少年の短い家出

背信《はいしん》

　どれぐらいの時間が経っただろうか、俺は固く冷たいコンクリートの上で放置されていた。体は凝ってきて、後ろで縛られている手首がとても痛かった。

ートントン

　足音が俺に近づいてくる。そして俺の手についている縄を外し、そして目隠しを外してくれた。その人は竹山さんだった。

「ごめんな、怖い思いをさせて。お前は逃げろ。」

　すると、廊下からバタバタと複数名の足音がする。

「おい竹山！裏切ったな？怪しいと思って監視してれば、やっと尻尾出したか。なにか？人質に情でも湧いたか？」

　そういって男の人うちの一人が発砲する。そして竹山さんの左腕に着弾する。血が勢いよくあふれ出てくる。

「まーそういうことだ。椿！行け！」

　そういって竹山はそう言って窓を指さす。俺は固まった体をフルに使い窓までダッシュする。鍵がかかっていたため、少し助走をつけて、俺は窓に体当たりした。俺の体は空中に放り出される。ここは二階うまく下りれば死なずに済む。俺は下の垣根に飛び込んだ。枝が体を傷つける。

　部屋の中からは発砲音が聞こえる。俺は落下の衝撃で腰を抜かし、垣根の中からその音を聞くことしかできなかった。

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　発砲が終わり、パトカーのサイレンが聞こえる。俺は何とか体を動かし、あの部屋に戻った。すると部屋の椅子に、竹山さんがぼろぼろの状態で座っていた。周りには何人もの人が気絶している。竹山さんは煙草をふかしながらこう告げる。

「ごめんな、怖い思いさせて。俺が間違ってたよ。こんな俺は言えたことじゃないが、お前はちゃんと生きろ。親に反抗してもいい、いくら笑われたって耐えろ、泣いたって良い。感情を殺すな、泣きたいときに泣く、笑いたいときに笑う、それができるほど俺は器用な人間じゃなかった。男だから強くいなけらばならないだから涙を流さず、笑うと決心が揺らぐから笑顔を見せず。そうやって生きてきていいことなんて一つもなかった、けどお前と過ごした一週間は自然と笑みがこぼれた。久々に人とちゃんと接してわかったんだよ。辛かったら泣け、そんで明日は笑って生きろ。大人になれば、感情を表に出せなくなることはある、だから今は笑え。子供のうちに笑えるだけ笑え。」

　俺の頬に、涙が一筋流れる。けれど俺は、めいっぱいの笑みを作った。

「助けてくれてありがとう。1週間だったけど友達になってくれてありがと。この一週間は俺にとっての宝物だよ。もし今度お前が家出したくなったら、そしたら、俺に頼ってくれよ。」

　外を見ると赤いランプが点灯している。

「犯人に告ぐ、おとなしく出てこい！抵抗するな！」

　外は警官の声と、サイレンと野次馬とでとても騒がしかった。

「これが最後の一服か。じゃあな椿。逃げてもいいから泣いてもいいから頑張って生きろ。」

　そういって竹山さんは煙を吐き、灰皿に煙草を捨てた。部屋を出ていくときに竹山さんは俺に向かって笑った。そして窓の外を見ると、竹山さんは両手を上げて出ていき、パトカーの中へと連れていかれた。