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第1部 勇者と狼の王女
第20話 生涯最大の失敗
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①
僕が聖剣を上段に構え、イフリータといくらかの距離を離して向き合い続ける。
何を待っているのか?当然、イフリータの最大の攻撃の準備が整うのを待っているのだ。
そんなことをするのは傲慢だとはわかっているが、同情に値する存在であることがわかった以上、敵ながらイフリータが満足して死ぬことを願わずにはいられない。
『ふっ…。待たせたな…』
口先にイフリータの魔力が籠った禍々しい気を放つ球体が浮かんでいる。
『死んでくれ勇者。我の存在のために』
イフリータがそう言うと、喉の奥から炎を球体に向けて吐き続け、それは球体で大幅に増幅され…。
真っ赤を超えて、真っ白の極太い光線が僕に向かって放たれる。
まだ僕に到達していないというのに、凄い熱風を感じる…。
そして、僕も上段に構え魔力をこめ続けた聖剣をイフリータに向けて振り下ろした。
もはや、言葉などいらないだろう…。
聖剣から小さなスパークを起こし続けながら、真っ白い極太のレザー様のものが物凄い勢いでイフリータに向かい…。
イフリータの炎のブレスを貫くと、そのまま体をも貫いた。
一瞬、イフリータの身体の中心から赤黒い円筒のようなものがうっすら姿を現したが、それすら光の中に消えると、大きな爆発が3回。
そして、爆風が収まると、ただ、ただ、無。
初めから何もなかったように、イフリータは目の前から消え、ただの美しい星空がそこにあるだけだった。
②
私は、名も知らぬ魔法使いが使った、初めて見る魔法の威力に驚きながら、ただ茫然と敵が次々に打ち滅ぼされるのを見ていた。
町の戦士達から、リーヴ様ではないか?という声が上がった時、確かに真っ赤な恰好をしていてこれだけの魔法が使えるのは、伝え聞く限りその方しかいないだろうと思った。
いま、私は凄い場面を目撃している。
魔王を打ち倒した勇者と、その仲間の大魔法使いが、私たちのピンチに駆けつけて戦ってくれているのだ。
しかも、その膨大な余りある戦闘力を目にして、興奮がおさまらない。
旦那様が、結婚式の私との決闘ときに最大の技で応えると言っておきながら、今見せつけられたのはそれとは比べ物にならないくらいの絶大的な威力…。
手加減しないといいつつ、したじゃないか!と一瞬、かっと頭に血が上るが、思い返してみれば、あの時は精霊の力を使っていなかった。私が精霊の力を使っていなかったから、使えないから、自分と合わせて自分の魔力だけで相対してくれたのだと思い直し、怒りを収める。
魔神が空から消滅して、わっと沸く黒狼族と町の戦士達。
旦那様は、空から私の魔力をたどったのか、ゆっくりと私の元へ降りてきてくれる。
銀色の髪に、銀色の軽装鎧を身にまとい、月光と星々の光にきらきらと照らされて、まるでこの世の者とは思えない、自分の夫とは信じられないくらい、神話の1ページのように舞い降りてくる旦那様…。
力こそ全ての黒狼族の女に生まれて、これだけのものを目の当たりにすれば、血が沸き興奮を抑えられないのは仕方がないことだろう。
はしたないと思いながらも、狼の尻尾をばっさばさと振ってしまい、私の元へ徐々に降りてきて、その身体が大きく私の目に映るとき、私は、全身鎧の兜を興奮のあまり留め具ごと引きちぎって、地面に投げ捨てた。
あまりの感動と興奮で、目からはボロボロと涙が零れ落ちる。
右手に持っていたロングソードもその辺に投げ捨てて、両手を祈りのポーズに重ねて降りてくる旦那様を待つ。
やがて、ふわりと私の前に降り立つ女騎士の姿をした旦那様。
「大丈夫?マリー。ケガはない」
という旦那様に、私は興奮をそのままに
「はい…はい!…とっても!とっても素敵でした!!!」
きっと、私は熱に浮かされていたのだ。それは、妻の態度ではなかった。まるで、有名な吟遊詩人のおっかけでもしている少女が、ファンサービスをされて喜んでいるようなそんな態度だっただろう。
次の旦那様の言葉に、私は、自分が生涯最大の失敗をしてしまったことに気が付いた。
「そうか。マリーにそう言ってもらえて、そんなに熱を持った瞳で見てもらえるなら、勇者を続けるのも悪くないな」
みるみるうちに自分の顔から血の気が引いていくのがわかる。
あぁ、なんていうことを言ってしまったのだろうか…!
