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Magic-Fantasia外伝-氷血のアリアレイン家①
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Magic-Fantasia-外伝-
氷血のアリアレイン家
ここは神話信仰が根深い民主共国「ゼウセダス」
その西の外れの渓谷に近い街「ウォクスフォード」
雨の滴る街中で2人の警察官が話をしていた
精悍な建物が並ぶいわゆるゴシック建築のような街並みのある一角にその会話は流れた
新人警官「ほんとなんですよ!」
中年警官「あのなぁ……」
新人警官「いやほんとなんですって先輩!動いてたんですよ!生きてたんです!」
中年警官「バラバラにされて5人がひとつに固められてたんだろ?生きていられるわけないだろ」
新人警官「いやでも!!呪ってやる化け物めって言ってたんですって」
中年警官「ドラマの見すぎだろー」
そんな会話が雨の音に掻き消された暗い街の午後から
少し時は遡る
拡がる庭園 大きな屋敷
そこに生まれた小さな少女は
両脚、左手、左眼が欠損している次女だった
「シャルロット」そう名付けられた彼女は
生まれながらにして家族や執事
街の者から疎まれてしまう運命を背負っていた
シャルロット「ねぇデューク……どうしてわたしは産まれてきてしまったのかしら……」
デューク「お嬢様。そのような言葉を口にするものではありませんよ。産まれてきてはいけない者などいないのです。このデュークめはお嬢様にお仕えできて嬉しゅうございますよ。……ゲホゲホ」
穏やかに応える白い髭を蓄えた執事は
この屋敷で唯一シャルロットを世話する
老執事のデュークである
デュークは代々「アリアレイン家」に仕える
2代執事の家柄の執事長であった。
シャルロット「大丈夫?デューク。最近調子が悪そう……」
デューク「なーに。心配は無用にございますよお嬢様。デュークはこう見えて60年以上もお家に使えた身。まだまだ若い者になど執事長の座は譲ってはやりませぬ。フォッフォッフォ」
シャルロット「デューク……」
デュークのおおらかな雰囲気に少し笑をこぼしたシャルロットはもうすぐ8歳になる
デューク「お嬢様…もうすぐ生誕祭でございますな」
シャルロット「えぇ……」
デューク「今年はどのようなケーキをご所望ですかな?」
シャルロット「いつもと変わらないわ。ロウソクひとつと小さなケーキでいい」
デューク「お嬢様……。」
シャルロット「ねぇデューク……お母様もお父様も……わたしを恨んでいるかしら……こんな醜いわたしを……」
デューク「お嬢様。きっと分かり合える日が参ります。それまでの辛抱にございますよ。デュークめがついております。」
シャルロット「ありがとう……デューク……」
様々な草木が植えられた見事な中庭の隅で密かに行われた2人だけの生誕祭の計画は広大な屋敷には似つかわしくない静かな囁きになっていた
その日の午後
屋敷の廊下を片手で操作が出来るようになっている車椅子で、ゆっくりと進んでいるシャルロットの前に双子の弟と妹が道を塞いだ
リルティ「あら?おねぇ様。ご機嫌うるわしゅう」
ヘンリー「やぁ、おねぇ様。おひとりで何処に行かれるのですか?」
不敵な笑みを浮かべながら妹のリルティと弟のヘンリーが話しかけてきた
リルティ「いやあねぇヘンリー。おねぇ様がひとりで何処かに行けるわけないじゃない。立ち上がることもできないのに……クスクス」
ヘンリー「そうだったねリルティ!おねぇ様はひとりで手洗いもできない軟弱者だったねぇ……ケラケラ」
嫌味たらしく絡んできた3つ年下の双子に
シャルロットは返した
シャルロット「どいてくれるかしら……」
感情を押さえつけたような表情で俯くシャルロット
ヘンリー「チッ……おねぇ様の癖に生意気だな」
リルティ「いいわよヘンリー。向こうに行きましょ。私達まで化け物になってしまうわ」
そう言ってシャルロットを貶しながら双子は去っていった
