東京ネクロマンサー -ゾンビのふーこは愛を集めたい-

神夜帳

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第1章 ふーこ

第2話 ふーこと出会った ① Ver.3.0

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ネクロ野郎と呼ばれる男の記憶――

夕焼けで赤々としたオレンジ色に空を染めた屋上に、クリーム色のミディアムヘアーの若い女が柵に身体を預けながら立っていて、その横に俺は座り込んでいた。

若い女がタバコをすぱすぱ吸いながら俺に聞く。

「なぁ、ネクロ野郎はさぁ。ゾンビにしか勃起しないわけ?」
「そうだけど?」
「じゃあ、童貞なんだ?」
「いやぁ? この前の女のゾンビは実に良かった……」
「これも素人童貞ってことになるのかな」
「さぁ、俺、人間の女抱く気ないから」
「はぁ……。お前、わりと女子受けしそうな顔してるのになぁ。もったいない」

若い女がぷかぁと丸い煙を作って吐く。
迷彩柄のジャケットとズボンを身に着けた女の髪がそよそよと気持ちよさそうに揺れている。

「なぁ、お前さぁ。人間の女は可愛いとも思わないわけ?」
「いや、そんなことはないぞ。現にお前のこともちゃんと可愛いって思ってる」

女はぎょっと目を見開いてしばし固まった後に、ゲホゲホとわかりやすくムセ込む。

「私が可愛いって。こんな性別女だけの私だぞ。やっぱりお前は変だな」
「でも、たたないんだよなぁ」

女は俺の言葉にむっとした表情を見せたと思ったら、次の瞬間後頭部に衝撃を感じる。

「いてぇ」
「そんくらいよけろ馬鹿!」

しばしの間。

「なぁ、ネクロ野郎。お前、なんで、あの時……あんなことできたんだ?」
「あんなこと?」
「敵の幹部さぁ、降参してたのに。お前は……」
「あぁ、あいつの恋人を斬り刻んだこと?」
「……そうだ。降参して、誰もが鞘に納めようとしたとき、なんでお前は……」
「だって、絶対あのタイミング嘘じゃん」
「そうか? まぁ、実際隠し事出てきたしな」
「それに、嘘じゃなくても、別に敵の恋人なんて、敵なんだからバラしたって何にも問題ないだろ」
「それ、本気で言ってるのか?」
「あぁ。むしろ、なんでお前らはあのタイミングで戸惑う?」
「あぁ、もう! お前と話していると何か雲を相手にしているようだ!」
「難しく考えすぎなんだよ。殺していいやつだから殺す。それでいいじゃないか」
「人間は、そう簡単に割り切れないだろ。機械じゃないんだ」
「でも、お陰で、あいつが隠していたこと暴けたじゃん」
「……うん」
「何が不満なのさ?」

女はバリバリと自分の頭を掻きむしり、しばらく地面を眺めた後、意を決したような表情で言った。

「だって、私はお前が心配だからさ」
「ん? どういうこと?」

女は少し哀しそうな表情を俺に見せる。
泣いているのか?
目尻が少しきらきらとうっすら輝いていて、風のせいなのか細めた目が艶やかだった。

「なぁ、私のこと可愛いって言ったよな?」

そう言いながら、迷彩柄のジャケットを脱いでその場に投げ捨てる。
黒いTシャツ姿になった女が熱のこもった表情で俺を見つめる。
黒いTシャツ越しに、わずかな膨らみの女の双丘、スレンダーな体型にきゅっとしまった腰つきが目に入る。

「これでも可愛いと思うか?」

そう言って女はTシャツをまくって見せた、おへそが見え、下乳が見えるころ、大きな火傷跡や、斬り刻まれた傷跡が見えた。

「可愛いよ」

しかし、そんな傷など何のマイナス点にはならない。はっきりと俺は言い返した。

彼女が照れくさそうに、はにかんだ微笑みを魅せる。

「あぁ、ちゃんと可愛いものは可愛いと感じるのにな」
「たたない?」
「あぁ」

女がめくったTシャツを戻しながら言う。

「お前はさぁ。確かに生まれつき人間が苦手なのかもしれないけどさ、たぶん、こんな世界で醜いものを見続けたらさ、誰だっておかしくなるよ。な?」
「さぁ? どうでもいい」

やがて強めに吹いた風に揺らされ、目に入りそうな髪を手でどけながら女は言った。

「いつか、落ち着いたらさ――」


「落ち着いたら……、あの時、あいつなんて言ったんだっけ?」

なんで、こんな昔のことをふと思い出したのか。

金森町の商業地区で食料や医薬品を漁りながら、女ゾンビを物色する。
首を、視線を、左右に、時に上下に走らせながら、可愛いゾンビはいないか?
危ないゾンビはいないか?

