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第8話 ゆきむらそうは知っている

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 ◇7月15日(月祝)




「...絶対浮気してると思うの」


「いやいや、考えすぎでは?だってまだ付き合って1ヶ月だろ?」


「何?私が勘違いしてるっていうの?」と言いながら睨まれる。


「いやぁ...」


「ひとまず話を聞きましょうか」


 ◇今から5分前


「はい、あーん」


「...あ、あーん...」


「どう?美味しい?」


「お、美味しい...」


 朝からご主人様といちゃついていると、インターホンが鳴る。


『ピーンポーン』


「あら?もう~いいとこだったのに」と、頬を膨らませるクロエが「Kevin~」というと、玄関に向かっていくKevinさん。


 すると、少ししてドタドタと激しい足音が近づいてくる。


「先輩!!ちょっと話を聞いてくれますか!...って、何やってるんですか!?//」と、あーんをさせているクロエにそう叫ぶ。


「...桜...いつも言っているけど来る時は事前に「緊急事態なんです!」


「緊急事態?」


「元くんが...元樹が浮気してるんです!」


「...はい?」


 意味のない回想終了。


「付き合った日からちょっと思ってたんですけど...その...何か隠してるように見えて...。最初は無理に探ろうとしてなかったんですけど、なんか怪しくて...」


「具体的にどういうところが怪しいの?」


「携帯を見せてくれなかったり...。ほら、元カノと連絡とってたりしたら嫌じゃないですか?だから、そういうのがないか見せてって言ってるのに隠したり...」
(普通見せたくないと思うぞ。ほら、渡したら俺みたいにエロ動画の履歴見られるし。俺は渡してもないんだけど)


「毎日ずっと一緒にいたいって言ってるのに...たまに用事があるって言って避けたり...」
(いや、普通に用事があったんだろ...)


「髪の毛だって...私が1cmも切ったのに気づかないの!普通気づきますよね!」
(俺は間違いなく気づかないと思うな...)


 すると、ゆっくりと目を閉じて、少しの沈黙の後にクロエからの審判が下される。


「...そう。それは...浮気ね」
(ええええええ!?なんでぇぇぇ!?)


「ちょい待ち!俺から反論いいか!」


「...何?あんたなんか知ってんの?」


「いや、何も知らないけど。今の話は普通に良くあることだろ」


「全然ないから。マジないから」


「はぁ...まず1個目。携帯に関しては本人にとって一番なプライベートだからな。俺だって見せたくない」


「えぇ!先輩、こいつの携帯見たことないんですか!?」


「いえ、いつも見ているわ。交友関係についても全て把握しているし、性的趣向も抑えているわ。ちなみに桜に似た女の子の動画も「うわぁぁぁ!!言わんでいい!!」


「気持ち悪っ...」と、マジでドン引きする江ノ島さん。
(てか、見せたっていうか盗み見られてんだよ!そもそも拒否権ねーんだよ!)


「...まぁ...けど、2個目はあれだろ!本当に用事があったり...!」


「用事って?ちなみに元樹は一人暮らしだからそんなに頻繁に家族と何かあるとは思えないんだけど」


「...学校の...何かとか」


「何かって何よ。先輩達はどうなんですか?同棲してますけどどれぐらい一緒にいるんですか?」


「学校の時間以外はほとんど一緒にいるわね」


「ほら!!超ラブラブじゃない!!むかつくぅ!!」
(確かにそれはそうだわ!ずっと一緒にいるわ!)


「さ、最後のは...俺も気づかないし」


「私が香水を変えたら彼はすぐに気付いたけどね」
(聞く前に自分から答えてんじゃねーよ!)


「はぁ...やっぱ浮気されてんのかなー」


 正直なところ...実は俺は答えを知っている。
なぜ携帯を見せないのか、なぜずっと一緒にいられないのか、なぜ髪の毛を切ったことに気づかなかったのか...。
いや、髪の毛に関しては普通に気づかなかっただけだと思うが。


「けど、実際女と会ってるとこを見たとかそういうわけじゃないんだし、気にしすぎじゃないか?」


「まぁ、それはそうだけど...」


「それなら尾行すればいいんじゃないかしら?」


「尾行って言っても私...学校あるし...。こう見えて色々忙しいというか...か。だから少ない時間でも一緒にいたいのに...」


「それは大変ね。けど、いるじゃない。暇そうで尾行できる人間が」と、江ノ島さんとクロエ...そして少し離れて椅子に座っているKevinさんまで俺を見るのだった。


「...まぁ、そうなるよな」


 ◇7月16日(火) 13:15


「よーし、飯行こうぜー」


「元樹、ちょっといいか」


「ん?どしたんだよ、急にマジな顔で。もしかして...告白か?残念ながら今は彼女いるからNGだぜ?」


「ちげーよ。お前のその彼女のことだよ」


「ん?桜?桜がどうしたん?」


「とりあえず、ゼミ室に行こうぜ。あんまり人前で話したいことでもないし」


 そうして2人でゼミ室に到着すると、周りに人がいないことを確認し、話し始める。


「単刀直入に言うと...、お前、浮気を疑われてんぞ」


「はぁ!?浮気!?俺が誰と浮気してるって!?」


「いや、分かってるよ。お前が浮気をしてないことくらい。多分...佳奈《かな》ちゃんのことだと思うんだが...話してないのか?」


「...あぁ...そっかぁ...バレてたのか。...いやー、上手く誤魔化してるつもりだったんだけどな...」


「積極的に話したい内容ではないことはわかるけどさ...」


「話してなかったのはさ...今まで何人か付き合った女の子に佳奈のこと話したことあるんだけど... みんな最初は受け入れるみたいにいうんだけだどさ...最後には重いって言われちゃってな...。それが原因で別れたこともあったから...黙っておこう...みたいな」


 彼女が頻繁に変わっていたのはそういうことか。


「はぁ...。まぁ、そんなことだろうと思ったけどさ。お前がどれぐらい本気なのかは知らないけど「本気だよ。桜とはちゃんと付き合うつもりだ」


「本気であればあるほどそれは話しておかないといけないんじゃないか?」


「...それは...そうだよな。けど...やっぱ怖いんだよ。佳奈が拒否されるのは俺のことを拒否されるよりずっと辛いし」


「抱え込みすぎなんだよ、元樹は。昔からさ」


「ははは...そうかもな」


「久しぶりに会いに行っていいか?佳奈ちゃんに」


「...あぁ、きっと喜ぶよ。けど...秋本さんと付き合ってることは...黙ってて欲しいんだ。多分...傷つくから」


「...分かってるよ」
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