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第48話 プライベートなき者たちの立場と想い
ジルドレッド視点
不本意ながら、こうして俺の再教育などと言う受難が始まった。
それからと言うものの時間感覚がもう、マジでぶっ飛んでった。ミューセックとか何のことか判んねー単位の加速世界でアイルスが受けた授業を反芻した。俺の身体は半日くらいだったか、俺の意思を受け付けず、次に目覚めるまで何も感じることはなかった。
少し昔話をしたい。転生前の母親はもっとドライっつーかクレバーっつーか……いや、飾るのはよそう。ネグレクトな毒親だった。父親は顔を見たことがない。だから、あの頃は優しい言葉やスキンシップが欲しくても貰えなくて、いつの間にか慣れちまってて、それが当たり前で……唯一買って貰った有名なゲームの勇者の物語が心の支えだった。死因とか他にも色々喪失してしまった記憶があるっぽくて前世の名前も覚えてない。
いや、そう言うのを言いたいわけじゃなく、転生した後、もう居ないけれど、産んで育ててくれた父さんや母さん。今の父さんや母さんも優し過ぎて、それに慣れるのが逆に怖くてなんかツッパってて、甘えられなかった。甘えること自体を罪悪と感じていた。だから、赤ん坊の頃は必死で体を動かせるように筋トレしていたりしたんだ。
その成果もあって、一歳の時に大分喋れて走れるほどになった。天才だとか言われたけど、前世の記憶があればそりゃあね。どう鍛えたら良いか判るよね。言葉も赤ん坊のスポンジ力ですぐに覚えられたし。英語とか前世じゃからっきしだったのさ。
二歳の時に村がある冒険者達に襲われた。この世界にはこんな怖い事もあるんだなと思ったよ。その冒険者達は父さんによって退治された。父さんはあの時のこと話してくれない。当時は助けに来てくれるならどうしてもっと早く来てくれなかったのかと当たり散らしたせいもあるかも知れない。
その冒険者が何故俺の故郷を襲ったのかを調べつつ旅に出たけど……今思えば冒険者達を呼んだと言うあの男を村のみんなは信頼しすぎていた。人好きのする顔の男だった気がする。
他人だからいつか裏切られる。最初から期待をしなければ良い。自分自身だけは最後に残っても裏切ることはない。今もその思いがあるからこそ、この手に勇者候補の実力が宿ったとも思ってる。人は強くなきゃ堕ちやすい。誰もが父さんの様に強く正しくあろうとは出来ない。わかり切ったことだ。
なのにだ。アイルスのコピーの……ラドが言うには彼自身アーティファクト・デバイスが脳の記憶する機能がある為、生体脳を持っていないとか。だから普通の脳みそを生体脳と呼んでいるとの事だ。その生体脳の長所、仕様、短所を叩き込まれた。
何が言いたいのか分からなくなったな。つまり、信頼も裏切りも立場とか感情とかで利害を基に成立する。いや、人なんだから考えるまでもない当然の事なんだろうけど。ラドはそもそも生体脳を持たず損得より、全体の利になるよう考察し、どうすれば効率よく目標を達成出来るかを導き出してた。
全体だぜ。敵とか味方とか裏切った奴とか、兎に角一緒くたにだ。唖然とするしかなかった。そんなの普通に出来るわけがない。やらかされた過去とかしがらみを全て許して全体の利を考えるとか本能を持つ人には無理だろ?
生体脳にある世代で脈々と受け継いできた本能の楔が、生存本能が目先の利を優先させると言う。理性を持ってこれを活かし時には的確に排除させる事をラドは人々に強制するべきだと信じ切っていた。
一見、不可能なこの案は、ラドの持つ技術なら可能に思える。忘却の能力は人間にとって優れた能力の一つだと前世の学者は言っていたが、全人類の脳味噌をサーバーネットワークの様につなげて取捨選択後必要なデータ管理さえ各個体が的確に出来るのなら?
