東京ネクロマンサー -ゾンビのふーこは愛を集めたい-

神夜帳

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第1章 ふーこ

第1話 地獄は天国 ② Ver.3.0

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 まるでレトロなセピア色のフィルターをかけたかのように、色褪せた風景が広がっている。
 それは、地獄となり果てた町でただ一人生きる男が眠っている時に見る夢であった。

「ネクロ野郎!」

 平野が俺を呼ぶ。
 俺は物陰から飛び出し、右手に握ったククリナイフを振るう。
 俺の存在に気付かず明後日の方向を警戒していた男が驚愕の表情を見せながら、銃を俺に向けて構えようとしている。
 しかし、遅い!
 男の悲痛な絶叫と共に、銃を握っていた腕が宙を舞う。
 点々と赤い血がコンクリートの床を赤く染める。
 構わず返す刃で、男の首元を割くと、鮮血が噴き出して体はぐらりと揺れて俺の後ろへと倒れ込んでいく。
 それを視界の端で捉えながら、次の獲物へ刃を向ける。

「ぐぎゃ!」
「いてぇええええ!!!」
「なんで俺が!?!?」

 多種多様な断末魔を上げる敵の男達。
 その度に、なにかが飛んで、なにかがもげた。
 どす黒くも赤々とした雨を浴びながら、俺は構わず目の前の敵を斬り刻んでいく。
 10人は斬ったか? といったところで、目の前の男を斬ろうとしたら平野の怒声が飛んでくる。

「馬鹿やろぉ! 味方だ!! いい加減味方の顔くらい覚えろぉ! ネクロ野郎ぉ!」

 味方?
 男の首元に飛んでいくククリナイフの刃をすんでのところで止める。
 男があわあわとした表情で、首を必死に横に振っている。

「そうか。ごめんね」

 俺がフレンドリーに肩をぽんぽんと叩いて言うと、男はぶんぶんと首を縦に何度も振っていた。

「ふはっ」

 その様子が何かの玩具のようで思わず笑みがこぼれる。

「そうなんだよなぁ。こういうのは面白いってちゃんと心が動くのになぁ」
「何をぶつくさいってやがる。ネクロ野郎、味方を覚えろ、周りを見ろ、相手が何をしたいのかちゃんと分かれ」
「エスパーじゃないから無理」
「無理じゃねぇ! お前は強いのに、対人戦がいまいちなのは、敵の心を読もうとしねぇからだぁ!」
「目に見えないもののことで責められてもしらん」

 武骨ないかにも工場の資材置き場という場所で、大の大人の男二人が大声で言い合う。
 声が反響してどこまでも響いていき、そんな言い合いを許すということは、敵が全滅したのだなと悟った。
 最新のプロテクターを内蔵したジャケットやトラウザーを身に着けているせいで、ずんぐりむっくりした俺の見た目とは裏腹に、どんな戦場でもスーツを着こんで涼しい顔で敵を斬り刻む平野。



 スタイリッシュなイメージとは裏腹に、スーツ越しにもわかる鋼のように鍛え上げられた肉体はルネサンス時代の彫刻のようだ。さらに、坊主頭に細い釣り目ということで、初対面ならヤクザのように感じるこの中年の男が、実は小学校の先生だというのだから驚きだ。そして、今は、レジンスタンス組織のリーダーである。

 レジンスタンス――

 何に抵抗しているかというと、この金森町である男がカルト宗教を立ち上げて、強引なやり方で支配しようとしたからだ。平野が真っ先に組織して相手を潰そうとやっきになっている。俺は、生きていくために組織に属した方が効率的だろうと拾われたついでに戦っていた。金森町は電気が生きているがために、人がたくさん集まってきて、考えの違いやらなんやらで、それこそB級ゾンビ映画のような出来事がたくさん起きた。もう、正直、見飽きすぎた内容すぎて思い出したくもない。ゾンビとの戦いでも大変だというのに、人間というのは愚かが過ぎる。

「だめだぁ! バリケードがもたない!!!!」

 唐突に仲間の悲痛な悲鳴が辺りに轟いたかと思えば、何かが爆ぜるような音と共に重々しい金属の塊が空から降ってくる。
 俺は慌てて飛びのいたが、悲鳴を上げた主はあっさりと下敷きになって地面に真っ赤な花を咲かせた。
 ワンボックスカーが空から降ってきたのだと理解するのに数秒要した。

「来るぞぉ! ネクロ野郎! 構えろぉ!!」

 平野は敵が持っていた銃やマガジンを拾って、こちらに投げ渡してくる。

「銃は今一好きになれない」

 俺はそう言いながら渡されたサブマシンガンのアイアンサイト越しに姿を現したゾンビを見る。
 皆、一様に瞳を赤く輝かせて、平成以降のゾンビ映画のゾンビのように全力で走ってくる。五体満足そうなゾンビ、飛び出た内臓を引きずっているゾンビ、もはや肉という肉は削げ落ちてどうやって生きているのか不思議なゾンビ、多種多様な状態の老若男女のゾンビが群れとなって現れた。

 そんなゾンビ達のうちの一匹の頭に狙いをつけて引き金を引く。
 乾いた火薬の炸裂音と共に、銃弾が狙ったゾンビの頭に吸い込まれるように命中したが、ゾンビは頭を少々のけぞらせた程度で構わず走りこんでくる。
 頭蓋骨で跳弾したようだ。

「ネクロ野郎! 無理に頭を狙うなぁ! 足を狙え!」

 平野の怒号が飛んでくる。

「わかってるよ」

 俺は教わった通り1秒ごとにトリガーを引いては放して、迫りくるゾンビの群れの足を斉射する。ダメージを受けつんのめるように地面に倒れ込んでいくゾンビ達と、倒れ込んだゾンビに足をとられて転んでいくゾンビ達。
 しかし、そんな倒れ込んでいくゾンビ達を蹴散らして、大きな身体の男のゾンビが突っ込んでくる。

「男のゾンビ! 面倒くせぇなぁ!」

 平野が忌々しそうな表情でゾンビに銃を斉射するが、全く気にする様子はなく大きな足音を立てながら突き進んでくる。

「小川ぁ! なんかないかぁ!」

 平野が後方にいた小川に怒鳴ると、小川はでっぷりと膨れたお腹を重そうにしながら、やれやれといった様子で言う。

「じゃあ、俺様のお手製手榴弾でも使うかぁ? 全く、俺様を崇めろよなぁ」

 それを聞いた仲間達が一斉に物陰に隠れる。

 ドンッ!

