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第1部 勇者と狼の王女
第18話 笑って死ぬ日
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①
突撃と後退を繰り返し、デミエルフの軍勢の数を確実に減らしていく黒狼族の戦士達。
その様子を遠く空の上から見ていた、狐目の男アレク。
「あーあ、これはあっさり瓦解しちゃうなぁ。魔王を倒した魔法使いがいるし…なんか、プトーネと互角以上の女騎士はいるし…。うん、ゲームオーバーだね。それじゃあ、敗戦処理しますか…ごめんねぇ。難民は処理しろって言われてるからさっ」
アレクが手を虚空にかざし、魔力をこめると…。
「旦那!デミエルフの様子が変だぜ!」
熟練の戦士の忠告に、ケルルトが敵を斬り払いながら目を凝らすと、デミエルフ達の動きが止まりがたがたと身体を震わせている。
腰にマウントされた円柱状の何かから管のようなものが体にささっていて、禍々しい魔力の波を放っていた。
「連中…あれで魔力を補給していたのか…。通りで魔法が絶えないと思ったわ!」
しかし、震えていたデミエルフの肌が急に赤黒くなったかと思うと、その身体を大きく膨らませ、血を吐きながら、背中から複数のトゲを生やす。まるで、鬼…もしくは悪魔のような姿に変貌したデミエルフ達。
「なんだと!?」
「変貌した!?」
一斉に襲い掛かってくる悪魔の姿となったデミエルフ達は、目を赤く輝かせ、狂ったように雄たけびを上げながら、威力が上がった魔法を乱発してくる。
デミエルフ達に対しては優勢だった黒狼族の戦士達が次第に押され始める。
「旦那ぁ!」
ケルルトに襲い掛かるデミエルフもとい、複数のデーモンを、熟練の戦士達が戦斧で両断していく。
「何が起こったんだぁ!?あいつら魔族の血が混じっているって本当だったのか!?」
「わからん!しかし、魔神も近づいてきてしまった…。後退しながら様子を見るぞ!」
どうするべきか…何が正解…何が最適なのか…。
激しい火炎魔法の嵐にじりじりと押されはじめ、どれくらい戦い続けたのか…気づけば城まで残り10㎞というところまで押されていた。
ケルルトに焦りの汗がじわじわと湧いてくる。
そんなとき――。
『うぉぉおおおぉおおおおんん!』
仲間の遠吠えが遠くから聞こえてくる。
「旦那ぁ!」
「あぁ…勇者殿が…来た…。マリーも…」
「はっはっは!旦那の想いは通じませなんだなぁ!おい!ゲッツァ!」と中老の傷だらけの戦士がゲッツァを呼ぶ。
「どうした爺さん?」
「若い者を、いや、熟練の戦士どももだ!全員後退させろ!殿はわしらがやる!」
「まて!爺さん!早まるな!孫も見せたいんだ!」
「ばかやろぉ!そのためだろうが!くそばかこらぁ!勇者殿と姫さんがつがいになられた…新しい時代の始まりよぉ!その孫のためにやるんだろうがぁ!ばかこら!おい!死に損ない共!前に出ろ!」
魔神戦のために力を温存していた中老の戦士達が、わらわらと前に出てくる。
皆、全身をすっぽり覆う銀色のプレートアーマーに身を包み、大きな戦斧を持っていたり、大盾を持っていたり、獲物は様々だ。
「おい…お前たち」
「当初の予定通りですよ!旦那ぁ!俺達が魔神係だ。時間を稼いでる間に後退してくだせぇ。勇者殿に繋ぐんですよ!」
「いやはや、リッチーとの戦いも楽しかったが、まさか魔神とも戦えるとはなぁ。女神様も最期にイキな贈り物をしてくださる」
「はっはっは。今日は笑って死ねそうですぞぉ」
口々に軽口を叩き合いながら、前に進んで行く中老の戦士達。
「旦那ぁ!いっちょ号令頼みますわぁ!」
