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第1章 ふーこ
第1話 地獄は天国 ① Ver.3.0
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むかし、むかし、遥かむかしに。
神様は決意しました。
今度こそ愛あふれる世界にしようと。
しかし、人間達は愛を囁くより多く呪いを吐きました。
困った神様は4人の使徒に相談します。
使徒達は神様の役に立とうと一生懸命頑張って、一生懸命考えて、出た結論を神様に伝えました。
使徒達からの意見を聞いた神様は、世界を光に包みます――
鴉が一匹、雲一つない青々とした快晴の空を背に気持ちよさそうに飛んでいる。
眼下には、日本で一番安全と謳われた町並みが広がっている。
鴉は目当ての電柱に飛び乗り、羽を畳むと黒くつぶらな瞳で下界を見渡す。
平成から新しい時代になろうとした世界――
しかし、なれなかった世界――
平成33年4月——
神奈川県霧島市金森区金森町――
明治の初めまでは区全体が何の変哲もない山々であったこの場所は、戦後に大規模な都市計画によって切り崩され、都心部へのアクセスの良さからベッドタウンとして多くの人が集った。
金森町は、金森駅を中心に、東にはショッピングモールやデパートなど商業地区が、西は閑静な住宅街が広がっていて、住宅街を抜けて更に西へ進めば、田畑が連なるのどかな田園風景の他、狸や狐が出没する深い森がある忍町へ入り、忍町の北西にいけば小さなダムや風力発電の風車群を見ることが出来る。
霧島市の人口は約200万人、金森区で約20万人。
中心地である金森町で約5万人だった。
鴉は、眼下を動き回る人影を捉える。
その数は……無数。
人影は、今となっては人の形をしているだけで、決して人間と呼ぶにはふさわしくないソレは、目を赤く輝かせ、嗚咽のような声とも鳴き声とも呼べない空気の吐き出し音を発しながら、あてもなく彷徨っている。
ゾンビだ。
日本一安全と謳われた町を支配しているのは、今となっては人間ではなく「ゾンビ」と聞いてイメージするソレである。
何か理由があるのだろう、男のゾンビは滅多に見ることができず、彷徨っているゾンビのほとんどが女である。しかし、生前は美人だったであろう女ゾンビですら、今では息も絶え絶えに大きく身体を揺らしながら、身体のあちこちの傷から血を滴らしながら、ものによっては腕や足など大きく身体を欠損させながら、ゆっくりゆっくりと歩く。
まるで、大昔のホラー映画に出てくるゾンビのように……。
鴉がゾンビ達から視線を外し、周囲を見渡してみれば、そこには、廃墟と呼ぶしかないほど損傷が激しい建物群が連なり、道路は何かが爆発したかのように大きな穴をいくつも空け、更には車がまばらに放置され、場所によってはまるでバリケードのように積み重ねられ、もはや移動するには歩くか、オフロードバイクでしか現実的な手段がなさそうである。
ふと、視線を建物の陰に移すと、ゾンビ同士が共食いをしていた。ゾンビ同士の共食いは頻回に起きるわけではない。持ち前の好奇心に駆られて鴉がその場へ飛んで降り立つ。
二匹のゾンビは、それぞれ女性で、まるで抱きしめ合うかのようにお互いの腕でお互いの身体を包み、頬や、肩に噛みついて肉をかじりとり合っている。お腹が空いてエネルギーが不足しているためか、動きは緩慢でゆっくりゆっくりと齧りとり、その度に身体は絡み合い、締め付け合い、脚は絡み、やがて固いコンクリートの地面に倒れ込む。
それでもなお、無我夢中でゆっくりと舐め合うように少しずつ齧り、肉を削り合っていると、リズミカルな足音が近づいてきた。
もう忘れかけていたその音に鴉は警戒し飛び立ち、建物の2階の軒に移動し音の方向へ瞳を向けた。
建物と建物の間の薄暗い細い路地の奥から男がこちらへ歩いてくる。
