ソード・ダンサー

すあま

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第14話 追加依頼:遺体の行方

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 ドヴェルギアの朝は遅い。何せ鉱山の中にある町だ。良くここにこんなに人が住んでるもんだ。町自体が階層構造故に快晴でも曇り空位まで光量が落ちる。集光岩(原理は説明されても分からなかった)に太陽光が当たると町に光が届く仕組みだ。

 そんなドヴェルギアの町の大通り。午前中の日差しを浴びながら、一人、葬儀屋へ向かってる。

 と言うのも、噂の豪商ブヒボンド氏の契約は、デメリットが見当たらないので一月契約する事にした。断る理由も見つからなかった。決して連絡手段の魔法道具につられた訳じゃぁない。ないったらない。

 そんな訳で、新たな依頼が追加されてしまった。奥方と嫡男救出時に囚われていた邪教の支部に居た者は全員捉え、事実上壊滅した。救出が遅れた奥方を手厚く葬る為、葬儀屋に預けたそうだ。しかし、昨日期日を過ぎたのに、葬儀屋から奥方の遺体が返ってこない。

 その葬儀屋を訪ねて奥方の遺体が何処に行ったのかを探る。当然それをするとあの邪教徒の残党達に鉢合わせることになるだろう。ギルドでもかなりの報酬を積めばやってくれるかもしれないが、コトは奴隷を発端にした混沌とした問題だ。

 要は誰が敵かブヒボンド氏も把握出来てないのだ。ここだけの話、執事のバンダノフさんも邪教徒では無いかと疑いがある。そんな状況で良く俺を雇うとか思い切った事をしたもんだ。心意気に惚れそうで恐いわー。さすが豪商。

 そうだ。ちょっとした探索方法を思いついた。葬儀屋に着く前に仕込んでみようか。

『ジゼル。ティナ嬢がまだツルッツルとか、シュツルム先輩の身体構造ってどうやって知った? 魔力感知的なもの? YESなら振動一つ。NOなら振動二つ』

 振動二つ。いいね。やはり、魔力感知に引っかからない可能性が高い。

『古代魔術なのか?』

 振動二つ。何? どんな魔術形態がベースだ? どう聞いたら分かるのか……。

『今の俺で再現可能か?』

 振動二つ。今の俺には扱えないという事か。

『現在の俺たちが扱う文明で再現可能か?』

 振動一つ。よしここは、ジゼルに探索を任せよう。使えるようになるコツとかは後回しだ。

『ジゼル、奥方の容姿はもう理解しているか?』

 振動一つ。

『いいね。相棒。知覚範囲内に奥方の遺体と思われる物や遺品はあるか、分かるか?』

 振動二つ。

『ふむ。取り敢えず葬儀屋へ行かないと手掛かりは手に入らないか……。ジゼル、何か奥方の手掛かりがあったら、四回振動して教えてくれ』

 振動一つ。これで少しだけカードを拾いやすくなった。

 ◆

 ドヴェルギア西側貧民街入り口前裏通り

 固定した照光口から、光のささぬ立地。如何にもなその場所に葬儀屋『ヒープバリィ』はあった。なんとも分かり易いが間違ってるような微妙な名前だ。早速扉をノックする。

 コンコンコンッ

 返事はなかった。L字型の流線系の植物を模したドアレバーに手を掛ける。鍵はかかっていなかった。奇妙な、微かで気付かないほどの奇妙な気配がした。

 そして、ジゼルが振動した。ここにあったのかと思ったが、四回を超えても振動している。明らかな異常事態だ。警戒をしたのと同時に中から気配がした。

 攻撃の様子は無い。待ち伏せか? 念の為左逆手にジゼルの柄を握る。

 コンコンコンッ

 気配がしてから、五秒ほど経ってしまったのでノックをもう一回してみる。

「はいはい、何方ですか?」

 一見人の良さそうなお爺さんが出てきて、拍子抜けした。ジゼルの振動が一旦止まる。どう言う事だ? 目の前の人物では無いと言うことか。

「こんにちは、私はアリュフ。冒険者っス」
「こんにちは、ヒープバリィ。この葬儀屋の主人です。今日はどの様な御用でしょうか」
「あぁ、ブヒボンドさんから、奥方の遺体についてここに聞いてきて欲しいって言われましてね」
「あ、……そ、そそその事ですか……」

 あからさまに挙動不審になるお爺さん。いや、こりゃあお爺さんが利用されたかな? とにかく背景を探らない事には始まらない。

「どうかされたっスか?」
「じ、実は盗まれてしまったのです。ご報告が遅れて申し訳ありません!」
「なるほど。盗まれる前は何処にあったか見せて貰えるっスか?」
「分かりました。こちらでございます」

