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第五十三話
しおりを挟むダリダルアの街の近くでソフィアさんとリリヤちゃんの二人と合流し、ウィザードを乗せて僕達は巨人の後を追った。
三台のウィザードと予備の魔石でキャリアは満載だが、座るスペースには余裕がある。余裕があるのに、何故前に二人が乗るんだ?
「リリヤ、代われ!」
「嫌ですぅ~。ミカエルさんの隣がいいですぅ~」
大型トラック並みに横幅のあるキャリアの前席は、ゆったりな幅とリクライニング出来る椅子で貴方は王族気分を味わえますが「売り」なのに、窮屈なぼとピタリと側にリリヤちゃんは寄って来た。
「それに、言うならソフィアさんに言って下さい~。さっきから抱き付いてますぅ~」
後席に座ったソフィアさんは、後ろから抱き付く様に腕を廻して来て、顔を僕の横に頬を付けて来ていた。残念なのが、シートが邪魔してソフィアさんの温もりを感じられない事だ。
「後ろの特権…… うふっ」
「お前もシートに背を付けて座ってろ! 第一、なんでお前らそうなる!? あたいが一番にミカエルを見つけたんだぞ!」
「一番ならこのまま横に座ってますぅ~。ソフィアさんはせめて顔を向こうで着けてください~」
「ドアがあって入れないんだもの。どっちでも同じでしょ」
「お前らなぁ……」
何故だろう。この状況を「酒池肉林」とか「ハーレム万歳」と思うより「一触即発」とか「ニトロの上に三年」とかの言葉が頭を駆け巡る。
僕が話に割り込んで魔導師を怒らせてもロクな事は無い。無いけれど、この状況はとても幸せだ。もう少しこのままも良いけれど、僕達には重要な仕事が待っている。
「そろそろ…… そろそろ、離れましょうか。運転がしにくいんです」
「ミカエルもこう言ってるだろ! 離れろ!」
フィリスさん無理矢理は良く無いです。狭いキャリアで仲良く旅をしようではありませんか。ソフィアさん魔法はダメです。狭いキャリアで水死は嫌です。リリヤ! ハンドルごと石化させるんじゃねえ!
僕達の短くとも濃密な旅は始まったばかり。ダリダルアの街から一キロと離れてないのに、この調子で巨人に追い付けるのか?
「……で、これからの予定はどうなってる?」
僕達は走り続け、丁度良い場所を選んでキャンプになった。火を起こし、食事を並べて仲良く…… 火系なんだから火を点けろよ。水系なんだから水を用意してくれ。土系は釜戸を作って。 全部、僕が用意した。
「これからの予定ですが、王都まで四つの大きな街があります。巨人の移動速度とキャリアの速さを考えると三つ目の街で追い付くかどうかですね」
「それで巨人を倒すんですかぁ~」
「いえ、観察をします。巨人がどれくらい魔力を貯めたのか知りたいし、巨人の戦力はどうかとか……」
「巨人が魔力を貯めたのか分かるのか?」
「だいたいですけどね。僕達と一戦交えた時で半分くらいだと思ってます。壊してしまったので三分の一くらいにはなったと思ってます」
「四つの街で魔力を貯めるまでは手が出せないと……」
「そうなりますね。ただ、いけると思えば追い付いた所で仕掛けたいですけど…… 四つ目の街、ザースローの魔力を奪えば確実性が上がるかと……」
「えっ!?」
「ザースローってあれだろ。ウィザードの生産拠点がある所だろ。確かに魔石は魔導都市並みかそれ以上あるだろうけど、作れなくなるぞ、ウィザードが」
「そうなんです。例え王都を守ってもウィザードが作れなくなれば、戦争になった時、補給や新規品が枯渇します。錬金術師の復元だけでは間に合いませんから……」
「ザースローは諦めるのか?」
「出来ればザースローの街も守りたいんですけど…… 他の三つの街でどれくらい魔力を貯め込むか見てからじゃないと……」
「貯めて無いと、ザースローの街は守れないんですかぁ~」
「今のところはなんとも……」
「そうなんですかぁ~」
守れるものなら全ての街を守りたい。全ての人を守りたい。僕にはその力は無いんだ。安全な所で眺めている僕をみんなは非難するだろうか。女の子限定で助けたとしても非難する…… ね。
「仕方がないですよ。ミカエルの魔力はどのくらいあるのか自分でも分からないんでしょ」
軽くディスられてる気もするが、僕自身どのくらいの魔力があるかなんて調べた事がない。いつも錬金術師として魔力を使うが、それ以外にも気を使ったりで疲れるんだよ。
上司は乱暴だし、部下は使えるが半人前だし。接待ゴルフは最初の方は勝っているが、終盤でコースから外すように打たないといけないし、社長がコースを外して打ったら先に行ってボールをコースに入れておかないといけないし、疲れるんだよ。中間管理職は!