シャルロット「…………いつもの事よ……。」
シャルロットにとっては家族は自分に冷たい目線を向ける他人とすら思えないような存在になっていた
シャルロットには両親と兄、そして双子の弟と妹という家族がいた
だが味方をしてくれるのはいつもデュークだけだった
そして暗く広い廊下を進んだ先
コンコン
「失礼します」
そう言って巨人でも通るのかと言わんばかりの大きな扉を開いて執務室へ入る
エマ「おや?あなたこの家の汚点が何か用ですわよ」
アーノルド「何用だ」
険しい顔をシャルロットに向けて実母と実父が冷たい言葉を浴びせた
シャルロット「明後日8度目の誕生日を迎えます。感謝を伝えにまいりました。」
エマ「ふん!お前がここまで生きてこられたのは赤子の時にお父様から頂いた"慈悲"のお陰であるのだから当然よ」
「本当だったら私は育てるつもりもなかったのだから」
アーノルド「用が済んだら出ていけ。」
シャルロット「……はい。失礼いたします。」
ガチャ
エマ「はぁー。憎たらしい子」
シャルロットが両親と話せる機会は誕生日と新年の挨拶をする年に2度だけ
最早存在しないものとして扱われているのだった
何不自由なく暮らせるほどの資産のある家系に産まれ全てを与えられているはずのシャルロットは孤独と不自由しか感じえなかった
そして迎えた誕生日当日
デューク「さぁお嬢様。願い事をして」
シャルロット「私もう8つよ?」
デューク「そう仰らずに。どのような願い事でもよろしいのですよ」
ニコッと笑うデュークは少し体調の悪そうな顔立ちである
シャルロット「ふー……」
1本だけのロウソクは炎が消えてさらに静かになった
デューク「おめでとうございます。お嬢様の未来がより良いものになるよう願っております。」
丁寧にお辞儀をしたデュークは続けて話し始めた
デューク「お嬢様……。紹介したい者がございます。」
シャルロット「?」
デューク「こちらに。」
そう言ってデュークが見ている物陰の奥からシャルロットと歳の近い少年が出てきた
ルミウス「お初にお目にかかります、お嬢様。」
仕込まれたようなお辞儀と共に姿勢正しい少年はシャルロットに近づいてきた
デューク「私の孫にあたります。ルミウスにございます。」
シャルロット「そう……」
人と目を合わせることすらつらいシャルロットはさらに片目でしか見ることができないため初対面である少年に視線を向けることは当然出来なかった
デューク「お嬢様。デュークめはもう70をとうに超えた身。引き継ぐものとしてルミウスを用意いたした次第にございます。」
デュークの丁寧な言葉に対しシャルロットは不機嫌そうにつまらせながら応えた
シャルロット「…………いやよ」
シャルロットのあまり見せない感情的な態度に戸惑うデューク
デューク「お嬢様……ルミウスはとても優秀で……」
シャルロット「そんな事どうでもいい!!!」
突然のシャルロットの大声に言葉を飲む2人
シャルロット「私はデュークがいればいい!あなたがいなければ……私は生きてはいけないの……ひとりでベットから出ることも出来ないのに……。突然そんな事言われて納得なんてできないわ!あなただけは違うと思ってた。でもあなたも私といるのが嫌になったと言うわけ?それとも最初から……。それにその子だってこんな醜い私の世話なんて嫌に決まってるわ!」
シャルロットは本当はデュークがそんな事思うような人間では無いことを理解していた
だが突然の引退を予期させる言葉に動揺してつもりのない言葉を吐いてしまったのである
デューク「お嬢様……ルミウスはそのようなこと……」
シャルロット「いいえ!そうに決まってるわ!こんな醜い私なんて見たくないに決まってる!私だって見て欲しくない!」
そう言って力無く車椅子で2人から離れていってしまうシャルロット
その後ろ姿はなんともか弱く切ない弱々しい背中だった
シャルロットにとって人と関わることほど難しいことは無いのだ
ルミウス「お爺様」
デューク「ん?」
ルミウス「少し私に任せて貰えませんか?」
ルミウスはシャルロットの後をゆっくり追っていった