旦那様は勇者をやめたがっていたのに…!
私は、旦那様に呪いをかけてしまった。
エラの顔がすっと脳裏に浮かぶ。
『あなたにはソラが勇者を続けるように…』
なんということか。
なんということをしてしまったのか。
私は、ただただ、穏やかな微笑みで旦那様を抱きしめればそれでよかったのだ…!
興奮にまかせて…旦那様が勇者であり続けるように…無意識に…無邪気に…無責任に…口を開いてしまった…。
「どうしたの?マリー?」
きょとんとした顔で私の顔を覗き込む旦那様…。
「い、いえ。なんでもないですよ!ほんとうに、ほんとうにありがとうございました」
そう言って、私は頭を下げた。
町の戦士達にも頭を下げた。
リーヴ様の魔法の範囲外にいたデミエルフの軍勢の生き残りたちが、武器を捨てて慌てて森から撤退していくのを忍びが確認したところで、みんなで勝鬨を上げた。
勝鬨を聞きながら、旦那様に優しく微笑みながら…。私の内心は憔悴しきった。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
私が…。
エラ…!エラぁあああああ!
女神の思惑通りに進み始めていることに、怒りを感じながらも、これからどう接していけばいいのか…。
私は、旦那様に見せる笑顔が、引きつっていないか…それだけを心配して…優しく…優しく微笑もうとし続けた。
僕が聖剣を上段に構え、イフリータといくらかの距離を離して向き合い続ける。
何を待っているのか?当然、イフリータの最大の攻撃の準備が整うのを待っているのだ。
そんなことをするのは傲慢だとはわかっているが、同情に値する存在であることがわかった以上、敵ながらイフリータが満足して死ぬことを願わずにはいられない。
『ふっ…。待たせたな…』
口先にイフリータの魔力が籠った禍々しい気を放つ球体が浮かんでいる。
『死んでくれ勇者。我の存在のために』
イフリータがそう言うと、喉の奥から炎を球体に向けて吐き続け、それは球体で大幅に増幅され…。
真っ赤を超えて、真っ白の極太い光線が僕に向かって放たれる。
まだ僕に到達していないというのに、凄い熱風を感じる…。
そして、僕も上段に構え魔力をこめ続けた聖剣をイフリータに向けて振り下ろした。
もはや、言葉などいらないだろう…。
聖剣から小さなスパークを起こし続けながら、真っ白い極太のレザー様のものが物凄い勢いでイフリータに向かい…。
イフリータの炎のブレスを貫くと、そのまま体をも貫いた。
一瞬、イフリータの身体の中心から赤黒い円筒のようなものがうっすら姿を現したが、それすら光の中に消えると、大きな爆発が3回。
そして、爆風が収まると、ただ、ただ、無。
初めから何もなかったように、イフリータは目の前から消え、ただの美しい星空がそこにあるだけだった。
②
私は、名も知らぬ魔法使いが使った、初めて見る魔法の威力に驚きながら、ただ茫然と敵が次々に打ち滅ぼされるのを見ていた。
町の戦士達から、リーヴ様ではないか?という声が上がった時、確かに真っ赤な恰好をしていてこれだけの魔法が使えるのは、伝え聞く限りその方しかいないだろうと思った。
いま、私は凄い場面を目撃している。
魔王を打ち倒した勇者と、その仲間の大魔法使いが、私たちのピンチに駆けつけて戦ってくれているのだ。
しかも、その膨大な余りある戦闘力を目にして、興奮がおさまらない。
旦那様が、結婚式の私との決闘ときに最大の技で応えると言っておきながら、今見せつけられたのはそれとは比べ物にならないくらいの絶大的な威力…。