ケルルトはぐっと一瞬目をつぶると、かっと目を見開いて叫んだ。
「エルダーウオーリアー部隊は、魔神に突撃せよ!ゲッツァの部隊は変貌したデミエルフ達を迎撃しつつ、部隊の後退を援護しろ」
「いっくぜぇえ!野郎どもおぉおお!」
号令を聞いた老練な中老の戦士達が、50人ほど前に走っていく。
ケルルトがまだ若い新人だったころに世話をしてくれた人たちも混じっている。
彼らの背を見て、自分は育った。
戦いの非情さも、仲間同士の暖かさも、次世代の育て方も…戦いに関する何かもを教えてくれた背が…。
徐々に自分から離れていく。
大きな背中を、じわりと潤む瞳から涙がこぼれないようにぐっと堪えながら見送ると、ケルルトは転身した。
②
「はっはっは!魔神よ!我が雄姿をその眼に刻めぇ!」
50人の中老の戦士達が、一斉に突撃し、向かってくるデーモンを、そして炎の精霊たちを両断していく。
理性を失ったデーモンなど恐れるに足りない。
炎の精霊の魔法も、なんとか身を躱しながら時には飛び跳ねて精霊を斬り払っていく。
ミスリル製の戦斧が、剣が、槍が…熟練の戦士たちの無自覚に使う魔力の膜で大きく効果を上げていく。
両断されて地面に横たわったデーモンの死体に足を取られて、うまく動けない他のデーモンは嵐のように襲い来る中老の戦士達に斬り刻まれ、地面を赤く染めていく。
『愚かな…。無駄死にだ…』
魔神イフリータが、深く息を吸い込んでから吐き出すと、これまでにない熱量の炎のブレスが戦士達に襲い掛かる。
それを、大盾を持った戦士10人程が前に出て、炎のブレスを大盾で防いだ。
しかし、どんなに効果がアップされているとはいえ、魔神イフリータの本気のブレスは、徐々に大盾を溶かし始める。
「おい!こら!先に逝くぞぉ!」
大盾を持った戦士が叫ぶと、やがて大盾は溶け切って、全身鎧も溶かし始める。
徐々に身体を炭化させながら、それでもニヤリと笑い、握り拳に親指を突き立てる。
10人のうち、5人の大盾を持った戦士が溶かされ、燃やされ、地面に跪きながらも、大盾に助けられた他の戦士達が一斉に突撃していく。
『正気か?』
さすがに息がもたなかったイフリータは、それでもなお突撃してくる戦士達に恐怖のようなものを感じながら、炎の精霊たちを無数に射出する。射出された炎の精霊たちが、中老の戦士達に群がり火球をぶつけていくが、ミスリル製の武具で斬り払い、時に跳ねて避けて、前へ前へと進んで行く。
1人の中老の戦士が、火球の爆発で体制を崩して、膝をつく。
それを機とみたデーモンたちが、一斉に膝をついた戦士達に群がって炎の魔法で焼いていくが、戦士は他の仲間たちに「かまうな」と手で払う合図をして、魔神をまっすぐ指さした。
その姿を見て、こくりと静かにうなずき突撃していく戦士達。
焼かれながらも、精一杯生きて、駆け抜けるような人生だったことに幸福を感じながら…最期は、勇者と姫の結婚式の様子を思い浮かべて果てた。
魔神に到達し始めた他の戦士達が、そのトゲトゲとした赤黒い鱗に一撃を加え、喉元に剣を突き立てようとし、足の恐ろし気に尖った爪を折ろうとして戦斧を叩きつけて…。
息を吹き返したイフリータの炎のブレスに焼かれて溶かされていく…。
しかし、皆、鎧の中で満面の笑みを浮かべ散っていった。
怖くないといえば嘘になる。
どんなに経験を積み重ねても、どんなに戦いが楽しくても、どんなに歳を重ねても…。
死の恐怖からは逃れられない。
しかし、自分が命を使って守った者たちが、新しい時代を築いていってくれる…無駄死にすることもある戦いの中で、決して無駄死にじゃないこの最期は、嬉しくて仕方がなかった。
(命を奪ったのだ…。奪われて当然よ…。未来に繋がる散りざまで…これが嬉しくないなんて嘘だ!)