踏み抜き防止の鉄板が入っているのであろうブーツは子気味の良い足音を響かせ、全体的にゴツゴツとしたジャケットとズボンには内側にプロテクターが装着されていることを想像させた。
建物の隙間から日の光が男を照らし、ボサボサながら艶のある黒い髪と綺麗な白い肌、整った綺麗な顔立ち、しかしながら、女性が振り返るに十分なその容姿には不釣り合いな、まさに死んだ魚の目と呼ぶのに相応しい淀んだ黒い瞳が虚ろに前を向いている。
男は、自分に反応を示さず共食いをし続けるゾンビ達に十分に近づくと、無表情のまま腰にマウントしていたハンマーを手に持ち、ゾンビの頭に叩きつけた。
1回、2回、3回……。
数えきれないくらい叩きつけられたゾンビの後頭部はぽっかりと穴が開き、辺りに血となにかをまき散らし動かなくなった。
男は、動かなくなったゾンビを蹴り飛ばしてどかすと、もう一匹のゾンビにじろりと冷たい視線を叩きつける。
見ている。
ただ、見ている。
まるで、なにか値踏みをするかのように。
寝ころんだままのゾンビが口をパクパクとさせながら必死に男に向かって手を伸ばす。
久しぶりに見つけたごちそうで腹を満たそうと……。
しかし、男はゾンビの膝をハンマーで何度か殴りつけた後、さっさとその場を歩き去ってしまった。残されたゾンビは、砕かれた膝のために立ち上がることもできず、ただただ地面を這いずって、それでも男に追いつこうと必死に蠢く。
ゾンビの視界から遠くなっていく男の背。
砕かれた膝は、その驚異の回復力により徐々に再生を始めるが、元々つきかけていたエネルギーをさらに消費してしまったがために、やがてその二つの瞼を静かに閉じた。
ゾンビが瞼を閉じるのは死んだときだけである。
鴉は再びゾンビの元へ降り立って、穴を空けたゾンビの後頭部をついばみ始める。
そんな姿を見た他の鴉が、我も我もと一斉に集まり食らいついた。
細い路地から見える大通りには、まだたくさんのゾンビ達がさ迷い歩いている。
生きた人間の気配はあの男だけ……。
地獄だ。
この世は地獄になり果てた。
鴉はこの地獄となり果てた町を一人で生きる男に興味を覚えた。
神様は決意しました。
今度こそ愛あふれる世界にしようと。
しかし、人間達は愛を囁くより多く呪いを吐きました。
困った神様は4人の使徒に相談します。
使徒達は神様の役に立とうと一生懸命頑張って、一生懸命考えて、出た結論を神様に伝えました。
使徒達からの意見を聞いた神様は、世界を光に包みます――
鴉が一匹、雲一つない青々とした快晴の空を背に気持ちよさそうに飛んでいる。
眼下には、日本で一番安全と謳われた町並みが広がっている。
鴉は目当ての電柱に飛び乗り、羽を畳むと黒くつぶらな瞳で下界を見渡す。
平成から新しい時代になろうとした世界――
しかし、なれなかった世界――
平成33年4月——
神奈川県霧島市金森区金森町――
明治の初めまでは区全体が何の変哲もない山々であったこの場所は、戦後に大規模な都市計画によって切り崩され、都心部へのアクセスの良さからベッドタウンとして多くの人が集った。
金森町は、金森駅を中心に、東にはショッピングモールやデパートなど商業地区が、西は閑静な住宅街が広がっていて、住宅街を抜けて更に西へ進めば、田畑が連なるのどかな田園風景の他、狸や狐が出没する深い森がある忍町へ入り、忍町の北西にいけば小さなダムや風力発電の風車群を見ることが出来る。
霧島市の人口は約200万人、金森区で約20万人。
中心地である金森町で約5万人だった。
鴉は、眼下を動き回る人影を捉える。
その数は……無数。
人影は、今となっては人の形をしているだけで、決して人間と呼ぶにはふさわしくないソレは、目を赤く輝かせ、嗚咽のような声とも鳴き声とも呼べない空気の吐き出し音を発しながら、あてもなく彷徨っている。
ゾンビだ。
日本一安全と謳われた町を支配しているのは、今となっては人間ではなく「ゾンビ」と聞いてイメージするソレである。