見る。視る。観る。

食料となる人間がいなくなった町で、エネルギーを共食い以外に得られなくなったゾンビは、皆死にかけで、実際、数も大きく減らしてきている。
あれだけ、平成のゾンビ映画よろしく、全力で走って暴れまわり殺戮を繰り返したゾンビ達が、今では昭和のゾンビ映画のように、息も絶え絶えにゆっくりと鈍重にゆらゆらと身体を揺らしながら歩き、俺を視界にとらえて、必死に腕を伸ばしたところで、俺の動きには決して追いつけない。

やがて、色々な店が立ち並ぶ、メイン通りに出る。
そこは、数が減ったといえど、まだまだたくさんのゾンビが彷徨っていた。
東に…つまり東京へ近づけば近づくほどその数は増えていく。

目を左右に走らせると、今まさに俺の左手側には、ライフルで撃たれたのだろうか、胸に穴が空き片目も今にも落ちそうな、裸の女ゾンビがこちらに近寄ろうとして。



右手側からは、黒い革のロングコートのようなものを着た女ゾンビが右手にバールのようなものを握りしめて歩み寄ってくる。顔は崩れてしまって美人だったのかもわからない。



「惜しいな。左の君は、割と好みだけど、うーん。ちょっと状態が悪いなぁ」

俺はそう言うと、腰に差していたククリナイフを右手に握り、必死にこちらに手を伸ばす女ゾンビの両腕を切断した。
ボトリとその場に落ちるゾンビの両腕は、ぴくりと一瞬動いた後、地面を赤く染めて動きを止めた。

「俺を掴む手は無くなったぞ。どうする?」

女ゾンビは残った右目で俺を捉えながら、口をもごもご動かしつつ必死に俺に歩み寄ろうとする。
切断された腕の断面は、早くも出血が止まりつつあり、それと共にゾンビの動きが更に緩慢になっていく。
それでもなお、必死にこちらを求めてくるその姿は、まるで救いに縋りつくなにかだ。
散々苦しめられた存在が弱って、こちらの意のままになっている様子に思わず笑みがこぼれる。誰かが見ていれば、随分と邪悪な笑みを浮かべていたと言う事だろう。

胸に穴の開いたゾンビを可愛がっていたら、いつの間にかバールを持ったゾンビが間近に迫っていて、俺の頭をめがけてそれを振り下ろす。

ブンっ!

空気が震える音が掠める。

紙一重で避けたところで、数秒遅れてぶわっと冷や汗がわいて出る。
遊びすぎた。しかし、たまはこういう刺激もなければつまらない。
すっぽ抜けたのか、バールがゾンビの手から離れて向いの店の壁に突き刺さる。
突き刺さったところは拳大の穴がぼっかりと飽き、穴から壁の上下左右へと亀裂が走った。
死にかけのゾンビですらこの力である。
侮ってはいけなかった。

「ははっ! はっはははは!」

段々と楽しくて仕方なくなり大声で笑いながら走った。
後ろにはゾンビが段々と群れを作って、俺を追いかけようとゆっくりとした歩みでついてきたが、そこは、ダチョウ以下の知能になってしまった憐れな存在。5分も走れば、せっかくつくった群れの後方は、どこか明後日の方向へ散り散りになっていき、先頭集団もやがて見えなくなっていった。

「ゾンビが一斉に大量発生したお陰で、一気に生きた人間は大量に狩られた。だから……」

走った先にあったこじんまりとした薬局のガラスドアを破って中に入る。
中は荒れてはいたが、倉庫らしきものをこじ開けると大量の薬品が詰まっていた。

「あれから、たくさん戦闘はあった。人間同士の戦いもあった、だけど、そのお陰で、この町には物資がまだまだ残っている」

抗生物質を中心にリュックに詰め込んだところで、外へ振り返ると、鴉が大量に電柱という電柱に止まっていて、こちらを見ていた。

「生きた人間が珍しいのか? そうだよなぁ。今ではもう俺しかいない。俺だけなら、まだまだ暮らしていける。これだけ残ってたらな」

鴉だけでなく、人間以外の動物はゾンビになることはなかった。
人間だけがゾンビになり、ゾンビは人間だけを襲う。

「最後に聞いたときは、世界人口は1/3になったって誰か言ってたけ……。ははは。俺はさっきからなんで独り言が止まらないのかね。笑えるね」

ふぅとため息を一つ。

「願わくば、俺以外の人間は全滅していますように……」

鴉は薬局から出てくる俺を電柱の上からじっと見つめていたかと思うと、一匹の鴉が一声鳴いて一斉に飛び立った。
鴉が飛んでいく方向を目で追っていくと、黒い細い煙が天へと昇っていく。

「火事……か? 住宅街の方か」

ゾンビがなにかを壊してしまうのか、ネズミが何かの配線でもかじってしまうのか。
無人のはずの場所で火の手が上がるのは、たまにあることだった。
町にはある程度自動で消化する装置が備え付けられているが、電気が生きているとはいえそれらが正常に稼働するかはわからない。もし、燃え広がって自分の拠点とするマンションにまで火の手が迫っては困る。
念のためにという想いが一つと、刺激に飢えていた野次馬根性がいくらか、それらの想いを抱えて、煙の上がる場所へ向かう。
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