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第1部 勇者と狼の王女
第15話 ジュナの春
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①
初老の男は、七三分けにした灰色の髪を何かしらの整髪剤で崩れないようにきちっと固めており、やせて頬がこけているせいか、大きなぎょろっとした目が、こちらの一挙手一投足を一つも見逃さないかのようにぎょろぎょろと動くたび…まるで、蛇のようだという印象を受けた。
口元には相手を油断させようとしているのか、常に微笑みをたたえているが、そのぎょろぎょろとした目とのギャップのせいで、ただただ異常さを感じさせる。
「勇者様、ちょっとお話をさせていただいてもいいでしょうか?」
「どちら様で?」と僕が尋ねると、初老の男が答えた。
「カタルダの大使をつとめさせていただいております。ジョヴァンニ・メディチと申します」
噂をすればなんとやら…。こんな夜中にカタルダの大使?怪しすぎる。
「カタルダの大使がこんな夜中にどんな用だい?」
「率直に申し上げまして。今、大森林で黒狼族とデミエルフのいざこざが起きております。勇者様につきましては、こちらの争いには介入しないでいただきたい」
「はぁ?」
「考えていただきたい。ご自身の影響力を。あなたのお力は、等しく人類に平等に益をもたらすように使われなくてはなりません。でなければ、世界の均衡が崩れます」
「はぁ」
「こちらの王国に終の棲家を構えられた時点で、世界のパワーバランスは王国に傾いたのです。世界がこの国を脅威としてみなす可能性がある中、勇者様が片方の陣営に肩入れされるようなことが確認されれば、次は自分の敵になるかもしれないと思った国々は、富国強兵へ突き進むでしょうな。その緊張はいずれ破滅をもたらせます」
「僕は魔王を倒した時点で、自分の役目は終わったと考えている」
「勇者様がそうご自身で考えられているとしても、周りはそう見ることはありますまい」
「デミエルフはカタルダに居を構えているが、これは貴国の侵略行為と見て構わないのか?」
「大森林の黒狼族は、自分たちが森を支配するものとして考えているようですが、大森林は誰のものでもありません。また、黒狼族も王権制をとる一つの国家として、一族は捉えているようですが…。そもそも、世界は黒狼族の国を、正式な国家として認めていません」
「ほぉ」
「世界から見れば、誰のものでもない大森林に我が国に違法に居座る一民族が立ち入ったに過ぎません」
「なるほど。デミエルフは貴国の国民ではないと?」
「権利の主張ばかりで何もなさない…愚かな難民たちです。我々も手を焼いております…」
そう言って、馬鹿にするように口元をゆがめた。
「今宵はもう遅いですので、また明朝に伺います。もし、我々が家に伺った際にあなたが家におりませんなんだら…国同士のとても面倒なことになる…そうご覚悟ください」
そう言って、二人の男は去っていった。
なんだか、わざわざ答え合わせに来てくれたようだ。
デミエルフの後ろにカタルダという国がいる。
カタルダが、難民を追い払いたいという理由だけでけしかけているとは思えないが、何か得なことが彼らにあるらしい。この勇者を敵にまわしても。
「もしかしたら、カタルダは大森林を自分のものにして開発したいのかもしれません」
後ろで聞いていたメーシェが口を開く。
「つまり…」
「はい。この侵攻に失敗したら、デミエルフの暴走で自分たちのせいではない。成功したら、デミエルフの国を成立させて、裏であやつり、大森林を開発する…。カタルダは商業が盛んな国家です。恐らく、大森林のせいで迂回させられている貿易路を直線に引き直したいのでしょう…」
「ふむ…」
「旦那様…」
マリーが不安そうに僕を見つめる。
②
ジョヴァンニと小太りの中年が、勇者の家から急ぎ足でツカツカと町の中心部にある冒険者ギルドへ向かって歩いて行く。
「全く…!デミエルフ共が!予定より早いではないか!お陰で雑な対応をさせられる…!」
ジョヴァンニが勇者に見せた態度とは一変させ、全く余裕がないかのようにイライラとしながら言葉を吐き捨てる。
それを聞いた小太りの中年が、諫めるようにジョヴァンニに言った。
