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第14話 閑話休題 奴隷兵士化(Slave soldiers)
洞窟で得られる食べ物は乏しく、群れの維持さえ難しい。
日々、広い洞窟を危険な魔物を狩るために徘徊し、拠点を移動する。豊かな地上を目指して。
そんなゴブリンの群れの話である。
この洞窟の入口の谷底辺りの寝ぐら時代は、川の恵みがあった為に今よりは良かった。
舟で奴隷商人が通ったのも運が良かった。
奴隷女は人も獣人も居たが、繁殖するのに問題はなかった。
親世代達はこぞって喜び増えに増やした。
その結果として何グループかの若い世代のゴブリンがそこから旅立たなければならなくなった。
彼らは思う。古参の親世代達はいい思いをして居るだろうと。
しかし現実は甘くなかった。彼らの親はとっくの昔に冒険者に討伐されて居たのだ。
そんな事とはつゆ知らず、貧窮に喘ぐゴブリン達。
僅かな親心だったのだろうか。代々引き継がれた冒険者の武器である魔合器を親世代が若いゴブリンリーダーに持たせてくれた。
実際、この武器は刃こぼれする難敵の鱗を切り裂き討ち倒した。
脂を弾き、刃こぼれしても時間を置き休ませれば復元され、幾度と無くこの群れを助けてきたのだ。
罠と待ち伏せ。魔合器と連携する攻撃。
これにより生存率は上がった。
ゴブリンの群れは犠牲を出しつつも戦士として成長していった。
しかし、そんな彼らを更なる厳しい現実が襲う。いや、これは救いかも知れない。
◆
いつもの如く魔物を罠にかけるため罠を設置する係となったゴブリンAとBが一昨日からの仮初めの寝ぐらを後にする。
祖父たちに教えてもらい、自分たちで改良した罠を作る為の場所を探しに洞窟内を徘徊する。
寝ぐらから30分ほど歩いた広間につながるカーブを描く狭い道。その出入り口。ここに罠を張ると決めた。入口の横幅に合わせて、20cmほど一段深く掘り削る。
ここに砂を踏み固める事なく入れておく。
獲物をおびきよせ、ここでぬかるんで転べば、その先に砕いた石をばら撒いて擦過傷を与える。
傷にならず鱗や硬い皮膚が削れればリーダーの武器が片を付ける。
そこまで行かずとも一瞬動きを止められればいい。まともな罠とは言えない代物かもしれない。
それでも、わずかな隙を作る為の下っ端ゴブリンの涙ぐましい努力が彼らの群れを生かしているのだ。
その広間に静かにゆっくり近付く者がいた。
◆
「……害意を検知……」
まだ300mほども離れているにも関わらず、ゴブリンの"罠をはる意思"を彼女は察知した。
彼女はゴブリンと同じ特徴を持ちながら、ゴブリンを遥かに凌ぐ存在だった。
彼女は超古代魔法“遠視”と“幻像”を発動。念のため"結界"も発動し幻像まで『接触』の範囲を広げておく。
そして幻像の後を20mほど離れてついて行った。
幻像を進ませた、その視点でゴブリンAの様子を見る。
穴を広げてるゴブリン達は、広間の反対側の通路から見えた。そのまま広間に出す。
ゴブリンがビクッとしてこちらを見つけた。
彼女の幻像、ゴブリナ・クィーンの容姿を見て下卑た笑いを隠しもせず、腰に下げた棍棒に手を回しながら、近づいて来る。
感情を浮かべる事なく、離れた場所から様子を見て予め基礎詠唱を開始。
ゴブリンの心の動きを観察して害意の元を分析。それが性欲を満たしたいと言う心の動きから来ることを割り出す。
こちらが姿を現した時に害意を持たれぬよう処置するにはどうすべきか?
