1日だけの奇跡(延長あり?)

桜 まさ

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1日だけの奇跡(延長あり?)

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「さてと、あと1時間で死ぬのか」

 俺はボロボロの腕時計を確認してそう口にした。

「でも、そんなに時間ぴったりなの?」

「なんかそうらしい、医者にはちょうど0時が山場だろうて言われたから、意識もなんだか薄れてきてるし」

 実際意識は薄い。ボーっとした感じや眠い感じとはまた違った全身の力が抜けてスーッと意識が飛んでいきそうな、そんな感覚がある。

「ハハッ、死んでいくってのになんだか安らかな気持ちだ。もっと焦るもんだと思ってたけどな」

「ナオキ……死んじゃうの?」

「おおっ? 会ったばかりの俺を心配してくれるのか? 俺も捨てたもんじゃないな。そうだなぁ……、驚いたり、楽しいことでも起きたら生きる気力が湧くかもな」

 俺はそう言って目を閉じた。その方が楽に逝ける気がしたから。

「じゃあ驚かせてあげる」

 そんなことをマリが言っ……

 瞬間、唇に柔らかいものが触れた。

「‼︎ お前! 何やって……!」

「驚いた?」

 ちょっ……バカ! 直視できないだろ。そんな可愛い顔で見るな。

「……そうだな、驚いたよ。それもかなり。意識なんか完全に戻っちゃったよ」

「そう……よかった」

 ほっと胸を撫で下ろしたマリのその表情は本当に引き込まれそうな愛おしさを感じさせた。





「さて、寿命も延びたことだしなんとか食い扶持を稼がないとな……」

 ふとそう呟いて。俺たちは眠りについた。





「お願いします、どうか雇ってはもらえませんか」

「お願いします」

 俺たちは2人で頼み込んだ。

 選んだのは寝床の近くにあった服飾店。

「お前らを雇う余裕なんてないし、大体なんだその格好は、そんなのでこの店の店員が務まるかよ」

 結果はわかってはいたが門前払いだ。

「今、手持ちいくらある?」

「これ、くらい」

 俺たちは互いの全財産を出し合った……それでもせいぜい千円そこそこ。

「これで安い服でも買うかな」

 それで雇ってもらえるかはわからないけど。

「私のは?」

「お前は可愛いからそのままで大丈夫だ」

「えっ?」

 顔赤くすんなよ。こっちまで照れるだろ。いや断じて金を独占したいとかじゃないからな、そこんところ勘違いしないで……

「ありがとう……」

 しなさそうだ。というか素直に喜ばれるとなんだか罪悪感が……。

「まあ、いいやとりあえず試着するから、ここで待ってろ。……覗くなよ」

「覗かないよ!」

 こいつをからかうのもちょっと面白いかな。

 俺はそう思いながら物色していたズボンを試着しようと…。

「おいおい、この店まだやってんのかよ」

 挑発的な口調でそう言ってるのが聞こえた。

「うるさい、毎度毎度来るんじゃねぇよ。俺は好きでやってんだ」





 気づいたら殴ってた。

「お、俺を殴ったらどうなるか……」

「知ったことか! 人が好きでやってることの何が悪いんだ‼︎ 明日死ぬかもしれない毎日を必死に生きてんだろうが、俺は今日死ぬ! なんだったら診断書見せてやろうかぁー!」

 自分でもめちゃくちゃ言ってる気がするがただただ言いたいことを言った。吐き捨てた。

「くそっ、覚えてやがれ!」

 へぇー、そんな三下台詞を吐く奴がまだ絶滅してなかったとは驚きだ。

「ふぅー、大丈夫か? オヤジ」

 俺はオヤジに手を伸ばすと……

「オヤジって言うな。あとお前さんカッコ良かったぜ。下履いてたらな」

 その手で局部を隠した。いやパンツは履いているのだが。

 マリはと言うとしゃがみ込んで頭を抱えている。うーん恥ずかしいのかシャイな奴め。

「マリ! 悪いけどそのズボン投げてくれ」

「もう! 早く履いてよ」

 投げるために上げたマリの顔はやっぱり赤かった。ってどこ投げてんだ。

 よく見て、もといよく見られなくて投げられなかったのかあらぬ方向にズボンが飛んでってしまった。

「悪いオヤジ! あのズボン貰うわ」

「あ、おい!」

 俺は無造作にオヤジに金を渡すと飛んでったズボンを追った。もちろんTシャツとパンツの変態の格好で。



「ふー、ようやく変態じゃあなくなれる」

「ナオキは元から変態だよ」

 おーっと辛辣なお言葉を頂きました。

「まあいい、オヤジ雇ってくれ!」

「下さい!」

 また2人で頭を下げた。まあ無理だろうけどな。

「いいぜ」

 ほらな、やっばり無理……。

「いいのか⁉︎」

「ああ、助けてもらった礼だ、あれであいつはしばらく来ないだろう」

「サンキュー、助かるわオヤジ!」

「だからオヤジって言うなって言ったろ!」

 しばらく3人で笑いあった。





「ああー、終わった終わった!」

「疲れたー」

 ようやく終業だ。慣れないことをすると疲れるもんだな。

「おう、お前さんらお疲れさん」

「おうオヤジ! ってこれは?」

「だからオヤジって言うなって……まあいいこれは今日の分の給料だ。見た所今日の飯代もなさそうなんでな。特別に日給制にしてやるよ」

「サンキュー! オヤジ!」

 やっぱり人間捨てたもんじゃないな。

「ナオキ、泣いてるの?」

「泣いてないね! 目から汗が出てるだけだからー」

「それを泣いてるって言う」

「うるさいな」

「おーい、イチャついてるとこ悪いがさすがに泊める訳にはいかないんでな帰ってくれ」

 ……っ! オヤジは何言って。

「イチャついてなんかないよ」

 あ、否定されたらされたでなんか変な気持ちに。

 ……しゃーない、寝床に帰るか。

「帰るぞ、マリ」

「うん」



「ふー、今日は疲れたなマリ」

「うん、でも楽しかった」

 満足気に笑うその顔に俺も口元が緩む。

 シュビィが嬉しそうでよかった。

 そう思った瞬間、意識が薄く……。

「ナオキ? ナオキ‼︎」

「ああ、ごめんマリ。1日延ばすのが限度だったみたいだわ」

 残念だなあ、マリの笑った顔もっと見たかった。

「ナオキは死なせない! もう一回驚かせる」

 ハハッ、あれ以上に驚くことなんてない気がするけど。期待してるよ、マリ。

 俺は目を閉じた。今度は逝くためじゃなく、驚くために、生きるために。

「ナオキの童貞……マリがもらう‼︎」

「どどどど、童貞じゃねーし! 俺18だし!けーけんほーふだし!」

「ほらっ……驚いた」

 ……! ハハッ、敵わないなぁ。また生きながらせられちまった。

「なあマリ」

「なに?」

「結婚してくれるか?」

「いや」

 …………。

「すいませんっでしたっ……童貞が調子のいいこと言って……」

 するとマリは不思議そうな顔をして。

「結婚ってただの契約。マリはナオキとずっと一緒にいたい」

「妙なとこ現実主義だなぁ。俺の結婚ってのはずっと一緒にいるってことなの!」

「そう、ならいい。じゃなかったよろしお願いします」

 そう言って笑った。

 ああもう! 可愛いなぁ!

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