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第8章 英雄の育成
第412話 未知の迷宮② -Another side-
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「見つけたぞ、ここだな?」
ヒロ――ユーリは、森の奥でポッカリと開いた迷宮の入り口を見つけ、まずは無事一歩前進できたことに安堵する。
ユーリ、ランゼ、クリスティ、サイファの4人は、霊魂から聞き出した情報を頼りに、生徒たちが向かったと思われる迷宮を探しに来ていた。
おおよその位置しか情報はなかったが、方角と距離さえだいたい分かれば、ユーリの力なら迷宮を見つけ出すのは難しくなかった。
「見た感じ、生徒たちが迷宮に入ったのは2~3日前というところだな」
ユーリは周りの様子を解析して、自分たちがどの程度遅れて到着したのかを推測する。
「しかし、でっかいダンジョンだなあ……なんかちょっと怖いぜ」
「みんなどれくらい進んでるのかしら? 大勢だから、そんなに深くまで潜ってない気はするけど……」
「ボクたち追いつけるでしょうか?」
「とにかく、全力で進むしかない」
ランゼたち3人が心配そうにダンジョンをのぞき込む。
今から追うのは楽ではないが、先行の生徒たちは大集団での移動に対し、ユーリたちは少人数だ。進む速度は圧倒的に速い。
ただし、相手は地図に従って最短距離で攻略していることをユーリたちは知らない。
「じゃあ中に入るぞ」
「「「はい!」」」
ユーリを先頭に、4人は迷宮に足を踏み入れる。
入る前、ユーリは転移魔法を使うか少し悩んだが、やはり地道に行くことにした。
迷宮内を『転移水晶』で移動するのは不可能で、使えば迷宮から脱出してしまうが、ユーリが持つ高レベルの『空間魔法』なら迷宮内転移も可能だった。
なので、ユーリとしては『空間転移』で一足飛びに移動したいところでもあるのだが、複雑な立体構造内で不用意に転移をするのは非常に危険だ。
地図があれば多少危険度は下がるが、それでも同一フロア内に転移するのが精一杯だろう。
よほどのことがない限り、階下に転移するのは避けたいところ。
ユーリはレベル10の『盗賊魔法』も持っているが、それでも迷宮の内部を明確にするのは無理だった。
自動でマッピングできるのはありがたいが、進路は自分で選ぶしかない。
一刻も早く追いつきたいところだが、無計画に歩くと無駄に彷徨うだけだ。
生徒たちの足跡を追おうとしても、迷宮の壁や地面は生きているかのようにすぐに修復してしまう。
通過した直後ならともかく、時間が経てば痕跡は跡形もなく消えてしまうのだ。
そしてユーリのするどい探知能力でも、迷宮の不可思議な力によってロクに感知することができない。
さてどうしたものか、どうすれば効率よく行けるのか?
ユーリは良い案はないものかと、慎重に進みながら頭を巡らせる。
「ちょっと待ってヒロ、アタシに少し時間をくれ!」
「どうしたランゼ、何か気になることでもあるのか?」
「いや、迷宮に来て分かったんだけど、アタシいいアイテムが作れるかもしれない」
ランゼが突然立ち止まり、『魔女の工芸師』の能力で何やら魔道具を作り始めた。
ランゼにはその能力が存分に活かせるように、ユーリが今までに採取してきた様々な材料を渡してある。
ランゼはその中から魔障気を餌とする『魔吸虫』の触角と、月夜にふわふわした種をまき散らす植物『月綿毛』の花、そして電気を帯びて鈍く光る『雷輝鉱石』を選び出し、それらを元に光る蝶を生み出した。
「こいつは『迷宮案内蝶』っていって、ダンジョン内の魔障気を頼りに、最短距離で道案内してくれる魔道具なんだ」
自慢げに鼻をこすりながら、ランゼは作り上げた10㎝ほどの蝶を宙に飛ばす。
すると、パタパタ羽ばたきながら、光る蝶はスイスイと通路の奥へと進んでいく。
これはユーリの『魔道具作製』スキルでも作れない魔道具だった。
「へへっ、どうだヒロ、これで迷わずに行けるぜ!」
「凄いじゃないかランゼ! これならきっと追いつける!」
ランゼの言う通り、『迷宮案内蝶』は階下への道を最短距離で移動していく。