シャルロットは自室に戻っていた
なんとも質素でそしてこの屋敷には似つかわしくないほどの狭い部屋
この屋敷にとっては押し入れのような場所だった
ルミウス「失礼します」
ルミウスはノックの後返事も待たず入室した
シャルロット「……あなた……失礼よ……デュークにそんなことも教わらなかったの……?」
機嫌が悪いと言うよりかは暗く冷たい態度でそう言い放つシャルロット
ルミウス「ではお嬢様は入室を許可してくださいましたか?いえ、お嬢様ならずっと黙っておいでだったのでは?」
シャルロット「……。」
ルミウス「お嬢様。少しだけお話をさせてください。」
シャルロットの居る窓際からは月の光が漏れさしていて明かりはそれだけ
そんな部屋をまっすぐシャルロットの居る所までゆっくり近づくルミウス
シャルロット「……。」
窓から外を見続けるシャルロット
ルミウス「お嬢様。私を傍でお仕えさせてはいただけないでしょうか?」
シャルロット「……どうして?」
悲しそうに問うシャルロットに膝をついて願うルミウス
ルミウス「貴女の力になりたいのです。」
振り返るシャルロットをまっすぐ見つめるルミウス
シャルロット「今日初めてあったあなたにどうして信頼を置けるというの?無理よ私には……。」
そう放つシャルロットにルミウスは少し悲しそうな笑みを浮かべながらシャルロットの隣へ立った
ルミウス「私には妹がおりました。私はデュークお爺様に拾われて執事として教育される前はこの街のスラム街に居たのです。」
ルミウスは自分の過去をおもむろに語り始めた
シャルロット「デュークとは血が繋がっていなかったの?」
ルミウス「ええ。私の父はスラム街の盗っ人で、母は娼婦でした。両親とも妹が産まれた後亡くなりました。それ以来妹と2人で必死に生きていました。」
シャルロット「そう……大変だったわね……。」
少し気まづそうに返すシャルロットに笑顔で応えるルミウス
ルミウス「妹は声を出すことができなかったのです」
シャルロット「……え?」
ルミウス「元々喋ることが叶わなかった妹はある事がきっかけで無惨な死体で発見されました。妹が6つの時でした。」
シャルロット「……!?」
呆気にとられたシャルロットにつづけて語る
ルミウス「スラムではよくあることなのです。ですがやはり辛かったです。絶望に打ちひしがれているところにデューク様が拾ってくださったのです。」
悲しそうに過去を思い出しながら語るルミウスにどのような言葉をかけていいか分からないシャルロット
ルミウス「お嬢様。実はお嬢様を見たのは今日が初めてでは無いのです。デューク様に連れられて何度か遠くから拝見致しました。将来はあの方に使えるのだと教わりました。」
ルミウス「そんないつか日にお嬢様は車椅子から落ちてしまったことがありましたね。そして必死に這い上がろうとしていたお姿を見て私はこの方の力になりたいとそう思いました。妹が知ることすらできなかった幸せな人生を送ってほしいと。その手助けをしてあげたいと」
ルミウスの真っ直ぐな気持ちと妹への思いを次第に理解し始めたシャルロットにルミウスは再び膝をつき誓いをたてる
ルミウス「シャルロットお嬢様。私をお傍においていただけないでしょうか?このルミウス全身全霊を持ってあなたの手となり足となりますことを誓います。お嬢様の望みは全てこのルミウスが叶えてみせます。」
そんなルミウスの綺麗な姿にシャルロットは困惑しながらも自分の気持ちを応えた
シャルロット「貴方の境遇も妹君のことも理解はできたわ。でも私は……」
そう漏らすシャルロットにルミウスが応える
ルミウス「承知しています。お嬢様の心の傷はお深いのだと。ですから……」
そう言いながらルミウスはどこからか持ってきた短剣で自身の両目を切り裂いた
シャルロット「な!?……何をしているの!?」
ポタポタと流れる鮮血がシャルロットのドレスを汚していく
ルミウス「お嬢様が望むのであれば例え腕を切り落とせと命じられれば落としましょう。死ねと言われれば喜んで死にましょう。お姿を見るなともうされればこの目を閉じましょう。全てはお嬢様の為に。」