手加減しないといいつつ、したじゃないか!と一瞬、かっと頭に血が上るが、思い返してみれば、あの時は精霊の力を使っていなかった。私が精霊の力を使っていなかったから、使えないから、自分と合わせて自分の魔力だけで相対してくれたのだと思い直し、怒りを収める。
魔神が空から消滅して、わっと沸く黒狼族と町の戦士達。
旦那様は、空から私の魔力をたどったのか、ゆっくりと私の元へ降りてきてくれる。
銀色の髪に、銀色の軽装鎧を身にまとい、月光と星々の光にきらきらと照らされて、まるでこの世の者とは思えない、自分の夫とは信じられないくらい、神話の1ページのように舞い降りてくる旦那様…。
力こそ全ての黒狼族の女に生まれて、これだけのものを目の当たりにすれば、血が沸き興奮を抑えられないのは仕方がないことだろう。
はしたないと思いながらも、狼の尻尾をばっさばさと振ってしまい、私の元へ徐々に降りてきて、その身体が大きく私の目に映るとき、私は、全身鎧の兜を興奮のあまり留め具ごと引きちぎって、地面に投げ捨てた。
あまりの感動と興奮で、目からはボロボロと涙が零れ落ちる。
右手に持っていたロングソードもその辺に投げ捨てて、両手を祈りのポーズに重ねて降りてくる旦那様を待つ。
やがて、ふわりと私の前に降り立つ女騎士の姿をした旦那様。
「大丈夫?マリー。ケガはない」
という旦那様に、私は興奮をそのままに
「はい…はい!…とっても!とっても素敵でした!!!」
きっと、私は熱に浮かされていたのだ。それは、妻の態度ではなかった。まるで、有名な吟遊詩人のおっかけでもしている少女が、ファンサービスをされて喜んでいるようなそんな態度だっただろう。
次の旦那様の言葉に、私は、自分が生涯最大の失敗をしてしまったことに気が付いた。
「そうか。マリーにそう言ってもらえて、そんなに熱を持った瞳で見てもらえるなら、勇者を続けるのも悪くないな」
みるみるうちに自分の顔から血の気が引いていくのがわかる。
あぁ、なんていうことを言ってしまったのだろうか…!
旦那様は勇者をやめたがっていたのに…!
私は、旦那様に呪いをかけてしまった。
エラの顔がすっと脳裏に浮かぶ。
『あなたにはソラが勇者を続けるように…』
なんということか。
なんということをしてしまったのか。
私は、ただただ、穏やかな微笑みで旦那様を抱きしめればそれでよかったのだ…!
興奮にまかせて…旦那様が勇者であり続けるように…無意識に…無邪気に…無責任に…口を開いてしまった…。
「どうしたの?マリー?」
きょとんとした顔で私の顔を覗き込む旦那様…。
「い、いえ。なんでもないですよ!ほんとうに、ほんとうにありがとうございました」
そう言って、私は頭を下げた。
町の戦士達にも頭を下げた。
リーヴ様の魔法の範囲外にいたデミエルフの軍勢の生き残りたちが、武器を捨てて慌てて森から撤退していくのを忍びが確認したところで、みんなで勝鬨を上げた。
勝鬨を聞きながら、旦那様に優しく微笑みながら…。私の内心は憔悴しきった。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
私が…。
エラ…!エラぁあああああ!
女神の思惑通りに進み始めていることに、怒りを感じながらも、これからどう接していけばいいのか…。
私は、旦那様に見せる笑顔が、引きつっていないか…それだけを心配して…優しく…優しく微笑もうとし続けた。
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