マジック サーヴァント マイスター

すあま

文字の大きさ
22 / 77

第22話 蹴落とす本能の凍結(Frozen instinct to kick off)

しおりを挟む
第22話 蹴落とす本能の凍結(Frozen instinct to kick off)



『……だれダ? きさまハ』

 意外にも若そうな女性の声のイメージ。

『誰何して、名乗らずか。光の民への侵攻の礎作りなんだろうけど、こちらへ寄越してる、お前の配下は全てこちらの捕虜として迎え入れている。集落から手を引いて欲しい』
『何処ノ馬骨カ知ランガ、使イ捨テノ駒ゴトキニ、手心ヲ加エル甘チャンニ従ウ道理ハナイ。喰ラエ、記印アウフニーメン

 ヤバい! 思った瞬間既に遅く、テレパスを強制解除したが、何か喰らった。

『アイルス! まさか何かしたのか!』
『ちょっと話しかけてみた』
『バカ! 驕り高ぶりも甚だしい! 思い上がったのか! どんな奥の手を持ってるかも分からない相手に対して無防備すぎるだろ! 見せてみろ! 何された!』

 ヘルがお母さん並みに心配してくれる事が意外でビックリした。

『う、うん。反省してる。ここ』
『また左肩か? 左肩甲骨の上か。悪魔のマーキングが何を意味するか分かってるのか』
『どうなるの?』
『勿論、魂をつけ狙われるに決まってる。やっぱり魂ごと記しつけるタイプだ。……髑髏と皮翼のシンボリック……不死の眷属だな。どうすんだこれディスペル出来ないんだぞ』
『そうだった……まぁ、ゆっくり観察するさ』
『相手にお前の位置が常にバレる事を覚悟しておけよ』
『それなら返って好都合だよ』
『お前何言ってんだ!』
『逆に撹乱できる。“ランク アップ デミルス イン ガディエス トゥ パラレルシンク”』
 唱える事で返事とした。リルナッツ改めガディエスの中のデミルスに与えて無かった自由意志をコピーして連結し、再起動させる。

『ガディエスの中の。事態は理解してるよね?』
『我がオリジナルながら、間の抜けた事を……』
『いや、ごめん。それについてはホント謝る。相手を見くびってた』

 マジックカウンターをたかがオーバーフローで破った程度でディスペル出来ないのは変わりわないと言う間抜けな事実。テレパスが繋がってもカウンターが来なかった事にも安心してしまった。

『まぁ、逆手に取るには丁度いい。此方は独立で良いんだねよね?』
『おいおい、何させる気だ。俺のガディエスだぞ』
『ヘルは引き続きガディエスを動かして良いよ。僕がサポートしてるようなものだから、えと、"ラド"って名前で良いかな?』

 ガディエスの中の元デミルスに語りかけ、彼は応える。

『構わないよ。ラド・アイルスでもラドでも良い』
『此方とは別途行動で、後で合流したら、データ共有しよう。アーカイブ一式はディストリビューションでサンド・グレインに入れるから参照して。コボルドの群れを第一優先で救おう』
『了解した』

『アイルス、ちょっと良いか?』
『何?』
『この先のことも考えると言っておいた方がいいと思ってね。敵対する奴を侮るな。敵対しない奴らも見縊るな。お前より長く生きてるのにお前より頭の悪い連中は多分多い。だが、お前より長く生きてる分経験してることが多い。そのお前が経験してない事で相手の経験してる差がお前を上回る事も多くなる可能性がある。若い分本能に振り回されるだろうが、ふざけて良い時と調子に乗ると死ぬ時の見極めは慎重にやれ。本当に死ぬより酷い目に遭うぞ。悪魔族を相手にしている事を忘れるな』
『う、うん。因みに。教会は?』

 ちょっとした疑問を抱いて聞いてみた。そしたらとんでもない答えが返ってきた。

『アイツらは悪魔族が悪いと都合が良い。だから我々が我々自身を呼ぶ名前を悪いと言う意味を付与し教典で広めた。自分達を正義と信じて平気で悪魔族を殺す質の悪い連中だ。特に自分が正義と大義名分背負ったヤツらは、悪魔族に例え家族を人質に取られて情報を流しても悪即罰則、悪けりゃ極刑の連中だ。俺を使い魔にしてる以上相容れることはないだろう。悪魔族以上に慎重に行け。光の民として暮らしたいならな』
『うげぇ……』

 薄々は感じていた。教会から派遣されて来る司祭様は魔法を毛嫌いしていた。そこに何とも言えない違和感を覚え諸手を挙げて教会の意向とやらに賛成出来なかった。一見立派な説法で平等を歌いつつも、自由意思を制限して人々に没個性を強いる。

『コボルド達を使役してるとか知られれば、奴隷よりも酷い扱いを受けるだろうな。勇者とか絶対に会ったら逃げろよ』
『こりゃ、簡単に人の街へは踏込めそうもないな』

 弱きを助ける。それは正義ではないのか? 光の民に敵対する弱者は、教会の正義には含まれない。敵対せざるを得ない事情など関係ないのだ。刃を向けられたその時点で排除対象なのだろう。僕はその定義に言い様のない憤りを感じた。