「大きな力を手に入れた途端…はしゃいでしまったのでしょうな…直情的で愚かな民族です。魔族の血が入っているというのは本当なのでしょう。力を過信して恐れることをしらない阿呆です」
「ロレンツォは、勇者が家を出ないか見張っておけ。何かわめいても、最悪戦争になるぞ!と脅してやれ。私は、このままギルドで話をつけにいく」
「かしこまりました…」
ロレンツォと別れたジョヴァンニは、そのまま冒険者ギルドへ歩いて行く。
ポケットに入れた懐中時計を取り出して時間をちらりと見ると、夜中の10時を指していた。
「魔神を発生させたのが、そもそも早すぎたのだ。デミエルフ共め。なぜこんな時間に森へ入った。ろくに夜目も効かぬだろうに」
ジョヴァンニがそう呟くと、闇の中から音もなく黒いローブを着た、狐目のひょろっとした男が現れて言った。
「彼らなりに考えて…昼間より夜の方がまだまともに戦えると思ったんだろうねぇ。昼の方がぼっこぼこにされちゃうと…くくく。まぁ、でもとっておきも持たせたし、多少は頑張るとは思うけどねぇ。あぁ、いやだいやだ。鬱屈したやつらが力を持つと、オモチャで早く遊びたい子供のようになっちゃう」
「アレクか。いいか?最悪、デミエルフだけでも処理しろ。森も手に入らず、デミエルフも消えぬとあれば、なんのために魔神の素体を渡したのかわからぬ」
「はーい。りょうーかーい」
アレクがふざけたように返事するとそのまま闇の中に消えていった。
③
魔神イフリータから続々と炎の精霊が射出され、それぞれの精霊が火球を作り出し、こちらに投げつけてくるのを、涼しい顔でリーヴは避けながら、超圧縮された氷の魔法で撃ちぬいていく。
「うーん。これだけ撃っても、弱ってる感じがしないなぁ。変な魔人」
炎の精霊の集合体に見受けられる魔神イフリータから、自身の身を削る行為であろう炎の精霊の分離・射出がいくら行われても、リーヴの氷魔法が突き刺さっても、弱るどころか、魔力が減衰している様子が見て取れないことに、リーヴは違和感を感じる。
「普通の魔神ではないのか?」
ちらりと地面に目をやると、助けた忍びがよろよろとバランスを崩しながら、向かってくる炎の精霊に対抗していた。
「おっと」
リーヴは急降下して、忍びを抱きしめるとそのまま上空へ急上昇し忍びに向かってきていた精霊を振り払う。
「すまない…」
「んあ?」
「我々の戦いなのに、巻き込んでしまった。申し訳ない」
「なーに、男が女を助けるのに理由なんていらないさ」
「…私を女扱いする人は、あなたが初めてだ…」
「はぁ?どっからどう見ても女だろ?」
「…こんな傷だらけでゴツゴツした女。何の魅力もあるまい…」
謙遜していっているわけではなかった。マリー姫様のようにスレンダーというわけでもなく、体格こそ女のようではあるが、腰つきは武骨でお尻が大きいわけでもなく、胸もどちらかといえば小さい方だ。今までの訓練や実戦で受けた傷は、体中にあるし、顔にだって火傷跡や皮がめくれたようなまま固まって治ってしまったものもある。
どんな男がこんな女に惚れてくれるというのか。一種のコンプレックスになっていた。
「なぜそうなる?俺から見たら、お前はとびきり良い女だ。芯のある力強い瞳、なによりしなやかに火球を避けるあの動きは舞踏を踊っているようで、気品に溢れ、それでいながら仲間を想う慈愛に満ちている。」
「はぁ?」
「俺は気に入った女を幸せにする義務がある。とりあえず、名前を聞いていいかい?俺はリーヴ。こんなんでも魔王を倒したパーティにいた魔法使いだ」
「リーヴ…殿…。救世の大魔法使い殿にお目にかかれるとは…勇者様といい、最近は自分の身に信じられないことがおきすぎている…」
「おぉ、ソラと知り合いなのか。そりゃ、なおさら助けてよかった。それで名前は?」
「…ジュナという…。似合わない名前だろう?」
「なんで?ぴったりだろう。優し気で芯のある女にぴったりの名前だ」
「そうだろうか?そう言われたの初めてだ。…すまない、この借りは必ず返す…」
「なぁ?ジュナ。ジュナには恋人はいるのか?結婚してる?」
「…自分につがいはいない。この身は王家に捧げている…」
「そうか。では、早速借りを返してもらおう」
「はぁ?…んっ」
ジュナが「何を言っているんだ?」と言おうとしたところで、リーヴの唇で口をふさがれてしまった。
突然のことで、何がなんだかわからないジュナ。