ケルルトに号令をせがんだ戦士が、下半身を溶かされ、上半身が天を仰ぐように地面に転がる。
彼が最期に見たものは、きらきらと輝く星々の夜空に、いくつもの精霊を引き連れて戦う女騎士。
しかし、その女騎士に結婚式で見た勇者の姿が自然と重なる…。
(勇者殿…姫様を頼みましたぞ…)
名もない戦士の瞳から光が消えた。
③
どれくらいの時間が経っただろうか。
50人はいた中老の戦士達は、気が付けば10人を下回っていた。
生き残った戦士達は、地面に転がったかつての仲間の得物を、デーモンや炎の精霊に投げつけながら果敢に戦っている。
無駄ではない。
これは無駄死にではない。
繋ぐのだ…。
勇者殿に…。
未来に…。
『いい加減にしないか!!雑兵共がぁ!!!』
苛立つイフリータが、尻尾を振り回し、近づいてくる戦士をデーモンごと吹き飛ばし、身体にとりついた戦士を炎の精霊に焼かせて…。それでもなお、突撃してくる戦士に渾身の炎のブレスを吐きつける。
『なんだこいつらは!?怖くないのか!?この我が!?我は魔神イフリータだぞ!?この地で…』
そこまで言ったところで疑問にぶつかるイフリータ。
『我は…どこで生まれたのだ?妻を取り返す…そのはずが…妻とはどこで出逢った?妻の顔はどんなだった?』
「哀れだな…。戦う意味もわからぬ獣というものは」
気が付けば、残り一人となってしまった中老の戦士。
『なんだと!?』
憤ったイフリータが、炎のブレスを吐きかける。
もはや、一歩も動けないくらい消耗していた戦士は、破損していた兜を地面に投げ捨てると、ぎらぎらとした瞳をイフリータに向けながらにやりと笑った。
傷だらけで深いしわが刻み込まれたその顔に光る、美しい宝石のような青い瞳がまっすぐとイフリータを見据えている。
炎のブレスが彼に届き、身体を溶かすように焼いたとき…。
「うぉぉおおおおお!!!」
町の戦士達が後退し始めていた黒狼族に合流し、デーモンたちの迎撃を始めた。
「おいおい!やっぱり魔王軍の残党じゃないのか!?」
「黒狼族のみなさ~ん。助太刀にきましたよ~」
「光の盾を展開できる奴は、前方に展開しろ!」
到着早々に黒狼族を援護する町の戦士達。
「はぁっはぁ…しぬぅ。しぬぅ。こんなにバフ魔法をかけさせられて…わし、死んじゃう…」
相変わらず、山賊と見紛う格好の大男の肩に担がれながら、必死に町の戦士達に、黒狼族の戦士達にバフ魔法をかける牧師。
森の入り口からずっとかけ続け、進軍速度を異常に早めた町の戦士達。しかし、牧師はもう早くも瀕死だ。
「もうちょっと踏ん張んなよ!」
そう言って、懐からマジックポーションを取り出し牧師の口に突っ込む小麦色の肌が眩しい美しい僧侶。そして、その僧侶自身も周りの戦士達にバフ魔法や回復魔法をかけ続ける。
「がんばったら、後でご褒美あげるからね」
牧師はその大きな胸に目を引き寄せられながら、
「はいぃいいい」
と満面の笑みで、周りに必死にバフ魔法や回復魔法をかけ続けた。
後退し魔神から距離をとった地点で、ケルルトの軍団が町の戦士たちの援護を受けて、押されかけていた戦線を拮抗させるまでに押し戻す。
魔神から飛んでくる炎の精霊たちからの攻撃も、光の盾で防ぎ、魔力を纏わせた矢や剣戟で、氷の魔法で、少しづつ撃破していき被害を減らしていく。
町の人間たちと、森の黒狼族たち、2年前に共同戦線を張ったことがあったためか、それとも同じ戦士の心を持っているためか、長年連れ添った仲間のように、息がぴたりと合い、呼吸をするかのように連携していく。
「旦那様ぁ!雑魚はお任せくださいぃ!」
