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第46話 度し難きウザ勇
『お話中、失礼します。たった今、我が眷属がマルシェラとジルドレッド兄さんと接触しました』
「!? 何ですって!?」
「どうしたのぢゃ? ジルドレ? あの子は冒険者となって旅に出ていたのでは無いのか?」
「マルシェラ……? まさか!?」
『ジルドレッド兄さんから魔法をかけられた投擲ダガーを受け、眷族に貸出してるサーヴァント・アーマー形態に軽微ですが一部損傷を確認。一旦、眷属を離脱、別個体に監視を継続』
「あのウザ兄貴は、味方に攻撃してきたの?」
「場所は、どこぢゃ?」
『母さんとクリスティがチャージボアに接触した付近です。映像出します』
直ぐにラドが答えて、アイルスの胸像が消え、森の中を走るマルシェラとそれを追うジルドレッドを映し出す。
「あぁ、マルシェラ、リボンが脱げてしまう!」
「なるほどの。アレなら帽子と違い、脱げと言われないわけぢゃな」
「マルシェラは、悪魔族じゃないわ。魔王が復活しても魔獣や魔獣人になんかならないわ!」
「クリスティ、前例も確認出来ない根も葉もない噂ぢゃ。そんな事より二人にもアイルスの捜索に協力願おう」
『映像を送っている眷族の座標です』
「おお、流石はアイルスのコピーぢゃ」
『クフィーリアのコピーでもあります』
その台詞には手で応え、ドル師匠は空間跳躍門を開く。
ゲートの向こう側にマルシェラが駆けていくのが見える。ドル師匠達はゲートを潜り、マルシェラとジルドレッドを追いかけようとした。
「「マルシェラ!」」
マリアンナとクリスティが声を張り上げ、マルシェラへ走る。マルシェラは一度止まり、一瞬キョロキョロとしてマリアンナを認める。
「母さま!」
三人が走り寄って抱き合う。遅れて横からジルドレッドが追い付いて来た。
「やれやれ、やっと追い付いた……って、危ない!」
ジルドレッドがドル師匠へ視線をやり、その背後のゲートの座標になった視界提供者であるコルベルトとヴェアヴォルフを見て叫ぶが早いかダガーを明後日の方向へ振り抜き、放つ。
コルベルトは、同胞が攻撃されたこともあって自分へと敵意が向けられるのを予測していた。慌てず飛来するダガーの柄を掴むが、ダガーはコルベルトの眉間を貫こうと手の中で暴れた。それを察知したヴェアヴォルフがダガーにかけられた魔法を解呪した。
「なに!?」
ドル師匠の左にアイルスの胸像が現れて、慌てて止めようと語りかける。
『ジルドレ兄さん、あのコボルドは僕の味方です。攻撃しないで!』
「アイルス!? 一体、その身体はどうなってる!?」
「幻像に決まっておろう。コレが今のアイルスのコピーの本体ぢゃ」
ドル師匠が懐から小さな石人形を取り掌に乗せて見せる。マリアンナもクリスティもマルシェラも眷族の正体を知り唖然として固まって、コトの成り行きを見守るばかりだった。
「コピー? 意味がわからない! コボルドをテイムしたと言うのか!? テイムしたとしても魔王の血の呪いがある限り……」
「ジルド!」
マリアンナがジルドレッドの頬を打った。マルシェラの前で血の呪いなど口走られれば手が先に動くのは致し方ないコトだろう。悪魔族の血はそれほどデリケートで教会にも重要な意味を持つ。
"悪魔王の黄昏時"が魔獣や魔人を駆り立て魔王の軍勢が出来上がる。それは魔王の血の呪いの為せる技とデコグリフ教会では伝えている。確かな歴史書がなく、本は貴族や地位の高い者しか所有せず、魔法使いが所持する魔導書さえ魔法使いの全体の二割を切る。そんな世界では初めに耳にする情報が優先的に信じられてしまうのは仕方のない事だろう。
故に四年前、ソフラトが助けたマルシェラをマリアンナが必死に隠して来たのだ。ジルドレッドもちょくちょく実家に帰って来てはその存在を見て、マルシェラの可愛さを見つつももしもの時はマルシェラを手に掛ける覚悟を持って家を離れた。毎日顔を合わせている父や母より、情の薄い自分ならばと思ってのことだ。
更に最近ジルドレッドは勇者の素質を教会に認められていた事もあり、家族との絆に楔が穿たれつつあった。明らかにすれ違いが起こっているのだが、彼らは未だそれに気付いていない。
「痛っ」
「あんた、帰って来てマルシェラの護衛でついて来たんじゃないの!? マルシェラを傷付けるつもりだったの!?」
母に頬を打たれたショックで一瞬混乱して、マルシェラが居た事に思い至ったものの、コボルドの存在は許すわけにはいかないと何故か固執した。
