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第7話 遭遇(Encounter)
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◆閑話休題 呪われた大地の中で
コボルド:悪魔族 種[混沌]
犬顔の妖精で『悪魔族末席に列する闇の住人』ダンジョンなどで遭遇する魔物。
よく駆出し冒険者の餌食になる。駆け出し冒険者以外は歯牙にもかけない。悪魔族に使い捨てにされる下っ端の兵隊奴隷種族。ゴブリンより若干格下。その為、地底種族でゴブリンにさえ虐げられている。
《主な役割》トンネルを掘り進んで悪魔族の尖兵を各地に届ける工兵。
《アビリティ・スキル》メジャーではないがコバルト鉱石を生み出せる物質改変の呪い。
その鉱脈を使ってのトンネル掘り。
現在はその鉱脈をまさか人類が掘りあて利用しているとは悪魔族も把握していない。
だからこそ、彼らはこう思う。『人間は敵だ。ゴブリンも敵だ。我々を助けるものは我々だけなのだ』と。
◆
我ら、コボルドの大好物はスライムの肉核。我らにとって適度な魔素の結晶粒が甘く感じられるのだ。しかし、奴らの溶解液は危険だ。特に大物ともなると数人でかかる必要がある。
その他は光茸の『台座』と呼ばれる芽。胞子が排出される前は特に美味だ。洞窟を流れる川の中には蟹、魚、エビも居る。この洞窟は呪われた大地にあるが、比較的肥沃な土地で助かっていた。
『威張り散らすゴブリンやオークも居ない上に厄介な魔獣も居ない安全な洞窟だ』と死んだじっちゃんが言ってた。
今日もいつもの3人(?)で食べ物の採取だ。沢へ来てみれば、人間が居た。ハゲザルは悪魔族様達が根絶やしにしようとしている醜く卑怯で狡猾なヤツラだ。
魔王様より賜ったこの世界。その世界にいつの間にか湧き溢れ、我が物顔で徘徊し、エルフやドワーフと言った邪悪な種族と手を組んだ。
そしてアーティファクト・ドラグーンを駆る9人の英雄がハゲやエダ、ドザルを北の大陸から追い出したのだ。しかし、奴らを根絶やしにする為にこの地まで来た折、邪悪な魔法使いの襲撃により、我々は戦線からはぐれてしまった。
この呪われた大地では我々はなかなか増えずそれでも血を絶やさず、各地へ散った。
たとえ、子供でも邪悪なハゲザル達を侮ってはいけないと教えられている。
『見かけたら大人を呼べ、決して倒そうと思うな』とコレも死んだじっちゃんが言ってた。
今、目の前に、そのハゲザルの子供が見える。武器も持たず、弱そうだった。
オレはこの世界で物心ついて7ヶ月目。大分力もつき、3人の中でも大柄である。自分で言うのもなんだが冥府界のケルベロスもカクヤと言うほどの精悍な狼顔で長い大きな顎門はハゲザルの子供の喉笛などやすやすと噛みちぎる自信がある。
オレはヤツの始末をする決意をして、弟達に伝える。
「(お前達はみんなに危険が迫って居ると知らせるコボ)」
そう言う意味のあるニオイを擦り付けて弟と妹にそう指示する。
「(兄さんは、どうするコボ?)」
弟がそう言う意味の目を向けてくる。その視線を受け止めてからハゲザルの方を見た。
「(ヤツを見張るコボ。お前達を守るコボ)」
そうニオイを嗅がせ伝えた時だった。
ゴウンッ!
対岸の広間の一角に一瞬、火柱があがる。『ハゲザルちびを始末した後の馳走』と。頭の隅で思っていたスライムが跡形も無く蒸発していた。
(な! あれは何が起きたコボ? 敵の能力は未知数か! 驚異かも知れん。慎重に見張りだけにしておくか……む! あれは話に聞く悪魔族様のインプ族ではないのかコボ!?)
