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第62話 カヲス③ 転生バカップルのカタワラで
しおりを挟む『なに、悪い様にはせんよ』
『今更、信用できるか!』
『そうだそうだ』
『言った筈ぢゃがの』
『何をだ』
『人の汚い面に関して見聞でも広めよと』
確かに言われた気がする。ラキムゲルが私利私欲に塗れたなんちゃって司祭なのはスピリットスキャンで既に分かっている。人の精神構造も悪魔族の精神構造もほぼ変わらない事は分かっている。育成環境次第と結論が出ているのにこの上何を理解しろと言っているのかが理解出来ない。
「奴隷を今すぐ解放しろ! それ以外の選択肢はない!」
「解放した後は面倒見れるのですか!」
「お前、ホントにアヤカなのか!?」
「そうだって言ってるでしょ! 勇者ごっこなんて厨二病、今時流行らないわよ! 早く降りて来なさい!」
わちゃわちゃと現場は混沌としているが、サブ治のやり取りは劣勢だ。洗脳勇者と解放軍は、このままでは奴隷達の証言で共闘ムードになるだろう。投擲コントロールの良い自称幼馴染が教会のしてる事を首輪の妨害を掻い潜って伝えようとしてる様だ。微妙に共闘ムードにヒビを入れている。第五勢力として出るよりどうにかやり過ごしたいところだ。
『ヘスペリアー。具体的に悪い様にしない手段とは?』
『蘇生してやろう』
『その前に色々ないの? 防止策とか』
『そうぢゃの。提案をしてやろう。どうせ、地上の猿共に生物学や天文学を説いたところで悪魔族の言葉など無条件で受入まい。結果のみ、力のみ、目に見えることのみが全ての低脳には、ヘイトコントロールとか方便を垂れて取り返しのつかぬ政治をするのが精一杯ぢゃろうて。まこと、救難き愚政と愚民よ。されど解放軍はマシな方かの。気付いておるのぢゃろう? この場を収めるのに最適な人身御供を』
『そんな事、あんたに言われるまでもない』
『ア、アイルス、どうするの?』
『サブ治、ラキムゲルにことの経緯をインストールして、解放。一体のみナノ・アームズを残してラキムゲルから退避』
『よろしいので?』
「厨二……!」
「降りて」
「ハイ」
兄が降りて来た。獣人娘奴隷に女性たちが味方し、勇者に向かって凄い怖いオーラを放ってる。尻に敷かれるタイプだったのか。解放軍とラキムゲルもいっとき目を奪われてこのやりとりを見てる。今のうちか……。
『どのみち、解放軍の矛先は納めどころがそこしかない。兄は力押しか、あのクリスティ似の羊ちゃんに任せるのが落とし所かな……で、ヘスペリアーの悪い様にはしないの具体案の提示は"ラキムゲルを解放する"ことの背中を押すだけ?』
『まぁ、待て。切札は容易く見せるものではないのだ。まさか、張っておいた網がここで発動するとは思わなんだが、見るが、良い』
「あんた、冒険者なんて自由業やってんなら迎えに来なさいよ」
「いや、こっち来てるなんて知らねーし」
「お黙んなさい!」
「ひっ」
「そこは、感じなさいよ!」
「無茶な!」
なんか、ウチより夫婦漫才してるな。あの二人。兄に奴隷の知り合いがいるとは思わなかったけど。張っておいた網と言うのはあの二人のことか?