ただし、モンスターや罠などは一切感知できないので、危険なルートでも平気で案内してしまう。
よって使用には注意が必要だが、このパーティーには問題なかった。
ちなみに、『魔女の工芸師』の能力で作った魔道具はランゼにしか扱えない。
これは『玩具屋』という殺し屋が持っていた『魔器匠人』の能力と同じだ。
光る蝶に案内されながら、先を行く生徒たちの倍以上の速度で4人は迷宮を駆け抜けていく。
ほとんど休憩なしの強行軍だが、ユーリの魔法によってランゼたちは疲れ知らずの状態だ。
猛追を始めて2日が経ち、そろそろ最下層が近いことを感じながら4人が進んでいると、突然迷宮が激しく震動した。
「うわわっ、なんだ、地震か!?」
「なによコレ、立ってられないわ!」
「おかしいですよヒロさん、変な魔力が急に溢れ出してます!」
サイファの言う通り、迷宮内に異質な魔力が満ちていくのをユーリも感じていた。
最下層で何かが起こっている!? 不穏な空気を感じ、胸騒ぎを覚えるユーリ。
「まずいぞ、急ごう!」
ユーリの言葉にランゼたちは頷き、4人は最下層に向かって全力疾走するのだった。
◇◇◇
「おわっ、いったいどうしたってんだ!?」
「こりゃやべえっ、迷宮が崩れたら生き埋めにされちまうぞ!?」
宝にがっついていた荒くれ者たちが、迷宮のただ事じゃない様子に慌てふためく。
彼らの人生でこれほど動揺したことはないだろう。
せっかく大金を手にすることができそうなのだ。こんなところで死ぬわけには絶対にいかない。
手に持つお宝を急いで荷物袋にしまうと、男たちは猛ダッシュで広間をあとにしようとした。
しかし、絶大な幸運を手に入れた彼らを、運命というヤツは無慈悲なまでに奈落の底へと叩き落とす。
いや、彼らの日頃の行いを考えると、当然の報いなのかもしれないが。
逃げ出そうとした男たちの前に黒い霧がにじみ出るように現れ、それは旋風となって巻き上がりながら凝縮し、異形の怪物へと変化したのだ。
「な、なんだこりゃあっ!?」
「モンスターなのか!? だが、こんなヤツ見たことねえぞ!?」
「ばっ……化け物っ……!?」
男たちは、突然目の前に立ち塞がった巨大モンスターを見上げて恐怖の声を上げる。
体長は5~6mほど。人型タイプのように2本足で立っているが、その身体は何枚もの金属質な外殻で覆われ、両手には鋭利で巨大なハサミを付けている。
外見こそ甲殻類のモンスターに酷似しているが、コレはこのイストリア世界の生物ではなかった。
魔神の力で具現化した異世界の住人――『双刃の甲冑魔獣』だった。
魔神の手下としては中堅程度の強さだが、封印されている身ではまだこの程度しか作れなかった。行動範囲も迷宮内に限られている。
ただ、この『双刃の甲冑魔獣』が首尾よく生け贄を殺戮したら、そのエネルギーをもって異界のゲートを開くことができる。
そのとき、魔神は真の力を取り戻せるのだ。
広間の中に2体、3体、4体と、邪悪な霧が次々に実体化していく。
「に、逃げっ……」
と叫ぶ間もなく、荒くれ者数人は『双刃の甲冑魔獣』の刃によって簡単に切り裂かれた。
恐怖で硬直していたとはいえ、この男たちの実力はSSランクに匹敵する。
それをいとも簡単に始末したとなると、『双刃の甲冑魔獣』の強さは最低でもノーマルドラゴン以上といっていいだろう。
この一撃を皮切りに、異世界の凶獣は殺戮を開始した。
「ぐぎゃっ」
「ぎっ……」
「た、たすっ」
直後、一瞬で全滅する荒くれ者たち。
SSSランクのミーティスたちですら、身動き一つする間もないほどの出来事だった。
『双刃の甲冑魔獣』は、広間からの出口に殺到していた荒くれ者数十人を一掃したあと、広間の外――生徒たちの待機している通路へと移動していく。
この『双刃の甲冑魔獣』に襲わせるために生徒たちを広間に集める予定だったのだが、その前に荒くれ者たちが暴走してしまったため、広間に生け贄はいなかった。
なので、大量の若いエネルギーを求めて、怪物たちは通路の生徒たちに襲いかかろうとした。
「お前たち、急いで逃げるんだ!」
広間の惨劇を目の当たりにした冒険者たちは、瞬時に自分がすべきことを理解する。
生徒がこの場を離れるまで、なんとか時間を稼がなければ……!