ただ、人生で初めて男に口づけされたということだけハッキリとわかって、段々と顔の熱が上がっていくのを感じた。
「ちょ!リーヴ殿!?」
「これで、貸し借りなしだ。俺は女に何かを背負わせるなんてことはしたくない。それに負い目がある状態で口説くのはフェアじゃないしな」
「はぁ?」
「気に入ったから、俺と付き合ってくれよ。ジュナ」
「はぁ?!?」
あまりの衝撃に、ジュナはわたわたと身体を動かすが、リーヴにぎゅっと抱きしめられて。
「おいおい。暴れるな。空飛んでるんだぞ?落っことしていいのか!?」
「えっ…あっ…はい」
自分とは違い、女と見間違うような綺麗な整った顔に、いきなり唇を奪われた興奮と混乱、そして身体を離したくても空中にいるためそれもできない動揺は、恋のドキドキと錯覚させられ、そして、先ほど見た強大な魔法の力を見せつけられて、強さこそ全てだという一族の女に一応生まれた自分が、強烈にこの男に惹かれているのを自覚させられる。
ふと下を見ると、自分たちの住んでいる大森林を生まれて初めて空から眺めることができた。
上から見た大森林はなんだか、知っている森とは違った印象を受ける。
デミエルフが光源としてつかっているであろう光球が、数えきれないほど南から自分たちの城の方へ伸びていこうとしているのが見えた。
追いかけてくる炎の精霊を、リーヴの周りに発生した氷の塊が目にもとまらぬ速さで貫いていく。
ジュナは、自分を抱きしめながら空を飛んでいるのに、こんな芸当ができるなんて…と、まるで絵本の英雄物語の中に自分がいるかのように感じた。
「ちょっとぉ。そんな醜い女より、私と遊ぼうよぉ♪」
突然空を飛んでいる自分たちより、更に上から幼いような女の声が聞こえてきたかと思ったら、赤黒い光線が幾重も振ってきた。
すかさず、リーヴも圧縮した氷魔法の光線で撃ち落としていく。
「結構良い腕じゃん。どちらのお嬢様かな?」
「プトーネ。あなたに口説かれたい…熱烈なファンよ♪」
真っ白いふわふわとしたミディアムヘアーに、12歳~14歳程度に見える体格の女性が黒いひらひらとしたドレス…勇者ならきっとゴスロリと表現したであろう、それに身を包んで、勝ち気そうな表情でニヤニヤと笑っていた。
初老の男は、七三分けにした灰色の髪を何かしらの整髪剤で崩れないようにきちっと固めており、やせて頬がこけているせいか、大きなぎょろっとした目が、こちらの一挙手一投足を一つも見逃さないかのようにぎょろぎょろと動くたび…まるで、蛇のようだという印象を受けた。
口元には相手を油断させようとしているのか、常に微笑みをたたえているが、そのぎょろぎょろとした目とのギャップのせいで、ただただ異常さを感じさせる。
「勇者様、ちょっとお話をさせていただいてもいいでしょうか?」
「どちら様で?」と僕が尋ねると、初老の男が答えた。
「カタルダの大使をつとめさせていただいております。ジョヴァンニ・メディチと申します」
噂をすればなんとやら…。こんな夜中にカタルダの大使?怪しすぎる。
「カタルダの大使がこんな夜中にどんな用だい?」
「率直に申し上げまして。今、大森林で黒狼族とデミエルフのいざこざが起きております。勇者様につきましては、こちらの争いには介入しないでいただきたい」
「はぁ?」
「考えていただきたい。ご自身の影響力を。あなたのお力は、等しく人類に平等に益をもたらすように使われなくてはなりません。でなければ、世界の均衡が崩れます」
「はぁ」
「こちらの王国に終の棲家を構えられた時点で、世界のパワーバランスは王国に傾いたのです。世界がこの国を脅威としてみなす可能性がある中、勇者様が片方の陣営に肩入れされるようなことが確認されれば、次は自分の敵になるかもしれないと思った国々は、富国強兵へ突き進むでしょうな。その緊張はいずれ破滅をもたらせます」
「僕は魔王を倒した時点で、自分の役目は終わったと考えている」
「勇者様がそうご自身で考えられているとしても、周りはそう見ることはありますまい」
「デミエルフはカタルダに居を構えているが、これは貴国の侵略行為と見て構わないのか?」
「大森林の黒狼族は、自分たちが森を支配するものとして考えているようですが、大森林は誰のものでもありません。また、黒狼族も王権制をとる一つの国家として、一族は捉えているようですが…。そもそも、世界は黒狼族の国を、正式な国家として認めていません」
