マジック サーヴァント マイスター

すあま

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第8話 冒険者達(Adventures)

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第8話 冒険者達(Adventures)


 断崖絶壁に申し訳程度に削られた狭い道。足場と呼ぶには頼りない崖の取っ掛かりは時に足一つ分と言う優しくない状況だ。その足場だけでは滑落必死。

 それを防止するために一定の距離で穿たれた杭につなぎ止められた鎖を命綱に進んでいく9人の商人。いや。本当の商人は3人で残りの6人は冒険者だ。

 冒険者のお試し任務トライアル・ミッション専用の峡谷越え荷物運搬警護。商人1人につき、インストラクターの任を受けた熟練冒険者が新人冒険者を連れて、警護している。

 新人達の歩みは商人の慣れた足取りよりも危なっかしく、頼りない。熟練冒険者はその新人をサポートする。が、中には間に合わせでインストラクターに向かない者がついて行くことがあった。

「おい、ルーキー! 歩幅を大きく取れ、ビビってんじゃねえ!」
「し、しかし先輩! こんな狭い足場」
「その鎖から手ぇ離すんじゃねぇぞ。ったく、なんだってデュオ・アームズのお守りなんかせにゃならんのだ。片手しか使えないデュオ・アームズなんぞお荷物もいいとこだ!」

 有翼の魔獣にでも今襲われれば、他の前衛職でも不利な状況のこの場所では、両手で戦ってこそのデュオ・アームズは、お荷物にしか感じられないだろう。そして大抵は来て欲しくない時と場所に魔獣は現れる。

 キアエエエエェ!

 峡谷に響き渡る魔獣の鳴き声

「クッソ。さっきからさえずりがなくなったと思えば、魔獣のテリトリーだったのか」
「え?」
「何? 魔獣!?」

 依頼者である商人の顔が青ざめる。

「ルーキーども! ボサッとしてんな! 迎撃の準備しろ!」
「「「はい!」」」

 トレーナーとしての才は低くても、熟練者としての判断の速さはさすがだった。

「後方! 恐らくハーピーが来るぞ!」
「くそ! 交易路の近くで子育てなんかしやがって!」
「おい! 新入り! ラッキーだったな! 俺たちの見せ場だぞ! ハッハハハハ!」

 1番後方にいるトレーナーが高笑いする。魔獣に対しての牽制も含めて熟練者達が峡谷に向かって叫ぶ。新人達には、反響音が緊迫感を無駄に煽ってる気がした。

「来るぞ! 射掛けられるか!?」
「任せろ! 新入り! 鎖に肘通せ! 射った後落ちんなよ!」

 シルバーBランク程の大弓使いが注意する。
 それと同時に崖上からハーピーが姿を見せた。そこそこ美人の顔を持つ胸までは人の姿をした魔獣。顔と胸以外は大きな鳥の化け物だ。繁殖期に旅人をさらい、その美声と顔で男を魅了し、子種をいただいた後旅人を子育ての養分として喰らう。カマキリのメスの様な生態の魔獣だ。異種異性利用繁殖は他にも幾つか例がある。

「奴等が射程圏内に入るまで撃つんじゃねーぞ」
「は、はい!」

 ギリギリと弓を普段と違う態勢で引く。右腕が肘の命綱代わりの鎖でほぼ固定状態にある。それでも矢がつがえるのであれば、後は狙うだけ。

 しかし、射程ギリギリでハーピーが仕掛けて来た。腐っても魔獣。足に掴んだボロ切れの様な物を飛んで来た速度と重力を味方にして放った。それは、食い散らかされ胸像となった遺体だった。カラカラに乾き白骨化したミイラの胸像二体。

 それを二羽のハーピーがそれぞれ大荷物を背負った商人に狙いを定め放った。放つと同時に上昇し様子を見る。まさか己に向かってそんな物が降りかかって来るなど予想もしてなかった商人2人。それが近づくにつれ把握した途端に絶叫が峡谷に木霊した。

「ひいいいいい!!!」
「うわわわわっ!!!」

 白骨化して軽かった事が幸いし、大弓の矢がその遺体に刺さると目標はそれた。

 中列後方に居た、新人僧侶のリュックにぽすっと当たると落ちて行った。当たってから新人僧侶は短い悲鳴をあげ、遺体に向かって印を結び祈りを捧げる。

 しかし、もう一方の商人には、前衛職2人がついていながら危険は無いと判断され、守られなかった。
 その為、ミイラの頭蓋をオデコに受けた商人は足を滑らせ、鎖に必死にしがみつく。