人は本能から解放される。
脳みその仕様……前世でこれらを知ってたら、もっとマシな生き方があったかも知れねぇなんて止め処ない事まで考えちまった。人間らしさってなんだったっけ? 他人を見下して安心を得て仲間内で家族愛だ仲間だ絆だ、あいつは敵だ…云々……。
人間らしさの影に常にチラつく、群れのヒエラルキーを決める本能って確かに全体の利益を考えたら邪魔でしかない。前世じゃ、それを実践しようとした国のトップが国民を餌にしてた気もするから生体脳の本能が、他と繋がっていない為牽制に用意する悪知恵は厄介極まりない。
極め付けに、人間の身体について関節の動作可能な範囲から筋肉量による荷重負担可能範囲とか基本スペック的な知識まで叩き込まれ、その動作をミューセック世界の何時間もシミュレートさせられた。その上で魔力ブーストするとかエネルギー効率の運用の仕方とか損耗分の余熱エネルギーの利用先とか……。
達人が何年も修行して得られる挙動を何万体のリンクした人形で既に体得している。取捨選択されたデータ管理がもたらす物の一つが個体個体が必死に磨き上げる修行や勉学が一回で全体に反映されると言う高効率。
あいつどんだけドル師匠に才能を開花して貰ったんだ?
コレなら俺もドル師匠に預けられたかったわ。
◆
コルベルト視点
ゲートが開いた後、対象1へ向けて、主人の家族が駆け寄って行った。
『ありがとう。その場で潜伏待機』
『了解』
家族が抱き合うのを見て和んでいると後から来た対象2があらぬ方向へ何かを投げる。それがこちらへ変な軌道で向かってきた。
『コール! ケーリュケイオン! 接続承認要請 アクセラレーション・ロード Lv:100Sec/m』
『WW01コルベルト・コルベット。エーテルID確認。記憶ID確認。"承認"を受諾』
『"承認"を"キャンセル"。それにばかり頼っていては強くなれない』
『"キャンセル"を受諾』
『兄様! 危険なことはおやめください!』
瞬間、思考加速がヴェア・ヴォルフからかけられ、一瞬スローになった投擲ダガー。それがキャンセルした途端に元の早さに戻る。が、その柄を難なく掴んで見せる。手の中で暴れていたがヴェア・ヴォルフがディスペルで無効化した。
『この程度の動態視力を使い熟せなくてはな。"経験共有"』
『フィードバック・デプロイメント……動作制御パターン・バリエーション・シミュレート、ミューセック内にてアクセプト。シミュレート完了、各個体へ反映……適用完了』
『凄い! 兄さん!』
『ダメです! ちゃんと恩恵を使って安全に運用してください!』
『それじゃ、つまんないよ』
『オープン回線で喧嘩するな!』
『『ゴメンなさーい』』
敵を前にコルベルトは苦笑した。そんなやり取りを余所にマスター代理とマスターの家族が話し込んで親子喧嘩し始めた。しばらく見守っていたらマスター代理が、俺のコルベットにも同時魔法発動で対象2へ、身の程知らずさ加減を丁寧に体現させてあげてる。物理加速無しであれは無茶振りだろう。
世界の冒険者とか言う人族のレベルはあんな物だったのかと最近思う。あの足元にすら届かなかったコボルドたるこの身がマスター達に出会えてこの強さを手に入れられたのは幸運と言わざるを得ない。
本当に部族全員が健康に生き残れる環境をくれたマスターには感謝が絶えない。必ずマスターをお救いしなければ……。おっと。物思いに耽っていると対象2が投擲ダガーをあらぬ方向へ投げてきた。
『位相空間シールド発動』
師匠や的の小さなマスター代理ではないだろうと予想。ダガーが重力に逆らえない放物線の頂点に達した時それぞれが向き直る。案の定、狙いはこちらだ。軌道を幾ら変な風にしようと当たるのが分かってれば、読むのは容易いってなんで気付かないのだろうな?
「フンッ!」
全てのダガーを小さな盾で迎え入れる。思わず気合いの息が漏れたか。オレもまだまだだな。
____
いつもお読みいただきありがとうございます。
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