「ほぉ」
「世界から見れば、誰のものでもない大森林に我が国に違法に居座る一民族が立ち入ったに過ぎません」
「なるほど。デミエルフは貴国の国民ではないと?」
「権利の主張ばかりで何もなさない…愚かな難民たちです。我々も手を焼いております…」
そう言って、馬鹿にするように口元をゆがめた。
「今宵はもう遅いですので、また明朝に伺います。もし、我々が家に伺った際にあなたが家におりませんなんだら…国同士のとても面倒なことになる…そうご覚悟ください」
そう言って、二人の男は去っていった。
なんだか、わざわざ答え合わせに来てくれたようだ。
デミエルフの後ろにカタルダという国がいる。
カタルダが、難民を追い払いたいという理由だけでけしかけているとは思えないが、何か得なことが彼らにあるらしい。この勇者を敵にまわしても。
「もしかしたら、カタルダは大森林を自分のものにして開発したいのかもしれません」
後ろで聞いていたメーシェが口を開く。
「つまり…」
「はい。この侵攻に失敗したら、デミエルフの暴走で自分たちのせいではない。成功したら、デミエルフの国を成立させて、裏であやつり、大森林を開発する…。カタルダは商業が盛んな国家です。恐らく、大森林のせいで迂回させられている貿易路を直線に引き直したいのでしょう…」
「ふむ…」
「旦那様…」
マリーが不安そうに僕を見つめる。
②
ジョヴァンニと小太りの中年が、勇者の家から急ぎ足でツカツカと町の中心部にある冒険者ギルドへ向かって歩いて行く。
「全く…!デミエルフ共が!予定より早いではないか!お陰で雑な対応をさせられる…!」
ジョヴァンニが勇者に見せた態度とは一変させ、全く余裕がないかのようにイライラとしながら言葉を吐き捨てる。
それを聞いた小太りの中年が、諫めるようにジョヴァンニに言った。
「大きな力を手に入れた途端…はしゃいでしまったのでしょうな…直情的で愚かな民族です。魔族の血が入っているというのは本当なのでしょう。力を過信して恐れることをしらない阿呆です」
「ロレンツォは、勇者が家を出ないか見張っておけ。何かわめいても、最悪戦争になるぞ!と脅してやれ。私は、このままギルドで話をつけにいく」
「かしこまりました…」
ロレンツォと別れたジョヴァンニは、そのまま冒険者ギルドへ歩いて行く。
ポケットに入れた懐中時計を取り出して時間をちらりと見ると、夜中の10時を指していた。
「魔神を発生させたのが、そもそも早すぎたのだ。デミエルフ共め。なぜこんな時間に森へ入った。ろくに夜目も効かぬだろうに」
ジョヴァンニがそう呟くと、闇の中から音もなく黒いローブを着た、狐目のひょろっとした男が現れて言った。
「彼らなりに考えて…昼間より夜の方がまだまともに戦えると思ったんだろうねぇ。昼の方がぼっこぼこにされちゃうと…くくく。まぁ、でもとっておきも持たせたし、多少は頑張るとは思うけどねぇ。あぁ、いやだいやだ。鬱屈したやつらが力を持つと、オモチャで早く遊びたい子供のようになっちゃう」
「アレクか。いいか?最悪、デミエルフだけでも処理しろ。森も手に入らず、デミエルフも消えぬとあれば、なんのために魔神の素体を渡したのかわからぬ」
「はーい。りょうーかーい」
アレクがふざけたように返事するとそのまま闇の中に消えていった。
③
魔神イフリータから続々と炎の精霊が射出され、それぞれの精霊が火球を作り出し、こちらに投げつけてくるのを、涼しい顔でリーヴは避けながら、超圧縮された氷の魔法で撃ちぬいていく。
「うーん。これだけ撃っても、弱ってる感じがしないなぁ。変な魔人」
炎の精霊の集合体に見受けられる魔神イフリータから、自身の身を削る行為であろう炎の精霊の分離・射出がいくら行われても、リーヴの氷魔法が突き刺さっても、弱るどころか、魔力が減衰している様子が見て取れないことに、リーヴは違和感を感じる。
「普通の魔神ではないのか?」
ちらりと地面に目をやると、助けた忍びがよろよろとバランスを崩しながら、向かってくる炎の精霊に対抗していた。
「おっと」
リーヴは急降下して、忍びを抱きしめるとそのまま上空へ急上昇し忍びに向かってきていた精霊を振り払う。
「すまない…」
「んあ?」
「我々の戦いなのに、巻き込んでしまった。申し訳ない」
