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第一章
プロローグ3
しおりを挟むルービィス国内、王都でも一番とも言われる商店街の中央にある大広場にて号外が街全体にばらまかれた。
発行元は世界中に記者達がスクープという獲物の為に駆け回り、情報力の速さ正確さ幅広い情報網が売りのバトボックス社だ。
世界の情報を知る手段は新聞しかない為、全ての情報を操り、記事に載せたことが事実になるバトボックスは世界的な規模で有数な権力を誇っている。
ある意味一種の独立勢力に近い組織だ。
そんなバトボックスからの号外と聞き大勢の通行人、他国の旅人、商人達が足を止め、立派な噴水の手すりの上で広告用のビラをばら撒き散らしている記者を見ていた。
「号外だ!号外号外!また○○が町を消滅!それにより主犯、ルイス・ノーゼンの懸賞金がまた上がったよ!詳しくは、記事に書いているよ!」
人々はこぞって記事を買い求めた。
号外。。。たかが元姫の死刑囚が逃げたことくらいでは、〇〇には劣ったらしく記事の表紙を飾ることは出来なかったようだ。
新聞を手に人々はまたか。というようにため息と共に不安を漏らす。
『【5番目の勇者ルイス・ノーゼンが結成した犯罪組織○○がまたもや村を消滅。】
今月3度目となるこの破壊行動は日に日に増している。
5年前勇者御一行が魔王討伐、邪龍討伐という偉業を成し遂げたが、5人目の勇者ルイス・ノーゼンは4人目の勇者ノエル・キャビナーと三人目の勇者セレース・マリションを殺害。
その後行方を眩ました半年後○○のリーダーとして、虐殺をもくろむ組織を創設し残虐きまわりない行為を繰り返している。
勇者が大悪人として各国に指名手配がされているのは歴代初である。
─《バトボックス社》─』
表紙には現場の写真とルイス•ノーゼンの手配書などなど掲載されていて、2枚目にようやくルシエル逃亡の記事と報奨金が表示されているだけ。
ルシエル逃亡は驚かれることもなく、むしろ賞金首が増えたことで喜ばれた。
「今度は辺境の村がやられたか」
「酷いもんだ。しかし、これ見てみろよ」
ニタニタと笑う中年男の手にはルイス・ノーゼンの手配書。その額は全世界の最高級の宝石を買い占めても、末代まで資産が残るような余る程。
「こんな額でも、ここ数年誰も顔を見た奴はいないって噂だぜ」
「影では既に死んでるって噂もあれば、賞金狩りにビビって隠れてるって噂もあるみたいだ。
幹部の顔写真がないのも、顔を見たやつはこの世にいないからさ」
その下には『○○の幹部ならば』とあやふやな文字の横にルイス・ノーゼンには劣るものの一生遊んで暮らせる額。
「そんな化け物より、か弱い罪人の娘の方がお得だな」
と2ページ目を見たご老人が呟いた。
『【世紀の裏切り者の悪魔オリビアの娘、逃亡。ルービィスの対応は?】
ルイス・ノーゼン(○○)の協力者として3年前に処刑されたルービィス国の元王妃、歴代最悪の悪女オリビア。
その娘もルイス•ノーゼンと繋がりがあるとして警戒対象者ルシエルの処刑が決まっていたが、昨夜逃亡したことが判明した。
各国から注目を集めていた今回の処刑の罪人が逃亡したという失態にルービィス側に責任が問われる。
なお、王族に懸賞金がかけられるのは歴代初である。』
「はっ。残酷だなー。こいつだってただ殺されて、はい終わり。にはいかないだろうな」と笑いを含んだ言葉に周りの中年仲間も賛同した。
「その珍しい銀髪じゃ、早く殺してください。と言ってるようなもんだもんな。
オリビアに恨みを持った奴になぶり殺されるのが先か自害するのが先か楽しみだな」
ハハと笑った中年男。
「おいっっ!誰かそいつを捕まえろっっ!」
突然、怒鳴り声とも近しい叫び声に誰もが振り返る。
見ると指を指されている黒いフードを被った人物が大広間に集まった群衆の間をするりするりと通り抜けている。
恐らく一般の市民であろう身なりが3、4人。血眼になって黒フードを追いかけている様子に盗人か何かだと、民衆は思っていた。
それなら自分達が動く必要もないと思ったのだろう。
が、次の一言で号外に集まっただけの群衆が血眼になって探す仲間入りを果たすのだ。
「そいつっ!そいつは皇女だっ!ルシエルなんだよっっ!!!」
その言葉は半信半疑になりながらもギロリと獲物をした目に群衆。
その瞬間、走って逃げてた衝撃で黒フードがとれたのだ。
中からできたのは、まごうことなき絹の如く艶やかに光り輝く銀髪。
半信半疑から確信に変わり、ルシエルの近くにいた群衆が一攫千金のチャンスだと一斉に襲いかかってきた。
ルシエルの近くにいた1人が服の裾を引っ張り捕まえたと思えば、足蹴りで振り払う。
振り払ったと思ったら、2人目が右腕を掴んできた。
ルシエルは必死に抵抗して、もう片方の腕で薙ぎ払ったが、その手も3人目によって塞がれてしまった。
「や、離して!」
ジタバタ暴れる少女を力一杯の力で握り掴む。その力の強さに、顔をしかませるが誰も気がつかない。
少女ではなくただの黄金を背負った獲物としか見てないのだろう。
彼ら達が必死なのは無理もない話だろう。この獲物を捕まえれば大量の大金が手に入り人生が180度変わるのだ。
と、先程まで手を掴んでいた男が吹き飛んだ。
一瞬何が起こったのか分からず目を白黒させていると、叫び声がその行動の正体を映し出した。
「そいつをよこせ!俺が最初に見つけたんだ!」
「はぁぁ?!」
獲物を取られると焦り、殴り飛ばした男は声を荒げ自分の物だと主張した。
殴り飛ばされた方も頭に血が上り、拳が相手の顔面クリーンヒット。
「雑魚どもは黙ってろ!」
それを聞き周りは猛反発。
殴り合いの喧嘩が始まってしまった。
1組がそれをしたが為周りにも血の荒さが伝達し、無関係な所もケンカし始めた。
最初に見つけたのは自分だと主張する者。捕まえたのは自分だと主張する者。
騒ぎに便乗して鬱憤晴らしする者。無関係なのに殴られ喧嘩になる者。
喧嘩の観戦を楽しむ者。
獲物の取り合いで平和だった大広間が一瞬にして闘技場になってしまった。
殴り、殴られ合いの中ですっかり、皇女騒ぎどころの話ではなくなり、怒号と殴り合い、叫び声と泣き声。それより大きな歓声に気持ち悪くなった。
その中で完全置き去り状態のルシエルを目に留める者はいなくなり、自分達のケンカに必死のようだ。
先程まで自分を取り合っていたのに、いつの間にか他人が殴られている所を見て喜んでいる人達を見て心底理解できない。
もう、人という理解不能な生き物が怖かった。
まさに地獄絵図だ。この場所から一刻も早く立ち去りたい一心で乱闘騒ぎの間を潜り抜ける。
もちろん、命の危機だからという理由もあるがそれだけでなく金という名の欲にまみれた人の中身を見たルシエルは内心怯えていた。
乱闘騒ぎを聞きつけ警備隊が駆けつけた時には、ルシエルの姿は路地の中に消えていた。
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