 映画とは違う、地味ながら大きな音と共に、突風のように空気の大きな奔流が物陰に隠れた俺達の身体を撫でていく。
 そっと、顔をのぞかせてみれば、見た目は損傷がなさそうに見えるゾンビ達が次々に地面に倒れていく。大きな男ゾンビも膝をついて傷の回復に専念しているようだ。

「よーし! 俺とネクロ野郎に任せて、みんな下がれぇ! あいつらのことだ5分も逃げていれば、何を追っていたか忘れちまう!!」
「なんで俺も殿なんだよ」
「固いこというなよぉ。俺とお前の仲じゃねーかぁ」

 ゾンビの知能はダチョウ以下だ。
 5分もすれば、自分達が今何をしているのか忘れてしまうようで、おそらく今群れになっているゾンビ達も群れの後ろの方は、明後日の方へ自由に駆け出していくことだろう。

「映画のゾンビとは違うからよぉ。別に聴覚や嗅覚が鋭いわけでもねぇ。ただ、力が強くて動きが早くて中々死なないだけだぁ!」
「十分脅威だろ」

 レジンスタンスの仲間達が一斉に逃げ出していく中、俺と平野はゾンビを転ばすことに専念してひたすら撃ち続ける。

「リロード」

 俺が弾切れのためマガジンを交換し始める。

「サポートする!」

 一時的に無防備になる俺を平野がさっとサポートに入る。
 撃っても撃っても向かってくるゾンビの群れだが、やがて、層が薄くなり始める。

「あいつ、笑ってやがる。サイコパスが」

 俺は見逃さなかった平野が楽しそうにニヤニヤ笑いながら人の形をしたゾンビ達を斬り刻んでいくのを。
 平野は特別軍隊経験者というわけではないというのに、その強靭なフィジカルと驚異的な戦闘センス、なによりエスパーのように鋭い勘によってゾンビの攻撃を軽やかに避けると、ククリナイフを一振りするたびに、ゾンビの首が宙を舞った。
 ぼとりと落ちたゾンビの首がパクパクといつまでも口を動かしている。
 首だけになっても餓死するまで死なない。
 どういうことなんだ。全く。

 目の前に随分と美人な女ゾンビがこちらに駆け寄ってくる。大きな胸をこれでもかと揺らしながらの全力疾走。
 思わず見惚れる。



 どうも幼いころからゾンビが好きだった。
 なんでそんなに心惹かれるのか……自分でもわからない。
 そういう性癖なのだろう。
 死と生が同居するその在り方に美しさを感じてしまうのか、それとも俺が人間嫌いだからなのか……。
 見惚れすぎて正気に戻った時には、もう目の前に迫っていた。
 映画のゾンビとは違い死臭がするわけでもなく、土ぼこりと女の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、虚ろながらも赤く輝く瞳と目が合ったと思った刹那、可愛らしい女の口がこれでもかと大きく開けられ、唾液のねばっとした糸が口の上下を繋ぎながら、俺の左肩に噛みついた。
 プロテクターに阻まれて、ゾンビの歯は肉には届かず、しかし、それも今だけであることをギチギチとプロテクターが少しずつ割れていく音が告げている。

 死――

 背筋をぞくぞくとさせる冷たいなにかが駆け抜ける。
 それと共に、右手のマシンガンをゼロ距離でゾンビに向けて銃弾を放った。
 特段狙いを定めたというわけでもなく慌てて撃ち放ったそれは、もみ合っていたこともあり銃身がぶれて手の中で暴れ、女ゾンビの左の太もも、左の胸、左の顔を数発ずつ撃ちぬいた。
 目の前で女ゾンビの眼球が眼窩から零れて垂れ、胸からの出血は真っ白な可愛いブラウスを真っ赤に染め、太もものダメージは女ゾンビを跪かせるには十分だった。
 それでも俺を食べようとうごめくその姿は、まさに死と生がまさに同居した究極の美であった。

「おい、ネクロ野郎!!」

 平野の怒号がしたかと思えば、美しい女ゾンビの首はぽんと宙を舞う。

「全く。お前は! サイコパスもいい加減にしろぉ!」

 二人で態勢を整えると、まだまだ元気そうなゾンビ達が平成のゾンビ映画よろしく、全力で走りこんでくる。中には、華奢そうな女のゾンビが道端に生えていた道路標識を涼しい顔で引っこ抜き振り回し、頑強そうな男ゾンビは倉庫の鉄の柱をぐにゃりと曲げ、今時珍しいセーラー服をきたゾンビ少女は、軽々とコンクリートブロックを粉々に粉砕していく。

「これは、はめられたな」

 ちっとも悔しそうにせず、むしろ嬉しそうにつぶやく平野。

「あぁ、そうかもな」

 俺と平野は互いに右手にククリナイフを握りこんで、迫りくるゾンビ達と相対した。

 そこで、映像は薄れ暗闇に消えていく――

 そう、これはいつかのもう終わった出来事。
 なんでこんなものを思い出すのか。
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