両目から血が滴る
だがその精悍な姿勢は崩れることなくまっすぐシャルロットを見ていた
シャルロット「私が見るなと言ったから両目を切り裂いたの?」
ルミウス「……はい。」
その経験の無い現実にすすり泣くシャルロット
シャルロット「……ぐす……な……んで……私……なんかを……」
ルミウス「ずっとお傍におります。」
シャルロット「そんな目……になって……これからどうするのよ……私の……世話なんてできっこないじゃ……ない」
泣きじゃくるシャルロット
ルミウス「それでもお嬢様にお仕えし続けましょう。この命尽きるまで」
そう言って手を差し出したルミウスの手にシャルロットもまた手をだし応えた
シャルロット「貴方の思いは受け取ったわ。ありがとう。」
シャルロットが初めて心から人を信頼した瞬間だった
そしてルミウスはシャルロットの手に誓の口付けを交わした所へデュークが現れた
デューク「全く少し見ない間に孫が光を失い、そしてお嬢様のこんな素敵な笑顔が見られるとは。フォッフォッフォ。ルミウス、これから大変だぞ?」
ルミウス「承知しています。ですがお嬢様のお傍においていただけるのであれば喜びにございます。」
呆れたような顔をしながらデュークは言う
デューク「さ……ルミウスはすぐに治療を受けなさい。それからお嬢様……良かったですね」
親が子を思うような笑顔でシャルロットに問いかけたデュークにシャルロットは涙を拭いながら笑顔で返した
シャルロット「ほんと……おかしな人ね。」
夜が老けシャルロットが8歳ルミウスが13歳の長くそして忘れられない誓の夜になった
そんな日から数年が過ぎ去ろうとした頃
デュークはついにベッドに伏せる日が続いていた
氷血のアリアレイン家
ここは神話信仰が根深い民主共国「ゼウセダス」
その西の外れの渓谷に近い街「ウォクスフォード」
雨の滴る街中で2人の警察官が話をしていた
精悍な建物が並ぶいわゆるゴシック建築のような街並みのある一角にその会話は流れた
新人警官「ほんとなんですよ!」
中年警官「あのなぁ……」
新人警官「いやほんとなんですって先輩!動いてたんですよ!生きてたんです!」
中年警官「バラバラにされて5人がひとつに固められてたんだろ?生きていられるわけないだろ」
新人警官「いやでも!!呪ってやる化け物めって言ってたんですって」
中年警官「ドラマの見すぎだろー」
そんな会話が雨の音に掻き消された暗い街の午後から
少し時は遡る
拡がる庭園 大きな屋敷
そこに生まれた小さな少女は
両脚、左手、左眼が欠損している次女だった
「シャルロット」そう名付けられた彼女は
生まれながらにして家族や執事
街の者から疎まれてしまう運命を背負っていた
シャルロット「ねぇデューク……どうしてわたしは産まれてきてしまったのかしら……」
デューク「お嬢様。そのような言葉を口にするものではありませんよ。産まれてきてはいけない者などいないのです。このデュークめはお嬢様にお仕えできて嬉しゅうございますよ。……ゲホゲホ」
穏やかに応える白い髭を蓄えた執事は
この屋敷で唯一シャルロットを世話する
老執事のデュークである
デュークは代々「アリアレイン家」に仕える
2代執事の家柄の執事長であった。
シャルロット「大丈夫?デューク。最近調子が悪そう……」
デューク「なーに。心配は無用にございますよお嬢様。デュークはこう見えて60年以上もお家に使えた身。まだまだ若い者になど執事長の座は譲ってはやりませぬ。フォッフォッフォ」
シャルロット「デューク……」
デュークのおおらかな雰囲気に少し笑をこぼしたシャルロットはもうすぐ8歳になる
デューク「お嬢様…もうすぐ生誕祭でございますな」
シャルロット「えぇ……」
デューク「今年はどのようなケーキをご所望ですかな?」
シャルロット「いつもと変わらないわ。ロウソクひとつと小さなケーキでいい」
デューク「お嬢様……。」
シャルロット「ねぇデューク……お母様もお父様も……わたしを恨んでいるかしら……こんな醜いわたしを……」