 素直に応じてくれる葬儀屋主人。

「ところで、盗まれたなら、どうして直ぐに報告にいらっしゃらなかったっスか?」
「盗まれた遺体が複数だったので先に自治区警備へ報告に行っていたのです。気付くのも遅かったこともありますが……この後ブヒボンドさんのとこへ一緒に伺っても良いでしょうか?」
「私は構いませんっスよ」
「ありがとうございます。この地下に安置させていました。暗いのでお足元お気をつけください」
「どうも、おかまいなくっス」

 殺気も感じず、ジゼルも大人しい。さっきの振動は、なんだったのだろうか? ジゼルの意思が簡単に分かれば良いのだが……。

「こちらです。盗まれた遺体は三体です」

 地下室のランプに火がつけられた。棺桶とベッドが列ぶ何とも不気味が詰まった部屋だった。壁は基本的に外と同じ煉瓦で固められていた。年季の入った汚れが不気味さに花を添える。

「地下に安置した遺体を運び出されたんスか?」
「そうです。ここには、その……臓腑を捨てる為の通路がありまして……そこから運び出されたらしいのです」
「通路……っスか。ふーむ……下水道へ遺体の臓腑を捨てに?」
「え、えぇ」

 魔物の繁殖を手伝う輩を発見。いや、これをどうこう言えたものだろうか。それのお陰で依頼があるのだから。複雑な気分になった。あ、いやいや、盗まれた遺体の捜索に仕事が変わるんだな。一人で深追いしても仕方ない。一度戻ってクライアントに報告だな……あ、魔法道具あるんだっけ。でも、あまりおおっぴらに見せびらかすなって言われてたな。やはり帰るか。

「分かったっス。一度、報告の為に戻りましょうっス」
「え? あ、はい。そうですね」

 ……? 気の所為かな? 返事に妙な間があったな。まぁ、良い。中に危険はなかったとなると、外に待ち伏せの可能性があるのかな。あ、そっか。ジゼルに質問すれば良いのか。

『ジゼル、外に待ち伏せしてる勢力は居るか?』

 振動一つ。やはり、そう言うことか。

『ジゼル、前衛は何人?』

 振動三つ。マジか。確実にヤリに来てるのか。爺さんか俺か……いや、俺の方の心当たりが無い。爺さんか……。

「どうしました? 行くなら早く行きませんか?」
「ちょっと、忘れてたので連絡をさせて下さいっス」

 仕方ない。緊急事態だ。魔法道具を取り出して発動させる。向こうも勝手に発動する仕組みらしい。

「【どうしました? 問題でもありましたか】」
「アリュフっス。奥方の遺体は二日前に盗まれたっス。葬儀屋にてヒープバリィさんを保護してるっス。外に待ち伏せしてる輩が居るようっス」
「【了解しました。即時向かいます】」
「ヨロシクっス」

「それは、何ですか?」

 目を丸くして質問して来る、ヒープバリィさん。危険とは無縁を体現した口調だ。

「連絡用の魔法道具っス。ちょっと一人じゃキツそうなんで応援を呼びました」
「危険なんですか? 何故危険と思ったんです?」
「稼業秘密っス」
「さっき、腰の剣が振動してたのと関係ありますか?」
「稼業秘密っス」

 目敏い……ただの死体運び屋ではないな? 意識せず、左手がジゼルの柄を握りしめる。

 ヒープバリィさんに注目してると、地下室奥の扉が開いた。

 チンッ

 軽いが金属の音が地下室に木霊する。細い金属の針だった。それをジゼルが弾いた。コッチにも居たのか。そう言えば地下室の扉の向こうも外だった。下水道だけど。咄嗟にヒープバリィさんを庇い、戦闘態勢を取る。

「アリュフさん! ヒイィ!」

 ヒープバリィさんが、こちらの名前を呼びながら、階段を年齢にそぐわない速さで腕も使って駆け上がる。それに続いて駆け上がった。第二射の針が幾本か飛来したがジゼルが勝手に弾いてくれた。

 駆け上がった先、一階の玄関から飛び出たヒープバリィさんに針が向かって飛来した。キラリと反射した光を見て咄嗟にヒープバリィさんを庇った。右手に針が刺さる。チクリとした痛み。コッチにも居たのか。これは、やはり毒針か? 粟立つ肌の感覚。何かに反応しているのだろう。

「ヒープバリィさん、逃げて!」

 視界がグニャリとして来た。おかしい。毒の周りが異常に早い。いくら階段を駆け上がったばかりだとしても……



__________
 お読みいただきありがとうございます。
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