全身をミスリル製のフルプレートアーマーに身を包んだマリーが、重たい鎧など着ていないかのように飛び跳ね、デーモンに食らいつき、ロングソードで身体を両断したり、首をはねたり、籠手で顔が潰れるまで殴ったりして迎撃している。
やがて、夜空から眩い光が放たれたかと思うと、大きな魔法陣が空中に描かれた。
突撃と後退を繰り返し、デミエルフの軍勢の数を確実に減らしていく黒狼族の戦士達。
その様子を遠く空の上から見ていた、狐目の男アレク。
「あーあ、これはあっさり瓦解しちゃうなぁ。魔王を倒した魔法使いがいるし…なんか、プトーネと互角以上の女騎士はいるし…。うん、ゲームオーバーだね。それじゃあ、敗戦処理しますか…ごめんねぇ。難民は処理しろって言われてるからさっ」
アレクが手を虚空にかざし、魔力をこめると…。
「旦那!デミエルフの様子が変だぜ!」
熟練の戦士の忠告に、ケルルトが敵を斬り払いながら目を凝らすと、デミエルフ達の動きが止まりがたがたと身体を震わせている。
腰にマウントされた円柱状の何かから管のようなものが体にささっていて、禍々しい魔力の波を放っていた。
「連中…あれで魔力を補給していたのか…。通りで魔法が絶えないと思ったわ!」
しかし、震えていたデミエルフの肌が急に赤黒くなったかと思うと、その身体を大きく膨らませ、血を吐きながら、背中から複数のトゲを生やす。まるで、鬼…もしくは悪魔のような姿に変貌したデミエルフ達。
「なんだと!?」
「変貌した!?」
一斉に襲い掛かってくる悪魔の姿となったデミエルフ達は、目を赤く輝かせ、狂ったように雄たけびを上げながら、威力が上がった魔法を乱発してくる。
デミエルフ達に対しては優勢だった黒狼族の戦士達が次第に押され始める。
「旦那ぁ!」
ケルルトに襲い掛かるデミエルフもとい、複数のデーモンを、熟練の戦士達が戦斧で両断していく。
「何が起こったんだぁ!?あいつら魔族の血が混じっているって本当だったのか!?」
「わからん!しかし、魔神も近づいてきてしまった…。後退しながら様子を見るぞ!」
どうするべきか…何が正解…何が最適なのか…。
激しい火炎魔法の嵐にじりじりと押されはじめ、どれくらい戦い続けたのか…気づけば城まで残り10㎞というところまで押されていた。
ケルルトに焦りの汗がじわじわと湧いてくる。
そんなとき――。
『うぉぉおおおぉおおおおんん!』
仲間の遠吠えが遠くから聞こえてくる。
「旦那ぁ!」
「あぁ…勇者殿が…来た…。マリーも…」
「はっはっは!旦那の想いは通じませなんだなぁ!おい!ゲッツァ!」と中老の傷だらけの戦士がゲッツァを呼ぶ。
「どうした爺さん?」
「若い者を、いや、熟練の戦士どももだ!全員後退させろ!殿はわしらがやる!」
「まて!爺さん!早まるな!孫も見せたいんだ!」
「ばかやろぉ!そのためだろうが!くそばかこらぁ!勇者殿と姫さんがつがいになられた…新しい時代の始まりよぉ!その孫のためにやるんだろうがぁ!ばかこら!おい!死に損ない共!前に出ろ!」
魔神戦のために力を温存していた中老の戦士達が、わらわらと前に出てくる。
皆、全身をすっぽり覆う銀色のプレートアーマーに身を包み、大きな戦斧を持っていたり、大盾を持っていたり、獲物は様々だ。
「おい…お前たち」
「当初の予定通りですよ!旦那ぁ!俺達が魔神係だ。時間を稼いでる間に後退してくだせぇ。勇者殿に繋ぐんですよ!」
「いやはや、リッチーとの戦いも楽しかったが、まさか魔神とも戦えるとはなぁ。女神様も最期にイキな贈り物をしてくださる」
「はっはっは。今日は笑って死ねそうですぞぉ」
口々に軽口を叩き合いながら、前に進んで行く中老の戦士達。
「旦那ぁ!いっちょ号令頼みますわぁ!」
ケルルトはぐっと一瞬目をつぶると、かっと目を見開いて叫んだ。
