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第60話 (暗躍×2+解放軍)×「勇者参上!」=カヲス①
しおりを挟む「それでも、彼は危険な人物です!」
「いや、にわかには信じ難い。この事は可及的速やかに真偽の程を確かめねばなるまい」
「そんな悠長な事言ってられません! 直ぐに奇襲でも罠でも何でもやって討伐すべきなのです!」
「落ち着け、ミュトス」
「私は落ち着いてます!」
ルミナス・ナイツ隊長天幕内でミュトスは母であるルミナスにヒステリックに吠えたてた。監視されてると言う事を前提にして、全くそれを念頭に置いていない母への訴えは要領を得ず不毛なやり取りが続く。
◆
『定期連絡112、ミュトスが母親に接触。母親の着ている鎧は聖鎧と思われ、テンプル・ナイツの部隊を率いていると予測される。例のカンテラの所為でミュトスから連絡用に一体射出。射出後カンテラによりミュトス体内への帰還は不可能。ミュトス体内に構築したグループとはテレパス途絶。体内では、現在もミュトス眼球を通してログを取り続けてはいるが、ミュトスの精神が監視による重圧かネガティブループし、やや鬱状態へ移行気味。教会の先触れ部隊は36騎、他整備が4、得体の知れない煙を吐く馬車が4台、その馬車には馬はなし。恐らく古代科学の内燃機関を応用した新型エンジンが開発されたと思われる』
『定期連絡113、ミュトスと母親との接触は予測通りミュトスに都合の良い弁明により公正に判断されず、且つこちらの素性は把握されている。"魔王覚醒因子の討伐又は封印"に部隊は派遣されて来たとの事。タイミング的にミュトスの要請ではないが迅速な対応から、カンテラを破壊した事がトリガーであると予測……』
◆
ミュトスが精神的にまいってる? 先に牙を向いたのは向こうだし手の内をわざわざ教える気はないし、自業自得だよなぁ。かと言って母親に泣きついて討伐させようとしてるし。面倒くさいし、サブ治二号にしてやろうかな……。
それやるとルミナス率いるテンプル・ナイツとソフラト家の全面戦争になるな……却下か。また、あのカンテラが邪魔してるし、しかも今度は四つ。壊して回るのも良いけどそれやるとますます拗れそうだし。しょうがないけど保留にするか。接触時にラキムゲルのログ見せれば良いし。
「オリジナル、撤収準備完了したので街を出ますよ」
「オッケー、適当に流してこ」
報告を眺めて思考していたら出発の用意が整っていた。ラキムゲルの身体を乗っ取っといて正解だったね。楽ちん楽ちん。
◆
曲がりくねった丘陵地の街道を無視して林も何もかもを突き抜けて飛ぶように駆け抜ける黒い影があった。勇者となったジルドレッドだ。彼はキュケロスに指示して位相空間と実空間を渡りながら、高速移動していた。
「覚醒因子、移動を開始した模様です」
「なに? 夜行性か? さすが悪魔だな。キュケロス。覚醒因子へ向かうカンテラは幾つだ?」
「確認出来るカンテラは四つのみ。この先の名もなき宿場町にて恐らくテンプル・ナイツ、"ルミナスの率いる部隊"が野営しているものと思われます。覚醒因子迄は馬で半日程の距離になります」
「なるほど。ルミナス・ナイツの手を煩わせるまでも無い。あいつらより先に狩るぞ」
「了解。このまま直進します」
魔術と魔法を使用した技術で科学の理を踏襲したサーヴァントのデータを取り込み、"信力"由来動力回路のゴーレムと化した元サーヴァントのキュケロスは、アイルスが確立したオリジナル・マジックを、信力によって使用していた。重力の階梯が真っ先に侵食された物理メモリに納められてた所為でその技術が使われたのだ。奪われた技術は一部とは言え、強力な事には変わりない。キュケロスは生まれたばかりで、その力を使いたくて仕方がないのだった。
◆
街道へ出たばかりのタイミングで思考加速常備のG.I.Aから知らせで、強制的に加速思考へ引き上げられる。肺呼吸がゆっくりになって行くが別に苦しく無くてちょっと不思議な感覚だ。
