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第35話 報い.2
奴隷キャラバン、キャンプ地
時は少し戻る。と言っても並列思考最新にして現ラストナンバーの僕、ウィンにとっては50時間程前になるかな。
あの魔素強制ベクトル付与の光を放つカンテラが使われた直後からの話になる。
『ヘル! オリジナル! クソ! 頼んだぞ……』
ケンが機能停止直前に僕らに出したメッセージはなんとも丸投げ感溢れるものだった。まぁ、細かい指示を出せってのも無理なくらい加速も切れ始めた時間だった。仕方ない事なんだけど。
オリジナル・アイルスは、魔法の恩恵を全て奪われ、ロクな挨拶も出来ずピンチに陥った。さて。自由意志の無かった時からの記憶があるから事情は分かってる。
が、なんとも面白そうな物にオリジナルは囲われてる。魔法封じの首輪にあの魔素ベクトル強制付与光のカンテラは、バラして構造を知りたい欲求をくすぐってくれる。頼まれなくても解析して分解すんだけれどね。
『ギューフ、分かってると思うけど、あの光に当たるなよ』
『あぁ、分かってるさ。ウィン。ところでこれからどうやってオリジナルを助ける?』
『そうだね。……元祖並列思考を先ずは探しに行く部隊を出立させよう。アーカイブの資料が必要かも知れない。後、肩のマーキング、魔法封じの首輪、そしてあのカンテラの攻略』
『攻略やるなら言った順番と逆だね』
『思考加速は順調みたいだ。10倍にあげる?』
『いや、50倍まで行こう。念には念を火器管制達も思考に回そう』
『制御下のサーヴァントも速度同調する必要があるね』
『ヘルと合流もしないとね。兎に角あの光を遮れば大丈夫なら、元祖並列思考の捜索は影に沿って森の中から捜索に行けば良いだろう。その管理は、こちらの火器管制1、2にさせよう』
『了解。ギューフ。助かるよ。解析に全力まわす』
『ok、ウィン。それは任せた。捜索隊出発。あの光を避けて来た道の景色を探していけ。じゃ、俺はヘルと合流する」
「頼んだ」
「任せとけ、相棒」
ギューフ・ソード・アームズ達は、カンテラのある方向とは別の壁の床との隙間に潜り込むとウルトラ・ハイ・ヒート・バリアで鋼鉄の壁ををくり抜き、ギューフは外へ出て行った。
『さて、あれを観察するにはどうしたらいいか。可視光域じゃダメだな。対抗出来る領域の光じゃ無いと観測出来ないかな? 電子旋回加速で励起エネルギーためれば、ピコ波まで行けるかな? 励起の解放速度とかアーカイブには載ってなかったらからなぁ。まぁ、実践して結果データの推移で調整しかないか』
そのデータ取りで、時間がかかった上、周囲の物質が尽く劣化し、自身のパーツ全交換まで行わなければならなくなった。宇宙紫外線の威力たるや、地上で放つものじゃないと思い知った。
◆
一刻半の時間を使い、どうにか紫外線観測が可能になった。二分でレセプトグラフィックコンバータの分子結合がボロボロになるから、加速時間でないと使い物にならないけれど。三度の画像解析で何となく仕組みがわかった。
結果から言う。位相空間では、カンテラに向かって魔素が回収されるかの如く流れ、実空間に全ての魔法式を破壊するベクトルを持って放たれている。
原理の観測をしたいところだと思っていたところで元祖並列思考を持ち帰ったギューフとヘルが戻って来た。作成時の自然魔力枯渇問題と師匠やコルベルトとな連絡中継目的で道中に制作用サーヴァントを落として来ていた。なのでギューフの連れて行ったソード・アームズの残数は二体だった。
ギューフは道中、ソード・アームズの1/100サイズ(100nm)のナノ・アームズの開発を行ってた。『魔素を掴めるサイズに至れば今よりも上手く魔法を操れるかも知れない』と言うオリジナルの思い付きを忠実に実現させて行く極小サーヴァント。
我が相棒ながら、流石だと思った。この思い付きがなければ我々は産まれず、オリジナルも大変な思いをすることはなかっただろう。それ故に自分自身こそがオリジナルと主張する恩知らずな話にあるような事は起き得ないが、ヘルはそこを心配していた。
悪魔族の精神はよっぽど悪い環境で育てられているのだろう。おっと。考え込んで関係ない事にまで、また及んでしまった。