「うわ!? ひいいいいい!! し、死ぬ!」
「しっかり掴まってろ、単なるミイラだ! なんともねーよ!」

 その商人を助ける為に片手剣の熟練者の青年は商人諸共荷物を持ち引き上げる。新人デュオ・アームズの青年も商人を助けるために荷物に手をかける。

「足引っ張ってるなら、助かるもんも助からねーぞ!」
「先輩! その言い方はどうかと思います! あの遺体を見くびったのは俺らのミスっス!」

 シルバーまで登った冒険者ならミイラごとき見たことがある。ましてただの遺体だ。
 脅威を感じることもない感覚の麻痺さ加減が商人の不幸を招いた。

「ルーキーが言うじゃねーか! 文句はあれを倒してからだ! 青二才!」

 上空を見上げ、ハーピーを睨みつける一同。

「くそ! 一撃でもやれねーのかよ! 弓使いども!」
「射程外だ!」

 ハーピーの片方が崖上に消える。残った方はニヤニヤとこちらを値踏みしていた。
 もう片方のハーピーが大人の頭ほどの岩を持って更に高い所から急降下しながら帰って来る。そしてまた、射程ギリギリでそれを放る。遠距離攻撃出来そうな2人のうち新人の弓持ちを狙ってきた。なかなか頭がいい。

「ひっ‼︎」

 商人を先行させて、『熟練者が前後を守る』と言う後列ならではの考えが幸いする。弓の番えを解いて鎖を握り直し、全力で岩にキックを見舞う熟練者。
「ボサッとしてんな! 新入り! 死にたいのか!」

 質量爆撃をしている間にもう片方が消え、暫くして岩を持ってまた現れた。今度は落ちかけの商人を狙って放つ。商人の荷物が落ちたら売れる物が無くなる。それは報酬がなくなることを意味する。商人が落ちる結果は言わなくても分かりきった事。

「どうにかして見せろ! ルーキー!」
 片手剣の熟練者が叫び岩の軌道をずらす、鋭い突きを繰り出した。しかし岩は重く商人を外れただけでデュオ・アームズ・ルーキーに突っ込んでいく。
「え!?」

 リュックに手をかけていた為に低い位置にあった頭へ目掛け、迫る岩を咄嗟に避けるために飛び降りる。リュックにぶら下がりながら、反対方向へ振り子移動した。

「うぎゃぁあああ! 落ちる落ちる落ちる!」

 両肩に不意に1人分の重量が上乗せされた商人は、ようやく引き上げてもらった足を再び滑らせた。必死で鎖を握り耐える商人。

「馬鹿野郎! 依頼人を殺す気か!」

 いや、今のはどうなんスかと心でルーキーは思いながらも口には出さなかった。そもそもミイラを危険がないと判断し、商人に当たるのをそのままにした護衛2人のミスから招いている事態だ。

「お前ら、生きて帰れたら報酬は半分だからな!」

 商人は半泣き涙目で叫ぶ。
 『不味い』と前衛職2人の顔が同時にへの字になった。挽回しなければ。
 とは言え、こちらは手が出せない。向こうは色々と落として来る。 

「ルーキー、お前が先頭になれ。オレが前後をフォローする」
「了解っス、先輩」

 2人の顔が急に真面目になった。前衛熟練者がひょいと商人を引き上げる。

「攻撃が来ないウチに移動するぞ! 出来れば奴等に一矢報いて目にもの見せろ! ルーキー!」
「え!? オレっスか!?」
「喜べ! お前に名誉ある撃墜のチャンスをやると言ってるんだ!」
「無茶振りっスね」
「とにかく、進め。このままじゃ、誰か死ぬぞ」
「分かったっスよっと!」

