キャッスルシップの錬金術師

コウ

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第五十四話

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 「追い付きましね」
 
 僕達は追い付いた。三番目の街、ライトナムに。巨人はまだ見えないが、ライトナムに布陣する城船の数は十五隻にもなっていた。
 
 「もしかして勝てんじゃね」
 
 「それだと敵前逃亡罪だけで済みますね」
 
 「それと誘拐罪だろ。魔導師三人の」
 
 「鬼と呼ばれた事はないですか?」
 
 「可愛いならあるけどな」
 
 「私は良く綺麗って言われます」
 
 「リリヤはあまり……」
 
 リリヤちゃんは可愛いよぉ。抱き締めたら崩れてしまいそうだよ。石化した僕の方がね。僕達はライトナムから少し離れてキャリアから戦場を望める所にいる。ここなら魔石から魔力が奪われる事も無い。
 
 「巨人が来るんだろ。どさくさ紛れに襲ったらどうだ?」
 
 「いいですぅ~。そうなったらザースローの街は無事ですぅ~」
 
 「巨人の姿を見てからじゃないと、なんとも……」
 
 「来たみたいですね」
 
 遠くの方から一歩づつ轟音を上げライトナムの街に来た、ミスティアの巨人。ここで本当に倒せたのなら、親方に殴られるだけで済むのだろうか。
 
 「ウィザードも出たぞ」
 
 城船からはウィザードが多数吐き出され、戦闘体制で突き進んで行った。
 
 「魔導師って魔導炉に魔力を入れただけで戦うのは不安かな?」
 
 「どうした急に?  まあ、魔力は魔石から補給するのが常だからな。やったろ?  タマゴ事件の時に」
 
 「一応の対策として魔石からの魔力の補給じゃなくて、魔導炉に直接流すやり方を伝えてはおいたんですけど……  見た感じだと、普通に魔石から魔力を流している様な……」
 
 「あの時は特別だったからな。爆発するかもしれない魔導炉を背負っては戦いたくねぇよ」
 
 「そうか……  いい方法だと思ったんだけど」
 
 「調整役がいれば別だろうがな。ウィザードは一人乗りだ」
 
 作業用ウィザードは魔力を調整するのが当たり前だけに二人乗りになっている。戦闘用は繊細な操作が必要なのだろう。
 
 「光ってますよ!」
 
 爆発か!?  そうだったら帰れるのに、光ったのは巨人から魔石を生成して打ち出す動作だ。迫るウィザードに対して無数の魔石が打ち出された。
 
 「おい、おい……」
 
 一回光っただけで第一陣のウィザードは壊滅した。土煙が分厚い壁に見え、晴れた時には残骸になったウィザードが転がっていた。
 
 「あれを抜けるのか……」
 
 「あれを飛び越さないと巨人には近寄れませんね……」
 
 「でも~、リリヤ達と会った時より魔石の数が多いですぅ~。魔力が多いんですねぇ~」
 
 いい所に気が付く!  やっぱり、ミスティアの巨人は二つの街を襲って魔力を補充したんだ!  これで、ここでも魔力を奪えば僕の作戦が上手く……
 
   それだけ被害が大きいと言う事だ。今のウィザードの攻撃だって何人が死んだ?  城船の十五隻分とライトナムの街に蓄えられた魔石を奪う為に何人が死ぬ?
 
