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第二話: 目標
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ーーー…「もうあれから五年か…。」
俺は木に背中を預け、木陰で休みながら小さく呟いた。
「言語を覚えるのに五年はかかるし、この世界のこともこれから勉強していかないといけないし、これは二十年くらい寿命が残ってないと楽しめないな…。」
「何をぶつぶつ言ってるんだ?俺の悪口か?」
「ち、違うよ父さん」
この人は俺の父さん、ホワイト・レイ・アーサー。
父さんは、この村、バンダリー村の村長であり、村一番の剣の使い手として、護衛隊長を務めていて、俺は剣を学ぶため、父さんの空いた時間に稽古をつけてもらっていた。
「そうか。それより、休憩は終わりだ。始めるぞ!」
「はい!」
俺はこの世界ではまだ五歳だから剣の稽古と言っても木剣を使っての稽古だから、正直つまらないと感じていた。
「ヤミー?そろそろ時間よー?」
遠くの方から俺を呼ぶ声が聞こえ、美しい容姿に抜群のスタイルの女性がこちらに近づいてきた。
「お母様!もうそんな時間?」
そう、この女性は俺のお母様のホワイト・レイ・マリア。
バンダリー村唯一魔法の使える医者として村を支えている。
この世界では、魔法は存在するようだが、使える人間はかなり少なく、魔法使いは希少な存在となっていて、魔法は遺伝によってのみ使うことが出来るようだ。
「そろそろ魔法の勉強の時間でしょー?」
「そうだね、お母様。ありがとう、父さん!」
俺は逃げるかのようにお母様の方へと走って向かった。
「なぁ、ヤミ。気になっていたんだけど、何故マリアはお母様なんだ?」
「な、なんとなくだよ、父さん」
流石に、父さんには、あの綺麗でスタイルの良いお母様に授乳されたり、色々なお世話をされて異世界転生最高などとは言えない。
「そうか。まぁいいんだけどさ。」
ふぅ、危なかった。
俺が転生してきたことがバレれば面倒なことになるし、出来るだけバレないよう過ごしていく必要がありそうだな。
「お母様、今日は何を教えてくれるの?」
「そうね。今日は簡単な治癒魔法にしよっか。」
「やったあ!楽しみー!」
こんな他愛もない毎日を過ごしていて、本当に転生してよかったと思える日々が続いていた。
そんなある日の夜のことだった。
村に頭の中に響き渡るような大きな鐘の音がなった。
「なんの音?」
俺は父さんとお母様の帰りが遅いため隣のフィンおじさんとフラーおばさんの家にいた。
「魔獣が出た音だよ。」
俺の問いにフィンおじさんが答えてくれた。
「魔獣が出た時は護衛隊が退治しに行ってくれるんだよ。村長が中心となってね。」
フィンおじさんは続けてまだ子供の俺に教えてくれた。
「父さんが?でも、魔獣が出た時は冒険者が退治してくれるんじゃないの?」
「バンダリー村は、王都から見て南側にあることから南国と呼ばれているんだがね、魔獣の住む魔の国と人間の住む人の国のちょうど境界にある村なんだよ。魔獣とは魔の国に近ければ近いほど力が強いんだよ。だから、南国に冒険者はあまり来たがらないの。」
「そう…なんだ…。」
俺は父さんが無事に帰ってくるか不安になりながら冒険者に苛立った。
「冒険者ってのは結局自分の命が大事なのさ。わざわざ強い魔獣と戦ってまで報酬は欲しくないからね。冒険者になる人達のほとんどは冒険者貴族になりたいだけなんだよ。」
「フィンおじさん、冒険者貴族って?」
「冒険者貴族ってのは一番上のランクになった者だけが貰える貴族の階級のことだよ。貴族ではない者が貴族になるには貴族の人と婚約するか冒険者で一番上のランクになるしかないからね。」
「結局みんな貴族になりたいだけなんだ…。」
どこの世界でも権力が欲しい人間ばかりなのだと改めて知らされ俺は新たな目標が生まれた。
「フィンおじさん、俺冒険者になるよ!冒険者になってこの村を守る。」
平凡に暮らして、この世界を楽しめればそれで良いと思っていたがこんな状況ほっとけないし、魔獣の群勢が襲ってきたら護衛隊だけじゃ手に負えないのは村民は分かっているはずだ。
それでもこの村が好きだからこそ、この村に住み続けている。
俺もまだ五年しか住んでいないがこの村が好きだし、村のみんなも好きだから守りたいと思った。
俺は新たな目標が出来たことでさらに剣の稽古と魔法の勉強に専念することを誓った。
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