「エルダーウオーリアー部隊は、魔神に突撃せよ!ゲッツァの部隊は変貌したデミエルフ達を迎撃しつつ、部隊の後退を援護しろ」
「いっくぜぇえ!野郎どもおぉおお!」
号令を聞いた老練な中老の戦士達が、50人ほど前に走っていく。
ケルルトがまだ若い新人だったころに世話をしてくれた人たちも混じっている。
彼らの背を見て、自分は育った。
戦いの非情さも、仲間同士の暖かさも、次世代の育て方も…戦いに関する何かもを教えてくれた背が…。
徐々に自分から離れていく。
大きな背中を、じわりと潤む瞳から涙がこぼれないようにぐっと堪えながら見送ると、ケルルトは転身した。
②
「はっはっは!魔神よ!我が雄姿をその眼に刻めぇ!」
50人の中老の戦士達が、一斉に突撃し、向かってくるデーモンを、そして炎の精霊たちを両断していく。
理性を失ったデーモンなど恐れるに足りない。
炎の精霊の魔法も、なんとか身を躱しながら時には飛び跳ねて精霊を斬り払っていく。
ミスリル製の戦斧が、剣が、槍が…熟練の戦士たちの無自覚に使う魔力の膜で大きく効果を上げていく。
両断されて地面に横たわったデーモンの死体に足を取られて、うまく動けない他のデーモンは嵐のように襲い来る中老の戦士達に斬り刻まれ、地面を赤く染めていく。
『愚かな…。無駄死にだ…』
魔神イフリータが、深く息を吸い込んでから吐き出すと、これまでにない熱量の炎のブレスが戦士達に襲い掛かる。
それを、大盾を持った戦士10人程が前に出て、炎のブレスを大盾で防いだ。
しかし、どんなに効果がアップされているとはいえ、魔神イフリータの本気のブレスは、徐々に大盾を溶かし始める。
「おい!こら!先に逝くぞぉ!」
大盾を持った戦士が叫ぶと、やがて大盾は溶け切って、全身鎧も溶かし始める。
徐々に身体を炭化させながら、それでもニヤリと笑い、握り拳に親指を突き立てる。
10人のうち、5人の大盾を持った戦士が溶かされ、燃やされ、地面に跪きながらも、大盾に助けられた他の戦士達が一斉に突撃していく。
『正気か?』
さすがに息がもたなかったイフリータは、それでもなお突撃してくる戦士達に恐怖のようなものを感じながら、炎の精霊たちを無数に射出する。射出された炎の精霊たちが、中老の戦士達に群がり火球をぶつけていくが、ミスリル製の武具で斬り払い、時に跳ねて避けて、前へ前へと進んで行く。
1人の中老の戦士が、火球の爆発で体制を崩して、膝をつく。
それを機とみたデーモンたちが、一斉に膝をついた戦士達に群がって炎の魔法で焼いていくが、戦士は他の仲間たちに「かまうな」と手で払う合図をして、魔神をまっすぐ指さした。
その姿を見て、こくりと静かにうなずき突撃していく戦士達。
焼かれながらも、精一杯生きて、駆け抜けるような人生だったことに幸福を感じながら…最期は、勇者と姫の結婚式の様子を思い浮かべて果てた。
魔神に到達し始めた他の戦士達が、そのトゲトゲとした赤黒い鱗に一撃を加え、喉元に剣を突き立てようとし、足の恐ろし気に尖った爪を折ろうとして戦斧を叩きつけて…。
息を吹き返したイフリータの炎のブレスに焼かれて溶かされていく…。
しかし、皆、鎧の中で満面の笑みを浮かべ散っていった。
怖くないといえば嘘になる。
どんなに経験を積み重ねても、どんなに戦いが楽しくても、どんなに歳を重ねても…。
死の恐怖からは逃れられない。
しかし、自分が命を使って守った者たちが、新しい時代を築いていってくれる…無駄死にすることもある戦いの中で、決して無駄死にじゃないこの最期は、嬉しくて仕方がなかった。
(命を奪ったのだ…。奪われて当然よ…。未来に繋がる散りざまで…これが嬉しくないなんて嘘だ!)