見たのは初めてだった。小さな妖精のような容姿でありながら、ゴブリンやオークを使役し、魔法で軍勢を束ね、ハゲザルどもを駆逐して行ったと言い伝えられてる。そんな伝説が目の前に。妙なニオイがすると思ったらインプ様のだったか。
しかし何故インプ様が? ハゲザルなどと共にいるのか。解せぬ。
小動物の様な顔の妹が火柱の熱気に怯えて腕にしがみついてきた。
妹を見やると小動物顔が更にリスかウサギの様になって、こちらを見てガクガクと震え目に大粒の涙をたたえている。
「(手を離すコボ)」
軽く舐めて、なだめながら言い聞かせる。
しかし、妹は長いタレ耳を横に広がらせながら、ぶんぶんと頭を振る。
「(心配ないコボ、見張って置くだけだコボ)」
極力優しく引き剥がそうとする。そんなことをしてると弟もひっついてきた。これでは、見張りどころではない。気付かれる前に一度下がって、弟たちに言い聞かせねば。
仕方なく距離を取り、説得する。
「お前達はみんなに危険が迫って居ると知らせて欲しいコボ。オレは奴を見張るコボ。だから大人を呼ぶコボ」
「いやコボっ! 兄さまは絶対に無茶しますコボ!」
「兄さまが残るコボ!? なら、オレも兄さまと戦うコボ!」
「いや、だから、集落に近づかせない為コボな、見張るだけコボ」
「ホントにコボ? ホントに無茶しないコボ?」
「あぁ、約束コボ」
妹に約束し、弟に視線を移す。
「妹をしっかり守ってくれコボ」
2人は何度もこちらを見ながら集落に帰って行った。よし、改めて先程のトンガリ岩が並ぶ影からハゲザルとインプ様を見張る。
影から首を出した瞬間に雷が洞窟に落ちた。慌てて首を引っ込めた。
(やばいコボ! 見つかったコボか!?)
「⊿×%、≒〆§‰+$#^^々」
「@#&」
何かのやり取りの後、見逃しそうなほど小さな人形が此方に右腕をあげるのが見えた。本能が首の後ろ辺りでチリチリと危機を告げる。再び慌てて首を引っ込めた。
◆ 第7話 遭遇(Encounter)
岩影に隠れる何かが、見えたので思考詠唱を中断した。
「え? 何か居る?」
「あぁ。コボルドだ。先程から此方を見張ってた。三匹居たが二匹離脱してった。仲間を呼んだのだろう」
「知ってたのか!?」
「当然。見張れって言ったのはアイルスだぞ?」
「どうして教えてくれなかった?」
「下賤な犬コロ妖精など歯牙にかけるまでもない……脅して見逃してやろうと思ったのだがな。来るぞ。一応教えとくがあれを殺すのは容易い。だが、それをしたなら一族皆殺しをお勧めする」
「はぁ!?」
「我々悪魔族と人間は休戦状態にあるが戦争中だ。戦争とはそう言うモノだ」
僕と大差のない身長のコボルドが、石を削り出したような赤色石器ナイフを手に躍り出る。
「やれやれ、交渉の余地もなく短絡的だな。だから下賤なんだ」
「なに、落ち着き払ってんだよ! 敵なんだろ!」
「残念だけど、アイルスだけが敵だと思ってるようだな。まぁ、一応説得してみっけど。"止まれコボ! こちらに来たら命はないと思え"」
「"インプ様!? ハゲザルに囚われてるコボ!? 今助けるコボ!"」
ガゥガゥがおーって何言ってるのかわからないけど。……なんか、それほど大きくもない沢を渡って来るコボルドの眼光が鋭さを増した。気がした。
「あー、こりゃ説得無理、こっちの話を聞かないタイプであたしが捕まってるってさ、悪りぃアイルス。ゴメンしてね☆」
そう宣言しながらヘルは、こちらに『てへぺろウィンク』した。
「諦め早いなっ!」
「えー、でもー、アイルスに捕まってるの事実だしぃ~」
「こんにゃろー……」
サーヴァントに発動しっぱなしの感覚共有に注視した。サーヴァントの視界と身体の触感がフィードバックされる。
「”マジック・パワー・リバイバル・サプレッション"」
リルナッツの前面260度×360度に限定。魔力完全隠蔽と回収の領域をデザインし直す。その通りにサプレッションと魔力回収領域を展開。それが終わると密かに憧れてた徒手格闘のファイティングポーズの構えをリルナッツにさせた。
本体である自身も同じ格好になる。まだ感覚共有の向こう側だけで格闘動作させる事に慣れていない為だ。
