君を忘れた涙と海と、見た景色

アマフィラ

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さよならと告げたかった

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なぁ、君はこんな奇病を知っているかい?

1日が終わる事に記憶が1つ消えていく病気。そして、自分すら忘れた時死んじゃうんだってさ。

これは、精神病とかそういうのじゃないんだ。知的障害とかでもない。

ボケてる訳でもなくて、ただ本当に記憶が本の1ページ破けたように消えていくんだ。


「もし、僕がお前のような病気になったら恐怖心に負けて自殺しちゃうよ。」

「あははっ。何言ってんだよ。別に怖くも何ともねぇーよ!」

儚げな声で心配する幼馴染。
そんな顔して欲しいわけじゃなかった。誰にも俺は迷惑なんてかけたくなかった。それが本当の迷惑だって知っていても。
だから、弱い自分を押し殺して笑顔で俺は話し続ける。

笑っていれば全て何とかなるんだって、気づいてしまったあの日からきっと俺はおかしくなっていた。

「なぁ、今度一緒に海行かねぇーか?」

ミーンミーンと暑さを倍増させるような蝉の鳴き声。
チリンチリンと誰かが自転車のベルを鳴らす音。
チリーンとどこかの家の風鈴の音。

そして、目の前に広がる大きな海から聞こえるさざ波の音。

全てが色付いた綺麗で素敵なキャンパスのよう。
毎日毎日、そのキャンパスに色付けて、自分だけのスケッチブックを作り出し、辛くなったら1番鮮やかな記憶のキャンパスを開く。

けれど、今の俺にはそんな記憶のスケッチブックなどない。
1日鮮やかに色付けたキャンパスも明日には破けていなくなる。


知っていた、もうすぐ俺から記憶が全て無くなることも。
それが死を示すことも。

隣にいる幼馴染だって毎日俺に顔を見せてくれるから、辛うじて覚えられているだけで本当は、名前もいつ出会ったかも、ここがどこなのかも忘れている。

「...海、海かぁ。...いいね。せっかく夏だし行こうか。」

ラムネをゴクゴクと喉を鳴らしながら飲みほしてそいつも頷いた。

この約束だって、俺は明日忘れる。
だから、寝る前にメモをするんだ。
明日の自分の為に今の自分が教えてやるんだ。

笑っていれば何とかなる。
笑っていなければつまらない奴だと思われる。
人に嫌われるのが嫌だった。
だからといって、特別好かれたい訳でもない。
ただ、いろんな人と平等に仲良くなりたかった。
ただ、それだけだった。

気づいたら、俺は周りから明るく元気で馬鹿な奴って思われててさ。
別に嫌じゃなかった。
そのキャラが1番安定したポジションだから。

けど、本当にそれで良かったのかな?って思った時にはもう遅すぎたんだ。

たまたま凄く気分が悪くて、笑っているほど余裕がない時、クラスメイトが俺に言った「なんか、今日のお前。元気ねぇな。らしくねぇぞ。」って。

その言葉に深い意味なんてないのに、俺は凄く苛立った。
君に何がわかるんだって。言いたかった。けど、言えなかった。嫌われそうで。

誰にでも優しいキャラってさ、本当は他人に興味ない人がなれるんだよ。
だって、俺がそうだったから。

そのうち孤独感に駆られて、助けも呼べなくなるんだ。俺らしくないから。

俺が俺というキャラに縛られている。

誰も信じられなくなって、そんな日々が辛くって。

数年後にはこんな奇病になっていた。
親も初めは俺のことを心配していたよ。けど日に日に、俺の世話が面倒くさくなってきたみたいで、最近はよく怒るようになって夫婦喧嘩も絶えなかった。

毎日、毎日忘れるページ。
楽しい記憶から無くなっていくんだ。
後に残るは辛い記憶だけ。
またそこから選抜されて、最後は1番辛いという記憶が残り消えて死んでいくんだろう。

ベランダから見えるあの、青い海。
太陽に照らされてキラキラ輝くんだ。
昨日の俺がこの景色を見てどう思ったか覚えていないけれど、俺の辛い気持ちを全て包み込んでくれている感じがして1日を頑張れる。



