マジック サーヴァント マイスター

すあま

文字の大きさ
62 / 77

第62話 カヲス③ 転生バカップルのカタワラで

しおりを挟む



『なに、悪い様にはせんよ』
『今更、信用できるか!』
『そうだそうだ』
『言った筈ぢゃがの』
『何をだ』
『人の汚い面に関して見聞でも広めよと』

 確かに言われた気がする。ラキムゲルが私利私欲に塗れたなんちゃって司祭なのはスピリットスキャンで既に分かっている。人の精神構造も悪魔族の精神構造もほぼ変わらない事は分かっている。育成環境次第と結論が出ているのにこの上何を理解しろと言っているのかが理解出来ない。

「奴隷を今すぐ解放しろ! それ以外の選択肢はない!」
「解放した後は面倒見れるのですか!」
「お前、ホントにアヤカなのか!?」
「そうだって言ってるでしょ! 勇者ごっこなんて厨二病、今時流行らないわよ! 早く降りて来なさい!」

 わちゃわちゃと現場は混沌としているが、サブ治のやり取りは劣勢だ。洗脳勇者と解放軍は、このままでは奴隷達の証言で共闘ムードになるだろう。投擲コントロールの良い自称幼馴染が教会のしてる事を首輪の妨害を掻い潜って伝えようとしてる様だ。微妙に共闘ムードにヒビを入れている。第五勢力として出るよりどうにかやり過ごしたいところだ。

『ヘスペリアー。具体的に悪い様にしない手段とは?』
『蘇生してやろう』
『その前に色々ないの? 防止策とか』
『そうぢゃの。提案をしてやろう。どうせ、地上の猿共に生物学や天文学を説いたところで悪魔族の言葉など無条件で受入まい。結果のみ、力のみ、目に見えることのみが全ての低脳には、ヘイトコントロールとか方便を垂れて取り返しのつかぬ政治をするのが精一杯ぢゃろうて。まこと、救難き愚政と愚民よ。されど解放軍はマシな方かの。気付いておるのぢゃろう? この場を収めるのに最適な人身御供を』
『そんな事、あんたに言われるまでもない』
『ア、アイルス、どうするの?』
『サブ治、ラキムゲルにことの経緯をインストールして、解放。一体のみナノ・アームズを残してラキムゲルから退避』
『よろしいので?』

「厨二……!」
「降りて」
「ハイ」

 兄が降りて来た。獣人娘奴隷に女性たちが味方し、勇者に向かって凄い怖いオーラを放ってる。尻に敷かれるタイプだったのか。解放軍とラキムゲルもいっとき目を奪われてこのやりとりを見てる。今のうちか……。

『どのみち、解放軍の矛先は納めどころがそこしかない。兄は力押しか、あのクリスティ似の羊ちゃんに任せるのが落とし所かな……で、ヘスペリアーの悪い様にはしないの具体案の提示は"ラキムゲルを解放する"ことの背中を押すだけ?』
『まぁ、待て。切札は容易く見せるものではないのだ。まさか、張っておいた網がここで発動するとは思わなんだが、見るが、良い』

「あんた、冒険者なんて自由業やってんなら迎えに来なさいよ」
「いや、こっち来てるなんて知らねーし」
「お黙んなさい!」
「ひっ」
「そこは、感じなさいよ!」
「無茶な!」

 なんか、ウチより夫婦漫才してるな。あの二人。兄に奴隷の知り合いがいるとは思わなかったけど。張っておいた網と言うのはあの二人のことか?

