マジック サーヴァント マイスター

すあま

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第55話 魔王覚醒因子認定(誤解だよ?)



 聖王都:セントロモンディエレ デコグリフ大聖堂

 その日、日の沈んだ頃に突然、大鐘と左右の鐘が鳴り始めた。その鐘とともに女性とも男性ともつかない不思議な音声が聖都に居る信者全員にアナウンスを送りつけて来た。

「魔王の覚醒因子を検知、信徒の避難を現場より速やかに行い因子の排除、または封印をせよ。繰り返す、魔王の覚醒因子を検知、信徒の避難を現場より速やかに行い因子の排除、または封印をせよ。繰り返す、魔王の覚醒因子を検知、信徒の避難を現場より速やかに行い因子の排除、または封印をせよ」

 聖都は震撼した。魔王がついに覚醒するかも知れない時が来たと。

 ◆

 聖デコグリフ教会最高教皇シューキ・ホーリーは就寝前の祈りを終え、法衣を掴むと神託の間へ顔を出した。

「どこのカンテラの検知か?」
「分かりません。いえ、お待ち下さい……東の35、魔力驚異度:微量! ドヴェルギア方面のラキムゲルのものです!」
「微量!? 格闘タイプか! よもや、あの国が隠し持っていた訳ではあるまいな?」
「今、状況を確認中です」
「カンテラからの信力、途絶えました!」
「なに? 強力な魔力遮断か!?」
「馬鹿を言うな。信力は神力に通じる力、魔が力で妨げられる訳がなかろう」
「では、なにが原因で?」

 場が沈黙した。
 教皇は顎に手を当て目を閉じ、思考する。そして目を開くと覇気を込めた声で言い放った。

「悪魔崇拝者がいるかも知れません。急ぎラキムゲルと連絡を取りなさい。ラキムゲル奴隷監視官がやられている可能性も考えられます。早馬を先行し、"紅のルミナス"へ、テンプル・ナイツの出動要請を。早馬を追うように依頼なさい。采配は任せます。それと各地の英雄候補、勇者候補に召集をかけなさい。悪魔族との戦争時代の幕を開ける時が来たのです。先制の機会を逃してはなりません」

 ◆

 テンプル・ナイツの持つ敷地内 裏庭

 蒸気と排煙が立ち込めるガレージ。正面大扉が解放された状態で視界を悪くするその量に、兵舎に通じる扉を潜り、ガレージに足を踏み入れたルミナスは顔をしかめた。

「こいつは、ガレージに出してから起動するべきね」

 外見は20代後半から30代前半。典型的な紅毛碧眼の妙齢な女性で赤を基調とした法衣がよく似合っている。コレで三児の母なのだから罪深いものだと内心ウォルクスは思いながら答える。

「荷物を積んだ状態じゃ、重くて出発前から馬が疲れちまうよ」
「トロッコで牽引すれば良かろう」
「なるほど、なるべく早く設置できるよう、そいつの設計もしよう」

 ウォルクスは、教会所属だが信仰心は薄い。それは、自身の魔力を操作する能力は無く、信力も低く、その事で神の救いもなく、暗い幼少時代を強いられて来たからだ。『出来損ない』『魔力不感症』呼び方は様々だが、それら侮蔑を孕んだあだ名で呼ばれない日々は無かった。

 容姿が良ければ、又は何か才能に秀でていれば、神に愛されたかもしれない。そんな事もないごく平凡な身体能力に魔力を使いこなせない才能に明るい未来など見出せるわけもない。

 結果としてそれは、普通の友人を遠ざけ偏屈な友人の傍でボロボロになった一冊の遺跡の書を見る運命へ導くことになる。魔力にも信力にも頼らず、世の理りを見極め、それを人の意思で行使する。魔力も信力も乏しい者たちには、それは希望そのものだった。かつて、物理的に火を起こすのは大変な作業を要した。なればこそ生活魔法の発明は画期的だった。

 それをウォルクスは物理的に簡単にやってのける技術を発見した。彼はピストン状の閉鎖空間を作り、空気を圧縮して熱エネルギーを収束する圧気発火具ファイア・ピストンを制作し、そこに粉末にしたリンをかけた枯れた木片で発火を試みた。結果は上々だったが、リンの発火温度が低すぎて不用意に近くに置いておいたリンまで燃えてしまった。60度で発火すると科学の書を読み、後で知るとその対策方法も載っていた。リンを赤リンにする事で発火温度を引き上げより安全に取り扱えることとなる。