何か理由があるのだろう、男のゾンビは滅多に見ることができず、彷徨っているゾンビのほとんどが女である。しかし、生前は美人だったであろう女ゾンビですら、今では息も絶え絶えに大きく身体を揺らしながら、身体のあちこちの傷から血を滴らしながら、ものによっては腕や足など大きく身体を欠損させながら、ゆっくりゆっくりと歩く。
まるで、大昔のホラー映画に出てくるゾンビのように……。
鴉がゾンビ達から視線を外し、周囲を見渡してみれば、そこには、廃墟と呼ぶしかないほど損傷が激しい建物群が連なり、道路は何かが爆発したかのように大きな穴をいくつも空け、更には車がまばらに放置され、場所によってはまるでバリケードのように積み重ねられ、もはや移動するには歩くか、オフロードバイクでしか現実的な手段がなさそうである。
ふと、視線を建物の陰に移すと、ゾンビ同士が共食いをしていた。ゾンビ同士の共食いは頻回に起きるわけではない。持ち前の好奇心に駆られて鴉がその場へ飛んで降り立つ。
二匹のゾンビは、それぞれ女性で、まるで抱きしめ合うかのようにお互いの腕でお互いの身体を包み、頬や、肩に噛みついて肉をかじりとり合っている。お腹が空いてエネルギーが不足しているためか、動きは緩慢でゆっくりゆっくりと齧りとり、その度に身体は絡み合い、締め付け合い、脚は絡み、やがて固いコンクリートの地面に倒れ込む。
それでもなお、無我夢中でゆっくりと舐め合うように少しずつ齧り、肉を削り合っていると、リズミカルな足音が近づいてきた。
もう忘れかけていたその音に鴉は警戒し飛び立ち、建物の2階の軒に移動し音の方向へ瞳を向けた。
建物と建物の間の薄暗い細い路地の奥から男がこちらへ歩いてくる。
踏み抜き防止の鉄板が入っているのであろうブーツは子気味の良い足音を響かせ、全体的にゴツゴツとしたジャケットとズボンには内側にプロテクターが装着されていることを想像させた。
建物の隙間から日の光が男を照らし、ボサボサながら艶のある黒い髪と綺麗な白い肌、整った綺麗な顔立ち、しかしながら、女性が振り返るに十分なその容姿には不釣り合いな、まさに死んだ魚の目と呼ぶのに相応しい淀んだ黒い瞳が虚ろに前を向いている。
男は、自分に反応を示さず共食いをし続けるゾンビ達に十分に近づくと、無表情のまま腰にマウントしていたハンマーを手に持ち、ゾンビの頭に叩きつけた。
1回、2回、3回……。
数えきれないくらい叩きつけられたゾンビの後頭部はぽっかりと穴が開き、辺りに血となにかをまき散らし動かなくなった。
男は、動かなくなったゾンビを蹴り飛ばしてどかすと、もう一匹のゾンビにじろりと冷たい視線を叩きつける。
見ている。
ただ、見ている。
まるで、なにか値踏みをするかのように。
寝ころんだままのゾンビが口をパクパクとさせながら必死に男に向かって手を伸ばす。
久しぶりに見つけたごちそうで腹を満たそうと……。
しかし、男はゾンビの膝をハンマーで何度か殴りつけた後、さっさとその場を歩き去ってしまった。残されたゾンビは、砕かれた膝のために立ち上がることもできず、ただただ地面を這いずって、それでも男に追いつこうと必死に蠢く。
ゾンビの視界から遠くなっていく男の背。
砕かれた膝は、その驚異の回復力により徐々に再生を始めるが、元々つきかけていたエネルギーをさらに消費してしまったがために、やがてその二つの瞼を静かに閉じた。
ゾンビが瞼を閉じるのは死んだときだけである。
鴉は再びゾンビの元へ降り立って、穴を空けたゾンビの後頭部をついばみ始める。
そんな姿を見た他の鴉が、我も我もと一斉に集まり食らいついた。
細い路地から見える大通りには、まだたくさんのゾンビ達がさ迷い歩いている。
生きた人間の気配はあの男だけ……。
地獄だ。
この世は地獄になり果てた。
鴉はこの地獄となり果てた町を一人で生きる男に興味を覚えた。
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