『分かっているだろうが、相手の出方をそのまま待て』『ただし、相手に一切の攻撃をさせるな』『殺さず戦意のみを奪え』並列連携した自分自身からメッセージが届く。
「分かっているとも」
とにかく、考えつく対処をパターン化して備える。その一つ、考えていた思考詠唱を行なった。
「ウォオオオオオオオ!」
水しぶきをあげてダークコバルトブルーの毛色のコリー顔二足歩行が赤鉱ナイフを掲げて雄叫びをあげた。
その隙にコリー顔が上がって来る岸辺までリルナッツをダッシュさせる。コリー顔が川からあっと言う間に上がってしまう。水飛沫に紛れて掴ませようとしたがそれには間に合わなかった。構わずリルナッツに取付けと指示を出し、毛を掴ませた。
コリー顔が違和感を覚えて、リルナッツを見た。そのまま思考詠唱で唱えておいた魔法を発動する。
"テレパス2"
この魔法は、言葉が通じない相手に言語前の意思伝達を目的として、つい今しがた並列思考に作って貰った意識の階層レベルを改造したものだ。それは上手く発動した。
コリー顔の思いがこちらに流れて来る。『守る。みんなに近づけさせない。足止め。悪魔の怒りを買わない』そう言った内容の気持ちが読み取れた。こちらの気持ちを送ることを試みる。
『危害は加えない。洞窟から出たい。出来れば助けて欲しい』
しかし、コリー顔は、一瞬戸惑っただけで再び歩み始めた。
『オノレ、アヤシゲナジュツヲ』的な気持ちが発せられ、リルナッツが取り付いてるのも構わず進んでくる。
「マジか。どうしたら信じてくれるんだ」
「面倒臭いなぁ、ゴブリンの使いっ走りごとき、ヤっちゃえばいいのに」
「それじゃ、消耗するだけだ。出来れば助けてもらって、知ってる事を全て手に入れたい」
「助けて貰う積もりの上、情報まで奪うだと! お前が悪魔か!」
「悪魔に悪魔なんて言われたくない!」
「あ~、はいはい、で、ゴブリンの使いっ走りごときの知識なんぞ有益なものなんかあるとは思えんのだが」
「出口までの最短ルート、ここでの食料の確保の仕方とか」
「意外と考えてるな。本当に7歳か?」
「神に誓って!」
大げさに手を組み天を仰ぎ目を閉じる。
「悪魔に対して何言ってんだ? 敬虔な信徒でもない癖に」
「これに書いてあったんだ」
ヘルと繋ぎっぱなしの思念伝達へ、読んだ本のページのイメージを送る。
デバイス・アーティファクトの書庫に収められていたそれは遺跡文字で記されていた。現在、大陸で使われている文字でもドルイド文字でもない。強いて言えば悪魔の使う文字に近い。古代文字。そのままではアイルスが読める訳がない。
先代の師匠たちが研究用に翻訳して保管し忘れ去られていたのだろう。そんな本のデータだった。翻訳だらけで、くだらない落書きもたまにしてあるイメージデータだ。ページの上には「明日から使える心理学・2章 言い回しテクニック」とある。
ページの真ん中辺りに「神に誓って…信用を得ていない時に使用する免罪符的慣用句」とある。鼻息荒くヘルを見た。
「お前、バカだろ」
ヘルに思い切り冷たい目で見られた。心外だ。
ヘルとつい夫婦漫才してしまい、コリー顔から目を離してしまっていた。今攻撃されてたら致命傷を喰らってたかもしれない。もっとも、その場合はヘルが守ってくれるはずだが。
コリー顔に向き直る。目が合うとコリー顔はビクッとした。
振り上げっぱなしの鉱石ナイフをそのままに目を点にして、こちらのやり取りを見ながら戸惑っていたらしい。テレパス2でこちらの本音ダダ漏れで流れているのだから、敵意とおよそ遠い助けてもらうことが流れている……はず。
彼が思っているような脅威ではない事は伝わるだろうか。判断に迷うところなのだろう。
頼むから敵対しないでくれ。
____________________
【ステータス】
アイルス・プリムヘッツ(7歳)
弟子32日
◆才能:※更新なし
アカシック・リーディング(無自覚)
最適設計演算
魔力補助精密動作筋肉制御
失敗検証
検証データ予測演算
◆才能→技術化(ユニークスキル)※更新なし
魔力制御法+魔法最適化→
マジカル・オプティマイザ:Lv 3/??