 理屈は分かる。やられたら僕だって怒る。しかし事情も聞かずに殺しておかないと将来の不幸の火種と判断するその考えがより危険と思える。実際に教会の人とこの事について話した事はないから、あくまで推測だけど。

 答えの出ない自問自答が僕の中で漠然と広がって、楽しい思い出の詰まった、あの生まれ育った家にさえも"大きな得体の知れない意思"に呑み込まれた灰色の風景に様変わりした。この情報をピックアップし並列処理に回す。ラドにも反映される様に用意した。コレのせいで自分自身が教会側や光の民側に立ったり、僕とは違う判断で敵対する未来とか洒落にならない。そんな憂いは断つべきだ。

 この時の会話がなかったら、僕の運命はどうなっていただろうかと後で物凄く悩む事になる。

 ◆

 サンド・グレインのロールアウトが進むと共に周辺の魔素枯渇が起こり始めた。

『現状を脱出するのに生体脳の本能データが害悪でしかないな』
『オリジナルの本能消去しようかねぇ』
『人間性を失いかねないから、それはやめておいた方が良いだろう』
『厄介だな。群れる動物だった頃の欲求記憶が原因だな』
『そのデータを潰せば良いか?』
『しかし、行動原理の一つでもある。良い方向に使える様コントロール出来れば、自由意思の数倍は結果を出せるものなのだろう?』
『予測では……ね。机上論だが』

 並列思考達の話が聞こえていた。魔素が薄まったせいで作成場所を移動する他ない為、多少の時間にゆとりが出来てしまった。それゆえの無駄話。

『聞こえてるぞ。何やら恐ろしい話してるな』
『でも実際、観察して来たけども、生体脳にある、本能データの【群れの中の自己保存】に振り回されるとロクな行動取らないよね』
『生存戦略上必要なんだけど』

 生きる本能は必要だ絶対に。しかし知的存在となった者には必要のない部分がある。番いとなる異性を確保する為の群れ内の生存戦略として使われる虚栄心。ただ相手を蹴落とすための行動原理が冷静な判断を狂わせると分析特定した。これが発生した時にブレーキ処理か元から凍結すれば良いのか。

『その生存戦略上の行動原理が必要なのは自己を磨けない動物の場合だろう。冷静な判断が必要な知的存在に的確な判断をさせない本能など、もはや無用の長物だ』
『分かった。だけど凍結で勘弁してくれよ。コレでこの話は終わりだ。サンド・グレインをラドにも分けないといけない。書庫アーカイブもリンクじゃなくバックアップとして分散保存ディストリビューションも追加しないとなぁ』

 これからやらないといけない事を並列思考へ再確認の為伝えた。

『え、嘘。デタオペ必要なのか。早く言ってくれないと』
火器管制ファイア・オペレータを先にインストールして、それにオートパイロットでさせれば良い』
索敵目標照準サーチャー・ターゲティングにも進捗管理させれば良い』

 伝わってなかった。確認して良かった。並列思考とは言え、処理を分けてるから考えてる事が違えばコミュニケーションは必要だ。考えはちゃんと流れてくるのに。しかもデミルアアップデート作業の効率の良い処理まで出してきた。

『機能追加とラドの方に回すサンド・グレインのリファイン頼んだよ。僕は対同族生存戦略ほんのうデータの凍結と敵情視察を行う。ついでに新しいプラントの作成も』

 言って直ぐにサンド・グレインを二体駆り出す。ショートカットでコボルドの集落へ行きたいが、地道に走ったのは、作った後に十分な魔素を確保できる領域を探る為。そこで二体目はサンド・グレイン生産プラントを作成させるつもりだ。幸いにも魔素の豊富な場所へは直ぐに辿り着く。いや、枯渇した領域を出たと言うべきか、この洞窟は魔素が不自然な程豊富だった。壁際で一体サンド・グレインを作ると生産プラントを・・・・・効率良く・・・・作成する様に命じて移動を再開した。


 ____________________
 アイルスがやらかしてる事や本筋には出にくい情報。

 ◆パッケージ・マジック再度停止中。
 ※パッケージ・マジック詳細等は割愛。

 ・オリジナル・マジック
  空間応力の利用で取り出せる力について
   空間自体にかけられる圧縮力は、魔力量により
  比例する。その分戻る力も大きくなるので抜群の
  加速力を得られる。空間を利用したカタパルトで
  ある。問題は使うと魔力感知に引っかかり易いと
  言う点だろう。従来の加速は各関節の可動速度を
  上げる為で、魔力隠蔽の範囲内であるのに対し、
  この方法は範囲外で行われる。これは今後の課題
  でもある。


____________________
 【ステータス】
※変更なしの為、割愛。

 ◆ラドと言う人格
   リルナッツ改めガディエスの中のデミルスは、
  初めから制限されて創られた自由意志のない存在
  だった。後から追加インストールし覚醒したが、
  他のデミルス同様生まれた時から動作や魔法火器
  管制(物理的な殴り含む)専用の並列思考を備え
  ている。それらの所為か子供らしくない言動が、
  初めから目立つ。他の並列思考よりやや大人びて
  いる。



_____
お読みいただき、ありがとうございました。
 気に入られましたら、お気に入り登録よろしくお願いします。また感想を頂けましたら、とても頑張れます。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...