冒険者たちは『双刃の甲冑魔獣』に向かって一斉に攻撃を仕掛けた。
接近戦では到底敵いそうにないので、衝撃波や魔法などで遠距離攻撃を浴びせていく。
優秀な冒険者数百人からの集中砲火だ。これにはさすがの『双刃の甲冑魔獣』も前に進めず、足止めを喰らってしまう。
ただし、ノーダメージである。
全力の攻撃がまるで効いてない様子を見て、絶望をひしひしと感じる冒険者たち。
そしてその間にも、怪物は続々と実体化しているのだ。
「この怪物めっ、喰らえっ!」
広間内にいるミーティスが、『双刃の甲冑魔獣』の後方から必殺技を打ち込む。
邪魔な荒くれ者たちを始末したあとは、『双刃の甲冑魔獣』はミーティスやデミトフたちを相手にすることはなかった。
生徒の殺戮が最優先なのだろう。生け贄に逃げられては元も子もない。
それを察してミーティスたちも最大級の攻撃を仕掛けてみたが、無防備な背後から強襲したのに、やはりダメージを受けている様子はなかった。
「コイツっ、無敵かっ!?」
異常なタフさを見て、さすがのミーティスたちも驚きを隠せない。
最上位冒険者である自分たちでも知らない未知の怪物――その強さは計り知れなかった。
「ぬうっ、生徒たちのよい経験になると思って来たのが、まさか裏目になってしまうとは……このままではジャヴォル殿に申し訳が立たぬ」
未だジャヴォルに騙されたと気付かないペガル。
こんな想定外のことが起こってしまっては、それも仕方ないことではあるが。
そして必死に足止めをしていた冒険者たちの攻撃が徐々にゆるみ始め、怪物はここぞとばかりに前に出ていく。
これ以上は無理と悟った冒険者たちも、強行突破される前にこの場を離れることにした。
それを追って一気に走り出す怪物たち。
「ワタシたちも追いましょう!」
キリエの言葉で、ミーティスたち6人――ミーティス、ペガル、キリエ、デミトフ、ゴライアス、アリーシアも広間から出ようとする。
あの怪物を倒す策は見つからないが、とにかく追うしかなかった。
「皆さん待ってください、アレを……!」
……とそのとき、広間にまた異変が起こったことにアリーシアが気付き、思わず声を上げる。
アリーシアが指さした方向を見ると、広間の壁の一部が発光し、そこから赤黒い霧が現れ旋風を巻きながらみるみると収束し始めた。
先ほど黒い霧が怪物に変化したのと似たような現象だ。
嫌な予感がミーティスたち全員に襲いかかる。
その予感通り、霧は怪物へと変化した。
しかし、先ほどとはその姿が違っていた。
『双刃の甲冑魔獣』の倍ほどの体長で、その10mを超える灰色の肉体に重厚な鎧を着け、右手には身体と同じ大きさの巨大戦斧を携えた三つ目の巨人。
魔神の腹心――序列3位にあたる『狂神の巨人』だった。
魔神とともにこのイストリアへ飛ばされていたのだが、魔神の復調により、迷宮内でのみ活動が可能となっていた。
ただし、封印の影響は残っていて、本来にはほど遠い状態だ。それでも、この世界においては最上位に君臨できるほどの力を持っている。
『双刃の甲冑魔獣』では撃退されてしまう可能性があったが、『狂神の巨人』ならば絶対に負けることはない。そう魔神は信頼しているほどだ。
この『狂神の巨人』が自在に動けるように、迷宮の中も広く作られていたのだった。
「な……なんだコイツは!? こんな巨人族なんて聞いたこともないぞ!」
「『神代の巨人』クラス……いえ、ひょっとしてそれ以上の存在かもしれないわ!?」
「これは本当に現実なのか? いったいこの迷宮はどうなっておるのだ!」
ミーティス、キリエ、ペガルほどの3人が、思わず思考を放棄しそうになるほど動揺する。
そして実体化を終えた巨人が、ズシリと足を踏み出した……。
***********************************
『双刃の甲冑魔獣』のモデルは、ポケモンのグソクムシャです。
説明が難しかったですが、だいたいあんな感じの外見と思っていただければ幸いです(^^;