頭脳使用法:Lv 27(並列処理により上限解除)
記憶向上+関連記憶→
フラッシュ・デフラグ・フロー
動的空間把握処理能力+予測演算+
動体視力処理速度連動加速→
フラッシュ・シミュレータ
夢想実現化演算→
ブレイク・ダウン・マイル・ストーン
※頭脳使用法で纏められているのでLv 表示なし
◆技能:
見稽古(分析、考察)Lv 1
標準語(会話、読み書き)
遺跡語(読み書き)
精霊語(読心会話)
高速切替思考処理
並列意識連携処理 Lv1
魔力察知 Lv 3
魔法式改造 Lv 4
魔法上級改造(並列連動式等)Lv 4
混成魔法 Lv 5
物理造形設計技術(木材、石材)Lv 3
研磨整形技術 Lv 5
※関節部分の精密さを追求した結果。
スキルカスタム Lv0 New
魔術:
クリエイト・オブ・サモン・マナ・サークル
風の精霊召喚
魔法:
★1(第一階梯)パッケージ習得完了
※精霊関連除く
ライト 光属性
周囲を明るく照らす魔法。蝋燭の4倍の明度10分。
マーカー(ライト派生)
明度なし。反射発光。
インフラ・レッド・ビジョン(ライト派生)
遺跡の知識を取り入れた光の魔法の応用。可視光
域外の光を知覚、視界に反映させる。熱源知覚も可
能とする優れもの。赤外線が届くなら、ほぼ気付か
れることなく知覚可。
幻影生成 (ライト派生)
ドル師匠がやっていたのを真似たもの。
物質強化
分子補強
※劇中未登場:パッケージを最適化した強化魔法。
★外 体系外魔法
思い込み魔法
記憶圧縮
再監者顕現
並列人格顕現
記憶複写
主記憶管理処理
複記憶保管処理
※劇中未登場
運動能力限定解除
ドルイド・マジック:
※劇中未登場
植物取込共生
イービル・マジック
サプレッション→コマンド化
追加オリジナル・マジック
テレパス2
マジック・パワー・リバイバル・サプレッション
■登場キャラクター紹介■
◆モンスター
・コボルド
イヌ原人に見えるが妖精。知能はそれ程
高くはないので文明と呼べる社会まで作ら
ない。悪魔族最弱とされる種族。種族技能
コバルト・オブ・オルタレーション・マテ
リアルを持つ。
_____
お読みいただきありがとうございます。
コボルド:悪魔族 種[混沌]
犬顔の妖精で『悪魔族末席に列する闇の住人』ダンジョンなどで遭遇する魔物。
よく駆出し冒険者の餌食になる。駆け出し冒険者以外は歯牙にもかけない。悪魔族に使い捨てにされる下っ端の兵隊奴隷種族。ゴブリンより若干格下。その為、地底種族でゴブリンにさえ虐げられている。
《主な役割》トンネルを掘り進んで悪魔族の尖兵を各地に届ける工兵。
《アビリティ・スキル》メジャーではないがコバルト鉱石を生み出せる物質改変の呪い。
その鉱脈を使ってのトンネル掘り。
現在はその鉱脈をまさか人類が掘りあて利用しているとは悪魔族も把握していない。
だからこそ、彼らはこう思う。『人間は敵だ。ゴブリンも敵だ。我々を助けるものは我々だけなのだ』と。
◆
我ら、コボルドの大好物はスライムの肉核。我らにとって適度な魔素の結晶粒が甘く感じられるのだ。しかし、奴らの溶解液は危険だ。特に大物ともなると数人でかかる必要がある。
その他は光茸の『台座』と呼ばれる芽。胞子が排出される前は特に美味だ。洞窟を流れる川の中には蟹、魚、エビも居る。この洞窟は呪われた大地にあるが、比較的肥沃な土地で助かっていた。
『威張り散らすゴブリンやオークも居ない上に厄介な魔獣も居ない安全な洞窟だ』と死んだじっちゃんが言ってた。
今日もいつもの3人(?)で食べ物の採取だ。沢へ来てみれば、人間が居た。ハゲザルは悪魔族様達が根絶やしにしようとしている醜く卑怯で狡猾なヤツラだ。