そうそう、ギューフが持ち帰った元祖並列思考は凍結されたままだった。しかしスピリットスキャンによる超微粒子構造解析で再現した結果、記憶にアクセスできた。記録されたアーカイブ迄は到達出来たので急いで読込み記録した。
それでめぼしい新情報があったかと言うと二つだけだった。それは、水素には数種類の元素があると言う事だもっとも不可思議な存在は水素イオンのプラスと言う存在と金属水素脆化と言う特性。階梯についてはやはりなかった。
余談だが、クリエイトウォーターという魔法は、空気中の酸素に魔素で擬似的に水素を作り結合させる魔法だ。つまり水素を扱う条件は既に手中にある。カンテラを破壊出来る算段は出来ているが、肝心の魔法式が観測では分からない。ぶっつけ本番でスピリットスキャンと紫外線観測でカンテラを見るしかないだろう。それが分かるまで、さらに一日半の時間をかけてしまった。他に模索したのだ。が、魔力が無くて行動不能になってしまうのでは仕方ない。
◆
中央磔刑投石の途中、オリジナルの動的反応がなくなった。強すぎる紫外線の為、無闇に当てられない。カンテラが機能してる間、魔法式で成り立っている我々、並列思考は直接見ることは出来ない。
しかし、ヘルは別だ。
『ふぅおおおぉぉぉおお……ぐぬぬぬぬぬぬ』
『『ヘル、ファイト!』』
強風の中、目を開け、見る! みたいな。魔素を補給し続けられるので平気なようだが、その間に救うためのプランを考えていた。ヘルが返事をするより一瞬早く声が聞こえてくる。
『お前達の主人の事は心配要らぬぞ、しばらく邪魔をせず見ておれ。既に第一段階眷族化は完了しておる。何が起きようと既に魂は完全保管状態なのじゃからな。あの汚い人間と我が言葉、どちらを信用するかは自由じゃがな』
ヘルを通して声が降って来た。ヘスペリアーとか言う、おっかない奴からの声だ。どうせ邪魔をしても凍結してしまうんだろう。なら、ここは一旦見守る他、選択肢はない。
一時的に思考加速が減速する。いや、させられた。ほとんど掛かってない程の速度までになった。コンマ以下の微調整は相当技術が必要な筈だがそれを軽くやってのけるヘスペリアーの実力が伺える。敵に回しちゃダメ。絶対。
「チッ紛らわしいわね、蘇生するから私の馬車へ運びなさい。お前達は食事の用意をしなさい!」
殺させておいて、蘇生しようとかコイツ本当に司祭か? まぁ、オリジナルも化け物みたいな動きで無双したからな。とは言え、人を人とも思わない所業を平気で行える教義とか危険過ぎるな。アイツは潰すの決定として、バックの組織をどうするか……
教義の悪魔族に対する意識が問題か。クロは潰してグレーは考えを改めさせるかな……連絡用にハるサーヴァントを早々にピコクラスにするかな……。
『もう手を出してもいいわ、何ならキャラバンを消滅させても構わないわ。人間が悪魔族に対して持つ感情を利用した悪癖の発露を充分に目の当たりにしたでしょうし。後これは、私からのプレゼントよ』
ヘスペリアーからイメージが送られて来る。生物を構成する細胞とその細胞が持つ設計図による構築の仕方だった。その設計図の素体は人であったり、動物であったり、設計図のミックスで獣人となったり……その設計図は遺伝子と言うらしい。デコグリフ教が知ったら天地がひっくり返る内容だった。
それを見終わる頃には、思考加速に掛かっていた減速負荷が外れ、元の50倍速になっていた。さて、ヘスペリアーが何を企んだか概ね予測は出来るが、本当にオリジナルは復活するんだろうな。兎に角突入だ。
◆
先ずは、ソード・アームズに結界を張らせ、他のソード・アームズが砂を念動で纏わせたら、さらに結界で砂ボール結界にし、砂を圧縮加熱で電離体に。電子を雷系魔法で引っぺがして、陽子のみの石英とシリコンを生成。余熱は魔力変換で急冷。
この不安定な砂ボールを位相空間の魔素の流れに乗せる。この流れの先にカンテラがある。
ここだけの話、カンテラを作った奴は魔法阻害だけを行い奇跡は行使出来ると言う何ともご都合感溢れる魔道具を作ったものだ。
まぁ、何はともあれ、位相空間からカンテラを通して通常空間へ出たら、砂ボール結界を解除して一斉に砂越しにスキャン・スピリットとピコ波紫外線観測。そして砂が周りの物質から電子を吸着して強制分子結合起こす仕掛けにした。