ヒロ――ユーリは、森の奥でポッカリと開いた迷宮の入り口を見つけ、まずは無事一歩前進できたことに安堵する。
ユーリ、ランゼ、クリスティ、サイファの4人は、霊魂から聞き出した情報を頼りに、生徒たちが向かったと思われる迷宮を探しに来ていた。
おおよその位置しか情報はなかったが、方角と距離さえだいたい分かれば、ユーリの力なら迷宮を見つけ出すのは難しくなかった。
「見た感じ、生徒たちが迷宮に入ったのは2~3日前というところだな」
ユーリは周りの様子を解析して、自分たちがどの程度遅れて到着したのかを推測する。
「しかし、でっかいダンジョンだなあ……なんかちょっと怖いぜ」
「みんなどれくらい進んでるのかしら? 大勢だから、そんなに深くまで潜ってない気はするけど……」
「ボクたち追いつけるでしょうか?」
「とにかく、全力で進むしかない」
ランゼたち3人が心配そうにダンジョンをのぞき込む。
今から追うのは楽ではないが、先行の生徒たちは大集団での移動に対し、ユーリたちは少人数だ。進む速度は圧倒的に速い。
ただし、相手は地図に従って最短距離で攻略していることをユーリたちは知らない。
「じゃあ中に入るぞ」
「「「はい!」」」
ユーリを先頭に、4人は迷宮に足を踏み入れる。
入る前、ユーリは転移魔法を使うか少し悩んだが、やはり地道に行くことにした。
迷宮内を『転移水晶』で移動するのは不可能で、使えば迷宮から脱出してしまうが、ユーリが持つ高レベルの『空間魔法』なら迷宮内転移も可能だった。
なので、ユーリとしては『空間転移』で一足飛びに移動したいところでもあるのだが、複雑な立体構造内で不用意に転移をするのは非常に危険だ。
地図があれば多少危険度は下がるが、それでも同一フロア内に転移するのが精一杯だろう。
よほどのことがない限り、階下に転移するのは避けたいところ。
ユーリはレベル10の『盗賊魔法』も持っているが、それでも迷宮の内部を明確にするのは無理だった。
自動でマッピングできるのはありがたいが、進路は自分で選ぶしかない。
一刻も早く追いつきたいところだが、無計画に歩くと無駄に彷徨うだけだ。
生徒たちの足跡を追おうとしても、迷宮の壁や地面は生きているかのようにすぐに修復してしまう。
通過した直後ならともかく、時間が経てば痕跡は跡形もなく消えてしまうのだ。
そしてユーリのするどい探知能力でも、迷宮の不可思議な力によってロクに感知することができない。
さてどうしたものか、どうすれば効率よく行けるのか?
ユーリは良い案はないものかと、慎重に進みながら頭を巡らせる。
「ちょっと待ってヒロ、アタシに少し時間をくれ!」
「どうしたランゼ、何か気になることでもあるのか?」
「いや、迷宮に来て分かったんだけど、アタシいいアイテムが作れるかもしれない」
ランゼが突然立ち止まり、『魔女の工芸師』の能力で何やら魔道具を作り始めた。
ランゼにはその能力が存分に活かせるように、ユーリが今までに採取してきた様々な材料を渡してある。
ランゼはその中から魔障気を餌とする『魔吸虫』の触角と、月夜にふわふわした種をまき散らす植物『月綿毛』の花、そして電気を帯びて鈍く光る『雷輝鉱石』を選び出し、それらを元に光る蝶を生み出した。
「こいつは『迷宮案内蝶』っていって、ダンジョン内の魔障気を頼りに、最短距離で道案内してくれる魔道具なんだ」
自慢げに鼻をこすりながら、ランゼは作り上げた10㎝ほどの蝶を宙に飛ばす。
すると、パタパタ羽ばたきながら、光る蝶はスイスイと通路の奥へと進んでいく。
これはユーリの『魔道具作製』スキルでも作れない魔道具だった。
「へへっ、どうだヒロ、これで迷わずに行けるぜ!」
「凄いじゃないかランゼ! これならきっと追いつける!」
ランゼの言う通り、『迷宮案内蝶』は階下への道を最短距離で移動していく。
ただし、モンスターや罠などは一切感知できないので、危険なルートでも平気で案内してしまう。
よって使用には注意が必要だが、このパーティーには問題なかった。