魔王様より賜ったこの世界。その世界にいつの間にか湧き溢れ、我が物顔で徘徊し、エルフやドワーフと言った邪悪な種族と手を組んだ。
そしてアーティファクト・ドラグーンを駆る9人の英雄がハゲやエダ、ドザルを北の大陸から追い出したのだ。しかし、奴らを根絶やしにする為にこの地まで来た折、邪悪な魔法使いの襲撃により、我々は戦線からはぐれてしまった。
この呪われた大地では我々はなかなか増えずそれでも血を絶やさず、各地へ散った。
たとえ、子供でも邪悪なハゲザル達を侮ってはいけないと教えられている。
『見かけたら大人を呼べ、決して倒そうと思うな』とコレも死んだじっちゃんが言ってた。
今、目の前に、そのハゲザルの子供が見える。武器も持たず、弱そうだった。
オレはこの世界で物心ついて7ヶ月目。大分力もつき、3人の中でも大柄である。自分で言うのもなんだが冥府界のケルベロスもカクヤと言うほどの精悍な狼顔で長い大きな顎門はハゲザルの子供の喉笛などやすやすと噛みちぎる自信がある。
オレはヤツの始末をする決意をして、弟達に伝える。
「(お前達はみんなに危険が迫って居ると知らせるコボ)」
そう言う意味のあるニオイを擦り付けて弟と妹にそう指示する。
「(兄さんは、どうするコボ?)」
弟がそう言う意味の目を向けてくる。その視線を受け止めてからハゲザルの方を見た。
「(ヤツを見張るコボ。お前達を守るコボ)」
そうニオイを嗅がせ伝えた時だった。
ゴウンッ!
対岸の広間の一角に一瞬、火柱があがる。『ハゲザルちびを始末した後の馳走』と。頭の隅で思っていたスライムが跡形も無く蒸発していた。
(な! あれは何が起きたコボ? 敵の能力は未知数か! 驚異かも知れん。慎重に見張りだけにしておくか……む! あれは話に聞く悪魔族様のインプ族ではないのかコボ!?)
見たのは初めてだった。小さな妖精のような容姿でありながら、ゴブリンやオークを使役し、魔法で軍勢を束ね、ハゲザルどもを駆逐して行ったと言い伝えられてる。そんな伝説が目の前に。妙なニオイがすると思ったらインプ様のだったか。
しかし何故インプ様が? ハゲザルなどと共にいるのか。解せぬ。
小動物の様な顔の妹が火柱の熱気に怯えて腕にしがみついてきた。
妹を見やると小動物顔が更にリスかウサギの様になって、こちらを見てガクガクと震え目に大粒の涙をたたえている。
「(手を離すコボ)」
軽く舐めて、なだめながら言い聞かせる。
しかし、妹は長いタレ耳を横に広がらせながら、ぶんぶんと頭を振る。
「(心配ないコボ、見張って置くだけだコボ)」
極力優しく引き剥がそうとする。そんなことをしてると弟もひっついてきた。これでは、見張りどころではない。気付かれる前に一度下がって、弟たちに言い聞かせねば。
仕方なく距離を取り、説得する。
「お前達はみんなに危険が迫って居ると知らせて欲しいコボ。オレは奴を見張るコボ。だから大人を呼ぶコボ」
「いやコボっ! 兄さまは絶対に無茶しますコボ!」
「兄さまが残るコボ!? なら、オレも兄さまと戦うコボ!」
「いや、だから、集落に近づかせない為コボな、見張るだけコボ」
「ホントにコボ? ホントに無茶しないコボ?」
「あぁ、約束コボ」
妹に約束し、弟に視線を移す。
「妹をしっかり守ってくれコボ」
2人は何度もこちらを見ながら集落に帰って行った。よし、改めて先程のトンガリ岩が並ぶ影からハゲザルとインプ様を見張る。
影から首を出した瞬間に雷が洞窟に落ちた。慌てて首を引っ込めた。
(やばいコボ! 見つかったコボか!?)