「はっきりとは…… 調べた事がないので……」
「無駄死にするかも、か……」
「そうですね……」
作戦自体、未知数な所が多い。本当に巨人に魔力を注入して崩壊するのだろうか。崩壊どころか爆発したら僕とフィリスは手を取り合って、あの世行きだ。きっと、あの世で責められるのだろう。
「ところでよ。あたいらに魔力はもらえないのか? ミカエルの魔力は?」
「それは無理ですよ。キャリアに積んだ空の魔石に魔力を入れないといけないし、ウィザードにも補給しますからね」
「それだと巨人に魔力を注入する分はどうするんですかぁ~」
「それまでには魔力も戻ると思いますよ。この後で入れちゃいますんで、その後は静かに魔力を戻るのを待つ感じですね」
「つまんねぇ~。なんの為に一緒に来たと思ってるんだよ」
「巨人を倒す為でしょ」
「それは二番目だ!」
それが一番なの! 僕は敵前逃亡で追われる身なんだから、ここで巨人を倒さなかったら一生追いかけ回される。
「み、みなさんも同じ意見……」
無言で頷くソフィアさんと恥ずかしそうに頷くリリヤちゃん。君達、動機が不純過ぎる! もう少し崇高な目的の為に頑張ろうとか無いのか!?
「まあ、時が時だし、終わってからだな。一生吸い付くしてやるよ」
「そうですね。時が時だ…… 一生? 一生ってどういうこと?」
「どういう事か知りたいですぅ~。フィリスさんの居る場所は違うと思いますぅ~」
「お前達は終わったら城船に先に帰ってて構わないぜ。あたい達はハネムーンにでも行ってくるからよ」
暖かいスープが…… さっきまで火に掛かっていた熱々のスープが、猫舌の僕でも一気に飲み干せそうなくらいに温度に下がって来た感じがする。
「誰のものか…… 今のうちに決めておくのもいいな」
持っていた食器を置き、立ち上がる三人に僕は震えを押さえて座っていた。やめて! 僕の為に戦わないで! なんて事を、簡単に人を消し去る事が出来る人に言えるか?
「ミカエルさんは座ってて下さい~。すぐに終わらせてきますぅ~」
遠慮無く座らせてもらいます。先に寝ててもいいですか? それより空の魔石に魔力を入れたいので、この腰から下の石化した身体を元に戻してもらえると助かります。
それからの事は目に焼き付いて離れない。極端な森林火災、鉄砲水、環境破壊的な石化で、僕達のいた森や草原は壊滅的な打撃を受け、向こう五十年は人も立ち寄れない呪われた土地になってしまった。
朝になり、眠れぬ一晩を体育座りで過ごした僕は、晴れ晴れとした三人に迎え入れられ、やっとの事でトイレにダッシュした。
殴り合って分かり合う事もあるのだろう。男では聞いた事もあるが、女性でも同じ事はあるのだろうか?
一晩中、争った三人は魔力が枯渇し、僕に魔力の補充を求めた。僕は気を失うほどの強烈な魔力を流し、三人をキャリアに詰め込み空の魔石とウィザードに魔力を補給し、一人で朝食を食べて出発した。
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