 「また光りました」 
 
 一方的な蹂躙。ウィザードは成す術も無くやられ、城船に至っては射程外からの攻撃で大砲の一発も撃つ事が無く沈黙した。
 
  「行きましょう。見るものは見ました」
 
 ライトナムの街が襲われる前に僕達は出発した。街が襲われる。何も出来ない僕は、これ以上は見たくなかった。  
 
 「あれだな!  あの魔石さえ何とかすれば問題ねぇよ」
 
 沈黙を打ち破ったのはフィリスの一声だった。こういう時、ポジティブな人は場を明るくしてくれる。確かに、あの飛んで来る魔石を何とかすれば巨人にたどり着く。
 
 「ソフィアさん、リリヤちゃん、あの魔石……  受けれますか?」
 
 「正直、キツいですね。ただの大岩だったら自信がありますけど、飛んで来るのが魔石でしょ。水系の魔石だとかなり不安です」
 
 「リリヤちゃんは?」
 
 「同じですぅ~。ただ……」
 
 「ただ……  なにかある?」
 
 「いえ~。ただミカエルさんを守るのはリリヤですぅ~」
 
 「リリヤちゃんには負けませんよ」
 
 「言っておくけどな!  ミカエルを運ぶのは、あたいだぞ!  あたいは誰が守ってくれる?」
 
 「自分で守ったらどうですかぁ~」
 
 「魔導師なんだし」
 
 「ミカエルぅぅ。二人が酷い事を言うんだよぉぉ」
 
 知らん。狭い車内で抱き付くな!  ハンドルが取られる!  さっきまではソフィアさんが横に座っていたのに順番にでもなったのかな?  
 
 「ちゃんとウィザードを飛ばして下さいよ。巨人までたどり着くかは、みんなの力が必要なんだから」
 
 最初の作戦では一人でこっそり巨人が近付くのを待ち、こっそり上に登って、こっそり魔力を流して逃げる。とても消極的な作戦だが、派手な撃ち合いより隠密な潜入の方が、僕には合っている様な気がする。
 
 だけど、ライトナムの戦いで「こっそり」は効きそうもない。ミスティアの巨人はウィザードが何もしてないうちに攻撃をして来た。もう、ウィザードは敵判定が出ているのだろう。

 「ただ、ライトナムの戦いを見て勝算はあります」
 
 「どんなのだ?  巨人に生け贄でも送るか?」
 
 「なりますか?」
 
 「昔から生け贄は可愛い娘がなるもんだからな。あたいなら満足してくれるだろ」
 
 「お腹を壊しますぅ~」
 
 「言ってくれるじゃねぇか、リリヤ!  代わり生け贄に……」
 
 「生け贄は出さないですよ!  それより巨人の魔石を打ち出す動作と間隔、これを二回防げれば巨人にジャンプ出来る近さまで寄れます」
 
 「二回防いで、三回目が来る前に飛んじまおうって事だな」
 
 「そうです。巨人に乗れば、後は僕の魔力を流して終わりです」
 
 「上手くいきますか?」
 
 「フィリスは防御の魔法ってある?」
 
 「無い!」
 
 「上手くいかなければ魔石の蜂の巣ですね。跡形も残らないくらいの」
 
 「そうか……」
 
 押し黙るフィリス。三回目の魔石の標的は防御も無い僕達だ。ウィザードを全滅させた魔石が僕達に集中するとなれば、生きて帰る所か死体さえ残らないだろう。
 
 「それなら先に報酬をもらっておかないとな……」
 
 「報酬?  お金なんて三級錬金術師の給料を知らないんですか?  魔導師の三級より低いんですよ」
 
 薄給で働く錬金術師に払えるお金なんて無い。それに君達はお金が目的で来たんじゃないでしょ。未来に掲げる希望、魔導師としての誇り、戦争回避の意義、そんなお金では代えられない為に一緒に来たのでは?
 
 「お前、月給いくらだ?」
 
 「秘密ですよ」
 
 「まぁ、共働きならやっていけるか……」
 
 「なんですか!?  共働きって!?」
 
 「報酬の話だろ?」
 
 「月給の話じゃないの?」
 
 「同じだろ」
 
 読めない。先と話と空気が読めない。報酬の話から月給の話になって共働きの話に変わって……  やっぱり読めない。
 
 「報酬はミカエルよ。終わったら誰がミカエルをモノにするか……  それが報酬」
 
 人身売買は良くないです。僕にはそんな値打ちはありません。僕はそこら辺にいる三級錬金術師で、安月給のブラック企業で働いているんです。
 
 「えっと……  ちなみに誰が報酬を受けとるんでしょう?」
 
 「これからだ!  終わった後で決着を付ける!」
 
 「私には二人に負ける要素はありません」
 
 「リリヤだって頑張りますぅ~」
 
 これってフラグじゃないのか?  何かが終わった後の話をするのは。それともミスティアの巨人さえも通過点に過ぎないのか?
 
 「ほどほどに頑張ってください……」
 
 報酬の僕に何が言える?  いや、それより人を勝手に報酬にするなよ!  僕には心に決めた人が……  いない。これが終わったら身を固めるか?  でも、ジョシュアに合コンを頼んでいるし、英雄として帰れば選り取りじゃないか?
 