ちなみに、『魔女の工芸師』の能力で作った魔道具はランゼにしか扱えない。
これは『玩具屋』という殺し屋が持っていた『魔器匠人』の能力と同じだ。
光る蝶に案内されながら、先を行く生徒たちの倍以上の速度で4人は迷宮を駆け抜けていく。
ほとんど休憩なしの強行軍だが、ユーリの魔法によってランゼたちは疲れ知らずの状態だ。
猛追を始めて2日が経ち、そろそろ最下層が近いことを感じながら4人が進んでいると、突然迷宮が激しく震動した。
「うわわっ、なんだ、地震か!?」
「なによコレ、立ってられないわ!」
「おかしいですよヒロさん、変な魔力が急に溢れ出してます!」
サイファの言う通り、迷宮内に異質な魔力が満ちていくのをユーリも感じていた。
最下層で何かが起こっている!? 不穏な空気を感じ、胸騒ぎを覚えるユーリ。
「まずいぞ、急ごう!」
ユーリの言葉にランゼたちは頷き、4人は最下層に向かって全力疾走するのだった。
◇◇◇
「おわっ、いったいどうしたってんだ!?」
「こりゃやべえっ、迷宮が崩れたら生き埋めにされちまうぞ!?」
宝にがっついていた荒くれ者たちが、迷宮のただ事じゃない様子に慌てふためく。
彼らの人生でこれほど動揺したことはないだろう。
せっかく大金を手にすることができそうなのだ。こんなところで死ぬわけには絶対にいかない。
手に持つお宝を急いで荷物袋にしまうと、男たちは猛ダッシュで広間をあとにしようとした。
しかし、絶大な幸運を手に入れた彼らを、運命というヤツは無慈悲なまでに奈落の底へと叩き落とす。
いや、彼らの日頃の行いを考えると、当然の報いなのかもしれないが。
逃げ出そうとした男たちの前に黒い霧がにじみ出るように現れ、それは旋風となって巻き上がりながら凝縮し、異形の怪物へと変化したのだ。
「な、なんだこりゃあっ!?」
「モンスターなのか!? だが、こんなヤツ見たことねえぞ!?」
「ばっ……化け物っ……!?」
男たちは、突然目の前に立ち塞がった巨大モンスターを見上げて恐怖の声を上げる。
体長は5~6mほど。人型タイプのように2本足で立っているが、その身体は何枚もの金属質な外殻で覆われ、両手には鋭利で巨大なハサミを付けている。
外見こそ甲殻類のモンスターに酷似しているが、コレはこのイストリア世界の生物ではなかった。
魔神の力で具現化した異世界の住人――『双刃の甲冑魔獣』だった。
魔神の手下としては中堅程度の強さだが、封印されている身ではまだこの程度しか作れなかった。行動範囲も迷宮内に限られている。
ただ、この『双刃の甲冑魔獣』が首尾よく生け贄を殺戮したら、そのエネルギーをもって異界のゲートを開くことができる。
そのとき、魔神は真の力を取り戻せるのだ。
広間の中に2体、3体、4体と、邪悪な霧が次々に実体化していく。
「に、逃げっ……」
と叫ぶ間もなく、荒くれ者数人は『双刃の甲冑魔獣』の刃によって簡単に切り裂かれた。
恐怖で硬直していたとはいえ、この男たちの実力はSSランクに匹敵する。
それをいとも簡単に始末したとなると、『双刃の甲冑魔獣』の強さは最低でもノーマルドラゴン以上といっていいだろう。
この一撃を皮切りに、異世界の凶獣は殺戮を開始した。
「ぐぎゃっ」
「ぎっ……」
「た、たすっ」
直後、一瞬で全滅する荒くれ者たち。
SSSランクのミーティスたちですら、身動き一つする間もないほどの出来事だった。
『双刃の甲冑魔獣』は、広間からの出口に殺到していた荒くれ者数十人を一掃したあと、広間の外――生徒たちの待機している通路へと移動していく。
この『双刃の甲冑魔獣』に襲わせるために生徒たちを広間に集める予定だったのだが、その前に荒くれ者たちが暴走してしまったため、広間に生け贄はいなかった。
なので、大量の若いエネルギーを求めて、怪物たちは通路の生徒たちに襲いかかろうとした。
「お前たち、急いで逃げるんだ!」
広間の惨劇を目の当たりにした冒険者たちは、瞬時に自分がすべきことを理解する。
生徒がこの場を離れるまで、なんとか時間を稼がなければ……!