結果、最中に指突っ込んできたヤツが居たけれど気にすることなく作業継続。加速時間中30分経過したところでカンテラの観測も終わり、破壊に移ろうとした。
ここで思わぬ想定外が発生した。カンテラから出されるあの光は塞いだら魔素が溜まりまくって超高熱になった。自動で遅延発動させてた水素発生がカンテラを覆い金属表面に吸着して行くとそこから熱エネルギーで誘爆した。
一番柔らかい処から、その熱と急激な膨張が抜けていく。つまり指突っ込んだトコ。熱くて痛そうだなあと思いつつ、指が良く焼けてから外の馬車が木っ端微塵になっても困るので結界強化。
水素誘爆を観察してデータを収集した。水素脆化の所為でカンテラは跡形も無く爆発で粉々になり、熱で液化した。もう危険は無いなと判断したところで思考加速を解除しつつ、結界を解き、熱を魔力変換で吸収すると、オリジナルが復活した。
序でにナノ・サーヴァントをギャーギャー騒いでるヤツの傷から体内へ百体ほど潜入させる。いざとなれば位相空間移動で素早く体内を好きに移動できるが人体の中を見学させて貰う良い機会だ。
ヘスペリアーの言う通り、オリジナル・アイルスは生き返ったのだった。ただし、人間では無くなってたけど。
◆
『目覚めよ。我が眷族』
声が聞こえた。その声を聞いて意識が浮上した。あの、全く勝てないヘルの創造主の声だ。確かヘスペリアーとか言ってた。敵としか思えない奴だったけど、今思えばもっと敵らしい奴が目の前で喚いてる。
「な、何が……だ、誰かー! 誰かー!!」
「少し黙れよ。奴隷商人」
少し身体が硬くぎこちない。長く寝すぎた時の様だった。
「私は教会司祭よ! あんた! し、ししし、死んでたのに! やっぱりヴァンピールだったんじゃ無い!」
「折角、拒否ってたのに、お前に殺されたからこうなっちまったんだろうが!」
「な、何言ってんのよ! この悪魔め!」
「喚こうが何しようが、お前らがまだ7年しか生きていない子供を、いじめ抜いて殺した事実は変わらないぞ」
「うるさい!! 悪魔族は光の民に害を及ぼす敵なのよ!」
「悪魔だとして命を弄んだ。それは罪に問われないと?」
「悪魔は光の敵なのよ! 敵に慈悲はいらない!」
「なるほど敵に慈悲は要らない。その意見には賛成だ」
正直、殺された身としては殺して良いと思ってる。だが殺すだけではオレは納得いかない。
「じゃぁ、こう言うのはどうだ? ケン、愚かな奴隷商人にテレパスと思考加速を。その上でオレの記憶を見せてやれ」
若干の抵抗をした様だが、ケンだけで無く、ヘスペリアーも手を貸してくれたので特に問題なく奴の頭にオレの過去の記憶がインストールされた。
「嘘よ、こんなの!! そ、そうだわ! 幻覚に決まってる!」
「お前は真に愚か者と決定した。残念だ。世界から借りた物質で構成された身体を強制返還させて貰おう。脳味噌だけは寿命を全うさせてやる」
「何を! この身体は私のよ! 悪魔だろうと……」
「だから、少し黙れよ奴隷商人。声帯の神経を切らせてもらった」
「……!! ……!!」
「次は足の神経だ」
ヤツがその場に倒れた。少し間違えたらしい腰から下の神経だった様だ。
「なぁ、少しずつ侵食されてく気分はどうだ? まぁ、オレは投石で痛みと寒さを感じて死んだがな」
泣きながら、口をパクパクさせるがこちらに譲歩を少しもしない時点で助ける気は既に無い。この時怒りで荒れ狂っていたのは認めよう。
「じゃぁな。技術データは消させて貰う。脳味噌の中で死ぬ迄オレが殺された時の夢でも見てれば良い」
ケンに頼んで、ヤツの身体をパーフェクト・ヒールし、脳味噌からの神経を切断し、栄養だけは送れる様にした。最後に何かいいかけてたが聞く気はなかったので、気にしなかった。
「ケン、ヤツの身体をクリエイト・フレッシュ・サーヴァントだ」
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お読みいただき、ありがとうございました。
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