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第50話 アイルスの記憶
アイルスの記憶
記憶の再生中にサーヴァントの改造が映される。その工程の異様な発想に四人は驚愕する。ドル師匠でさえ、サーヴァント一体に制御人格が四人分も使われているとは思いつかなかったのだから仕方がないだろう。
確かに、アーティファクト・デバイスの設計記述を閲覧可能にした。が、しかしだ。たった一日で第三階梯まで習得し、サーヴァントにその技術を応用して組み込んで居るとは夢にも思わなかった。コボルドやゴブリンを従えていた事やラドが目の前に現れ、アーティファクトを脳の代わりに使用していた事を知ってはいたが、その運用の内容には驚愕せざるを得なかった。
サーヴァント自体のハードウェアとソフトウェアと言う考えについて深く思慮し、その設計と運用の思想は従来の物とは根本と違い、大きく差のある物を作り上げていた。常識とはかけ離れた産物で、サーヴァントはおろか今までのゴーレムと比べても、一線も二線も画す代物だった。アイルスのサーヴァントは何もかも逸脱していた。
更にアイルスは敵が持っていた魔法剣を軽く作り直してしまっていた。アーティファクト・デバイスの構造を公開しておいたが、魔道具製作が行える程にまでなっている事をドル師匠はここで認識する。
これらの事から遺跡の書にヒントがある事は既に気付いている。ドル師匠が何故アイルスの様な開発へ至れなかった理由は思い付いたものはどれも禁忌に触れる事が前提であった為、研究に踏み出せなかった。アイルスの様な低い階梯技術を応用する考えまで至らなかったのだ。(既にスピリット・スキャンは禁忌級であるのだが)
サーヴァントだけでもこの世界では、既にオーバーテクノロジーだった。それだけでなく、眷族の脳神経に直結した記憶媒体による種族を無視した精神のレベルの引き上げ。恐らくは思考行為に足りない器官も媒体で補っていると推測される。シリコンベース媒体での処理速度を応用した思考加速。眷族の各個体に魔法が行使可能になった事による戦略。
ドル師匠は、コボルド達が見た目に反してワイバーンを一個体で狩れるのではないかと推測した。"見えない弾丸"どころではないと再認識し、もう驚く事にも慣れてしまった。
しかし、マリアンナはアイルスが天才と信じきり、何をやっているのかよりも、ヘルとの夫婦漫才が気になっていた。よもや、使い魔に誘われて入れ込んでいないか気が気でない。それもそのはずで使い魔とは言え悪魔族と言う種族の刷り込みは、大人であれば誰でも完成されているからだ。
ドル師匠がこんなものを隠していたとは知りもしなかったが……しかも現状、恐らくは悪魔族の住う大陸に一緒に連れて行かれているのでは、この使い魔が頼りだと言うのは明白で頭を抱えるしかない。
『ここからは、オリジナルの失踪に大きく関わる出来事になります』
ボブゴブリンを倒し、アイルスが敵ボスと思われる存在にテレパスで会話を仕掛けた。
『敵であるフォールーンにオリジナルが接触。慢心もあったかもしれませんがこの時、敵の大将も生かしておく為に交渉する気でいました。その気持ちは悪魔族の印を左肩甲骨の上に付けられる事で返されてしまいましたが……』
「なんて事を! これは、まるで悪魔の生贄に施す刻印ではないですか……」
『母様の言う通り、生贄の印だったのではないかと推察します。これが失踪の原因に繋がります』
「では、アイルスは悪魔族達の奴隷か魔王に捧げられる供物になったと言う事ですか?」
『その可能性は否定出来ませんがまだ分かりません。記憶再生を続けます』
ゴブリンからコボルドの集落を奪還すべく死闘が繰り広げられる。いや、これがゴブリンやコボルドの戦闘かと言われるとレベルが違いすぎた。どちらもコバルト鉱石を使い、かたやゴーレムの如き石召使、否、石とは名ばかりのメタル・サーヴァントで本陣は待機、ゴブリン達はコバルト鉱石を弾丸にして応戦。
もはや、どちらも一介の冒険者が太刀打ちするには無理な次元でシルバーAランク程度では対処出来そうにない。この修練洞窟にアイルスが来なければコボルド達はゴブリンに制圧され着々と悪魔族の勢力となっていただろう。
ここだけが悪魔族の勢力が侵入して来る場所ではないだろうが、魔導士になりたての七歳がコボルドとゴブリンから成る大軍勢の可能性を根こそぎ狩り取ったなど、にわかに信じ難い出来事だろう。
そして、この記憶映像で最も拐われる起因となった出来事が再生される。
ソード・アームズと名付けられた目に見えない程、小さなサーヴァント達が無数の結界を同時に発生させた。
「あんな小ささでどうして、普通サイズの魔法陣が作り出せるの!?」
マリアンナが疑問を口にする。それにラドが答えた。
『サイズ指定すれば良いだけです。それ相応の魔力は必要になりますが』
「サイズ指定?」
『魔法陣の構築には起点、座標、角度、サイズと多岐に渡る指定が魔法式にあります。解析すればすぐに分かります。先人達が遺し、師匠達が翻訳と閲覧を可能にしてくれたお陰でオリジナルはココまで出来ました』
「これを、あの子が……」
"神童"と言う言葉がマリアンナの脳裏を過った。魔法が体系化され、魔法使いならば手軽に決められた魔法を誰もが使い、上級魔法使いならば多少の改造をやってのける程度しか出来ないものと言うのが魔法だ。根本から作り直すなど、まるで魔法を作って当たり前の言動が末恐ろしさを物語っていた。
結界が環境型大規模範囲魔法として収束していく。薄緑色の肌の女の子が敵であるにも関わらず、容赦の無い空気の物理圧縮。降伏勧告に敵は応じず常温の氷の槍が結界内で造られた。
「あの降伏勧告は届いておらんな……テレパスでせぬとはコボルド達に対するけじめかのぉ」
『そうです。少なくとも彼らの考えは全てスピリット・スキャンしたので分かっています。聞きますか?』
「いや、不快なものであったから彼女にこれほどの攻撃をしたのぢゃろう?」
『えぇ、まぁ、ゴブリンですしね。コボルド達の大切な存在がどうこうされた後に悪魔族の軍団に組み込まれる話ですから』
「まぁ、そうぢゃろうな」
クリスティ達の前では話難い事を、濁した会話を余所に再生は進む。槍が結界内に作られ終わると今度は結界が元の場所よりも広い空間を確保するべく後退した。並みの人間なら内部から破裂していただろう。彼女も身体中の穴と言う穴から大量に血を流していた。破裂しなかったのは何かの強化魔法だろうか。
ヴェア・ヴォルフの攻撃により、部位欠損状態で事切れた様に動かなくなったゴブリンの前線。コボルド集落の真ん中で血塗れのゴブリナ・クイーン。凄惨な戦場跡を見ても、牧場経営で血を見慣れていた為か、マリアンナ達は吐き気こそ催さなかった物の、余りのことに言葉を失っていた。
凄惨な光景にも関わらず、コボルド側の犠牲はゼロで手練れの冒険者パーティーでも難しい局面をたった一人の魔導士見習いがやってのけた。一般的にも、常識的にも、魔法を覚えて、たかだか一ヶ月の子供のやれる事ではない。
『アイルス。どうだ? やったか?』
『多分、生捕り成功だ』
『生捕り!? どこまで甘ちゃんなんだよ! しっかりトドメをさせ!』
『コイツは、僕がここから離れた時のためのリーダーをやって貰う』
____
いつもお読みいただきありがとうございます。
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