 これがイシュティ=メルデ自由貿易自治区を中心に、この世界の火口箱として普及した。現在、自治区だったイシュティ=メルデは自由貿易都市となっている。

 彼は一躍有名にはなりはしたが、金に無頓着で発明にいつも心奪われていた。その為利用されていると知りつつも教会に研究施設を用意され相棒の商人共々入信し、現在は蒸気機関をルミナス・テンプル・ナイツに提供している。

「それで、魔王の位置って掴んだんですかぃ? 隊長」

 軽装の聖鎧に身を包んだ優男がルミナスに話しかけて来る。アンブロスと言う男だ。その一挙手一投足から気のおけない手練れであることが窺い知れる。胡散臭い雰囲気の言葉使いで聖職者の肩書が台無しだ。

「いや、早駆けを出している我々がそれを追うように先行し200人の援軍が明日に出立する予定だ」
「200ねぇ。初動としちゃまぁまぁの数ですね。それまでに終わらせちまいましょう」
「覚醒因子とは言え魔王だ。油断は出来ん。ミュトスが接触していなければ良いのだがな」
「おっと……」

 一瞬、母親の顔を覗かせたルミナス隊長に、アンブロスが両手を見せながら、肩をすくめて『そう言うのはノンタッチで』と意思表示する。

「いや、私情はこれまでだ。ラキムゲルが担当している方面となれば、獣人の一人が覚醒した可能性が高い。どのような能力か早々に見極めねばならん。準備を急がせろ」
「出来ております!」
「よし! 騎乗! 魔王覚醒因子排除の為出撃する!」




 ◆

 弟子38日目 昼

 キャンプ地を経ち、西の聖王都方面への街道の進路を選択し、途中のチッペタ領へ入り、ガレラッチアと言う街に立ち寄る。奴隷になって初めての街入りである。面倒くさくなるので馬車は街に入れず、ラキムゲルとその側近だけはオークションの準備の為、街に入る。それ以外は宿も取らずに近くにキャンプする事にした。物資の確保と奴隷売りを行ない速やかに街をはなれるためだ。

 僕は、サブ治(元ラキムゲル)と従者一人だけ連れて、後は街の外でお留守番と言う形でまだ早いが野営の準備に入らせる。最も先頭を歩かせるのはラキムゲルの記憶を持つサブ治だが。

 3m程度の木製の塀に囲まれた街の門を通り抜け、領主の屋敷を目指す。領主への挨拶が終わったら貴族に通達し今日の午後、明日の午前、午後と奴隷をお披露目してお布施を貰って納品という簡単なお仕事だ。この街で奴隷がどうなろうと知った事ではない。現場に残すサーヴァントに判断を委ねる。

「まぁ、あんな可愛い子も奴隷なのね。悪魔族にやられた人は可哀想に」
「ほー。あんな顔で男かよ。可哀想に」

 教会の提供する奴隷は悪魔族とのハーフだ。その奴隷に対する感情はよろしくないことが痛いほど視線に含まれていた。

『なるほど、マルシェラが匿われたワケだ』
『となるとやはり、例の安心計画を実行するには、男性側から方が良ろしいかと』
『まぁ、怪我させられそうになったり、ラキムゲルに目をつけられるきっかけを作ったりと性格はともかく、行動が厄介な者をこの際遠ざける意味も含めてあの者から仕向けさせましょうか』
『どれ、この意見の認証前に多数決を取ってみようか』
『賛成多数、マイノリティの意見を聞きたいですね』
『男女平等はどうなるのかと言う的外れな意見に対しての理論が必須かと』
『男尊女卑の社会で奴隷の身分を考慮して?』
『まぁ、一部の頭の回転が螺旋を描いて斜め上にぶっ飛んでる人の明後日の意見として挙げたまでだ』
『確かに根底からおかしい噛み合わない意見は存在するね』
『そう言う奴に対する練習とかそう言うの多分無駄に終わる』
『最初から話を取り合わないからな。ラキムゲルみたいに』
『その周りの人間を納得させるために必要だ』
『あぁ、なるほど』

 頭の中でガイアと八割脱線する高速会議を行いながら領主レジーナ・ガレラッチア・チッペタが住う屋敷へ向かっていた。ラキムゲルの記憶によれば、レジーナはドニゼド・バーンノックス卿の傀儡だと言う。嫌な会談になりそうだ。


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いつもお読みいただきありがとうございます。
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