部屋の観葉植物の世話を誰に頼もうかしら」
 「ウィザードは勝手に持ち出しちゃうんですかぁ~」
 
 僕の言葉を無視して勝手に盛り上がる遠足前の子供の様にはしゃいでいた。この作戦が上手くいくかどうかも分からないのに楽しそうだね。僕は少し憂鬱になってきたよ。

 「最後の質問だミカエル!  ヤツに魔力を注ぐとして、注ぎきれるのか?  お前の魔力も凄いが巨人は魔石を運ぶ為にいたんだろ」
 
 「それについては……」
 
 この質問が一番嫌だった。自信が有るとか無いとかの話じゃなくて、巨人に魔力を多く持っていてくれないとダメだからだ。
 
 「今回の城船の攻撃で巨人は半分くらいの体積になったと思ってます。失った魔力をダリダルアの街で補充し歩き出しました。それでも巨人は魔力を求めて魔石を奪うでしょう。他の魔石のある所を襲って……」
 
 「襲って……」
 
 「巨人の魔力が満たされて始めて僕の作戦が上手くいくかもしれません。満タンに入った魔力に僕の魔力を注ぐ。巨人がどこまでの容量があるかは分かりません。出来るだけ多くの魔力を蓄えてから僕の魔力を注げば……  あるいは……  なんとか……」
 
 「巨人の魔力を満たす為に他の街を襲わせるんですかぁ~」
 
 「……そうなります……  ね」
 
 「見捨てるんですか?」
 
 「……そうなります…… ね」
 
 「そうなりますじゃねぇだろ!  そんな事、聞いてねぇぞ!」
 
 これはジョシュアにも言ってない。言っては無いが、薄々は気付いてくれてただろう。巨人の魔力と僕の魔力。見ただけで敵わないのは分かる。
 
 「……すみません。他の方法が思い付かないんです……」
 
 他に思い付かなかったのか。本当は自分の魔力を試してみたい気持ちはなかったのか。異世界に来て、英雄気取りで戦ってみたいだけじゃないのか……
 
 「何か無いのかよ!」
 
 全て思う。こっちの世界にチートの「魔力増し増し」をもらっても使いきった事はない。いつも身体の方が疲れてしまうから。それを越えた相手が見付かった。全力で当たれる相手が。
 
 「………すいません」
 
 それでも今やり合えば、僕の方が負けるのは分かってる。挑戦者でいる筈なのに勝てると見込めないと戦えない臆病者だ。
 
 「どのくらい巨人は魔力を必要とするんですかぁ~」
 
 死にたくないんだよ。まだ夢があるんだ。一級錬金術師になるっていう、この世界で見た夢が諦め切れない。
 
 「……はっきりとした事は分かりません」
 
 僕が戦わなくたって……  誰も僕なら倒せるなんて知らない。このまま黙って城船を直して領地に戻っても誰からも責められる事は無い。
 
 「巨人は王都に向かうって言ってましたよね。
 
 それなら、なぜ戦うんだ?  改めて自分に問い掛ける。戦った所で勝てるかどうかなんて推測だ。それに勝つ為にどれくらいの犠牲を強いる事になる?
 
 「それは間違いないと思います」
 
 逃げたっていいんだ。逃げれば無慈悲に巨人の犠牲になる人は増え、最後には戦争が始まる。勝ったとしても戦争になるかもしれない。
 
 ……
 
 ……
 
 殺る理由……  運命だろうか。チートをもらって、この世界で英雄になる訳でも無く、普通の錬金術師で終わろうとする事への……
 
 「巨人の魔力がいっぱいになったら、他の街を襲わないかもしれませんね」
 
 「かも、しれません……」

 「あぁぁぁぁ!  めんどくせぇ!  殺り方はお前に任す!  殺るからには絶対仕留めろよな!」
 
 言いたい事と助力を約束して三人は帰って行った。ソフィアさんとリリヤちゃんには先に自分のウィザードを持ち出して合流して、フィリスは一緒にキャリアに乗ってもらう。僕は最後に聞いてみた。「敵前逃亡に問われますよ」と。
 
 「知らねぇ!」
 「構いません」
 「誘拐されたって言いますぅ~」
 
 「それ、いいな!」
 
 三人の気持ちが変わらない様で良かった。これで上手くいけば英雄だし、失敗すれば犯罪者だろう。プレッシャーを感じる。本当に上手くいくのだろうか。
 
 僕は違う所から感じるプレッシャーに声を掛けた。三人が来る前から分かっていた黒いプレッシャー。隠れていたんだろうけど僕の鋭敏な感覚は騙されない。
 
 「話があるんだろ。いつからいた?」
 
 「……ミカエルがここに来てから、ずっと……」
 
 僕の鋭敏な感覚は期待出来ないみたいだ。
 
 
 
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