だから、お前は明日僕に「海にいかねぇーか?」って誘ったんだよね。

横で切なく笑いつつも、目を輝かせてお前はあの海を見つめる。

もう、覚えてないんだね。

あの海は僕とお前が初めて会った場所。

お気に入りのシャベルが海に流されて泣いていた僕にお前は笑顔で「俺の貸してやるから一緒に遊ぼうぜ!!」って。

毎回お前に会いに行けば、キョトンとした顔をして「すみません、誰ですか?」って。もう慣れたけど、初めは凄く傷ついて辛かった。

けど、それ以上の恐怖とお前が戦ってると思うとこんな、痛みなんてことなかった。

何となく、嫌な予感がしたんだ。
お前の口から「海に行きたい」なんて言葉聞いて。

行っては行けない気がした。
何となくだったけれど。そんな気がした。

けれど、お前は凄くいい笑顔で僕に言うものだから断れなくなって、戸惑いながらも「行こうか。」なんて言ってしまって。


「それじゃ、もう夜だし僕帰るよ。またね。」

そう言って僕は彼に別れを告げ、家に帰った。



君がいなくなった家は静かで、まだ親も帰ってこない。

今日の思い出も明日忘れる。
明日の約束をメモして俺は夕飯を済まし、俺は眠りについた。



暗い。
僕は彼をどうやったら救えたのだろう。
いじめられっ子だった僕を彼は助けてくれた。いつだって僕をアイツは助けてくれた。

だから、今度は僕が助けてやりたかった。

電灯が照らす坂道を自転車で立ち漕ぎしながら登る。
ハァハァと息が上がるそんな時だった。ふと、後ろから眩しい光が僕を照らす。その瞬間、ドンッと鈍い音と同時に舞い上がる身体。上からは車が降ってくる。
考える暇もなく、僕はドボンッと水面へ背中を打ち付ける。

お前を救いたかったはずなのに
あぁ、何で僕は今海の中にいるんだろう。

冷たいのに暖かい。青い海が赤く見える。



「ねぇ、今日のニュース見た?」

「見た見た。18歳の男の子が飲酒運転の車に衝突されて崖から落ちたんでしょう?」

「まだ若いのに...可哀想ねぇ。」


外から近所のおばさん達の声がする。
外はもう眩しくて、俺はベッドから起き上がる。

机の上を見るとメモが置いてあった。


「ん?今日は海で約束があるから行けって?」

...誰との約束だろう。
ちゃんとそこ書いとけよなー!昨日の俺!!

太陽が眩しく、黒い帽子を被り俺はその約束であろう海へ向かった。

そして、1時間...2時間...3時間...
ずっと浜辺で親友とやらを待ち続けた。


けれど、誰も来なかった。

「あのメモ、嘘だったのか?」

暇になった俺は立ち上がり、海の方へ歩きだした。

キラキラと輝く広い海
ミーンミーンと暑さを倍増させるような蝉の鳴き声。
チリンチリンと誰かが自転車のベルを鳴らす音。
チリーンとどこかの家の風鈴の音。

きっといつもと変わらない日々なんだと思う。

なのに、なぜか涙が出てくる。
理由もなく、この海を見ているとポロポロと涙が溢れ出てきて
「あれ、なんだよこれっ。止まれ、止まれ。」
そう思っても涙は止まらなくって。

ハッと、俯いた顔を上げ、大きな海を見つめる。気づけば
なぜ、俺がここにいるのかも忘れて
俺が何者かも忘れて
自分の顔も名前も全て忘れて


最後に見たこの海がなぜかとても懐かしく感じて

そして、朝のおばさん達の会話が、鮮明に思い出して

この海で初めてあった幼馴染の君を思い出して。

俺は、泣いた。
声が枯れるまで泣き叫んだ。
「嫌だ嫌だ嫌だ!!!嘘だっ...。嘘だろ...。なぁ、なんでっ...あ...。」
頬を伝う涙は波にさらわれて、俺は意識を失いそのまま、海の中へ沈んだ。



暗い海に沈みながら少年2人は泣いていた。それは涙なのか海の水なのか。

「あぁ、何で俺はこんな奇病にかかってしまったんだろう...。」

「何で、僕はあの時約束をしてしまったのだろう。」

「君を忘れたくなかった。」

「お前を救いたかったのに。」


『それ以前に、さよならと、ちゃんとお別れ出来なくてごめん。』
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