隣の同居人

此宮

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16,米田優平

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朝、起きてみても気分は良くならなかった。ふー、と溜息をついてベッドに寝直す。
嫌われてしまっただろうか。まぁ、そりゃ智は真面目な性格だろうし、出会って2、3日の人間にキスされても嬉しくないだろう。ましては同性だし。
…起きていると色々考えてしまうから、こういう時は寝るに限るな。その日の授業は綺麗サッパリサボって惰眠を貪ることにした。



次に起きた時は昼を過ぎていた。寝過ぎて頭が痛いし、若干お腹も減った。近くでヴーヴーと振動音が聞こえて、思わず起き上がればスマホがチカチカと光っている。見てみれば俊の番号。
「何」
短く不機嫌に電話に出ると相手も相手でキャンキャンと耳につく声で叫んだ。
『アンタ、今日の授業でノート返してくれるって言ったじゃない!』
「あー…ごめん。授業行ける気がしないわ」
『………何?もうヤったの…?』
「違う!!!!!!」
そんな、空気まで、持って行けないわ!クソ!!
「ちょっと色々あったんだよ」
『色々ねぇ…大方恥ずかしがりな智ちゃんに誤解されてメソメソしてるって所?』
…………見てたのか?
『分かりやすいだけよ、アンタ』
またしてもエスパーのように彼は言う。そんなに分かりやすいだろうか。
「ま、ノート返して欲しければ僕の部屋にきてよ」
『何様なのよアンタ……まぁいいわ、引き取りついでに優しい俊ちゃんはお話も聞いてあげるわよ』
ウフフなんて笑う俊は性格がいいのか悪いのか。顔を顰めながら無言で電話は切ってやった。

トイレに行こうと部屋を出ると、智がちょうど部屋に帰ってきていた。目を見開かれ、そのまま逸らされる。気まずい。
「えっと、優…さん。これから授業ですか?」
思いがけず、彼は話しかけてくる。この時間まで寝間着の延長みたいな格好をしているんだから不思議に思ったんだろう。
でも、話し掛けてくれるって事は嫌われてないって事と考えていいのかな。
「あっ…うん。今日は体調悪いから休んでる」
「え…大丈夫ですか?ご飯食べました?」
「食べてないや。食べ損ねた」
そう言うと彼は一度部屋に戻ってパックご飯を持ち出してきた。それ、一昨日も使ってたけどいくつ持ってんだ。
「部屋で寝ててください」
すこしキツい目つきでそう言い付けると、レンジにご飯を入れ、鍋に水を張り温め始めた。何となく逆らえない剣幕だったので、部屋でうとうとしていると暫くしてノックが聞こえた。
「開いてるよ」
そう言うと、智が片手にお盆を持ちながら入って来た。
「お粥作ったんですが食べられますか?」
ベッド脇のちゃぶ台にお粥の入った深皿と麦茶が置かれる。卵と葱が散らしてあるお粥はほかほかと湯気を立てていた。
「あーありがとう…わざわざ作ってくれて」
一緒に渡してくれた蓮華でお粥を混ぜつつ、戴きますと言う。彼は黙って僕の動作を見ていた。

「美味しい…」
その声を聞いてようやく智はホッとした顔になった。
「良かったです。顔色が悪かったので食べられるか心配だったんですが…」
ゆっくりと胃に染み渡って行く優しい味に思わずニコニコしていると、彼は立ち上がって「何かあったら言ってください。しばらくは部屋にいるので」と言って部屋を出ようとした。
「ま、待って」
思わず引き止めると振り返る。何?と言いたげな顔を見て何も言うことを考えていないことに気づいた。
ただ、もう少しだけ彼の顔を見ていたかっただけ。

「あー、あの昨日の」
そう言っただけで彼はなんの事か分かったらしい。少しだけ顔が強張った。
「ごめん、つい…」
何に対しての「ごめん」だか分からない。してしまったその事自体へのごめんなのか、彼の気持ちを聞きもしないでした事へのごめんなのか。或いはその両方かも。


「ああ……気にしてませんよ。
そう答えた彼の顔は少しだけ笑ったように口角が上がっていた。


けれどその目は考えている事が何もわからない、虚ろな眼だった。
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