『高速で位相空間より接近する者あり』
『ん? ラド関連ではないのか? こっちと同じ様に位相空間を利用してるのって他に居るのか?』
『アーカイブにも位相空間を利用した移動方法は記載されていない』
『なら、僕らのオリジナルを模倣した誰かか?』
ややあってからラドから返答が来る。中継と同等の加速中では流石にタイムラグが出るのだろう。
『コッチは兄さんに貸し与えた個体以外モニター出来てるからやっぱりジルドレッド兄さんのじゃ無いかな?』
『教会に行くって言ってなかったっけ?』
『今、オリジナル、背中のマーカーの所為か、それとも蘇生して悪魔族になった所為か悪魔族認定されてるしねー。勇者も勇者候補も漏れなく敵なんじゃない?』
『神に弓引く気がなくても、"疑わしきは皆殺し"は教会だったか……』
『半獣人を率先して奴隷にしちゃうしね』
『最悪な環境作ってんのは教会じゃん』
『ところでそろそろオマケみたいな山賊出てくるけど蹴散らすって事でok?』
『山賊ぅ? 教会の馬車なんか襲うかなぁ?』
『家族とかいたら厄介だよね』
『まぁ、そっちも初手は待ちでいいんじゃないの? 正当防衛確率の既成事実は前提条件必須だからね。精神的にも事象的にも』
『じゃぁ、実時間へ戻るよ。"不殺の心構え"でよろしく』
『あいあーい』
動いてるかすらわからなかった、ゆったりとした動きや感覚が戻ってくる。もう直ぐ丘陵地の上りを迂回する道へ入るところだった。そこを通り過ぎる時に馬車が一台すれ違った。完全に曲がり切ったところで前方を馬で通れない様にした一団がいた。諦観のため息が無意識に出た。しかし、その集団の台詞にアイルスは目を剥くことになる。
「我々は! 奴隷解放軍"ネット・ハーツ"である! 大人しく奴隷を渡して貰おう! さすれば痛い目に遭わずに済むだろう!」
思わず、フリーズしてしまうアイルス。御者がラキムゲルに指示を仰いで来る。奴隷は大切な財産だが、そのために怪我を負うのもバカらしい。手放してほとぼりが覚めてからまた捕まえればいい。そんな表情が読み取れた。
「お前達、奴隷を解放した後どうする気だ!」
指示を出す前にサブ治が大声を張り上げた。
「独立して生活できる様に手配するに決まってるだろう!」
「光の民の領域でまともな職に就けるものか! だから我々が奴隷として生かしているのだ!」
『別にラキムゲルのフリをそこまで再現しなくても良くない?』
『彼らにまでオリジナルの存在を知られない為です。彼らに知られれば奴隷解放の大義名分を盾にオリジナルを利用しようとするのは明白です。最悪、我々の力を知られないように動かなくては』
『あー。ね。目に浮かぶ。でもさ、兄さんのご到着だし、隠れてやり過ごすってのは無理かもしれない。記憶改竄の術を本気で開発しない限り……』
突如、馬車の上よりも高い場所から名乗りが降って来た。
「我こそは、聖剣使いにして勇者ジルドレッド! 魔王覚醒因子よ! 隠れても無駄だぞ! 出てくるが良い!」
いきなりの登場にアイルス達G.I.A以外、全員が空を見上げて文字通り口をあんぐり開けて呆けた顔になった。それはそうだろう。全く思わぬ展開に無理矢理持って行く兄がタイミング悪過ぎるのだとアイルス達は思う。せめて目の前のトラブルの行く末を見てから出てくれば良いのにと思わずにはいられない。
「ゆ、勇者?」
奴隷解放軍とやらから声が漏れる。これ幸いとジルドレッドが空からゆっくり降りて来ながら返す。
「いかにも! 勇者ジルドレッドだ!」
アイルスは、憧れていた兄がここまで空気を読まない登場をする事を恥じながらも、売名行為を行おうとしていることに気付いてしまい、兄に幻滅した。
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いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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