デューク「お嬢様。きっと分かり合える日が参ります。それまでの辛抱にございますよ。デュークめがついております。」
シャルロット「ありがとう……デューク……」
様々な草木が植えられた見事な中庭の隅で密かに行われた2人だけの生誕祭の計画は広大な屋敷には似つかわしくない静かな囁きになっていた
その日の午後
屋敷の廊下を片手で操作が出来るようになっている車椅子で、ゆっくりと進んでいるシャルロットの前に双子の弟と妹が道を塞いだ
リルティ「あら?おねぇ様。ご機嫌うるわしゅう」
ヘンリー「やぁ、おねぇ様。おひとりで何処に行かれるのですか?」
不敵な笑みを浮かべながら妹のリルティと弟のヘンリーが話しかけてきた
リルティ「いやあねぇヘンリー。おねぇ様がひとりで何処かに行けるわけないじゃない。立ち上がることもできないのに……クスクス」
ヘンリー「そうだったねリルティ!おねぇ様はひとりで手洗いもできない軟弱者だったねぇ……ケラケラ」
嫌味たらしく絡んできた3つ年下の双子に
シャルロットは返した
シャルロット「どいてくれるかしら……」
感情を押さえつけたような表情で俯くシャルロット
ヘンリー「チッ……おねぇ様の癖に生意気だな」
リルティ「いいわよヘンリー。向こうに行きましょ。私達まで化け物になってしまうわ」
そう言ってシャルロットを貶しながら双子は去っていった
シャルロット「…………いつもの事よ……。」
シャルロットにとっては家族は自分に冷たい目線を向ける他人とすら思えないような存在になっていた
シャルロットには両親と兄、そして双子の弟と妹という家族がいた
だが味方をしてくれるのはいつもデュークだけだった
そして暗く広い廊下を進んだ先
コンコン
「失礼します」
そう言って巨人でも通るのかと言わんばかりの大きな扉を開いて執務室へ入る
エマ「おや?あなたこの家の汚点が何か用ですわよ」
アーノルド「何用だ」
険しい顔をシャルロットに向けて実母と実父が冷たい言葉を浴びせた
シャルロット「明後日8度目の誕生日を迎えます。感謝を伝えにまいりました。」
エマ「ふん!お前がここまで生きてこられたのは赤子の時にお父様から頂いた"慈悲"のお陰であるのだから当然よ」
「本当だったら私は育てるつもりもなかったのだから」
アーノルド「用が済んだら出ていけ。」
シャルロット「……はい。失礼いたします。」
ガチャ
エマ「はぁー。憎たらしい子」
シャルロットが両親と話せる機会は誕生日と新年の挨拶をする年に2度だけ
最早存在しないものとして扱われているのだった
何不自由なく暮らせるほどの資産のある家系に産まれ全てを与えられているはずのシャルロットは孤独と不自由しか感じえなかった
そして迎えた誕生日当日
デューク「さぁお嬢様。願い事をして」
シャルロット「私もう8つよ?」
デューク「そう仰らずに。どのような願い事でもよろしいのですよ」
ニコッと笑うデュークは少し体調の悪そうな顔立ちである
シャルロット「ふー……」
1本だけのロウソクは炎が消えてさらに静かになった
デューク「おめでとうございます。お嬢様の未来がより良いものになるよう願っております。」
丁寧にお辞儀をしたデュークは続けて話し始めた
デューク「お嬢様……。紹介したい者がございます。」
シャルロット「?」
デューク「こちらに。」
そう言ってデュークが見ている物陰の奥からシャルロットと歳の近い少年が出てきた
ルミウス「お初にお目にかかります、お嬢様。」
仕込まれたようなお辞儀と共に姿勢正しい少年はシャルロットに近づいてきた
デューク「私の孫にあたります。ルミウスにございます。」
シャルロット「そう……」
人と目を合わせることすらつらいシャルロットはさらに片目でしか見ることができないため初対面である少年に視線を向けることは当然出来なかった
デューク「お嬢様。デュークめはもう70をとうに超えた身。引き継ぐものとしてルミウスを用意いたした次第にございます。」
デュークの丁寧な言葉に対しシャルロットは不機嫌そうにつまらせながら応えた
