マジック サーヴァント マイスター

すあま

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第45話 自称転生勇者




 アイルスの知らせを受けたマリアンナが出発してから、ソフラトは、応援に来てくれたマーガレットに幼児組達を任せ、ご飯の支度をする。そこで隙ができてしまった。
 マルシェラは、その隙をついて家を飛び出していた。ソフラトは、良い子にしていたから油断したのだった。

 気付いてから、普段の倍のスピードで加熱系を省き、主に切り刻みなどでメニューを仕上げ、マーガレットさんに後をお願いして七分ほどで玄関を飛び出す。恐らくは、村の入り口までは行ったのだと予測し、そちらへ向かった。

 マルシェラは異様に鋭い。足音でも聴き分けられたらなおさら逃げ出すかもしれない。ソフラトはスニークとダッシュの併用スキル且つ上位のハイド・アンド・ダッシュで追いかけた。

 ほぼ無音で村の入口へ。

 入口へ着くと、見覚えのある青年がマルシェラを呼んでいた。

「おーい、マルシェラ! どこへ行くんだい?」

 大分、距離があったが青年が駆けてくるとやはり声から推察された人物だったことが分かった。11年前、最初に引き取った戦災孤児。ジルドレッドと言う名の息子である。

「うげっ、ジルド兄さん!」」
「やはり、マルシェラだったか、どうしたこんな時間にこんな所で」

 自称転生勇者の五歳の天才児は14になると成人を待たず、冒険者になってこの世界を救うと旅立った。このタイミングで帰って来てくれた事にソフラトは深く感謝する。

「ジルド! ジルドレッド! 帰ったのか!」
「父さん!」
「ははは、見違えたぞ! 一人か? パーティーは?」
「あぁ、ほら、俺、ソロでも全然いけるからさ、組んだ奴が拗ねちゃってさ……」
「そ、そうか」

 口振りからも、忙しない態度からもジルドレッドは強がっていると感付いたが、気付かぬフリをした。ソフラトはもしかしたらと期待はしていたが、人付き合いが致命的に下手なのを治させてやれなくてすまないと思っいた。きっと冒険もソロで思うように上手く行ってないと推察する。

 事実、ジルドレッドは効率を重視するあまりに、パーティーのバランスを欠いて無理にクエストを推し進め、人死にこそ出さなかったものの負債を抱えてしまった。その責任とパーティーの負債を負い、自らパーティーを抜けたのだった。聖王都モンディエレの冒険者ギルドでは、自称転生勇者ジルドレッドの失敗談が酒の肴として広まっていた。

 輪廻転生の観点から単に前世の記憶を持って産まれただけに過ぎないジルドレッドの早熟性と誰も知り得ない知識は妬みのタネであり、彼の不用意に選ばれし者自慢をする性格も相まって身近に潜む敵を作りやすかった。

 しかし、勉強が目立って出来るわけでなく、剣術もそこそこ。特筆すべき得意分野もなかった。鍛えられるだけ鍛えたがスルー・スラッシュを会得せずに冒険者になって家を出てしまった。これからも精進が必要だろうとソフラトは心配する。例え彼のユニークアビリティ"呼吸見切り"があろうと。

 そしてマルシェラは、父がいつの間にかすぐそこに来ていた事に戸惑う。どうやって近づいて来たのかマルシェラには分からなかった。それでも二人が話している隙に二歩、三歩と後退った後に、脱兎の如く駆け出した。

「あ、逃げたな」
「どうしたの?」
「一月前にアイルスをドル師匠に預けたんだがな。その、失踪したらしい。母さんがクリスティを連れて、ドル師匠のトコへさっき出たんだがな、どうやらマルシェラはいてもたってもいられなくなったらしい」
「なるほど。なら、俺が保護役をするよ」
「家の留守の事もある。帰ってきたばかりで、すまん。頼んだぞ」
「オッケ、任された」

 ジルドレッドは、父に言いながら、手をあげて返事をして駆け出した。その速さは父のハイド・アンド・ダッシュに届きそうな勢いで、ソフラトはその成長に少し安堵した。

 ◆

 母マリアンナと姉クリスティの残り香を嗅ぎつけ、マルシェラは森の中を進む。進んだ先でクマにも似た猪の魔物チャージボアが淡く青い燐光を放つロープの拘束魔法で地面に縫い止められていた。母と姉の匂いはその横を素通りしている。魔法が切れる前に立ち去ろうとしたときに声が届いた。