ケルルトに号令をせがんだ戦士が、下半身を溶かされ、上半身が天を仰ぐように地面に転がる。
彼が最期に見たものは、きらきらと輝く星々の夜空に、いくつもの精霊を引き連れて戦う女騎士。
しかし、その女騎士に結婚式で見た勇者の姿が自然と重なる…。
(勇者殿…姫様を頼みましたぞ…)
名もない戦士の瞳から光が消えた。
③
どれくらいの時間が経っただろうか。
50人はいた中老の戦士達は、気が付けば10人を下回っていた。
生き残った戦士達は、地面に転がったかつての仲間の得物を、デーモンや炎の精霊に投げつけながら果敢に戦っている。
無駄ではない。
これは無駄死にではない。
繋ぐのだ…。
勇者殿に…。
未来に…。
『いい加減にしないか!!雑兵共がぁ!!!』
苛立つイフリータが、尻尾を振り回し、近づいてくる戦士をデーモンごと吹き飛ばし、身体にとりついた戦士を炎の精霊に焼かせて…。それでもなお、突撃してくる戦士に渾身の炎のブレスを吐きつける。
『なんだこいつらは!?怖くないのか!?この我が!?我は魔神イフリータだぞ!?この地で…』
そこまで言ったところで疑問にぶつかるイフリータ。
『我は…どこで生まれたのだ?妻を取り返す…そのはずが…妻とはどこで出逢った?妻の顔はどんなだった?』
「哀れだな…。戦う意味もわからぬ獣というものは」
気が付けば、残り一人となってしまった中老の戦士。
『なんだと!?』
憤ったイフリータが、炎のブレスを吐きかける。
もはや、一歩も動けないくらい消耗していた戦士は、破損していた兜を地面に投げ捨てると、ぎらぎらとした瞳をイフリータに向けながらにやりと笑った。
傷だらけで深いしわが刻み込まれたその顔に光る、美しい宝石のような青い瞳がまっすぐとイフリータを見据えている。
炎のブレスが彼に届き、身体を溶かすように焼いたとき…。
「うぉぉおおおおお!!!」
町の戦士達が後退し始めていた黒狼族に合流し、デーモンたちの迎撃を始めた。
「おいおい!やっぱり魔王軍の残党じゃないのか!?」
「黒狼族のみなさ~ん。助太刀にきましたよ~」
「光の盾を展開できる奴は、前方に展開しろ!」
到着早々に黒狼族を援護する町の戦士達。
「はぁっはぁ…しぬぅ。しぬぅ。こんなにバフ魔法をかけさせられて…わし、死んじゃう…」
相変わらず、山賊と見紛う格好の大男の肩に担がれながら、必死に町の戦士達に、黒狼族の戦士達にバフ魔法をかける牧師。
森の入り口からずっとかけ続け、進軍速度を異常に早めた町の戦士達。しかし、牧師はもう早くも瀕死だ。
「もうちょっと踏ん張んなよ!」
そう言って、懐からマジックポーションを取り出し牧師の口に突っ込む小麦色の肌が眩しい美しい僧侶。そして、その僧侶自身も周りの戦士達にバフ魔法や回復魔法をかけ続ける。
「がんばったら、後でご褒美あげるからね」
牧師はその大きな胸に目を引き寄せられながら、
「はいぃいいい」
と満面の笑みで、周りに必死にバフ魔法や回復魔法をかけ続けた。
後退し魔神から距離をとった地点で、ケルルトの軍団が町の戦士たちの援護を受けて、押されかけていた戦線を拮抗させるまでに押し戻す。
魔神から飛んでくる炎の精霊たちからの攻撃も、光の盾で防ぎ、魔力を纏わせた矢や剣戟で、氷の魔法で、少しづつ撃破していき被害を減らしていく。
町の人間たちと、森の黒狼族たち、2年前に共同戦線を張ったことがあったためか、それとも同じ戦士の心を持っているためか、長年連れ添った仲間のように、息がぴたりと合い、呼吸をするかのように連携していく。
「旦那様ぁ!雑魚はお任せくださいぃ!」
全身をミスリル製のフルプレートアーマーに身を包んだマリーが、重たい鎧など着ていないかのように飛び跳ね、デーモンに食らいつき、ロングソードで身体を両断したり、首をはねたり、籠手で顔が潰れるまで殴ったりして迎撃している。
やがて、夜空から眩い光が放たれたかと思うと、大きな魔法陣が空中に描かれた。
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