「⊿×%、≒〆§‰+$#^^々」
「@#&」
何かのやり取りの後、見逃しそうなほど小さな人形が此方に右腕をあげるのが見えた。本能が首の後ろ辺りでチリチリと危機を告げる。再び慌てて首を引っ込めた。
◆ 第7話 遭遇(Encounter)
岩影に隠れる何かが、見えたので思考詠唱を中断した。
「え? 何か居る?」
「あぁ。コボルドだ。先程から此方を見張ってた。三匹居たが二匹離脱してった。仲間を呼んだのだろう」
「知ってたのか!?」
「当然。見張れって言ったのはアイルスだぞ?」
「どうして教えてくれなかった?」
「下賤な犬コロ妖精など歯牙にかけるまでもない……脅して見逃してやろうと思ったのだがな。来るぞ。一応教えとくがあれを殺すのは容易い。だが、それをしたなら一族皆殺しをお勧めする」
「はぁ!?」
「我々悪魔族と人間は休戦状態にあるが戦争中だ。戦争とはそう言うモノだ」
僕と大差のない身長のコボルドが、石を削り出したような赤色石器ナイフを手に躍り出る。
「やれやれ、交渉の余地もなく短絡的だな。だから下賤なんだ」
「なに、落ち着き払ってんだよ! 敵なんだろ!」
「残念だけど、アイルスだけが敵だと思ってるようだな。まぁ、一応説得してみっけど。"止まれコボ! こちらに来たら命はないと思え"」
「"インプ様!? ハゲザルに囚われてるコボ!? 今助けるコボ!"」
ガゥガゥがおーって何言ってるのかわからないけど。……なんか、それほど大きくもない沢を渡って来るコボルドの眼光が鋭さを増した。気がした。
「あー、こりゃ説得無理、こっちの話を聞かないタイプであたしが捕まってるってさ、悪りぃアイルス。ゴメンしてね☆」
そう宣言しながらヘルは、こちらに『てへぺろウィンク』した。
「諦め早いなっ!」
「えー、でもー、アイルスに捕まってるの事実だしぃ~」
「こんにゃろー……」
サーヴァントに発動しっぱなしの感覚共有に注視した。サーヴァントの視界と身体の触感がフィードバックされる。
「”マジック・パワー・リバイバル・サプレッション"」
リルナッツの前面260度×360度に限定。魔力完全隠蔽と回収の領域をデザインし直す。その通りにサプレッションと魔力回収領域を展開。それが終わると密かに憧れてた徒手格闘のファイティングポーズの構えをリルナッツにさせた。
本体である自身も同じ格好になる。まだ感覚共有の向こう側だけで格闘動作させる事に慣れていない為だ。
『分かっているだろうが、相手の出方をそのまま待て』『ただし、相手に一切の攻撃をさせるな』『殺さず戦意のみを奪え』並列連携した自分自身からメッセージが届く。
「分かっているとも」
とにかく、考えつく対処をパターン化して備える。その一つ、考えていた思考詠唱を行なった。
「ウォオオオオオオオ!」
水しぶきをあげてダークコバルトブルーの毛色のコリー顔二足歩行が赤鉱ナイフを掲げて雄叫びをあげた。
その隙にコリー顔が上がって来る岸辺までリルナッツをダッシュさせる。コリー顔が川からあっと言う間に上がってしまう。水飛沫に紛れて掴ませようとしたがそれには間に合わなかった。構わずリルナッツに取付けと指示を出し、毛を掴ませた。
コリー顔が違和感を覚えて、リルナッツを見た。そのまま思考詠唱で唱えておいた魔法を発動する。
"テレパス2"
この魔法は、言葉が通じない相手に言語前の意思伝達を目的として、つい今しがた並列思考に作って貰った意識の階層レベルを改造したものだ。それは上手く発動した。
コリー顔の思いがこちらに流れて来る。『守る。みんなに近づけさせない。足止め。悪魔の怒りを買わない』そう言った内容の気持ちが読み取れた。こちらの気持ちを送ることを試みる。
『危害は加えない。洞窟から出たい。出来れば助けて欲しい』
しかし、コリー顔は、一瞬戸惑っただけで再び歩み始めた。
『オノレ、アヤシゲナジュツヲ』的な気持ちが発せられ、リルナッツが取り付いてるのも構わず進んでくる。
「マジか。どうしたら信じてくれるんだ」
「面倒臭いなぁ、ゴブリンの使いっ走りごとき、ヤっちゃえばいいのに」
「それじゃ、消耗するだけだ。出来れば助けてもらって、知ってる事を全て手に入れたい」
「助けて貰う積もりの上、情報まで奪うだと! お前が悪魔か!」
「悪魔に悪魔なんて言われたくない!」
「あ~、はいはい、で、ゴブリンの使いっ走りごときの知識なんぞ有益なものなんかあるとは思えんのだが」
「出口までの最短ルート、ここでの食料の確保の仕方とか」
「意外と考えてるな。本当に7歳か?」
「神に誓って!」
大げさに手を組み天を仰ぎ目を閉じる。
「悪魔に対して何言ってんだ? 敬虔な信徒でもない癖に」
「これに書いてあったんだ」
ヘルと繋ぎっぱなしの思念伝達へ、読んだ本のページのイメージを送る。
デバイス・アーティファクトの書庫に収められていたそれは遺跡文字で記されていた。現在、大陸で使われている文字でもドルイド文字でもない。強いて言えば悪魔の使う文字に近い。古代文字。そのままではアイルスが読める訳がない。