冒険者たちは『双刃の甲冑魔獣』に向かって一斉に攻撃を仕掛けた。
接近戦では到底敵いそうにないので、衝撃波や魔法などで遠距離攻撃を浴びせていく。
優秀な冒険者数百人からの集中砲火だ。これにはさすがの『双刃の甲冑魔獣』も前に進めず、足止めを喰らってしまう。
ただし、ノーダメージである。
全力の攻撃がまるで効いてない様子を見て、絶望をひしひしと感じる冒険者たち。
そしてその間にも、怪物は続々と実体化しているのだ。
「この怪物めっ、喰らえっ!」
広間内にいるミーティスが、『双刃の甲冑魔獣』の後方から必殺技を打ち込む。
邪魔な荒くれ者たちを始末したあとは、『双刃の甲冑魔獣』はミーティスやデミトフたちを相手にすることはなかった。
生徒の殺戮が最優先なのだろう。生け贄に逃げられては元も子もない。
それを察してミーティスたちも最大級の攻撃を仕掛けてみたが、無防備な背後から強襲したのに、やはりダメージを受けている様子はなかった。
「コイツっ、無敵かっ!?」
異常なタフさを見て、さすがのミーティスたちも驚きを隠せない。
最上位冒険者である自分たちでも知らない未知の怪物――その強さは計り知れなかった。
「ぬうっ、生徒たちのよい経験になると思って来たのが、まさか裏目になってしまうとは……このままではジャヴォル殿に申し訳が立たぬ」
未だジャヴォルに騙されたと気付かないペガル。
こんな想定外のことが起こってしまっては、それも仕方ないことではあるが。
そして必死に足止めをしていた冒険者たちの攻撃が徐々にゆるみ始め、怪物はここぞとばかりに前に出ていく。
これ以上は無理と悟った冒険者たちも、強行突破される前にこの場を離れることにした。
それを追って一気に走り出す怪物たち。
「ワタシたちも追いましょう!」
キリエの言葉で、ミーティスたち6人――ミーティス、ペガル、キリエ、デミトフ、ゴライアス、アリーシアも広間から出ようとする。
あの怪物を倒す策は見つからないが、とにかく追うしかなかった。
「皆さん待ってください、アレを……!」
……とそのとき、広間にまた異変が起こったことにアリーシアが気付き、思わず声を上げる。
アリーシアが指さした方向を見ると、広間の壁の一部が発光し、そこから赤黒い霧が現れ旋風を巻きながらみるみると収束し始めた。
先ほど黒い霧が怪物に変化したのと似たような現象だ。
嫌な予感がミーティスたち全員に襲いかかる。
その予感通り、霧は怪物へと変化した。
しかし、先ほどとはその姿が違っていた。
『双刃の甲冑魔獣』の倍ほどの体長で、その10mを超える灰色の肉体に重厚な鎧を着け、右手には身体と同じ大きさの巨大戦斧を携えた三つ目の巨人。
魔神の腹心――序列3位にあたる『狂神の巨人』だった。
魔神とともにこのイストリアへ飛ばされていたのだが、魔神の復調により、迷宮内でのみ活動が可能となっていた。
ただし、封印の影響は残っていて、本来にはほど遠い状態だ。それでも、この世界においては最上位に君臨できるほどの力を持っている。
『双刃の甲冑魔獣』では撃退されてしまう可能性があったが、『狂神の巨人』ならば絶対に負けることはない。そう魔神は信頼しているほどだ。
この『狂神の巨人』が自在に動けるように、迷宮の中も広く作られていたのだった。
「な……なんだコイツは!? こんな巨人族なんて聞いたこともないぞ!」
「『神代の巨人』クラス……いえ、ひょっとしてそれ以上の存在かもしれないわ!?」
「これは本当に現実なのか? いったいこの迷宮はどうなっておるのだ!」
ミーティス、キリエ、ペガルほどの3人が、思わず思考を放棄しそうになるほど動揺する。
そして実体化を終えた巨人が、ズシリと足を踏み出した……。
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『双刃の甲冑魔獣』のモデルは、ポケモンのグソクムシャです。
説明が難しかったですが、だいたいあんな感じの外見と思っていただければ幸いです(^^;
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『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
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