 終わったら、一回くらい合コンは見逃してくれるだろうか?  多分、巨人を相手に戦うより苦労しそうだ。
 
 よし!  偽装しよう!  巨人と戦って死んだ事にして、記憶が無くなったフリでもしておこう。アメリカには証人保護プログラムとかあって、身分を変えられるんだよな。この世界にはあるのだろうか?  もう少し、もう少しでいいから青春を謳歌したい、合コンしたい。持ち帰りもしてみたい。
 
 とにかく生きよう。生きてこそだ。その後の事はその後だ!  僕達はライトナムの街を後にして王都に向かった。
 
 
 
 「なんですと!?」
 
 「ごめんなさいですぅ~」
 
 衝撃の告白。リリヤちゃんは、実は男だった……  なんて冗談はおいといて、出来れば聞きたくなかった。聞いてスルー出来る内容じゃない。
 
 「どうしたリリヤ?  アホが移ったか?」
 
 僕達は王都までもう少し。巨人を待ち構える為にキャンプを張った。そんな朝食を用意している時に人をアホ呼ばわりだと!  下剤でも入れてやろうか!?
 
 「違いますよ……  リリヤちゃん二人にも話して……」
 
 「実はですぅ~……」
 
 リリヤちゃんはウィザードの生産拠点、ザースロー出身だそうだ。そこには両親や兄弟が住んでいて、見捨てる訳にはいかないと言ってきた。
 
 「なんで今頃……」
 
 「リリヤも言いたかったんですぅ~。でも、でも……」
 
 「言えなかったか……  ミカエルの無謀な作戦に協力したかったんだな」
 
 「もっと早く言ってくれれば……」
 
 「言ったらどうした?  作戦変更してザースローで迎え撃つのか?  巨人の魔力はどうだ?  あれにザースローで魔力を与えてやるんじゃないのか?  今、破壊出きるのか?」
 
 「……」
 
 「フィリス、ミカエルを責めるのは間違ってますよ」
 
 どうしろって言うんだ!  今からザースローに戻るのか!?  戻って……  戻れば、たぶんだけど間に合う。間に合った所で巨人の魔力が少なければ作戦自体が崩壊する。
 
 「戻って……  ザースローに戻って両親を助けて、それからここに戻るのはどうですか?」
 
 「無理だと思いますぅ~。お父さんはウィザードの工房勤めでザースローの街を出れないと思いますぅ~」
 
 「なんで?  逃げましょうよ」
 
 「お父さんは工房長で秘密がナントカで街からは出れないんですぅ~」
 
 秘密保持とかそんなところか。ウィザードの工房長ともなれば、他国にしてみれば喉から手が出るほど欲しい筈だ。本当に喉から手が出たら怖いね。
 
 「どうする?  ミカエルが決める事だぜ。見捨てるか作戦通りにやるかだな」

 少し笑ったように聞くフィリス。嫌だねぇ、試されるのは。そんなのは錬金術師のテストだけで間に合ってるよ。
 
 「楽しんでませんか?」
 
 「答えが分かってますから。どんな風に言うかが楽しみなんです」
 
 ソフィアさんもか!  みんなで楽しみやがって!  今までの苦労と見捨てて来た人達の事が脳裏をよぎる。情に流されて作戦の失敗なんて……
 
 「迷ったら……  迷ったら楽しい方を選ぶのが後悔しないと思います」
 
 「それで……  どっちが楽しい?」
 
 「決まってんだろ!  巨人に一発かませる方だ!  どれだけ我慢して来たと思ってる!  自慢のレールガンや特砲でも殺れなくて、城船なんて滅茶苦茶だぞ!  この後、どれくらいサービス残業が待ってると思うんだ!  力があるのに見ているだけだなんて、うんざりなんだよ!」
 
 「……言いたい事は言ったか?」
 
 「ふぅ……  言いました」
 
 「……で、やるのか?」
 
 「やる!  リリヤちゃんの為だけじゃない。もう人が死ぬのは嫌なんだ」
 
 「ありがとうございますぅ~」

 「それなら出発しましょう。間に合いますか?」
 
 「間に合わせます!」
 
 僕達はラリー選手権にも負けない早さで来た道を戻った。キャリアでドリフトしたのは世界でも僕だけだろう。

 
 
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