先代の師匠たちが研究用に翻訳して保管し忘れ去られていたのだろう。そんな本のデータだった。翻訳だらけで、くだらない落書きもたまにしてあるイメージデータだ。ページの上には「明日から使える心理学・2章 言い回しテクニック」とある。
ページの真ん中辺りに「神に誓って…信用を得ていない時に使用する免罪符的慣用句」とある。鼻息荒くヘルを見た。
「お前、バカだろ」
ヘルに思い切り冷たい目で見られた。心外だ。
ヘルとつい夫婦漫才してしまい、コリー顔から目を離してしまっていた。今攻撃されてたら致命傷を喰らってたかもしれない。もっとも、その場合はヘルが守ってくれるはずだが。
コリー顔に向き直る。目が合うとコリー顔はビクッとした。
振り上げっぱなしの鉱石ナイフをそのままに目を点にして、こちらのやり取りを見ながら戸惑っていたらしい。テレパス2でこちらの本音ダダ漏れで流れているのだから、敵意とおよそ遠い助けてもらうことが流れている……はず。
彼が思っているような脅威ではない事は伝わるだろうか。判断に迷うところなのだろう。
頼むから敵対しないでくれ。
____________________
【ステータス】
アイルス・プリムヘッツ(7歳)
弟子32日
◆才能:※更新なし
アカシック・リーディング(無自覚)
最適設計演算
魔力補助精密動作筋肉制御
失敗検証
検証データ予測演算
◆才能→技術化(ユニークスキル)※更新なし
魔力制御法+魔法最適化→
マジカル・オプティマイザ:Lv 3/??
頭脳使用法:Lv 27(並列処理により上限解除)
記憶向上+関連記憶→
フラッシュ・デフラグ・フロー
動的空間把握処理能力+予測演算+
動体視力処理速度連動加速→
フラッシュ・シミュレータ
夢想実現化演算→
ブレイク・ダウン・マイル・ストーン
※頭脳使用法で纏められているのでLv 表示なし
◆技能:
見稽古(分析、考察)Lv 1
標準語(会話、読み書き)
遺跡語(読み書き)
精霊語(読心会話)
高速切替思考処理
並列意識連携処理 Lv1
魔力察知 Lv 3
魔法式改造 Lv 4
魔法上級改造(並列連動式等)Lv 4
混成魔法 Lv 5
物理造形設計技術(木材、石材)Lv 3
研磨整形技術 Lv 5
※関節部分の精密さを追求した結果。
スキルカスタム Lv0 New
魔術:
クリエイト・オブ・サモン・マナ・サークル
風の精霊召喚
魔法:
★1(第一階梯)パッケージ習得完了
※精霊関連除く
ライト 光属性
周囲を明るく照らす魔法。蝋燭の4倍の明度10分。
マーカー(ライト派生)
明度なし。反射発光。
インフラ・レッド・ビジョン(ライト派生)
遺跡の知識を取り入れた光の魔法の応用。可視光
域外の光を知覚、視界に反映させる。熱源知覚も可
能とする優れもの。赤外線が届くなら、ほぼ気付か
れることなく知覚可。
幻影生成 (ライト派生)
ドル師匠がやっていたのを真似たもの。
物質強化
分子補強
※劇中未登場:パッケージを最適化した強化魔法。
★外 体系外魔法
思い込み魔法
記憶圧縮
再監者顕現
並列人格顕現
記憶複写
主記憶管理処理
複記憶保管処理
※劇中未登場
運動能力限定解除
ドルイド・マジック:
※劇中未登場
植物取込共生
イービル・マジック
サプレッション→コマンド化
追加オリジナル・マジック
テレパス2
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◆モンスター
・コボルド
イヌ原人に見えるが妖精。知能はそれ程
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青いウーパーと山椒魚
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加藤あいは高校2年生。
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しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魅了の対価
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家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
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『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
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12/23 HOT男性向け1位
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