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納得できない3(2)

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 新学期、噂が噂だけにどんなアブナイ奴かとクラス全員が戦々恐々としてたわりには、教室で見た狂犬は全然フツーだった。
 いつも冷めた顔でクラスを睥睨している、いけすかない野郎には違いなかったけど。
 

 俺は大和のタブーを冒したために、凍りつくような恐怖を味わった。
 でも、そのおかげで分かった事がある。
 大和は誰にでも噛み付く狂犬じゃない。
 誤解を生む行動が、大和をそんなふうに見せてしまうだけだったのだ。
 そしてそれは、大和と真剣に向き合った俺だからこそ、知り得たんだと思っていたのに。

 でも、考えてみれば、俺と大和の付き合いはまだひと月、長い年月を共に重ねてきた幼馴染に勝てるわけがなかった。
  

 あーあ、つまんない意地を張っちゃったな。
 大和は俺にも来いよって誘ってくれたのに。


 悶々と大和について考えていたら、窓辺にいた耕輔が話しかけてくる。

「おお? ひょっとしてゲームをするつもりなのか? おい、俊哉、ちょっとこっち来いよ! 大和が打席に立ってる」

 どれどれと窓からグラウンドを覗いてみると、康平がピッチャーで、打席に大和が立ち、野球部とクラスの連中が内野と外野に散らばっている。
 そして、歓声を上げて見ているクラスの女子。

 ・・・・・・

 落ち込みに、さらに追いうちをかけるような疎外感。

 
 いやいやいやいや、幼馴染には負けても、クラスの中で大和と一番仲がいいのは俺だし!! 
 俺、あいつにめっちゃ頼りにされてるし!
 名前だっていっぱい呼ばれるし。
 それに、何より大和の真価にいち早く気付いて、傷付いて閉ざしていた心を開けたのは、この俺様だ!!

 そうだよ、大森が言ってたじゃないか。
 俺達にはどうすることも出来なかったって。だから、本当に感謝しているって。
 つまり、今の大和にとって一番の友は俺ってことじゃね? 
 そう結論を出したら、すっかり気分が良くなった。
 
 予想通り、大和はヒットを打った。

「さすが、大和だな!」

「ああ。大和は動体視力がめっちゃいいからな」

 気分良く俺が大和をほめると、耕輔がそれに答える。

「動体視力?! そうなのか?」

「ああ、だから相手のパンチとか見切って避けれるんだよ」

「へぇ~」

 ぜんぜん知らなかった。
 
「あ、そうだ。俺さ、お前に聞きたかったんだよ。クラスで大和と一番仲がいいのはお前じゃん?」

 ほらほら、やっぱ自分だけの思い込みじゃなかったし!

「ま、まぁそうかな」


 
「俊哉、大和がさ、あんなふうに俺達に打ち明けてくれるなんてさ、驚いたよな」

 !!

 だが、耕輔のぽつりと呟かれた言葉に、俺は凍りついた。
 なんの話だ? 俺、知らねーし!! 聞いてねーし!!

「ホント意外だったよな」

「うん」

 二人が当たり前に相槌を打ち、俺はさらにパニックに陥った。

「でさ、俺達、大和のこと好きだし、ダチだと思ってるし、もう知らんぷりしてるのがもどかしいっつーかさ。お前、大和から何か聞いてんじゃねーの?」 

「みんなもどうしていいか迷ってる感じだよね」

「さすがにリアル大和には、聞き辛いしな」

 目の前が真っ暗になった。
 クラスのみんなも知ってるらしい。
 
「そこでだ! リアル大和に一番親しいお前に聞きたい! クラス男子としては、どういうスタンスをとるべきなんだ? 是非とも教えてくれ!」


 ・・・・・・


 俺の方こそ、是非とも教えてくれ。
 どーして俺だけハブられてるのか。
 
 誰か教えてくれよおおおおおおおおおおおおおおっ!!






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