「お~い、待ってくれ~」

 まだ距離がある。またジルド兄かとガッカリ感のある目になって足早にそこを立ち去った。なんとも報われない兄である。

「父さんからマルシェラの外出許可を俺が護衛する条件で取ってきたぞ」

 足早に移動していたのにどんどん近づいて来る残念兄貴が重大なことを言い放って来た。

「え? そうなの? 早く言ってくれればよかったのに」
「さっきから言ってたよ」

 俊足で追い付くジルドレッドに冷たいマルシェラ。残念兄貴と評しているが当の兄貴は深呼吸ひとつで息を整える。それがどれほど凄いことか認識されない悲しいやり取り。

「それじゃ、早く行こう」
「その前に、折角の獲物をそのままにするつもりか?」
「殺しちゃうの?」
「このまま見逃せば次に遭遇する人が襲われるかも知れない。後顧の憂いは絶っておくべきだ」

 難しい言い回しなどマルシェラには分からなかったが、魔物を殺そうとしている事だけは理解した。だから、世の中から殺し合いが消えないのだと彼女は直感する。それだけが原因ではないがこの残念と評す兄を更に嫌いになるには充分な理由だった。

「無抵抗の魔物だよ。お兄ちゃん」
「マルシェラ。魔物は悪魔族の先兵になりえる。存在自体が脅威なんだ」
「でも、卑怯だよ」
「別に罵ってくれても、軽蔑しても構わない。ここで殺す罪を背負って未来にこの魔物が殺す誰かを救えるなら勇者として本望だ」
「だめっ」

 ジルドレッドは、言って刀を抜き放ち、立ちはだかるマルシェラを流れる動作で背中を見せながら回り込んでチャージボアの首を落とした。

「嫌い!」
「覚悟の上だ」

 マルシェラは走り出した。

「おい! 待つんだ、マルシェラ!」

 マルシェラの走り出した先の右斜め、アップダウンの激しい木の根の隙間、鬱蒼と茂った風に揺らぐ葉から、何やら視線を感じてそちらへ視線を投げると見た事もない群青の石で出来たヘルメットを被ったコボルドがこちらを注視していた。

「マルシェラ! 左へ逃げろ!」

 言うが早いか、左腕二の腕に装備した投擲ダガーを抜き、振り抜き様にマジック・ミサイルを発動する。明後日の方向へ放たれたダガーは幾何学模様のあり得ない軌跡を残しコボルドのうなじへ迫った。必殺の一撃であるはずだったがコボルドが真上を向いて群青色の石ヘルムの後頭部でそれを躱した。

 しかし、コボルドはそのまま、後ろへ倒れ込む。直ぐに茂みがガサリと音を立てると全力で逃げて行く後ろ姿が葉の隙間からチラチラと見えた。

「チッ! マルシェラ! 離れすぎるな!」

 ジルドレッドは、一瞬だけ逡巡した。マルシェラとコボルドは別々に走り出している。石の鎧を着たコボルドなど前代未聞だ。頭の良い固有種かも知れない。放って置けば確実に脅威に成長し得る。が、マルシェラを見失うわけにはいかない。此処は、殲滅を我慢と判断し、魔法の糸でダガーを回収しながらマルシェラを追った。



____
 ■登場キャラクター紹介■
・マルシェラ
 種族:ラビットマン・ハーフ(4歳)
  物心がついたばかりの半獣人の娘。耳と尻尾以外は
 人間そのもの。意図的に教会から隠されている。
 ユニークアビリティ:ハイパー・ピッキング・アップ
  五感で感じられる感覚の中で取捨選択と更に鋭敏に
 捉えられる能力。

・ジルドレッド
 種族:人間(16歳)
  自称転生勇者でアイルス達の兄。実は魔道具頼りと
 言え、ソロで冒険者が出来る実力者。
 ユニークアビリティ:呼吸見切り
 攻撃タイミングが自動で判る。但し、呼吸器官を持つ
 相手にだけ有効。
 ユニークスキルに目覚め、その前提条件にペナルティ
 を背負わされている。

 魔道具:魔法の糸の指輪
 指定した物に魔法の糸をつけることが出来る。
 指定出来る物は魔力によって、割り振りが可能。
 自己の魔力の代替品として魔石なども使える。

 魔道具:特定魔法発動石
 直径8mm程の球形クリスタル。魔法一つセット可能
 武器や防具の魔合器にそれ専用の収納器を装備して、
 その内部に収めて使用する。主に付与型属性魔法や
 支援魔法を付けられるので大人気の品。
 ジルドレッドの投擲ダガーはマジック・ミサイルが
 仕込まれている。


____
いつもお読みいただきありがとうございます。
感想 4

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