シャルロット「…………いやよ」
シャルロットのあまり見せない感情的な態度に戸惑うデューク
デューク「お嬢様……ルミウスはとても優秀で……」
シャルロット「そんな事どうでもいい!!!」
突然のシャルロットの大声に言葉を飲む2人
シャルロット「私はデュークがいればいい!あなたがいなければ……私は生きてはいけないの……ひとりでベットから出ることも出来ないのに……。突然そんな事言われて納得なんてできないわ!あなただけは違うと思ってた。でもあなたも私といるのが嫌になったと言うわけ?それとも最初から……。それにその子だってこんな醜い私の世話なんて嫌に決まってるわ!」
シャルロットは本当はデュークがそんな事思うような人間では無いことを理解していた
だが突然の引退を予期させる言葉に動揺してつもりのない言葉を吐いてしまったのである
デューク「お嬢様……ルミウスはそのようなこと……」
シャルロット「いいえ!そうに決まってるわ!こんな醜い私なんて見たくないに決まってる!私だって見て欲しくない!」
そう言って力無く車椅子で2人から離れていってしまうシャルロット
その後ろ姿はなんともか弱く切ない弱々しい背中だった
シャルロットにとって人と関わることほど難しいことは無いのだ
ルミウス「お爺様」
デューク「ん?」
ルミウス「少し私に任せて貰えませんか?」
ルミウスはシャルロットの後をゆっくり追っていった
シャルロットは自室に戻っていた
なんとも質素でそしてこの屋敷には似つかわしくないほどの狭い部屋
この屋敷にとっては押し入れのような場所だった
ルミウス「失礼します」
ルミウスはノックの後返事も待たず入室した
シャルロット「……あなた……失礼よ……デュークにそんなことも教わらなかったの……?」
機嫌が悪いと言うよりかは暗く冷たい態度でそう言い放つシャルロット
ルミウス「ではお嬢様は入室を許可してくださいましたか?いえ、お嬢様ならずっと黙っておいでだったのでは?」
シャルロット「……。」
ルミウス「お嬢様。少しだけお話をさせてください。」
シャルロットの居る窓際からは月の光が漏れさしていて明かりはそれだけ
そんな部屋をまっすぐシャルロットの居る所までゆっくり近づくルミウス
シャルロット「……。」
窓から外を見続けるシャルロット
ルミウス「お嬢様。私を傍でお仕えさせてはいただけないでしょうか?」
シャルロット「……どうして?」
悲しそうに問うシャルロットに膝をついて願うルミウス
ルミウス「貴女の力になりたいのです。」
振り返るシャルロットをまっすぐ見つめるルミウス
シャルロット「今日初めてあったあなたにどうして信頼を置けるというの?無理よ私には……。」
そう放つシャルロットにルミウスは少し悲しそうな笑みを浮かべながらシャルロットの隣へ立った
ルミウス「私には妹がおりました。私はデュークお爺様に拾われて執事として教育される前はこの街のスラム街に居たのです。」
ルミウスは自分の過去をおもむろに語り始めた
シャルロット「デュークとは血が繋がっていなかったの?」
ルミウス「ええ。私の父はスラム街の盗っ人で、母は娼婦でした。両親とも妹が産まれた後亡くなりました。それ以来妹と2人で必死に生きていました。」
シャルロット「そう……大変だったわね……。」
少し気まづそうに返すシャルロットに笑顔で応えるルミウス
ルミウス「妹は声を出すことができなかったのです」
シャルロット「……え?」
ルミウス「元々喋ることが叶わなかった妹はある事がきっかけで無惨な死体で発見されました。妹が6つの時でした。」
シャルロット「……!?」
呆気にとられたシャルロットにつづけて語る
ルミウス「スラムではよくあることなのです。ですがやはり辛かったです。絶望に打ちひしがれているところにデューク様が拾ってくださったのです。」
悲しそうに過去を思い出しながら語るルミウスにどのような言葉をかけていいか分からないシャルロット
ルミウス「お嬢様。実はお嬢様を見たのは今日が初めてでは無いのです。デューク様に連れられて何度か遠くから拝見致しました。将来はあの方に使えるのだと教わりました。」