『呆気に取られてる今だな。サブ治達戻っておいで』
『かしこまりました』
『せいぜい、頑張れ。オカマッチョ』

「はっ!? ここは?」

 ラキムゲルが正気を取り戻し、インストールした記憶から直ぐに状況を理解する。

「くっ、どう言うつもりだ」
「おい、奴隷管理司祭。聞いてるのか!?」
「は……だまれ! 賎民が! 悪魔族の肩を持ちおるのか!」
「!?」
「気でもフれましたか?」

 中々やってくれる。あのオカマッチョは、初っ端から全開のヘイト集めしてくれるじゃぁないか。さてと、更に混沌となるが一手打っておくか。

「ジルド兄さん!」
「「「「!?」」」」
「アイルス!? 悪魔族に拉致られてたんじゃないのか!」
「そこのオカマッチョに気を失ってる時に首輪をかけられて奴隷にされたんだ!」
「「「!?」」」
「教会が、勇者の親族を奴隷に?」

 ラキムゲルに降り注ぐ視線を見て、"良し、ツカんだ"と確信した。僕の記憶を見せたにも関わらず、師匠の教えも全て否定し、反省も無く信仰と言う"道具"に頼り切り、神と悪魔の単語に踊らされ、思考停止に縋ったお前の間違った人生の顛末を噛み締めろ。それで反省すれば、助けなくも無いかな……いや、ないな。殺されてるし。流石にそこまで甘くなれない。放逐してやるから勝手にやってて貰おう。

「う、嘘だ! 貴様はダークエルフハーフなのだろう! でなければ、悪魔族と同じ波動を私が感じるはずが無い!」
「アイルスから悪魔族の波動? 確かに感じるな。アイルス、お前悪魔族に何かされたか?」
「監視者とか言うヘスペリアーにエビルズ・マーカーをつけられました。死ななければ悪魔族化しない呪いとともに」

『ちょっ! そんな簡単にバラして良いものではないぞ!』
『別に内緒にしておけとも言われてませんでしたので。復讐するならしにこいとも言ってましたよね』

 ヘスペリアーからの横槍を軽く返す。

「は? そんな話は聞いてないぞ!」
「聞こうともしてませんでしたよね。挙句、磔刑に投石を奴隷達にさせて私を殺しました。その結果呪いが発動し悪魔族化しました」

『おのれ。親に対してなんと言う物言いか。死に対して先回りして対処してやったと言うものを』
『しなければ、奴隷にされることも殺されることもありませんでした、ちょっと黙ってて貰えますか? ケン、ヘスペリアーの応対を少しの間、頼む』

「な、何を言うか! 教皇様より賜った聖なるカンテラを怪しげな術で壊し、悪魔族の手先となって私に酷い目を何度も合わせておきながら!」
「でも、怪我をしてませんよね? それにあれは、です。大事な事なのでもう一度言いますね。ですよ」

 ラキムゲルは押し黙った。あれだけ死ぬ思いを繰り返し追体験させ、精神も肉体も正常に戻り、まるで悪夢でも見ていただけだったのでは無いかと思うほど何も無いのに、魂へ刻んだのだ。アイルスの死ぬまでの記憶を何度も反芻させて。誰を敵に回したのか、その危険性を。だから、手を握り締め、歯噛みし、それ以上言えないのだろう。

「こんな小さな子供に磔刑投石をしたと言うのか? しかし、傷が無い様だが」
「呪いで死から甦って、悪魔族化しましたから治りました。貴方がたは、奴隷を解放しに来たそうですが?」
「あぁ。そこの司祭は我々が責任をもって断罪する。その上で奴隷を解放する。獣人との子供にも人権は与えられるべきなのだ。今更、それを含めて教会に任せられないしな」

 最低限、教会が信用を置けない団体である事は認識してるようで、正直、コレには助かった。

「それはお願いします。僕は奴隷になったつもりはありません。奴隷は連れて行ってもらって構いません。僕には関わらないでくださいませんか」
「しかし、君の面倒も我々が」

「それをお断りしたいと申してます」
「何故だ?」
「父さん達家族のもとへ帰るからですよ」
「あ、あぁ、では、家族の元まで送りたいと思う」
「勇者になった、兄がいますので大丈夫です。早く他の奴隷達を助けに行ってあげてください」
「おお、思いやりのある子だ、では勇者と話してそうしましょうか」

 振り返ってみると、羊娘の奴隷が馬車の窓から空中正座してるジルド兄様に説教していた。誰がどう見ても、バカップル全快だった。


____
いつもお読みいただきありがとうございます。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...