 ススススっと新人が身軽に先行する。目立ち過ぎる離脱行動にハーピーが目をつけた。

「な! バカ! 先行しすぎだ!」

 叫んだ後に岩が飛んでくる。

「言わんこっちゃ無い!」
「少しくらいの怪我なら治せますが落ちたら流石に死にますよ!」

 隊列真ん中の僧兵モンクが叫ぶ。

「こんな岩!」

 ルーキーは片手剣で岩を峰打ちし軌道を真横にずらした。

「ヤルじゃん! 油断すんなよ!」

 暫くして、もう一つ岩がルーキーに飛んでくる。が、当然受け流してやり過ごす。
 ハーピー達は焦れた。いつもならコレでだいたい滑落して行くのだが、この連中は手強い。そう判断し奥の手を使う事にしたのだろう。弓矢に警戒しながらも近寄って来た。
 弓が飛んでくるが錐揉みで回避。そして流れる動作でダイブして来た。
 冒険者達から3階ほど高い位置からのダイブ。
 狙いは離脱した冒険者。

「おい! 来るぞ! 構えろ!」

 熟練者の警告を受けて、全員が迫り来るハーピーへ視線を注ぐ。ルーキー目掛けてのダイブ姿勢から鉤爪攻撃体勢に切り替わる。ルーキーが武器のツカを握り、居合抜きのような構えのまま固まる。

 ーーヤバイーー

 誰もがそう思った。
「何をしている! 早く構えろ!」
 熟練者は居合抜きなど知らないし、この世界にいわゆる東の国の武術は知れ渡って居ない。

 新人も単なる思い付きである。ギリギリまで引きつけて『剣先を避けさせない為』と言う思いつきの構えの姿勢に過ぎない。居合道の場合は剣の間合いを読ませない等の意味合いもある為この思いつきは偶然でしかない。しかし、それが幸いした。

「てやぁっ!」

 裂帛の気合いと共に初めて使う片手剣の攻撃。
 抜き放った剣先。
 ハーピーの突き出した足の裏へ吸い込まれていった。

 勢いのついた片足に深々と突き刺さる剣。人を攫うことができる長く太い指の先の爪があわや、手に届くほどに。

 キァエエエエエエ!!

 ハーピーの叫び声が峡谷に響き渡る。その隙をついた矢がハーピーの心臓を貫いた。ハーピーは血を吐き上昇を少ししてから力なく落下し始める。
「抜けない!」

 ルーキーの剣が抜けず、一緒に落ちそうになる。

「馬鹿野郎! 武器なんてまた買え!」

 ルーキーは、先輩の咄嗟の警告に武器を手放した。
 谷底へ落ちていくハーピーをもう1羽が追いかけて急降下していく。

「今のうちに進むぞ!」

 こうしてパーティーは無事に峡谷を抜けることが出来た。



 ◆



 峡谷の底。川が地下へ流れ込む下流にハーピーの腐乱死体から剣を抜く者がいた。ゴブリンである。ここら辺を縄張りにしているのだろうか。
 それを抜いたゴブリンは嬉しそうに剣を掲げた。

 それを発見した他のちょっと体格のいいゴブリンがそのゴブリンに近づいてくる。するとそのゴブリンは頭をいきなり叩いて剣を奪った。
 そして自分こそが、この武器にふさわしいと凄んで腰縄に挟んだ。

 ____________________
 オマケ

 ◆魔合器
  この武器は、冒険者の標準的な魔導武器で『魔合器』
 と呼ばれる。各種素体が存在し、今回ゴブリンに拾われた
 ものは片手剣型である。魔術と錬金術のスキルを持ち合わ
 せた鍛治職人が、専用の『魔合炉』にて強化出来る品だ。
 使用者に合わせて強化が可能な比較的一般化された武器で
 ある。


 ■登場キャラクター紹介■
 ◆モンスター
 ・ゴブリン
  超有名なRPG序盤のモンスター。一匹、一匹は、
 人の子供のような強さ程度だが、群れを作り、連携して
 待ち伏せや罠さえも扱う厄介さを落ちあわせている。冒険
 者が仕掛けられることは敵も仕掛けてくる。これを学習す
 るには丁度いいモンスターだと言える。軽く見た駆け出し
 冒険者は全滅する。そして一定数そう言った冒険者は居
 る。

 ・ハーピー
  渓谷や断崖絶壁に巣を作り、旅人の男性を襲って
 は子種と子育ての食料とするモンスター。射程外からの爆
 撃攻撃を得意とする。

_____
 お読みいただきありがとうございます。
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