『呆気に取られてる今だな。サブ治達戻っておいで』
『かしこまりました』
『せいぜい、頑張れ。オカマッチョ』
「はっ!? ここは?」
ラキムゲルが正気を取り戻し、インストールした記憶から直ぐに状況を理解する。
「くっ、どう言うつもりだ」
「おい、奴隷管理司祭。聞いてるのか!?」
「は……だまれ! 賎民が! 悪魔族の肩を持ちおるのか!」
「!?」
「気でもフれましたか?」
中々やってくれる。あのオカマッチョは、初っ端から全開のヘイト集めしてくれるじゃぁないか。さてと、更に混沌となるが一手打っておくか。
「ジルド兄さん!」
「「「「!?」」」」
「アイルス!? 悪魔族に拉致られてたんじゃないのか!」
「そこのオカマッチョに気を失ってる時に首輪をかけられて奴隷にされたんだ!」
「「「!?」」」
「教会が、勇者の親族を奴隷に?」
ラキムゲルに降り注ぐ視線を見て、"良し、ツカんだ"と確信した。僕の記憶を見せたにも関わらず、師匠の教えも全て否定し、反省も無く信仰と言う"道具"に頼り切り、神と悪魔の単語に踊らされ、思考停止に縋ったお前の間違った人生の顛末を噛み締めろ。それで反省すれば、助けなくも無いかな……いや、ないな。殺されてるし。流石にそこまで甘くなれない。放逐してやるから勝手にやってて貰おう。
「う、嘘だ! 貴様はダークエルフハーフなのだろう! でなければ、悪魔族と同じ波動を私が感じるはずが無い!」
「アイルスから悪魔族の波動? 確かに感じるな。アイルス、お前悪魔族に何かされたか?」
「監視者とか言うヘスペリアーにエビルズ・マーカーをつけられました。死ななければ悪魔族化しない呪いとともに」
『ちょっ! そんな簡単にバラして良いものではないぞ!』
『別に内緒にしておけとも言われてませんでしたので。復讐するならしにこいとも言ってましたよね』
ヘスペリアーからの横槍を軽く返す。
「は? そんな話は聞いてないぞ!」
「聞こうともしてませんでしたよね。挙句、磔刑に投石を奴隷達にさせて私を殺しました。その結果呪いが発動し悪魔族化しました」
『おのれ。親に対してなんと言う物言いか。死に対して先回りして対処してやったと言うものを』
『しなければ、奴隷にされることも殺されることもありませんでした、ちょっと黙ってて貰えますか? ケン、ヘスペリアーの応対を少しの間、頼む』
「な、何を言うか! 教皇様より賜った聖なるカンテラを怪しげな術で壊し、悪魔族の手先となって私に酷い目を何度も合わせておきながら!」
「でも、怪我をしてませんよね? それにあれは、僕が貴方から受けた仕打ちです。大事な事なのでもう一度言いますね。勇者となったジルド兄様の七歳の弟に対して教会に仕える身である貴方が行った仕打ちですよ」
ラキムゲルは押し黙った。あれだけ死ぬ思いを繰り返し追体験させ、精神も肉体も正常に戻り、まるで悪夢でも見ていただけだったのでは無いかと思うほど何も無いのに、魂へ刻んだのだ。アイルスの死ぬまでの記憶を何度も反芻させて。誰を敵に回したのか、その危険性を。だから、手を握り締め、歯噛みし、それ以上言えないのだろう。
「こんな小さな子供に磔刑投石をしたと言うのか? しかし、傷が無い様だが」
「呪いで死から甦って、悪魔族化しましたから治りました。貴方がたは、奴隷を解放しに来たそうですが?」
「あぁ。そこの司祭は我々が責任をもって断罪する。その上で奴隷を解放する。獣人との子供にも人権は与えられるべきなのだ。今更、それを含めて教会に任せられないしな」
最低限、教会が信用を置けない団体である事は認識してるようで、正直、コレには助かった。
「それはお願いします。僕は奴隷になったつもりはありません。奴隷は連れて行ってもらって構いません。僕には関わらないでくださいませんか」
「しかし、君の面倒も我々が」
「それをお断りしたいと申してます」
「何故だ?」
「父さん達家族のもとへ帰るからですよ」
「あ、あぁ、では、家族の元まで送りたいと思う」
「勇者になった、兄がいますので大丈夫です。早く他の奴隷達を助けに行ってあげてください」
「おお、思いやりのある子だ、では勇者と話してそうしましょうか」
振り返ってみると、羊娘の奴隷が馬車の窓から空中正座してるジルド兄様に説教していた。誰がどう見ても、バカップル全快だった。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
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