相手が幻像に襲いかかってきた。幻像は触った感触も完全再現されている。
ゴブリナ・クィーンは幻像に触れられた瞬間に結界接触で超古代魔法を発動した。
基礎詠唱が終わっていたのと杖のおかげで“転性”、“整形”の高速連続詠唱が成されていた。
対象の性別を遺伝子レベルで入れ換え、作り変える。性転換魔法と変身魔法。メタモルフォーゼには基礎遺伝情報を基にした外見を女神の如く超美形に変更する構文まで組み込んだ。その二つの魔法が発動した。
幻像ゴブリナ・クィーンに馬乗りになったゴブリンAの身体が軋み出す。
その痛みに自分を抱きしめるゴブリンA。次の瞬間、顔の内側が灼けるように痛みを訴え出し、持っていた棍棒を捨てて顔を両手で覆う。
仰け反る元ゴブリンA。超美形メスゴブリンAの誕生である。
先祖帰りのゴブリナではなく、美形のメスゴブリンはゴブリナよりも希少な存在と言えよう。
仲間に見つかったらゴブリナよりも襲われる危険度は高い。
そしてゴブリンB。彼はゴブリナの背後に回り、その腕を抑えた。ゴブリンAのこれからする事に下卑た笑いを醜悪な顔に貼り付けて。
しかし、その笑いはゴブリンAの変貌を目撃して呆けたものになる。
骨が軋む音が聞こえてきて、見窄らしいボロ布からまろび出していくゴブリンAの右乳。
ゴブリンBはその異常事態から目を離せない。
ゴブリンAの面影を残す超美形の顔が覆っていた手の中から現れた。
そこには身長140cm程の片乳を出した超美形メスゴブリンと言う奇跡が居た。
残念なのはゴブリンだけにゴブリンの知能、どんなに飾り立てた言葉を使おうと所詮はゴブリンだと言う事である。
倒れたゴブリナ・クィーンの腕を抑えたまま、彼の目玉は危うく眼窩から落ちかけるのでは無いかと言うほど見開かれた。
続けて、幻像を通してゴブリナ・クィーンが“転性”と“美形”を発動する。
ゴブリンA、Bは存在しないはずの超美形メスゴブリンに存在を変えさせられてしまった。
元々、悪魔に使い捨ての兵士兼労働力。産めよ増やせよ悪魔族に奉仕せよと刷り込まれた本能に従う下賎な種族。
救いがあったとしたら倫理も無く本能に忠実であった事。幻像ゴブリナ・クィーンを見てスイッチが入り、性転換してもその衝動を促す物質は血液中を今も駆け巡る。
それは、標的をゴブリナ・クィーンから同胞のオスに変更させた。
◆
4時間後
ゴブリンの寝ぐらの入口に近付いていく者が独り。
「酷い臭い……。さて始めましょうか……」
侵入者が呟いた。そして長い詠唱する。
魔術を記す青白い光を放つ円盤。侵入者の持つ杖の先端に灯る様にそれは浮かび上がった。
光の円盤はただ静かに杖の先端に留まる。その内部に今書いているかの如く、魔術記号が滑らかに灯っていく。
侵入者はゴブリンがテリトリーの警告としてつけたマーキングを無視して、更に奥へと入って行った。
進みながらも詠唱を続ける。魔法陣が完成しつつある。
ーー見張りも立てぬとはーー
爛れた獣臭のする広間でだらし無く寝こけるゴブリン共。
入口に近い場所で一匹果てて居た。それも幸せそうに。このゴブリンが見張りだったのかもしれない。
そのゴブリンが侵入者に気付き、どうにか顔を上げた。
そこで魔法が完成した。
「"チャーム・ゴブリン"……起きよ。そして跪け」
杖から青白い光が広がった。その光を一番最初に浴びたゴブリンは下卑た笑い顔になる前に感情のないものに変わった。寝ていた者も、物音に気付いていた者も言葉に従う。
逆らう者は居なかった。
「これから名付けと契約を行う。本日は4名まで。リーダーとサブリーダーは前に出よ」
3名が前に出た。
超古代語を用いた12進のナンバリングで名付けが行われる。
ゴブリンリーダーの名前は直訳するならGb_A-000。
随分な軍団を作る腹積もりなのがこれだけで分かるというものだ。
名付けた後に、ゴブリンリーダーがその名を唱えるとあらかじめ唱えておいた魔法が発動し、使い魔縛りの契約が発動する。
「お前のそれは、なんだ?」
リーダーの持つ武器に目を止めた。
「コレは、我が部族に伝わる魔法武器ですゴブ」
「ほぅ。……貸せ」
跪いて刃渡り30cmのショートソードを恭しく献上する。
「ふむ。しばらく預かろう。我が左に控えよ000」
ゴブリンリーダーは言葉に盲目的に従った。
そうして3人目の契約の儀も滞りなく終わる頃チャーム・ゴブリンの効果が切れた。
元々魔力を抑えた為に長くは続かないものなのだ。
それでもリーダーを抑えてしまえば反逆など出来ない。
残りの1人分はキャンセルして武器の分析に入る。
アッサリと解析し終えるとゴブリンリーダーに武器を返し、食料の確保と寝ぐらの掃除、15cmほどの木片を何本も確保する様に指示した。
更に軍団を増やす為に新たに2匹をメスにする。彼らは全員契約の儀を執り行い、完全に逆らう事も許されず。言いなりとなった。
こうしてゴブリナ・クィーンは数日かけて14名のゴブリン共を従えた。
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いつもお読みいただき、ありがとうございました。
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