「でも、母さん! 純血の悪魔族だ! 必ず禍を齎す!」
「ジルド! そう言う事を言っているんじゃあないの!」
親子喧嘩が始まっている中冷静に動くものが一人。
『ちょっとごめんなさい。良いでしょうか? ジルド兄さん、力で僕の眷族と戦うと言うのならそれ相応の覚悟はされてますか?』
「なに?」
「「アイルス!?」」
「え? ……え?」
「????」
アイルスの胸像が怒気をはらんだ顔になったがどこか不自然だ。どこがと言われても困る程に指摘し難い不自然さが否めなかった。
『僕には生体脳が無いので、喜び怒り悲しみ楽しみが正確には分かりません。感情っぽいモノを模倣して見せています。ですが、命が不可逆であることは理解しています』
「なに言ってんだ?」
『失われたら生きてた物は生きていなくなってしまいます』
「なに言ってんだ? 当たり前だろうが」
『ジルドレッド兄さんは、僕の半身とリンクしたこのコボルドの命を奪おうとしてるのですよね?』
「は、半? なに?」
『ですから、このコボルドの脇に立つヴェアヴォルフと言うのですが、この人形の中身は僕とほぼ同じ物が入っていて、僕の制御下に居ます。どんな命令もこなしてくれる作業者にして僕の武器の一つです』
「……ぶき? その石人形が?」
『僕自身と同等の出力を誇り、コボルドに貸し与え、このコボルドと思考もリンクしています。お陰で彼らは人語さえ操れる知能を備えています』
「…………は?」
一同がフリーズして、理解が追いつかない表情を顔に貼り付けた。
『彼の痛みは、僕も感じます。彼が死ねばそれがリアルタイムで僕にも伝わります。彼らは既にアイルス・オリジナルの母様や父様、クリスティ、マルシェラ同様の存在なんです。勿論ジルドレッド兄さんも』
「ちょっと待ってくれ、そのコボルドとさっきの石鎧のコボルドもお前と繋がってるって言ったのか?」
『ええ。そうです』
「百歩譲ってそうだとしてコボルドが死んだらお前も死ぬのか?」
『それは、無いですね。末端の指がなくなった苦痛位はあるとおもいますが』
痛覚無視もあるのでこれは嘘である。最も、ラドは空気を読んでそんな事は口にしない。
「なら、コボルドや魔物はやめておくんだな。魔王の召集が掛かれば魔物はどうなるか分かったもんじゃぁない」
『御断りします。オリジナルは不殺を決意し彼らを無力化した上で眷族化しましたから』
「あの泣き虫が?」
『父の次に憧れのジルドレッド兄様の言葉と知ればオリジナルは悲しみますよ。今の言葉、撤回してください。もう泣き虫ではありません』
マリアンナが口を挟もうとしたのをラド・アイルスの幻像が手を映し止め、続けた。
「ははっ、コボルド二匹如きで片腹崩壊だぜ」
『二匹? 誰が二匹だけと? それと腹筋の鍛え方が足りないんじゃ無いですか?』
「アイルスの紛い物が上等な口の利き方するじゃねぇか」
『魔物なので仕方ない見た目でも先に手を出して謝罪もなく、僕の一部と知って尚、この子達を認めない。オリジナルの兄上と言えど、度し難い』
「やんのか? 勇者候補を舐めると後が怖いぞ?」
____
■登場キャラクター紹介■
・マルシェラ
種族:ラビットマン・ハーフ(4歳)
物心がついたばかりの半獣人の娘。耳と尻尾以外は
人間そのもの。意図的に教会から隠されている。
ユニークアビリティ:ハイパー・ピッキング・アップ
五感で感じられる感覚の中で取捨選択と更に鋭敏に
捉えられる能力。
・ジルドレッド
種族:人間(16歳)
自称転生勇者でアイルス達の兄。実は魔道具頼りと
言え、ソロで冒険者が出来る実力者。
ユニークアビリティ:呼吸見切り
攻撃タイミングが自動で判る。但し、呼吸器官を持つ
相手にだけ有効。
ユニークスキルに目覚め、その前提条件にペナルティ
を背負わされている。
実は、クリスティの顔が好み。歳が離れすぎてて本人
は諦めている。前世の記憶からくる、常識がそのよう
に働いているらしい……
ユニークスキル:リフレクティブ・アーマー
前提条件にペナルティを背負わされている。
レベルがあるらしく、それに応じた何%かのダメージが
攻撃者にはね返える。魔力が強ければその分もボーナス
される。
ユニークスキルの獲得は教会で勇者候補と認められた時
に覚醒した。
____
いつもお読みいただきありがとうございます。
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