「なーに、男が女を助けるのに理由なんていらないさ」
「…私を女扱いする人は、あなたが初めてだ…」
「はぁ?どっからどう見ても女だろ?」
「…こんな傷だらけでゴツゴツした女。何の魅力もあるまい…」
謙遜していっているわけではなかった。マリー姫様のようにスレンダーというわけでもなく、体格こそ女のようではあるが、腰つきは武骨でお尻が大きいわけでもなく、胸もどちらかといえば小さい方だ。今までの訓練や実戦で受けた傷は、体中にあるし、顔にだって火傷跡や皮がめくれたようなまま固まって治ってしまったものもある。
どんな男がこんな女に惚れてくれるというのか。一種のコンプレックスになっていた。
「なぜそうなる?俺から見たら、お前はとびきり良い女だ。芯のある力強い瞳、なによりしなやかに火球を避けるあの動きは舞踏を踊っているようで、気品に溢れ、それでいながら仲間を想う慈愛に満ちている。」
「はぁ?」
「俺は気に入った女を幸せにする義務がある。とりあえず、名前を聞いていいかい?俺はリーヴ。こんなんでも魔王を倒したパーティにいた魔法使いだ」
「リーヴ…殿…。救世の大魔法使い殿にお目にかかれるとは…勇者様といい、最近は自分の身に信じられないことがおきすぎている…」
「おぉ、ソラと知り合いなのか。そりゃ、なおさら助けてよかった。それで名前は?」
「…ジュナという…。似合わない名前だろう?」
「なんで?ぴったりだろう。優し気で芯のある女にぴったりの名前だ」
「そうだろうか?そう言われたの初めてだ。…すまない、この借りは必ず返す…」
「なぁ?ジュナ。ジュナには恋人はいるのか?結婚してる?」
「…自分につがいはいない。この身は王家に捧げている…」
「そうか。では、早速借りを返してもらおう」
「はぁ?…んっ」
ジュナが「何を言っているんだ?」と言おうとしたところで、リーヴの唇で口をふさがれてしまった。
突然のことで、何がなんだかわからないジュナ。
ただ、人生で初めて男に口づけされたということだけハッキリとわかって、段々と顔の熱が上がっていくのを感じた。
「ちょ!リーヴ殿!?」
「これで、貸し借りなしだ。俺は女に何かを背負わせるなんてことはしたくない。それに負い目がある状態で口説くのはフェアじゃないしな」
「はぁ?」
「気に入ったから、俺と付き合ってくれよ。ジュナ」
「はぁ?!?」
あまりの衝撃に、ジュナはわたわたと身体を動かすが、リーヴにぎゅっと抱きしめられて。
「おいおい。暴れるな。空飛んでるんだぞ?落っことしていいのか!?」
「えっ…あっ…はい」
自分とは違い、女と見間違うような綺麗な整った顔に、いきなり唇を奪われた興奮と混乱、そして身体を離したくても空中にいるためそれもできない動揺は、恋のドキドキと錯覚させられ、そして、先ほど見た強大な魔法の力を見せつけられて、強さこそ全てだという一族の女に一応生まれた自分が、強烈にこの男に惹かれているのを自覚させられる。
ふと下を見ると、自分たちの住んでいる大森林を生まれて初めて空から眺めることができた。
上から見た大森林はなんだか、知っている森とは違った印象を受ける。
デミエルフが光源としてつかっているであろう光球が、数えきれないほど南から自分たちの城の方へ伸びていこうとしているのが見えた。
追いかけてくる炎の精霊を、リーヴの周りに発生した氷の塊が目にもとまらぬ速さで貫いていく。
ジュナは、自分を抱きしめながら空を飛んでいるのに、こんな芸当ができるなんて…と、まるで絵本の英雄物語の中に自分がいるかのように感じた。
「ちょっとぉ。そんな醜い女より、私と遊ぼうよぉ♪」
突然空を飛んでいる自分たちより、更に上から幼いような女の声が聞こえてきたかと思ったら、赤黒い光線が幾重も振ってきた。
すかさず、リーヴも圧縮した氷魔法の光線で撃ち落としていく。
「結構良い腕じゃん。どちらのお嬢様かな?」
「プトーネ。あなたに口説かれたい…熱烈なファンよ♪」
真っ白いふわふわとしたミディアムヘアーに、12歳~14歳程度に見える体格の女性が黒いひらひらとしたドレス…勇者ならきっとゴスロリと表現したであろう、それに身を包んで、勝ち気そうな表情でニヤニヤと笑っていた。
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