ルミウス「そんないつか日にお嬢様は車椅子から落ちてしまったことがありましたね。そして必死に這い上がろうとしていたお姿を見て私はこの方の力になりたいとそう思いました。妹が知ることすらできなかった幸せな人生を送ってほしいと。その手助けをしてあげたいと」
ルミウスの真っ直ぐな気持ちと妹への思いを次第に理解し始めたシャルロットにルミウスは再び膝をつき誓いをたてる
ルミウス「シャルロットお嬢様。私をお傍においていただけないでしょうか?このルミウス全身全霊を持ってあなたの手となり足となりますことを誓います。お嬢様の望みは全てこのルミウスが叶えてみせます。」
そんなルミウスの綺麗な姿にシャルロットは困惑しながらも自分の気持ちを応えた
シャルロット「貴方の境遇も妹君のことも理解はできたわ。でも私は……」
そう漏らすシャルロットにルミウスが応える
ルミウス「承知しています。お嬢様の心の傷はお深いのだと。ですから……」
そう言いながらルミウスはどこからか持ってきた短剣で自身の両目を切り裂いた
シャルロット「な!?……何をしているの!?」
ポタポタと流れる鮮血がシャルロットのドレスを汚していく
ルミウス「お嬢様が望むのであれば例え腕を切り落とせと命じられれば落としましょう。死ねと言われれば喜んで死にましょう。お姿を見るなともうされればこの目を閉じましょう。全てはお嬢様の為に。」
両目から血が滴る
だがその精悍な姿勢は崩れることなくまっすぐシャルロットを見ていた
シャルロット「私が見るなと言ったから両目を切り裂いたの?」
ルミウス「……はい。」
その経験の無い現実にすすり泣くシャルロット
シャルロット「……ぐす……な……んで……私……なんかを……」
ルミウス「ずっとお傍におります。」
シャルロット「そんな目……になって……これからどうするのよ……私の……世話なんてできっこないじゃ……ない」
泣きじゃくるシャルロット
ルミウス「それでもお嬢様にお仕えし続けましょう。この命尽きるまで」
そう言って手を差し出したルミウスの手にシャルロットもまた手をだし応えた
シャルロット「貴方の思いは受け取ったわ。ありがとう。」
シャルロットが初めて心から人を信頼した瞬間だった
そしてルミウスはシャルロットの手に誓の口付けを交わした所へデュークが現れた
デューク「全く少し見ない間に孫が光を失い、そしてお嬢様のこんな素敵な笑顔が見られるとは。フォッフォッフォ。ルミウス、これから大変だぞ?」
ルミウス「承知しています。ですがお嬢様のお傍においていただけるのであれば喜びにございます。」
呆れたような顔をしながらデュークは言う
デューク「さ……ルミウスはすぐに治療を受けなさい。それからお嬢様……良かったですね」
親が子を思うような笑顔でシャルロットに問いかけたデュークにシャルロットは涙を拭いながら笑顔で返した
シャルロット「ほんと……おかしな人ね。」
夜が老けシャルロットが8歳ルミウスが13歳の長くそして忘れられない誓の夜になった
そんな日から数年が過ぎ去ろうとした頃
デュークはついにベッドに伏せる日が続いていた
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シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
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ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
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セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
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